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第57話 賢者、怒りを覚える

「さて……これで問題は無いな」


 本を閉じると共に毒魔法を手元に流す。

 これによって全知全能を軽微な使用だけならば誤魔化す事が出来る。それでも明日辺りからは後遺症に悩まされるだろうけど……その時にはイリーナに看病して貰えばいいか。その後でミルファに構ってもらう……我ながら最高なアイデアだな。まぁ、魔力が無かろうと筋力はそのままだから戦えないって訳でも無いけど。


 さて、全知全能には悪い事をしたな。

 まだ魔力を使えなくされては困るから反発する毒を流したとはいえ、僕とスズナの子供のような存在なんだ。子供がイタズラをしてきたからと言って平手で返すのは良くないだろう。……一応、機嫌取りでは無いけど軽く本を撫でておく。少しだけ動いた気がするが気のせいだろう。


「後は計画通り動くだけだが───」

「ふむ、敵の摩耗ご苦労であった」


 一人の男が結界の中に入っていた。

 最初から気配は無く、その姿も僕ですら目に映す事は出来ていない。話は聞いていたが今更ながら現れてくるとは思わなかったな。……そうだ、コイツがいたから僕はわざわざ茶番を演じて見せていた。


「感謝するぞ、賢者よ」

「……阿呆が」


 よりにもよって今、彼女を攫うか。

 つまらない、本当に美しさを知らない輩だ。ここまで気分を害されたのは久し振りだよ。僕はララを好いているから遊んでやったのに……そのララを攫うだなんてこの興奮を馬鹿にされた気分だ。もう少し時間を置いて動いてきたのならば多少は遊んでやっても良いと思っていたが……。


「全て、間違っていたか」


 はぁ、やはり、遊ばなければよかったな。

 相手の狙いは分かっており、それでいてララと秘密の談義を行える時間が欲しかった。でも、それならわざわざ敵に攫わせる必要性が無い。僕の事を必要としている事が分かっているのに道具のように扱われるのは酷く気分が悪いよな。ましてや───






「殺す……興が冷めた。もう、いい」

「何を、言って……」

「ああ、遊戯はやめだ。興が削がれた。私の興味を奪う輩になど価値なんて無い。つまらん、真につまらんのだよ。我の求める世界に我の気分を害する者達は必要無い」


 愉悦の時間を止めた後は少し遊びたい。

 こんな幼子が如き子供心すらも理解出来ないとは利用する価値も無いな。僕の気持ちを理解しているから三人は僕の言葉に何かを口にせず、手助けの一つだってしなかった。それらは指示待ちとかではなく、あの三人だからしないだけだ。


「すまないが後の処理は任せる。我はあの幼子を救ってから戻ってくる事としよう。あまり、口にしたくは無い事ではあるが……敗北は許されぬぞ」

「敵は我が神の足元にも至りませんので……」

「当然ですね。あのような敵、取るに足りません」

「過去の私であれば勝ち目は薄いでしょうが神から与えられた力がある今、それは杞憂というものでしょう」


 そこまで言うのなら問題無いだろうな。

 まぁ、付け焼き刃でしか無いだろうが鍛えられるところまでは鍛えた。そこに関してはレミィですらもサボらずに本気で動いていたし……ましてや、今だけとはいえ、僕が作った魔道具も渡している。心配し過ぎは弟子離れが出来なくなるだけだろう。


「だそうだ、今から貴様達の拘束を解く……精々、我が配下に遊んで貰え」


 異分子は確かにいるが僕の配下も同様だ。

 剣聖、ヴァン、ゼノン……その強さや経験を持ってしても僕の教えには勝らないだろう。圧倒的格上の勇者と対等に戦えた僕の教えだからな。ここで死ぬのならそれはそれで面白いからいい。死ぬ程度なら僕がどうにか出来る。


 さて、このまま、あの雑魚を殺して───






「おい、待てよ……クソ野郎……ッ!」

「汚い手で触るな。弱者が」


 肩を掴んでいた手を振り落とすと剣が来た。

 僕を試しているのだろうか、それとも少しでも僕へ攻撃が通じるとでも思っていたのだろうか……全てが無駄だというのに愚かな事だ。その程度の剣であればステータスの差だけでどうにか出来る。本音を言えば躱さずとも良い程だ。


 だが、なるほど、僕へと向かってくるのか。

 随分と僕の視線に止まらない事が不満だったらしい。それも当然の話なんだけどな、だって、目の前の興奮している馬鹿は僕の父親だ。剣の太刀なんて幾らでも見てきている。その限界だってなんだってな。


「どうした! そこまでしてあの子を守りたいか!」

「それを君が口にするべきでは無いだろう。ロレーヌ家から助力を頼まれたリーフォン家の人間が」

「はっ、人の目等を気にして強くなれる訳が無いだろうがッ!」

「人の目を気にする奴が口にするとは笑えるな」


 手首を捻って地面へと叩き付けてやった。

 別に殺そうと思えば簡単に殺せる。だが……確かに僕はフィアナやヴァン、イリーナに比べてアルという存在が嫌いだ。父親が嫌いな訳では無い。アルという存在が僕には似ても似つかない程に合わない存在なんだ。だって、目の前のコイツは口だけでしかない。


「煽った程度でどうにか!」

「遅いな。口にさせるなよ、馬鹿が」


 本当に腹が立つ、それでフィアナを守るのか。

 無理に決まっている、奈落の一階層ですら全滅してしまうような弱さだ。手を離したのだって優しさからだというのに……ムカつく、イラつく、腹が立つ。ウザい、ウザい、こんな奴が父親では無ければどれだけ気楽だっただろうか。


 腹を蹴り上げるだけで済ませた僕を褒めて欲しいくらいだよ。この程度の強さで勝てもしない相手に剣を向けて、そのうえ僕の気持ちを逆撫でするような事しか口にしない。当人が自身の力の一端すらも扱えないとなれば尚の事だ。つい、威圧してしまったが誰も動けない方が会話はしやすいだろう。別に解除してやる気も無い。


「次は殺すぞ、弱者風情が」

「弱者も殺せない存在が……イキがるなよ!」


 殺せない……ああ、殺せる訳が無いだろ。

 王国の人間とはいえ、目の前にいる存在は僕の父でもある人間なんだ。僕は別にアルという存在を好んではいない。ただ、嫌ってもいないんだ。グチャグチャに混ざり合った感情の結果がアルフという僕を作っている。……だからこそ、嘘をつく。


「別に殺せるぞ。殺していない理由に気が付けないとは本当に出来た脳みそのようだ。一層のこと、本当に死ねば自身の過ちをよく理解するだろうか」

「はっ! やれるものなら!」

「貴様は自身の仲間の顔色くらい見るべきだな。貴様が死んだところでどうでも良いと思っている人がどれだけいるのか……分からないのであれば大きな口は叩くべきでは無い」

「アル……ッ!」


 アルの顔をフィアナへと向けさせてやる。

 どれだけ嫌おうと、コイツは僕の父であり、そして僕が大切に思う三人の大切な存在なんだ。命を軽んじるのは好きにすればいい。所詮は王国に生まれた罪深きゴミのような存在だ。だが、それは僕が関わらないという前提があってこその話だな。


 関わってしまった以上は他人事でいられない。

 王国の膿が消えていない状態で生き死にを軽く見られていては使える駒は減るからな。それにただの鉄の片手剣で少しずつ命が削られていく感覚は嘸かし気分が悪いだろう。勢いを間違えれば喉元に付いた刃が首を飛ばすだけだからな。


「我に謝れとは言わない。だが、自身の動き一つで全てが掻き消されるという事実くらいは学んでおくべきだと、我は思っている。貴様は弱い、確かに弱いが強くなれない訳では無いのだ。もう少し自分を労るべきだと感じないかね」

「アル、様ッ!」

「遅いな。死に急ぐのならば先に貴様から殺してやるとしよう。どちらにせよ、戦力というものは削っておく事に越した事は無いからな」


 縦振りの槍、速度は悪くは無かったな。

 だが、その程度の威力なら手を振るうだけで弾けるレベルでしかない。ましてや、その後の考えも持っていないとは少しばかり買い被っていたか。僕の洞察力が間違っていないのならば簡単に首を掴まれる結果にはならないと思うが……いや、いい。


「グッ……ガッ……!」

「可哀想なものだな。自身よりも弱い者の暴走のせいで命を散らす。まさか、自身の能力を過信でもしていたのか。貴様如き強者ならば我の時代には王国内に数十万といた」

「まさ、か……私は、何に命を賭けるべきか……理解している迄、ですよッ!」

「そうか、なら、その散り様は言葉に負けぬ程に見事なものとしてやろう。自身の守りたかった者の前で死ねるのだ。喜ぶといい」


 ここまで言っても笑顔を見せてくるのか。

 これは……いや、それならそれでいい。問題は口だけで床に倒れ込んでいる馬鹿だ。どうせなら悪癖というものは直せるときに直しておきたい。ヴァンの顔を近付けた上で本気で握りでもしたら……その表情はより恐怖に染まるだろう。

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