↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇より速く、光より深く  作者: なすび
第五章 名をたどる者たち
PR
41/60

第38話 闇の解放

 翌日。


 ファイはブエンに連れられ、訓練場へ向かった。


 広い床。魔法を受け止める壁。的の並ぶ区画。訓練用の結界。


 見慣れたいつもの訓練場――のはずだった。


 だが、その日の空気は明らかに違っていた。


 訓練場の周囲を、銀河連邦の隊員たちが取り囲んでいる。


 多い。


 剣を携えた隊員。拘束魔法を準備する隊員。測定器の前につく隊員。防御結界の担当までいる。


 ファイはきょろきょろと周囲を見回した。


 いつもの訓練なら、ほとんどはブエンと二人きりだ。いても、数人が記録を取るくらいだった。


 今日は違う。


 何かあれば、すぐにファイを止められる配置だった。


 ブエンは訓練場の中央で足を止めた。


「では、闇魔法の訓練を開始する」


 その短い言葉に、周囲の空気が一斉に張り詰めた。


 ファイも背筋を伸ばす。


 自分で言ったのだ。


 闇の魔法を使いこなせるようになりたい、と。


 怖いまま放っておきたくない、と。


 ブエンはファイを見据えた。


「ファイ。まずは闇を解放してみろ」


 ファイはぱちぱちと瞬きをした。


「闇を解放するって、何?」


 ブエンの眉が、わずかに動いた。


 ファイは本気で聞いている。


 自分の瞳が赤くなるところも、身体から闇が吹き出すところも、ファイ自身は外から見たことがない。


 闇を使った時、自分に何が起きているのか。


 それを一番知らないのは、ファイ本人だった。


 ブエンは小さく息を吐いた。


「……なんでもいい。闇を使おうとしてみろ」


「闇を……」


 ファイは胸の前で手を握った。


 闇を使う。


 そう決めたはずなのに、いざ言われると、何をどうすればいいのか分からない。


 魔法名を唱えるのか。


 足元の影を見るのか。


 ネロを呼べばいいのか。


 ファイが考え込んだ、その時。


『考えるから詰まるんだよ。何でもいいから使え』


 内側から、苛立った声が飛んできた。


 ネロだった。


 背中を押すというより、雑に蹴り飛ばすような声だった。


 ファイは少し目を伏せる。


 そして、息を吸った。


 何でもいい。


 使う。


 ファイは、自分の内側にある暗いものへ意識を向けた。


 次の瞬間。


「魔力量、上昇しています!」


 測定班の声が鋭く響いた。


 ファイの足元に、黒い影がにじむ。


 床に落ちた影が、墨をこぼしたように広がっていく。


「上昇速度が速すぎます!」


 隊員たちが一斉に身構えた。


 それでも、ブエンは動かない。


 ただ、ファイを見ていた。


 闇が、ファイの身体から吹き出した。


 黒い魔力が風のように荒れ、訓練場の床を駆ける。足元から、肩から、背中から――内側に収まりきらないものが、一気にあふれ出した。


 防御結界が反応し、淡い光を放つ。


 測定器の表示が激しく揺れた。


「測定限界を超えました! 数値、追えません!」


 報告員の声が裏返った。


 闇はしばらく、訓練場を吹き荒れた。


 やがて、ふいに勢いを失う。


 外へ広がっていた闇が、吸い込まれるようにファイの身体へ収まっていった。


 訓練場に静けさが戻る。


 ファイは、変わらずそこに立っていた。


 何も壊していない。


 誰にも攻撃していない。


 ただ、金色だった瞳だけが、赤く染まっていた。


「測定値は……まだ振り切れています」


 測定班の声が、先ほどより低くなる。


 ブエンはファイから目を離さないまま、問いかけた。


「ファイ。私の声は聞こえているな? 何か変わった感覚はあるか」


 ファイは少し首を傾げた。


 赤い瞳のまま、きょとんとブエンを見返している。


「何にも」


「……そうか」


 ブエンの視線が、測定器へ流れた。


 表示は、いまだ振り切れたままだ。


「何か魔法を発動してみろ」


「うん」


 ファイは的へ向き直り、右手を前に出した。


「――《ブラスト・ショット》」


 爆発属性の魔力弾が、ぶれひとつなく一直線に走った。


 的の中心へ吸い込まれ――爆ぜる。


 砕けたのは、中心部だけだった。


 余波はほとんど広がっていない。


「出力、安定しています」


「拡散率、通常時より低下」


「着弾点、中心から誤差ほぼなし」


 報告が次々と上がる。


 ファイは自分の右手を見つめた。


 それから顔を上げ、ぱっと笑う。


「いつもよりやりやすかった!」


 魔法の精度は明らかに上がっている。


 だが、魔力量は落ちていない。


 測定器は、依然として振り切れたままだ。


 ブエンはファイの赤い瞳を見つめ、ひとつ息を吐いた。


「ファイ。闇の魔法を使ってみろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。