↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇より速く、光より深く  作者: なすび
第五章 名をたどる者たち
PR
46/57

第43話 魔法陣の奥に

 ファイは、ガイから伸びる糸を見つめていた。


 細く揺れている。


 だが、切れてはいない。


 透明な遮断壁も、隔離室の壁も抜けて、どこか遠くへ続いている。


「ねえ、ネロ。あれ、何だと思う?」


『知るか。俺に聞くな』


 返ってきた声は、いつも通り不機嫌だった。


「ネロにも見えてる?」


『見えてるよ』


「そっか」


 ファイは、また糸へ目を戻した。


「あれ、たどれないかな」


『俺に聞く前に、試せばいいだろ』


「そっか」


 ファイは素直にうなずいた。


 外から見れば、ファイは黙って糸の先を見つめているだけだった。


 ブエンは、その横顔をしばらく見ていた。


「ファイ」


 呼びかけられ、ファイははっと顔を上げた。


「どうした」


「あ、ごめん。ネロと喋ってた」


「ネロは何と言っていた」


「たどってみればって」


 ブエンの眉が、わずかに動いた。


「何をだ」


「この糸。どこにつながってるのか、たどれないかなって」


 ブエンはすぐには答えなかった。


 遮断壁の向こうでは、ガイが眠っている。


 腕には今も、薄い墨色の文字が浮かんでいた。


「分かった」


 ブエンは短く答えた。


「ここには休んでいる者がいる。影響が出る可能性がある。場所を移す」


「うん」


「その糸が壁の向こうまで続いているなら、別の場所でも見える可能性がある」


 ブエンは近くの隊員へ声を飛ばした。


「測定班を呼べ。方位記録を取る」


「了解」


「魔力反応の変化も拾えるようにしておけ」


 隊員がすぐに走り出した。


「行くぞ」


「うん」


 ブエンは隔離室を出た。


 ファイも、そのあとに続く。


 廊下へ出ても、糸は消えなかった。


「こっち」


 ファイが指さす。


 ブエンはその方向を確認し、歩き出した。


 糸の向きを確かめながら、何度か角を曲がる。


 ファイが立ち止まるたび、ブエンも足を止めた。


 やがて、空いている会議室の前でファイが立ち止まった。


「ここでも見える」


「方向は変わっていないか」


「うん。ずっと、あっち」


 ファイが壁の向こうを指さす。


 ブエンは扉を開けた。


「ここで行う」


 ファイは部屋の中央まで進み、空中を見上げた。


 糸は確かにそこにあった。


 会議室の壁を抜け、さらに遠くへ伸びている。


 ほどなくして、測定班が到着した。


 数人の隊員が記録用の光板を展開し、魔力計を床へ設置する。


 会議机の上には、方位を示す薄い光の円が浮かび上がった。


「記録準備、完了」


「方位記録、同期しました」


「魔力反応、待機状態です」


 ブエンはファイを見た。


「よし。やってみろ」


「うん」


 ファイは部屋の中央に立った。


 足元の影が、じわりと濃くなる。


 次の瞬間、黒い魔力が身体から噴き出した。


 闇は床を這い、机の脚をなぞり、椅子の背を越えて広がっていく。


 警報が鳴った。


 鋭い音に、隊員たちが身構える。


「想定内だ」


 ブエンの声が通った。


 測定班の動きは止まらない。


 光板を、黒い魔力反応が次々と走っていく。


 やがて、噴き出した闇はファイの周囲で勢いを失った。


 外へ広がっていた闇が収束し、身体へまとわりつく。


 ファイの瞳が、赤く染まった。


 ファイはその場にぺたんと正座した。


 胸の前で両手を合わせ、目を閉じる。


 糸は、まだそこにある。


 細くて、遠い。


 それでも、確かにつながっている。


「――《ノクス・サーチ》」


 静かな声だった。


 ファイの足元から、細い闇が伸びた。


 闇は糸へ触れ、その流れに重なる。


 次の瞬間、黒い魔力が糸に沿って走り出した。


 会議室の壁を抜ける。


 基地の外へ。


 さらに遠くへ。


 ファイの身体は動かない。


 測定班の光板に、鋭い反応が走り抜けた。


「指向性を持つ魔力反応を感知!」


「方位記録、追跡中!」


「反応、基地外部へ伸びています!」


 報告が次々と上がる。


 ブエンは、動かないファイを見ていた。


 赤い瞳は閉じられている。


 小さな手は、祈るように合わせられたままだ。


「位置情報の取得を開始します」


「確定には時間がかかります」


「構わん。記録を続けろ」


 ファイの意識が、糸の奥へ沈んでいく。


 一瞬、知らない景色が見えた。


 暗い空間。


 床いっぱいに描かれた、複雑な魔法陣。


 その中央に、丸い魔力の塊が浮かんでいる。


 周囲には、見たことのない文字が漂っていた。


 ガイの身体に浮かんでいたものと似ている。


 だが、もっと多い。


 もっと濃い。


 その奥に、何かがある。


 そう思った瞬間、景色がぷつりと切れた。


 ファイの目が開く。


 赤い瞳が、会議室の光を映した。


 糸を走っていた闇が引き戻され、ファイの足元へ沈んでいく。


 ファイは両手を合わせたまま、ぽつりとつぶやいた。


「……見えた」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。