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闇より速く、光より深く  作者: なすび
第四章 届く闇
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第33話 再び任務へ

 訓練場の空気が、少しだけ重くなった。


 ヴィンクルム商会。


 その名前を聞いた瞬間、あの施設の匂いが、ほんの少しだけ蘇る。


 泣いていた子どもたち。


 ガルム・ヴィンクルム。


 そして、自分の中から溢れた闇。


 ファイは、少しだけ目を丸くした。


「僕も行っていいの?」


 ブエンは、まっすぐファイを見た。


「お前の魔法の技術が評価された」


 その声は静かだった。


 ファイは少し下を向いた。


 首謀者を殺してしまったこと。


 子どもたちの泣き声。


 怖かったこと。


 自分の中から、知らない闇が溢れた感覚。


 思い出すだけで、指先が少し冷たくなる。


 ――でも、それ以上に。


 あの子たちを守れたことも、覚えている。


 泣いていた子どもたちが、防護膜の中で生きていたことも。


 怖い。


 それでも、もう見ないふりはしたくなかった。


 ファイは顔を上げた。


「行きたい!」


 ブエンは、ファイの目をまっすぐ見た。


 その返事が、勢いだけではないことを確かめるように。


「分かった」


 短く言ってから、声を少し低くする。


「今度は勝手な行動は許さん」


 ファイの背筋が、少しだけ伸びた。


 けれど、ブエンの言葉はそこで終わらなかった。


「だが、お前の力は他者を守るに足る」


 ブエンはファイの前でしゃがみ、目線を合わせた。


 見下ろすでも、突き放すでもなく。


 真正面から、ファイを見る。


「今度こそ守り切るぞ」


 ファイは、息を呑むようにブエンを見た。


 怖さは、消えていない。


 それでも、その言葉は逃げ道ではなく、前へ進む道に聞こえた。


「……はい」


 ファイは、しっかりとうなずいた。


 ブエンは立ち上がり、歩き出した。


 ファイはその背中を追って、作戦室へ向かう。


 扉が開くと、中央の台に青白い施設図が浮かんでいた。


 その端に表示された文字を見て、ファイは小さく息を止める。


 ヴィンクルム商会残党。


 ブエンは台の前に立った。


「状況を」


 隊員の一人が端末を操作した。


 青白い施設図の横に、いくつかの情報が浮かび上がる。


「辺境宙域でヴィンクルム商会の残党を確認しました。違法魔力炉を所持、ガルム死亡後も活動を継続している模様です」


 ガルム・ヴィンクルム。


 その名が出た瞬間、ファイの肩が小さく跳ねた。


 ほんのわずかな動きだった。


 けれど、ブエンはそれを見逃さなかった。


 ファイは何も言わない。


 ただ、唇を結んで、浮かび上がる施設図を見つめていた。


 別の隊員が続ける。


「諜報員の報告で、構成員の他に数名の生命反応が確認されています。拉致被害者が残っている可能性があります」


 作戦室の空気が、わずかに重くなる。


 ファイの指が、ぎゅっと握られた。


 また。


 その言葉だけが、胸の奥で形になる。


 ヴィンクルム商会。


 拉致被害者。


 まだ、終わっていなかった。


 ブエンは施設図から目を離さず、短く聞いた。


「拉致被害者はどこにいる?」


「正確には分かりません。ただ、地下室にいる可能性が濃厚です」


「分かった」


 ブエンは一度だけうなずき、作戦室の全員を見渡した。


「二班に分かれる」


 施設図の上に、二本の光の線が走る。


「A班は一階を捜索し、証拠を押さえろ」


 続いて、もう一本の光が地下へ伸びた。


「B班は地下室へ向かう。魔力炉も地下にある可能性が高い。私とファイはB班だ」


 ファイの肩が、少しだけ強張った。


 地下室。


 拉致被害者。


 違法魔力炉。


 その言葉が、胸の奥で重なっていく。


「拉致被害者の救出を最優先とする。確実に保護せよ。最後に……」


 ブエンの声が、少しだけ低くなる。


「全員無事に生還せよ」


「「はっ!」」


 隊員たちの返事が、一斉に作戦室へ響いた。


「ひゃっ!?」


 ファイは思わず肩を跳ねさせた。

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