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第53話 賢者、過去と戦う

「うん、全部が予想通りに動いているね」

「……主様が動いているのです。予想外の出来事が起こるわけもないでしょう」

「ううーん、それは違うね。ケール、僕にだって周囲の状況を見誤ってしまう事がある。ましてや、盤上に置かれた駒が自身の予測しているものだけとは限らないんだ。用心に超したことは無いけれど、油断は少しも許してはいけない」


 鼠の目から見える景色は予想通り進んだ。

 それでも……僕が思うイレギュラー足り得る存在は少なからずいる。一人は剣聖、一人は穴熊、一人はララの執事である男、そして……僕の両親となった二人だろうか。どうにもヴァン含めた三人の力は未知数だからな……きっと、僕の目というのも転生で衰えたのだろう。


「どちらかというと、僕はイレギュラーを望んでいたんだけどね。僕の想像を超える存在がいるとなれば少しは興味を持てたというのに……いや、必ずしもいないとは言えないか」

「それが主の御心とあらば……」

「ケール、これは君達への試練でもある。分かっているとは思うが死なない事を前提に考えるなよ。どうせ、世界は僕の求める景色を易々と与えてはくれやしない」


 どうして僕がこの世界に姿を現したか。

 多くの理由があるとはいえ、その根幹に至るのは僕の興味を擽れる何かだ。きっと、仲間を募ったのだって似たような理由なのかもしれない。そうでなければ自分とは比べ物にならない程の才能を持つ者達を救いはしなかっただろう。


 でも、今はそれが正解だったと思っている。

 どうせ、後悔に対する言葉は無いのだろう。僕の後悔全てを消しされる存在なんて二人しかいない。その人達を無視して育てる考えなんて湧かなかっただろうな。……だから、僕は皆を同じ土俵に立たせたいんだよ。









「な……」

「ふむ、良い夜だ。そうは思わないかね」

「誰、だ……いつの間に……!」


 天窓から飛び降りただけ、なんだけどな。

 まぁ、多少の細工はさせてもらったよ。割れたガラスから反射される光とかを操ったり、真ん中に落ちれるように風魔法を使ったりとかさ。それでもそんな顔をされる程の事はしていないと思うんだ。ただ映えに特化させる魔法の行使をしただけ。そんな顔をされるくらいならアイドルのようにウィンクでもしてやろうか。


「貴様! 賊の仲間か!」

「我を見てそのような事が言えるとは、どうも、現代の者達は知能という点においてかなりの劣化が見られるらしい。いや……それは戦闘能力も似たようなものか。随分と平和に浸ってしまったようだ」


 おー、ギリオル達の表情が一気に歪んだな。

 まぁ、コウの勇ましさは少し前のギリオル達と同じだからな。恥ずかしさを覚えてしまうのも仕方が無い。ただ、こんな問答を続けるために来た訳でも無いのも事実だ。


 静かに獣之咆哮を周囲に放っておく。

 魔力の応用さえ行えれば声を出さずとも獣之咆哮の真似事くらいは出来るからな。現に屋敷の中からと天窓の外から賊が来てくれたみたいだが……登場させる必要性も無いか。こんな雑魚に時間を使う方が面倒だ。


「延縄」


 風魔法を利用した見えない何か。

 それらで探知にかかった敵の首を落として胴体だけを引き寄せてやる。これで賊では無い事が伝われば良いが……まぁ、そこら辺を期待してはいない。この場にいる人達の情報くらいは探っておいたから少しは分かる。


「これ、は……!?」

「これが君達の口にする賊であろう」


 一瞬とはいえ、目には映っていたはずだ。

 個人的にはここに来た一番の目的として賊の遺体の回収が最優先だったからな。どうせ、救ったところで少しの見返りもありはしない。どちらかと言えば敵対意識が高まるだけだろう。そこまで分かっているから友好的に接する気も無い。


「さて、雑魚は雑魚なりに地を這い蹲れ」


 殺そうと思えば全てを瞬殺できる。

 だが、僕にそれを行うだけの思いなどありはしない。殺せるから殺すを続ければ僕の嫌う王国の者達と変わらなくなるだろう。……そう、この因縁はお前が切ったんだよ。だから、言霊を使うだけに済ませたんだ。


「良い姿だな。本に衰えたか……ロレーヌよ」

「君の意見が総意とは限らないね!」

「そうか、それは残念だ」


 地に落ちた剣を拾って僕へと向けてきた。

 なるほど、さすがは……あの子の子供達だよ。いや、あの子の血を少しでも引いている子供達という方が正しいだろうね。本音を言えば今だって僕は目の前のロレーヌ家を許せはしない……けど、それがあの子の求める願いなら僕は笑って許すだけだ。


 それに衰えたというのは事実だろうに。

 僕がいた頃は公爵家として王国と同等の力を持っていたというのに、ロレーヌ家と聞けば剣士や魔法使いの名家だと誰もが答えたというのに……今では面影の一つすらありはしないな。公爵家としての地位を持ちながら伯爵家の位置に準じる愚かな子供たちでしかない。過去のロレーヌ家と同等に扱えるのはララくらいか。


「主様、準備が整いました」

「結構……では、名乗るとしよう。我が名は孤高の賢者、過去のロレーヌ家との盟約により地獄から姿を現した英霊なり。では、我等が復活の凱旋を美しきこの夜に開催するとしようか」

『はっ!』


 スズナ、僕は君との約束を忘れた事は無い。

 惜しむらくは君と共に美しく澄む月光を眺めたかった。こんなにも広いパーティー会場で一晩中踊り続けたかった。ただ酒を酌み交わし君の家族として迎え入れて欲しかった。……そう、それだけだったんだ。


「悲しいな……誰よりも平和を望んだ彼女の血を引く者達から刃を向けられるとは……本当に心の底から悲しいよ。ロレーヌ家の者達よ」

「……ロレーヌ家として孤高の賢者、貴方に感謝はしている。恩義だって感じている。それでも……私達は王国の民でもある公爵家だ」

「良い、我の見ていたロレーヌ家は所詮、滅んでしまっている。現世に姿を現したのも滅ぼされた者達との約束あっての事……血が繋がっているだけの者達に何かを求める気も無い」


 そう、一人を除いた全員には、な。

 別にロレーヌ家だから助けた訳では無い。助けた相手がロレーヌ家だっただけで……もしも、あそこに彼女がいなければ僕は見捨てていただろう。それでも出会い、面影を感じてしまったからには約束くらいは果たさなければ地獄で顔向けが出来ない。


「とはいえ、興味が無いかと聞かれれば話は別だ。過去の我が同胞と同じ血を持つのであれば怠惰など許されてはならない。今のロレーヌ家の者達の技量というのを測らせてもらうとしよう」

「……英霊相手に勝てるとでも思っているのですか」

「言ったはずだ。技量を測る、と。我と戦おうとするのであればここにいる者達が組んだところで勝てる可能性はゼロに等しい。……故に我から一つ、手助けをしてやろう」


 倉庫の中から一つの本を取り出して開く。

 これは僕の最高傑作の一つ……いや、僕達の最高傑作の一つと言う方が正しいか。これのおかげで僕は勇者と殺し合えた。だが、その分だけデメリットも大きいからな……僕の部屋に封印していたんだ。再度、使用する事になるとは思ってもいなかったけど。






「魔導書、全知全能ジ・オールマイティ

「それ、は……!」

「ふむ、伝承程度ならば残ってはいたか。そう、これは忌々しき勇者との戦いにおいて王国を半壊させた魔導書だ。そして、我と我が最愛の者と共に作成した愛しき子供でもある」


 端的に言えば、想像全てを現実に当てる。

 過去、現在、未来の全てを書き換えられるという能力ではあるが……その分だけ必要魔力が大き過ぎる事と発動者によっては使用した瞬間に命を落としてしまう。それこそ、僕以外が使おうとすれば本は使用者を殺すからな。そして本を閉じると同時に三日は魔力を使えなくなるというデメリットもあるんだ。現実的に考えて普通ならば容易に使える物ではない。


「我の名のもとに彼等へ力を与えたまえ」

「この力は……普通では無いな」

「上手く言葉には出来まい。君に与えた力は勇者と同等の力を、そこの少女に与えた力は勇者と共に戦った聖女と同等の力を与えたのだ。安心して良い、本気を出したところで屋敷に傷の一つも付きはしない」


 普通、人の魂によって限界が決まる。

 これを俗に限界値と呼び、その許容量から外れたが最後、魂が消滅してしまう。死ぬのでは無く、存在自体が無かった事になってしまうんだ。異世界人が勇者となるのも限界値が無いか、限界値が極端に高いというメリットあっての事。


 でも、二人の限界値はそこまで高くは無い。

 だから、こうやって全知全能で限界値が異様に高かったという事実だけを残した。そこから二人へ戦い方にあった力を与えている……とはいえ、永劫というのは僕にでも不可能な話だからな。精々、魂を押し広げるのが限界だ。それもララやスズナの魂に触れていたからこそ、出来たものだし。


「名前を聞こう。死ぬ可能性のある者達へのせめてもの情けだ」

「……私の名前はコウ・ド・ロレーヌ。そして、こちらは」

「ララ・ド・ロレーヌです。その深い懐に感謝し、少しでも楽しませるように精進させていただきます。まだ死ぬ訳にもいきませんので」

「よい、ならば、力を示せ」


 さて、ハンデとしては十分過ぎるだろう。

 相手は今の僕と同等程度の力を両者共に持ち、力を与えられた事に対する違和感だって覚えてはいない。加えて僕の左手は魔導書を開いたままにする必要があり、魔力だって能力維持のために常時消費されている。


 ここまでやって無意味ならただ潰すだけだ。

 ララは使えるだろうから残すが他に価値は無い。ロレーヌ家を助けたのだって彼女の想いを汲んだからだ。約束だって、最後は僕に任せるとロレーヌ家の人間の誰もが言っていた。……そう、王国の人間程度相手ならば僕は止まれはしないんだよ。






 僕は……孤高の賢者なのだから。

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