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第55話 賢者、余興を楽しむ

「さて、無駄話は終わりだ。さすがに我としても無駄に時間を浪費するのは趣味では無い。勇者と聖女の力を与えた存在達が何も用意しないとは思えぬからな」

「ご冗談を……王国最強と呼ばれし三人が言霊によって平伏している時点で、力を与えられただけの私達に勝ち目はありませんよ」

「我が、そのような言葉に騙されるとでも」


 軽く指を弾いて三人にかける圧を強める。

 さすがは王国の中でも頭一つ抜けた力を持つ者達だよ。五分程度で言霊から無理やり体を動かす事が出来るとはな。本当に……SSSランク程度の力くらいは認めてやってもいいかもしれない。だが、新しくかけた空間魔法の加重で動けていない時点でそこまででしかないが。


「この魔法も時間次第で対応されるだろう。二体一ならどうとでもなるが五対一となれば本気を出す必要が出てきてしまうのでな。さっさと君達を叩き潰してしまうとしよう」

「な、舐めんなッ!」

「その意気や良し。だが……」


 今までの打ち合いがあって愚直に突っ込むか。

 どうせ、後衛にいるララの魔法を頼りにしていたのだろう。その発動までの時間稼ぎになろうとしているみたいだが……君は僕の幻影の対応すら出来ていないじゃないか。どこに動いたのかすらも分からず、不用意に剣を振るうしか策が無い。それで万一に僕へ傷を付けられるとでも?


「君は簡単に殺せる」

「ガッ……はっ……なぁ……ッ!」

「不思議か、心臓を刺されても呼吸ができている事実がそんなにも。所詮はその程度で驚いていられる程度の存在だ。……だから、君達は勇者の代わりを作り出せないんだよ」


 鉄の剣を胸から抜き切って背中を蹴る。

 半年程度、生きていく中で王国の中に散らばる情報というのを掻き集めていた。その結果が勇者の残した栄華のおかげで滅亡を免れているという悲しい現実だ。貴族は腐敗し、優秀な者達は虐げられ、ただ勇者のおかげで築かれた帝国との同盟で見せかけの平和だけが流れている。そんなもののために戦った訳では無いのに……というのは、些か期待し過ぎていただけか。


「では、死ぬと良い。偽物の我が家族よ」

「ガッ……ア……アァッ……!」


 ガギンと何かに当たる音がして剣が止まった。

 なるほど、確かにララは与えられた力を取り込み始めているという事か。今だってほぼ無詠唱で二十にもなる結界を剣の動線に展開したんだ。ただ見事としか言う他無いが……この王国滅亡のために不必要な茶番はララのために起こしている。これくらいは当たり前にして貰わないと僕が困ってしまう。


 だが、対してコウは本当に微妙だな。

 斬られたのなら兎も角として、軽い威圧をかけただけで沈むとは配下の末端未満だぞ。まぁ、あの子達の場合は一番の恐怖の対象として僕の最大の威圧を知っているかなんだけどさ。それでも勇者の力を手に入れて尚、対抗策の一つも取れていない時点で溜め息の百や二百は出したくもなる。


 アイツの役職を口にして結果がこれでは、ね。

 本当に今までの僕達の争いを馬鹿にされている気分だよ。勝てとか、下がらせろとか、そういう無理難題を吹っ掛けている訳でもないのに……まして、ここまで力を抑えて今の状況なら本当に少しも笑えやしない。


「このような者を兄と思うのは嘸かし気分が落ち込むであろう。ただ、我の力の前に全てを捧げれば何も起こらないというのに残念な事だ」

「貴方にとっては偽物の家族でも、私にとっては大切な本物の家族かしら。例え、貴方が私を本物の家族と認めたとしても、ね」

「いい顔じゃないか……さすがはロレーヌだッ!」


 勇者の一番の強みは近接戦の理不尽さ。

 対して聖女は全体をサポートする最高の後衛職と言ったところか。今だって強固な結界によってコウを守り、その身体を少しずつではあるものの癒している。……力に違和感を覚えずとも同等に扱える存在なんている訳が無いんだけどな。ここまで強固な結界は久し振りだよ。


 賢者である僕が魔法使いの最高峰だとすれば聖女は防御や強化、回復等の最高峰だった。何万と戦ってきた僕でさえも彼女より上位の後衛行動が取れる人はいなかった。何なら僕は前衛も張れるし、仮に聖女が死んでも自分の力で生き返っていたからな。使わずとも僕がいればどうとでもなったし。


 そう考えると……何だ、僕達と戦っていた魔王達も存外に化け物らしい。今更ながら思うが五人のうちの三人は世界最強レベル、他二人もそれに次ぐ程度の力があったとなれば本当にバカげている。そりゃあ、未だに勇者の栄光も輝くだろうな。だからなのかもしれない……本当に胸が踊ってしまう。


「腕が鳴るな。本気で殺しに行けそうだ」

「あら……その程度で本気かしら」

「まさか、撃ち込んだだけだよ」


 距離を詰めた封印弾を全て跳ねのけるか。

 結界……というよりは白魔法の応用だな。そこに空間魔法を組み込んで無理やり封印弾を貫通させないようにしている。それは知識も技術も失われたものだというのに……さすがは先祖返りと言ったところか。やはり、興味が湧いてきてしまうな。本当に殺したくなってしまう。






 ……少しくらいならいいか。


「殺す、ただララを殺す。純然な殺意と共に」

「……毒魔法、賢者のみが扱えたと呼ばれている最凶最悪な魔法だったかしら。それで、その程度の力で私に」

「御託は興味が無いな」


 過去の僕はこの魔法が大嫌いだった。

 敵味方関係無く傷付け、どれだけ敵が強かろうと簡単に殺せてしまう脅威と呼べる力。だから、僕は皆と同じ道を進ませて貰えなかったんだ。この力は勇者さえも殺せてしまう力だったから……王国の栄華の象徴を殺される訳にはいかなかった。


 でも、今は少しだけ好きになれたんだ。

 あの時の殺し合いから、勇者と殴り合えたから本当の価値を見出す事が出来た。僕の中にある純然たる悪魔としての心が、勇者の中にある純然な神としての心と共に混ざり始めたんだ。この力は毒にも薬にもなる神に等しき魔法の一つ、故に僕以外が使えはしない。


「薬物増強」

「毒による極端な身体強化と共に毒による極端な回復を行う事で毒魔法の利点のみを活かしている、といったところかしら」

「その通り……きっと、それは過去の記憶だ。だからこそ、ここから先は知らないだろう。今から見せる力は勇者と戦ったからこそ、獲得した我なりの剣の真髄だ」


 腰に刀を呼び出して軽く魔力を流す。

 それだけでララの表情が一気に歪んだ。即座に何か魔法を展開しようとし始めたが……さすがにそれを許せる程のお人好しでは無い。幻影と共に自身の全てに黒魔法で消滅をかける。まぁ、名前とは裏腹に毒魔法でデメリットは消したが……。




「流転せよ───堂々廻」

「私を守れ! 大いなる力よ! 多重結界ッ!」

「すまないな、無駄なんだよ」


 そう、僕の位置を掴めていない時点で終わり。

 どれだけ強力な結界であっても四方全てに展開すれば脅威は無くなる。特に魔法に特化しているララでは防御なんて出来ないだろう。コウもようやく意識を取り戻した程度だからな。今から動いたとしても間に合わない。







 ……だと思っていたんだけどな。




「申し訳ありません。少し時間がかかりました」

「……え!?」

「なるほど、冒険者か。よくもまぁ、我が結界を壊せたものだな」

「壊してはおりませんよ。ただ隙間を作って無理やり入っただけに過ぎません。私も含めて仲間達は剣聖達に次ぐ程度の力は持ち合わせておりますから穴を開ける程度ならば簡単です」


 これは……はぁ、僕も指示していない行動だ。

 今の戦いを見て戦闘意欲という火に油を注いでしまったか。だが……この技の弱点は確かに魔力を纏った剣で抑えるか弾く事。その嗅覚というのは両手を叩いて褒めてやってもいい。普通ならば剣であろうと防ごうとはしないはずだ。ならば、これは褒美として聞いてやる事にしよう。


「名前を聞こう。貴様は何と言う」

「ギリオル……貴方に憧れる者ですよッ!」

「……良い技術だ」


 確かに本気で遊んでやった事は無かったか。

 武人足るもの、自身より力のある者達と手合わせをしたいというのは当然の性だ。僕も勇者も、何なら聖女だってそうだった。こうやってノータイムで風儀神翔を発動させるだなんて一週間程度でよく成長したものだ。本当に……才能のある人は育て方次第で大きく変わるみたいだな。

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