第54話 賢者、幼子に教える
「完全強化」
「は、やッ……!」
「どうした、君の力量は勇者と同じなのだぞ。もし目で追えない事を不思議がっているのならば、目で見ようとするから追えていないに過ぎない。目で見える情報というのは限られたものでしかないのだからな」
僕も勇者も圧倒的な力を持ってはいなかった。
それでも伝説に残る程の強さを示せていたのは数値では出ない技術があっただけ。限界値や才能値の高さなんて魔族と比べれば勇者でもギリギリ同等程度だった。どちらも剣術と呼ぶには幼稚なものだっただろう。
ただ、戦い続けて無骨に剣を磨いた。
今だって自分の剣を美しいとは思っていない。勇者は美しい剣を手にしたが悪に落ちた僕に残ったのは黒く淀んだ剣だけだった。でも、後悔は少しも無い。……僕達は勝つためだけの嗅覚だけを磨き続けてきたんだ。それ故に僕達は他者では扱えない力を手に入れた。
弱者というのは目に見えない事を恐れる。
それはどれだけ技術を高めた武人であっても抜けない人としての性だ。そこを利用し幻影を発動して四方から攻撃を仕掛けているだけ。それでもまだ踏み込めていないのは少なからず勇者と同じステータスがある事と、彼の持つ最低限の剣術のおかげだろう。でも……弱い。
コウの目の前に姿を現すと同時に剣を横に振る。
即座に対応しようと動き始めたが……やはり、剣の腕は微妙だ。ただ横縦の連続で振っているだけだというのに弾く事すら出来やしない。速度だけで言えば同等程度だというのに先読みすら行えないらしい。
「お兄様!」
「はぁっ……! すまない!」
「結界……見事な手際だ。だが、脆い」
聖女の力を無理やり行使したか。
まぁ、空間魔法を利用しての結界だ。そう容易く扱えるものでは無い。魔力を流すだけで壊れてしまう程の脆さだが、魔法への才があるとはいえ、覚えてもいない空間魔法の応用技を使用出来ている時点で目を見張るものはあるか。……当の本人も今の行使で空間魔法を覚えたみたいだから本物の天才みたいだ。
「あの結界を軽く壊せて……勇者と同じだと……」
「力量は、同じなだけだ。スキルの量や技術の差というのは比べ物にならない程の差がある。それは聖女の力を得た彼女も同じ事だ。与えられる力というのにも限界がある。神の如き力を貸し与える事は全知全能ですらも難しいのだよ」
「……口振りからしてその力が原因で勝てないという訳でも無いのですよね。もし、そうであったのならば最初から試すために力を与える訳も無いでしょうから」
「その通りだ。あの勇者は我が神の如き力を使用していたとしても、その技術力と類稀なる才能で我を屠ってきた。ステータスだって最終的にはかなりのものとなっていたからな。故に王国は今でも見せかけの栄華に満ちているのだよ」
「……屠ってきた? 待ってください! それは!」
ああ……つい、口が滑ってしまったな。
確か、伝説の中では勇者は孤高の賢者を退ける事に成功したものの、その後は孤高の賢者に生かされた事で生を終えた、だったか。普通ならば脚色されるべき話だというのに変化が無いのは……アイツなりの優しさなんだろうな。
「まさか、奈落にまで足を運べた勇者が我如きを倒せずにいられたとでも思うのか。魔族との大戦争が起こった時に勇者一人で少しの被害も出さずに敵を殲滅出来たとでも思うか……所詮は何千と戦ってきた中で過半数を我が勝ったに過ぎないだけだ」
「それはそれで……変わらず化け物である事を口にしているだけのように感じますが……いえ、このような会話は時間の無駄になるだけですね」
「分かるのならばそれで良い……その化け物が君達の力を測っているのだ。精々、その足が永遠に止まらぬように動かすと良い」
ただ、話が出来るだけで……君に才能は無い。
限界値を押し広げただけで賄えるだけの才能はありはしないんだ。本当に才能があるのならあの執事がいて今のレベルで収まる訳が無いからな。所詮、あるのは貴族として生きれるだけの知能の高さ程度だろう。
「では、遊びはやめよう。いい加減、飽きてきた」
「───え?」
「お! お兄様ッ!」
ふむ、左腕を切り落としたが対処は早いな。
そこら辺は本当に才能のあるララだ。本人の持つ光魔法に重ねて聖女の白魔法を無理やり行使したらしい。そのおかげで即座に腕が生えてきて元通りになってしまった。……まぁ、首を切らなかった僕も僕でしかないか。
「なるほど、治す事が出来るのか。ならば、本物の魔法を見せてやる方が楽で良いか。特に君は少しだけ邪魔だ」
「魔法陣……それは、無駄な魔力を……!」
「間違った知識を……我直々に魔法の勉強でもしてやろうか。教えてやっても良いが、それは君が耐え切れた時だ。聖女の力を得て、この程度の魔法で沈むのならば教える道理も無い」
ララ、君の気持ちは本心から嬉しく感じる。
でも、それで君に手を抜くのは、本当に君を想うのならば行ってはいけない事だ。君が死ぬのなら僕が蘇生してあげよう。だから、その死の恐怖に耐えて僕の魔法から身を守るといい。そのためにララの一点に魔法を集中させたのだからな。
「地獄之焔」
「私を守れ! 多重結界ッ!」
一瞬で……というのは、おかしな話か。
どうせ、僕の言動からして自身へ攻撃が向かうのが分かっていたのだろう。数分程度の余裕を使って百にも及ぶ結界の層を作り出すとは、ね。それをコウへの回復に思考を回しながら並行的に行っていたとなれば見事と言う他無い。
「ふむ、耐え切れた、か」
「言葉の割には……随分と、嬉しそうですね」
「我はお喋りなので、な。知識が必要だと思う存在がいるのならば教えてやるのが賢者だ。して、魔法陣の生成に関しての強みだったな」
本音を言えば今の技量では無理だと思っていた。
今の魔法は火の上位魔法である炎魔法の中で中位に位置するもの、それを行使するのが僕となればかなりの火力にすらなるものだった。それを結界という一手のみで防ぎ切ってみせたんだ。拍手はすれども、嘲笑う理由なんて少しも無い。
「魔法というのは想像力によって成立する。だが、それが即座に生成出来ない事が多々あるため、詠唱と魔法陣が存在するのだ。前者は言葉を使用する事によって想像力の補助を行い、魔法陣は事前に準備を行い、少し多くの魔力を消費する事で無詠唱で魔法を行使出来る利点がある」
「……なるほど、無詠唱だけが全てでは無いという事なのですね。それは良い事を聞けました」
「そうであろう、今の王国というのは無詠唱ありきの戦いを得意としている。だが、それでは不必要以上の魔力操作を求められ、火力という一点においても真に魔法を扱える者には遠く及ばない。前者は時間を消費する事で、後者は事前準備と魔力によって高い火力を顕現させる事ができる」
本来、無詠唱というものは使い物にならない。
普通であれば想像力が欠如した状態で魔法を放つんだ。当然の事ながら火力は大きく下がり、無理やりにでも構築させるためには高等魔法使いでどうにか効果のある魔法を作り出せる程度だった。僕と対等に戦えるような魔法使いでようやく成り立たせられるというのに……。
「そこに平伏す女も本来であればより高度な魔法を扱えるというのに……無駄な知識は本当に枷にしかならないようだな。本来であれば無詠唱は詠唱と魔法陣を極めた上で行使するものであるというのに愚かなものだ」
「無詠唱が……愚か……なん、で……」
「貴様の魔力操作は極端に程度が低いでは無いか。程度で言えばララと呼ばれる幼子に負ける程度の技術力であろう。せめて、この我が褒めた事を嬉しく思って欲しいものだがな」
魔法使いというのは誰よりも準備がいる。
それは戦闘の時だけではなく、その前準備すらも気が遠くなる程の用意がいるんだ。例えば数千にも及ぶ魔法陣の作成、詠唱破棄用の魔術符、近接職へのサポートのイメージ……考えれば考える程に浮かんでしまう馬鹿げた役職だよ。だから、僕達が生きてきた世界では『魔法使いの能力によって勝敗が決まる』とまで言われていた。
対して他の役職は魔法使いのためにいる。
極端な話だが魔法使い四人のパーティと戦士二人と魔法使い一人のパーティでは確実に後者が勝つ。それ程に本来の魔法使いというのは誰かの守りが無ければ時間稼ぎが精一杯なレベルだった。……そんな存在が勇者と殺り合っているのだから伝説にだってなるだろうな。
「我が魔法陣の展開に時間がかからない理由は分かるか。それだけ、数億と魔法陣を作り、描き続けてきたからだ。無詠唱だけで我よりも強い勇者をどうにか出来る力は得られなかったのだからな」
「だから、賢者……魔法の特徴を理解し、その利点を上手く行使する事で少ない勝ち筋を作り出せる本物の化け物」
「我は凡人だ。故に幾つもの犠牲を払った。愛しき者を何度も失い、生かしたいと思った存在すらも殺し、剰え……知っていながら勇者と聖女を見捨てたのだ」
そんな存在のどこが賢い者なのだろうか。
いや、僕は僕を生かす事が出来ていた。つまり、孤高である事で賢者として成り立たせる事が出来ていたのだろう。……本当に忌まわしき名だよ。ただ救えなかった者達から貰った名前だ。恨みはすれども否定はしない。
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