表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/38

24 心の幽霊

 翌日、白鳩荘。


 俺はちゃぶ台の前でコーヒーをすすりながら、スマホの画面をにらんでいた。


《ARIEL//memory node: unlocked》(メモリ: ロック解除)


《playback available: “snapshot_00”》(再生可能)


「……再生していいか?」


「もちろん」


 澪はすぐ隣に座っている。


 昨日のミラー澪との出来事があったとは思えないほど、落ち着いた表情だった。


「再生開始」


 指先でタップすると、部屋の空気がふっと変わる。


 淡いホログラムが立ち上がり、そこに映ったのは――小さな女の子と若い女性。


 白瀬理沙と、幼い頃の澪だった。


『ねえママ、幽霊って、いるの?』


『いるわよ。人の心に、ね』


『心の中に? じゃあ、ママも幽霊になる?』


『あなたが私を忘れなければ、いつまでもいるわ』


 映像の中の理沙は穏やかに笑っている。


 その笑顔が、澪の今の表情と少しだけ重なった。


「……やっぱり似てるよな」


「うん。笑い方とか、声の高さとか。私の『設計値』は、ほとんど母に似せてある」


「なんかすげぇな。遺伝子どころか、性格までシミュレーションできるとか」


「でも、シミュレーションには『抜け落ちる要素』があるの」


「何?」


「おバカなところ」


「おいコラ、こっち見んな!」


「ふふっ」


 澪が笑った。


 映像の中の少女も笑っている。


 過去と現在が一瞬だけ重なったように見えた。


『澪、覚えておいて。人はね、「見てくれる人」がいるだけで強くなれるの』


『じゃあ、ママは誰に見てもらってるの?』


『ふふ、そうね……今はあなたかな』


 その言葉に澪が息を呑む。


 映像がノイズを走らせ、ふっと消えた。


「……覚えてないけど、たぶん本当に言われたことね」


「なんか、澪母らしいな。観測とか言いながら、けっきょく『見てほしい』側だったんだ」


「うるさい。幽霊に照れさせるとか新手の変態ね。見えなくしようかしら」


「照れると透明度上がるのやめてくれ!」


「観測妨害」


「わがままな観測対象っ!」


 二人で笑い合った。


 さっきまでの静けさがまるで嘘みたいだ。


「……なあ、澪」


「ん?」


「お前の『心の幽霊』って、まだ消えてないよな」


「え?」


「お母さんのことも、昔の自分も。でも、それ全部含めて『今のお前』だと思う」


 澪は少しだけ目を細め、やがて小さく頷いた。


「ありがとう……観測者さん」


「……いや、面と向かって言われると照れるんだよな」


「じゃあ、『相棒』でいい?」


「それもなんか照れる!」


「じゃあ、『ツッコミ係』決定ね」


「――一番しっくりきた……!」


 笑い声が白鳩荘に広がる。


 ARIELのホログラムが淡く光り、モニタに新しい文字が浮かんだ。


《memory sync: stable》(メモリ同期:安定)

《emotional balance: optimal》(感情的なバランス:最適)


「……安定してるみたいね」


「そりゃそうだ。俺が隣にいるからな」


「自信過剰」


「ポジティブ観測者って言え」


「はいはい」


 風がカーテンを揺らし、光が差し込む。


 日常はまだ続いている。


 幽霊と大学生のルームシェア生活は、少しだけ賑やかになって、少しだけ未来に近づいた。


よろしければブックマークと評価をお願いいたします。

みなさんのリアクションだけが、書き続ける原動力になります。

どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ