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第58話 賢者、只管に驚く

「これが貴様の罪だ。どうするべきかを理解せずに突っかかった事で失わなくとも済んだ存在が、この世から消え去る。その無力感を強く理解すれば少しは自身の過ちを理解するだろう」

「な……やめ、ろ……て、くれ……!」

「何度も言わせるな。我が求めているのは本当の意味での謝罪だ。そして、その自分さえ犠牲になれば済むという甘えた考えも大嫌いだな。犠牲にならずとも制御する方法を彼女が手に入れられるというのに本当に愚かだ」


 アルが怖がっているのは闇魔法の暴走だ。

 普通ならば光魔法や闇魔法は才能があろうとも獲得出来るものでは無い。ここまでされても使わないあたり過去に何かあったのだろう。だが、僕からすれば闇魔法程度で恐れられていては強くなれるものも半端で終わってしまうからな。少しだけ発破をかけてやろう。


「制御の鍵を知りたいのであれば彼等に謝罪するといい。自身のせいで傷を追い続けている執事と、貴様を守ろうとしている嫁に対して誠心誠意、心の底から謝罪すると良い。それが出来たのならばこの手も解いてやろう」

「俺……は……!」

「小さな誇りなど捨てるべきだな。誇りと大切な者の命など天秤にかけられるものでは無い。出来ぬのなら一人ずつ殺していくだけの事だ」

「ま、て! 待ってくれ!」


 謝罪しろって、小声で口にしたというのに……。

 そんな大声で口にされればリーフォン家の名前に傷が付くだろうが。そこら辺も理解していないのはどうかと思う。……ただ、確かにアルはボロボロの体で頭を地面に叩き付けていた。それだけの男としての覚悟は決まったのだろうな。


「ヴァン! すまなかった! 俺が勝手に前に出たせいで武人の誇りすら捨てさせてしまった! 俺にだって分かっていた事だというのに! なのに!」

「ゲホッ……構いませんよ。私は貴方の剣になると誓ったのです。心残りは確かにありますが主と認めた存在に命を賭けられぬ臣下はおりません」


 謝れたのならヴァンへの拘束は不必要だろう。

 地面へと投げ付けてしまったが……演技とはいっても、ただ離しただけでは周囲に合わせる顔なんて無いだろうからな。だけど、見える表情にはどこか優しさが残っているのは気のせいだろうか。……少なくとも僕が殺す気では無い事は分かっていただろうな。


「フィアナ! 俺が勝手に前に出たせいで身重の君までも苦しませてしまってすまない! 本当は着いてくるのだって厳しい話だっただろうに! 俺が未熟なせいで許して欲しい!」

「そんな貴方を……愛してしまった弱みです。気にせずに好きなように動いてください。未熟なのは私も同じですが、背中くらいは守れます」


 そうだよな、身重なんだから言霊だって───

 え? 身重って言いました? え? もしかして僕って兄になるの? 一切聞いていないんだけど……というか、僕が生まれて半年で新しい命が宿っているってどうなっているの? 産後の休暇期間とかは無かったのですか? え? え? えぇぇ……?


「す、すまない……身重とは知らずに手荒な真似をしてしまったな。これで多少は先程の言霊の影響も薄くはなるだろう。もし、嫌でなければ宿に飛ばす事も可能だがどうして欲しい」

「あの……えっと、大丈夫ですよ。身重と言っても一月ですので……過度な運動で無ければ大きな影響は起こらないはずです」

「だと、いいのだがな。こういう時に起こった問題が尾を引くという事も少なくは無い。せめて、君だけは強固な結界の中に入れておく。それと土魔法で作ったベッドもあるから横になっていると良い。別に結界内から魔法は放てるからな。安心して背中を守ってあげるといい」

「あ……はい、ありがとう、ございます……?」


 こ、これは帰ったらお赤飯を作らないと。

 アレだ、きっと米に近いものだってあるはず。イリーナの料理の腕なら最高級の赤飯が炊きあがるからな。そうだ、帰ってきたらいの一番にオーガの肉を手に入れよう。確か、鬼のように強くなれるようにって縁起が良かったはずだ。


「ふ……ははは、何でお前が一番に慌てているんだよ。別に王国の人間なんて取るに足らない存在でしか無いだろうに」

「それは情の無い王国の人間のみ、と限定しているのでな。仮に全ての王国の人間を嫌っていたのであれば勇者との戦いで王国の兵士は全滅していただろう」

「確かに、そうか……ああ、本当に伝説の存在であって伝説の存在では無いんだな。英霊なんて大層な言葉を口にされても実感しなかったが……本当に強いだけの化け物では無かった」

「そうかもしれないな。我程に接しやすい英霊は数少ないと思うぞ。勇者も聖女も一癖二癖あり、他の国家の王も強い奴は話すのも面倒な存在しかいなかった」


 勇者は、君の正義を見せてくれが口癖だった。

 聖女は言動の一つでも誤ったらすぐに私なんかとか言い始めるし、スズナだって魔道具が出来る度に何人目の子供が生まれたのよって、その子供の褒め言葉だけを永遠と聞かせてくる。ソイツらに比べれば僕なんて敵対せず、邪魔しなければ勝手に生きればいいって感じの放任主義だしな。ってか、フィアナの子供の場合は普通に家族だし!


「賢者、教えて欲しい。俺の力はどうすれば制御出来るようになる。出来れば早いうちに扱えるようになりたいんだ。もう少しで俺は」

「対極となる光魔法を扱える人間がいれば、その力を解除出来る。解除さえ出来れば制御するキッカケは自分で手に入れられるはずだ。そして、その魔法は」

「なるほど、魔法の天才であるフィアナなら確かに使えるようになってもおかしくは無いな。それなら本当に……俺は馬鹿だよ。守りたいから動いてきたというのに結果がこれでは……」


 ……ああ、やっぱり、コイツは嫌いだな。

 昔の自分を重ね過ぎてしまう。どこかで僕が折れれば誰も死ななかったかもしれないって、勇者に助けの一言でも口に出来ればスズナ達を……ロレーヌ家に汚名を被せなく済んだんだろうな。分かっているからかけられる言葉は……一つだけだ。


「事実を知った今から改めればいい。一人で強くなるのには限界がある。我は勇者と殺し合いながら聖女に癒してもらう事で永遠と戦闘への理解を深めていったのだ。まぁ、その程度の強さが無ければ本気でやり合えなかったのも事実だがな」


 僕は二人を好きだし、嫌いだし、大切に思う。

 勇者は本当に規格外の強さだった。それは転移した時からずっと……だから、僕は強くなる前からアイツと剣を打ち合ったんだ。どうせ、ステータスには限界が来る。なら、ステータスに現れない技術を高めた方が身になると思ったからな。


「強くなれ。覚悟を持てば誰でも強くなれる。最弱の魔物使いであった我ですらも賢者として世界に名を轟かせたのだ。大きな違いが百はあろうとも、使わずに強くなれる方法がある事を我は知っている」

「魔物、使い……魔物使いだと!?」

「そうだぞ、賢者になったのも魔物使いという役職を極めたからなったに過ぎない。それに賢者になってからは勇者とは本気を出さずとも良い勝負になってしまったからな。今では少しだけ後悔すらしている」


 賢者というジョブは本当に強過ぎる。

 まぁ、剣の最高峰である剣聖と同格か、それ以上に値するようなジョブだから当然ではあるけどさ。それでも魔物使いでギリギリの戦いだったのに、賢者になれば今度は隠し球を使わなくとも対等に戦えてしまうのは本当につまらなかった。なのに、勝率は六割くらいなのはご愛嬌だけどな。


「さて、まだやるのなら相手をしてやるが」

「行けよ、行ってくれ。俺は身も心も賢者とやらに救われてしまったからな。だが、今だけは敵対しないだけだからな。日を跨げば孤高の賢者は王国を襲う悪党でしかない。それだけは理解しろよ」

「敵対しても構わぬよ。アソコにいる三人は我の選りすぐりの配下達だからな。剣聖や元王国兵士長、そして穴熊や貴方が本気を出してようやく対等に戦える存在だと約束しよう」

「なら、その言葉に甘えて本気でやってやるのが筋だろうな。お前が本物の賢者で、武人なら嘘を付くわけも無いだろう」


 三人が倒されてしまうのならそれでいい。

 僕の打った得物でさえ、彼等の心底にある力を引き出せないのなら次へ繋げるだけだからな。もっと言えば三人が僕と同じ考えならばギリオル含めた全員を叩き伏せる事が出来るだろう。……まぁ、成功される方が立つ瀬は無いけどな。


 ギリオル一人ならレミィとカイリで十分だ。

 二人いて一人がようやくな時点で問題ではあるが鍛え始めの段階でこれなら及第点だろう。そこに幾つかのズルを行っているのだから剣聖以外は倒して欲しいものだけど……まぁ、結果は今の僕では分からないな。帰ってきた時に全てが分かる、なら、それでいい。


「では、愚か者を迎えに行くとしようか」


 左手に一つの仮面を取り出し顔に取り付ける。

 蜘蛛の仮面、僕の、僕とスズナが大好きだった虫をモチーフにしたものだ。それをロレーヌの家で使う事になるとは思ってもいなかったけどな。それでも僕を本気にさせたのは相手の方だ。精々、本気で抗ってくれればそれでいい。

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