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第50話 英雄の怒り

「では、性格の悪い話は幾らでも受け入れてくれるという事でしょう。まさか、英雄級の貴方からその言葉を頂けるとは思いませんでしたよ」

「性格が悪くなければ俺達は伝説を残せはしなかったからな。それに俺達は貴族であって貴族では無い。お前達が俺達の感情を踏み躙るのなら幾らでも叩き切るぞ」

「構いませんよ、どちらの従者がより強いのかは私としても知りたい事でしたから。それに……ここでは例え貴方が相手であっても派手に暴れる事は出来ません」


 そう、軽口のように返したはしたがコウの内心は穏やかとは言えなかった。既にアルもフィアナもヴァンすらも戦闘準備を整えており、それらをコウを含む三名で抑えるのは不可能な話であった。加えてアルの望む言葉は戦闘の二つでは無い事も分かっていたからこそ、コウは静かに呼吸を一つだけする。


「さて、探り合いはやめましょう。こう見えても貴方の威圧で私は気を失いそうなくらいには辛いのですよ」

「よく言ったものだ。ゼノンの話を俺達が聞いていないわけも無いだろう。所詮は縄一本の上に立っているだけに過ぎないはずだ。よくも余裕を見せた上で言えるものだな」

「ええ、だから、言っているのですよ。私はロレーヌ家を再建する人間です。それに僕達はリーフォン家と戦う意思は少しもありません。むしろ、共に戦いたいと思っている程には好意を抱いているのです」


 その瞳に宿る同時にアルは息を飲む。

 だが、それを悟らせぬようにワインを一口だけ喉に通して威圧を少しだけ弱めた。それは自身が敵を認めたと悟らせぬように見せた行動、裏を返せば今の一瞬で攻勢は逆転している。それを理解しているからこそ、アルは性格の悪い一言を口にした。


「だが、俺達は貴方達の望むように息子を連れては来れなかったけどな。アルフは俺の質問に対して外へ出たくは無いと答えた。それを無碍にできる父などいる訳が無いだろう」

「構いませんよ、三歳にも満たない子供を無理に立たせる親はおりません。それでも、一貴族としてはその価値を見い出せない訳も無い」

「クドいな、俺はアルフを落ち目の貴族如きにくれてやる気なんて無い。ましてや、アルフが認めないのならば貴族に与えてやる気も無い。アイツの人生はアイツだけのものだ」

「おや、落ち目程度で済ませてくれるのですね。立場で言えば僕達に優位はありますが、価値で言えば貴方方に分があるというのに」


 それは間違い無く正しいものであった。

 それだけアル達が成し遂げた業績は普通の貴族では成せるものでは無く、それはロレーヌ家であろうと不可能なものである。ただ、そう、確かにアルは俺達ではなく、俺と済ませていたのだ。そこから考えれば……。




「だからこそ、共に酒を飲みたいと僕は思っているのですよ。こう見えてもロレーヌ家を継ぐのは僕と言われていますからね。それとも、僕と飲む酒は不味くて飲めやしませんか」

「それが素か……酔った俺は何をしでかすか分かったものじゃないぞ。別に」


 本当に一瞬の、瞬きの世界だった。

 その中でアルは刃をコウへと向けて、その威圧をより一層強くする。その威圧だけで脳の無い貴族は腰を落としたが、それをコウはロレーヌ家としての誇りのみでどうにか耐え切った。もとから話をする存在の強さを理解していたから行えていたと言っても間違いはないだろう。


「こうやって首を切る事だって出来る。しないのは俺達が感情に身を任せずにいられているだけだ」

「はは……本当にお人が悪い」

「公爵家を継ぐ者が言うものじゃないぞ。俺達は一世代の立場でしかないからな。別に立場を気にしなくて良いと言うのなら一番に重要視するのは感情だ」


 その言葉を合図にフィアナは杖を構えた。

 そこでコウはようやく理解する。アルに全ての発言を任せていたのは詠唱の欠片すらも察知させないためだと。加えて今のアルには魔法を放たせる気すらも無い事を理解していた。では、二人、いや、気配すらも見せずに構えているヴァンも含めれば三人の矛を納めさせるには何が良いか。


「家族を思う気持ちは僕にも分かります」

「ほぅ、で、何だ。まさか、分かるから許せなんて身勝手を了承するとでも思っているのか」

「言う訳ないでは無いですか。ただ……そんな大切な妹すらも、いや、妹のためにも僕は言葉を続けたいだけですよ」


 その表情には嘘など少しもありはしなかった。

 貴族も武人も相手の心情や過去などは聞いたりはしない。それは当然ながら御法度とされている行為だからだ。では、何を持って相手の全てを計るか。今のように性格の悪い口論を繰り返すだけでしかない。


 その中で確かにアル達は感じた。

 そして、コウは一つの可能性を信じたのだ。本来ならば公爵家ともあろう者が一つの可能性に頼るなど、英霊に怒られてしまう行為だと理解してはいる。それでも、確かに感じてしまったのだ。口論の中に宿る一筋の光だった。




 ───だから、口にする。


「どうか、僕の妹を、ララをリーフォン家に預からせては貰えませんか」

「……は?」

「彼女は少し経てば学園へと進学します。それでも何も抜けの無い存在でありません。天才ではありますが近接戦闘に関しては欠片の才能もありませんから」


 それはゼノンの話から得た真実だった。

 ずっと、彼女をどうするか悩んでいたのだ。それでも彼女は魔法以外の何かに興味を示す事は少したりとも無く、加えてコウ達にすら敵対的な行動を取っていた。そんな大切な妹が一時を境に態度を急変させたのだ。


 それはコウにとっては嬉しい話だった。

 コウは……全ての兄弟を愛していたのだ。その剣の冴えは天才と言えども、妹を斬りたいとは少しも思っていない。だから、その妹が誰よりも求めている存在に対しては最大の敬意を払う気でいたのだ。例え、その思い頭を下げたとしても……。




「故に僕が望むのはリーフォン家に住む事で近接戦闘の極意を学ぶ事です。それ以外に何も思いは無いかと聞かれれば否定しましょう。だとしても、一番の思いは……」

「その思いはなんだ」

「僕の……大切な妹が幸せに暮らせるように動く事ですよ。僕がララより先に産まれたのはララが苦しまないような地盤を整えるためです。だからこそ、ただのコウとしてアル殿に言っています」


 その一言は貴族として酷く重いものだ。

 家の名前を利用して無理やり言う事を聞かせるというのは子女としての定石である。それらを無視して個々人として頼むというのは……下手をすれば自身の命を奪われたとしても文句を言わないという表れでもあった。


 だからこそ、ララは表情を一気に歪めた。

 そして、アルはその目に対して本気の威圧感をかける。全体にかけた威圧というのは分散されてしまうために価値は薄い。ただ、一点に、それも一人の眼にかけるというのは英雄以外には行えないものであった。そこから少ししてアルは表情を軟化させてフィアナへ向ける。


「フィアナ、数人程度なら家に招ける余裕はあるか」

「あるわよ、まぁ、一番に整えられているのはアルフの部屋だろうから……お嬢様を迎えるのなら、一緒の部屋になると思うけど」

「別にいいだろ。招くという事は実入りだって良くなるはずだ。それを聞けば赤子のアルフだって笑顔で受け入れてくれる」


 その一言は確かに許容という意味であった。

 それがただの貴族相手ではコウも表情すら歪めなかったかもしれない。ただ、彼は確かに妹のために死ぬ気でいたのだ。それだけ相手をする存在というのは王国の上位に立ち、コウが相手をするのは烏滸がましい存在でもあった。


 だから、素直に声を漏らしてしまう。


「い、いいの、ですか……?」

「俺達が知りたかったのはロレーヌ家の気持ちだからな。貴族としてのゴタゴタに絡まれるのは死ぬほどゴメンではあるが……ロレーヌ家代表であるコウ殿の気持ちはよく分かったよ。よく、俺の威圧に耐えられたな」


 軽くコウの頭を撫でて乱雑に酒を口に含む。

 リーフォン家は貴族であり、貴族では無い。それが理由で多くの者から虐げられ、それ故の対処法というものを学んでいた。今の荒い行動すらも貴族では無いからこそ、できた事でしかない。だから、アルは愉快そうに口角を吊り上げた。

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