第44話 賢者、新しい配下を手に入れる
「構いませんよ。そこに意味があって任務として頼んでいるのでしょうから」
「二つ返事だな。別に話を聞いてからでも良いのだぞ」
「従属すると言った手前、命に別状が無いのであれば拒否など出来はしません。それに鍛錬というのですから私達にも利がある事でしょう。孤高の賢者と呼ばれる世界最高峰の存在から学べるのであれば拒否する理由はありません」
本音を言えば孤高の賢者なんて名ばかりなんだけどな。自称した事なんて転生する前には無かったわけだし、その名が許される程に僕が強かったとも思ってはいない。……良くて人外程度だろうか。
「ギリオルはそう言っているが他の者はそれでも良いのか」
「わ、私は彼が望むのなら着いていくだけです!」
「冒険者パーティというのはリーダーの言う事が最優先されるという決まりがあります。彼が言うのであれば私も同じ道を歩くのが道理でしょう」
「お、俺は仕方なく許すぜ! 孤高の賢者とかいう存在にビビった訳じゃねぇ! ギリオルが言うから仕方なくな!」
そう言うとビンズは地面に叩き付けられた。
なんというか……本当に脳ミソが足りていないんだろうな。ただ全員から許可を取れたのは少し予想外だった。……許可を取れたのであればビンズにはケールに躾をさせればいいか。フロンはメイラと同じく魔力操作から教えればいい。
「であれば、その期待に見合うだけの教えを四名に伝えるとしよう。安心するが良い、我が教えるという事は軽くSSSランク程度の力を個々人で手に入れられるという事と同義だ」
「マジか、なら、沢山の女を」
「ビンズ、お前には少し節制というものを教えた方が良さそうだな。殺しはしないが上位に立つ者としての矜恃くらいは理解してもらわないといけなさそうた」
本当に懲りない奴だ……と言いたいところだが、ビンズにとっての強くなる理由が異性から好意を持たれる事なのだろう。であれば、教えるのは社会から許される程度の粗暴くらいだ。というか、暴走しそうならギリオルとケールに任せよう。ツッコんでいても疲れるだけだ。
「では、三日後まで毎日八時間は警備に当たるように。遺体はこの中にでも入れておいてくれ。もう片方は前払いだと思ってくれ」
「これは……空間魔法が付与された小袋ですか。全員分を一瞬で用意するなんて……何とも懐が深いですね」
「これらの価値を下げたくないという理由のみで作っていなかっただけだ。十秒もあれば三つは作れる程度の存在でしかない」
だって、全てに限界があるんだ。
ほぼ無限の容量にするとなればミルファとかの限られた存在にしか渡さないが、精々十トン程度の容量であれば簡単に作れる。というか、生産班であっても一トン容量の魔道具を作れる存在はいるからな。
「はは……本当に規格外なのですね」
「人間五十年は鍛錬に身を投じれば誰でも到れる領域だ。そこまで出来る人がいなかったに過ぎない」
「本当に……化け物だ……」
この程度で化け物とは……それじゃあ、本物の勇者を見たらどんな反応をするんだよ。その化け物であっても運が傾かなければ勝てないような存在が勇者だぞ。……人外と化け物の差を履き違えないで欲しいものだ。
「その五十年で得た知識を教えるんだ。我に従属した事に対して小さな後悔はあるかもしれないが、絶望へと変える気などは無い」
「……はは、興が乗ったから、ですか」
「ギリオルの絶対的な主として狭量な姿など見せられはしまい。あの時の戦闘は我に負けの目が無かったとはいえ、強く愉快なものであった。二度目となれば比ではならないものとなるであろう」
「ええ、その期待に応えて魅せますよ」
なるほど、そこまで言うのであれば信じるしか無いか。王国の人間に恨みはあれど配下となってしまえば話も変わる。ましてや、ここまでやる気に満ちた人間を無駄にする程の無能では無い。
「ギリオル、君の剣や防具は我が破壊してしまったからな。これを渡してやろう。くれぐれも」
「全てはネームレス様のために……それであれば問題は無いでしょう」
「はは、良い笑顔じゃないか。その笑顔であればレミィも喜んで受け答えしてくれたのでは無いか」
「踏み絵を踏み抜く気などありませんよ。この笑顔はネームレス様が私の霧を晴らしてくれたから見せられたものです。今の私が再度、闇に墜ちる理由など少しもありません」
どうして、何で……聞く気は少しも無い。
今はただ目の前の天才が芽吹くキッカケを与えたいだけだ。その天才が自分の配下となったのであれば余計に聞く理由は無い。相手の事に対して詮索はしない、これが関係性を良くしていく最低限の一手だ。
「後は頼めるな」
「ええ、ネームレス様が望んだ以上の仕事をこなして見せましょう。それが歯向かい盾突いた私達が返せる最大限の奉公です」
「八時間以上は働かなくていいぞ。それ以上はギリオル達の体を壊すキッカケになりかねないからな」
「そこまで言うのであればしませんよ。ただ私がしたいというのであれば話は別ですよね」
いや、労基が……って、いないか。
それでもギリオルやメイラが体を壊してしまっては僕も困るんだよなぁ。折角の才能が固定時間以上の労働で潰されては何のために蘇生させたのかって話になってくる。かといって、彼のやる気を否定するのも違うか。
「なら、せめて毎日十二時間は自由な時間を取れ。それを満たすのであれば我から言える事は何も無い」
「それが命令とあらば……」
うんんん? 何で不服そうなの?
十分にも満たない話で僕に対して忠誠心マックスになる理由は何。え、もしかしてケールと同じく下手に主としての矜恃を見せるべき存在ではなかったのか。待て待て待て……なんか、カイリやケールと同じ匂いがして嫌な予感がするんだけど……?
「命令だ。そう言えば休むな」
「……はい、問題ありません」
ま、まぁ……カイリやケールよりは話が通る存在ではあるか。二人、もとい、配下の一部は僕が休めと言っても鍛錬に励むんだ。休んでくれると言うだけ僕としても幾らかは胸を撫で下ろせるよ。
「では、明日から任務に励むように。もしも我と話をしたければそこで寝ているレミィに言えば話す事は可能なはずだ」
「余程、大きな問題でなければ主との謁見を望みはしませんよ。大概の事は私一人でどうにかなります」
「その噛み付いた尾が我のような虎とは限らない、それを忘れてはいけぬぞ。我のために働きたいと本気で思うのなら尚更の事だ」
「……は、御忠告感謝致します! その言葉を胸に残したまま滅私奉公、ネームレス様のために働く事を誓います!」
だから、十二時間は休めと……はぁ……。
駄目だ、この子は既にカイリルート……つまり、狂信者の一人として生きる事となる。どうせ狂信者ならレミィのような多少は融通の利く存在となって欲しいが……こういう期待は持つだけ無駄なんだよなぁ……。
「……行け、我が配下の邂逅春雷よ」
「は!」
その言葉と共にギリオルが消えた。
そして次にメイラとフロンが消え、次に焦ったようにビンズが消える。最後の最後まで素っ裸で人並み以上の棒をぶら下げたギリオルではあったが、さすがに飛んだ先は公衆の面前では無いだろう。いや、そうだと信じたい。
……と、その考えは後回しか。
「あ、あの……ネームレス様……?」
「あ……目が覚めていたのか」
「えっと……お話されていたみたいですので……それよりもレミィは僕の物って……」
う……それは違った意味合いなわけで……。
って、いやいや、レミィを大切に思っているのは本当の事だろう。彼女の剣の振り方を見て自分を重ねてしまったが故に教え込んでしまった。そこを否定したくないのであれば名実共にレミィは僕にとって掛け替えの無い存在だ。
「……分かったな、これ程までに我はレミィの才能を、いや、存在を大きく必要としている。だから、あー……カイリとは仲良くしてやって欲しいんだ」
「……はは、大丈夫ですよ。とは言っても、あのような存在にすら勝てない私を許してくれるとは思いませんが……」
「僕は最初から天才と天才の戦いを見たくて仕組んだまでだ。レミィの勝ち負けに対してとやかく言う気は無いな」
本音を言えばレミィの成長を見たかった。
でも、その中で見せられたのは僕への絶対的な忠誠心と親愛。どうなったとしても僕は大切に思った存在を見捨てる気なんて無いんだ。それが分かるから昔のように……大切なものを捨てる事なんてしたくない。
「……レミィ、僕はさ……本当は誰よりも強い存在では無いんだ。ましてや、誰かの主として胸を張れるだけの存在でも無い。だとしても……僕が僕であっても君は僕を師匠と認めてくれるか」
「ええ、もちろんですよ……ネームレス様は私の神様でしかありませんから。どのような理由があれど、私の心を掴み取り人並み以上の叡智を授けてくれたのはネームレス様です」
「はぁ……なら、僕の事は二人の時だけネムと呼んでくれ。その時だけ僕はレミィに本当の自分を見せられる」
「……了解しました! ネム様!」
「ネム……まぁ、いっか」
レミィの場合はカイリやケールとは違って人前ではネームレスと呼んでくれる応用性がある。そこら辺を加味すると二人きりならネムと呼べなんて求め過ぎだろう。求めるのならレミィにではなく他の面々にだ。
「と、忘れるところだった」
軽く指を弾いておく。
このままでは最初に襲ってきたパーティの一人にある事ない事ばら撒かれそうだからな。これでアイツは奈落のとある階層に送られたはずだ。そこには服従させた五階層のボスがいるけど……まぁ、頑張ってくれ。生きて帰れるとは思えないがな。
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