第42話 賢者、説教をする
「ああ、美しくないなぁ……殺し合いには人よりも優れていなければ無し得ないものだ。優れて優られて優り返して……その連続で成し得る最高の世界」
その世界を知っている、いや、生きてきたから僕は殺し合いを楽しいと思えるんだ。もちろん、その中で払いたくも無い代償を幾つも捨ててきた。何度も何度も捨てさせられて壊されてきたが……そうであっても殺し合いは楽しいと思えなければ価値が無いんだ。
「美学が足りないなぁ。誰よりも優れるためには美しさがどこまでも必要になる。死なないために幾つもの作戦を瞬時に組み立て美しい勝利へと導くんだよ。貴様の生き様が剣に乗り移っているせいで少しも楽しめはしない」
そう、勇者に僕は教わった。
戦闘とは美学のぶつかりあいだって……僕よりも優れているアイツが言うんだ。きっと、その言葉に意味はあるんだろう。何十年と生きた僕ですら辿り着けなかった答えを彼は出しているんだ。僕はその言葉を受け売りするだけ。
だって、僕がこうやって世界最高峰の力を手に入れられたのは、アイツと殺し合ってきたから得られたものだ。この勝利への嗅覚は、戦闘に関する最高峰の知能は少なくともアイツ以上のものだって知っているからな。
「……貴方の中での美学とは何ですか」
「ふむ、私の中での美学か……そうだな、あの子が傷つき倒れるのも一つの道筋。勝利という栄光を見せ、そして可愛らしい配下を抱いて囁くのだ」
「囁く……?」
「お前の主は美しいだろう、と」
僕の配下、いや、僕が大切に思う人達に対して笑顔を見せてあげたいんだ。だって、ミルファもレミィもカイリもケールも……他にもいるがその子達は僕のために鍛錬を積んでくれているんだ。どうして僕は何も返さないでいられる。
「我はな、どれだけ弱かろうと崇める者のためには最強を偽るんだよ。最弱のもとには誰も集まりはしない。それであれば偽るのが最適だ。加えて我は最弱に甘んじたりはしない」
「最弱……これが最弱……?」
「分からないのであれば分からないままで良い。ただ最弱から最強へと進化していく姿、それも一つの美しい道と思えるだけだ。そのような微かな過程こそが美学へと繋がっていく。敗北も一つの美学だ。ただ負け方が美しくなければ美学とはならない」
そう、アイツに比べれば僕なんて……。
本当の意味での最弱と最強、その差を埋めたのは努力でも何でもない。殺意と後悔と懺悔の思いだけだ。それらを織り交ぜ、掻き混ぜ、グチャグチャにした後に飲み込んだだけ。死にたくても死ねないから強くなってしまった本当の出来損ないが俺だった。
「なら! その美学に殺しなど!」
「何を言っているんだ。美学なんて嘘だよ」
「……は、はぁ……頭が狂ったのか……?」
狂っているだなんて褒め言葉を……。
今更、僕が常人だなんて思いはしない。どこまで行っても僕は国家転覆を狙う悪党だ。殺して殺して殺し尽くす、自分へした仕打ちを全て王国に返してやりたいだけ。……そう、狂っているんだよ。
「僕達は人である以上、言い訳無しに生きていく事はできない。そうであろう、人を蹴落として生きていく世界に常人の心は必要無いのだから」
「だから……何を……!?」
「言い訳を効果的に伝える、それが主として、そして絶対的な存在に必要な要素だ。お前達が崇める神も同様に当たり前の言い訳を神託として伝えているだけだろう」
そうでなければ神の存在証明はなされない。
そして、その神とやらは本当の意味での、いや、人々が望む神とは言えない存在だな。だから、代わりに僕がその神になってやろう。誰のでは無い、誰かのでも無い、僕が生かしたい者達を導き幸福を与える神になる。
「お前が僕の言葉に少しでも何かを感じたのであれば演じたかいがあったというものだ。……と、どうしたのかな」
「はは……何でだろうな。本当に……意味が分からないって言うのに……涙が出てしまう」
「我は他人の心に興味など無い。ましてや、貴様は我が弟子に色目を向けた咎人でもある。だが、その涙が心からのものであると察せられるからこそ、我は貴様に発言を許そう」
……って、言ったはいいけど無駄か。
泣き始めてしまったせいで会話になりはしないし、許すと言った手前、攻撃でもしようものならネームレスの名が廃る。とはいえ、ギリオルが見せた涙にも多少は同情する気持ちもあるからな。
僕だって長い時の中で何度も泣いた。人目を気にしないで泣いた事だってある。男女、個々の強さに関係無く堪えられない涙もあるんだ。それらが分かっているからこそ、聞かせてもらうか。
「貴様は何を望んだ。何を望み、何を捨てた。捨てたモノの中に後悔は無かったか」
「あるさ! あるに決まっている! でも!」
「言い訳など我は求めていない。自分でも分かっていながら、見て見ぬふりをし続けたのは貴様の落ち度だ。その事実を認めない限りは何をしたところで後悔が残るであろう」
どれだけ才能があろうと環境で腐る。
恵まれた人は自身が恵まれている事を知らずに全てを知ったように口にするが、何十年と生きた老耄だからこそ分かる。この世界で幸福に生きられている者というのは環境が八割、才能が二割の割合に分かれる。
その中の才能だけで成り上がれる者は運も多少は持ち合わせていなければいけない、という地獄みたいな世界だ。だからこそ、僕はギリオルという存在を嫌いになれずにいる。……まぁ、色目を使っただけで手はまだ出されていないからな。
もちろん、コイツに何かをされた人からすれば許せる話では無いだろう。でも、完全なる悪人でも無い限りは多少は許されるべきだと僕は思っている。人を裁く法が機能していない世界ならば襲われた側が裁くのはおかしくはないだろう。
「ここからは世界最強と呼ばれた我の本当の力を見せてやろう。その後悔も性根も壊れる程に何度も味合わせてやる。くれぐれも……自分で命を捨てる等、詰まらぬ行動はやめてくれよ」
「……ええ、僭越な身ながら善処させて頂きます」
「その表情や良し、我も貴様を饗してやろう」
一気に距離を詰める、今回は本気だ。
頭部を発勁で撃ち抜き破壊した後に再生、眼球が動いたのを見計らって腹を本気で蹴り上げる。どこまで耐えられるかのテストではあったが、やはり対応はしてくれなかったか。まぁ、それも含めての殺し合いだ。
「この程度で折れてはくれるなよ」
「まだ」
「なら良い」
向かってきたギリオルを薙ぎ払って弾いた後に地面へと叩き付ける。魔法を使ってやっても良かったが下手をすれば魂にまで損害が起こってしまうからな。そこら辺を加味すれば物理で殴ってやった方がいい。
そのまま胴だけ跡形も無くなったギリオルを回復させて壁へと叩き付けた。こういう時にダンジョンという地形でよかったと思えるよ。仮に大量の魔力を放出しようと外部からは察知が難しいだろうし、周囲を破壊したところで勝手に治ってくれる。
ま、壊せる人なんて数少ないんだけど。
「ま、だ……!」
「良い」
回復させたとはいえ、気を保てていられるかは当人の問題だ。こうやって二度も叩き伏せて起き上がれるのは覚悟を決めたからだろう。アイツも同じような思いを抱いていたのかもしれない。今の僕にあるのは愉悦じゃないな……興味だ。
近くまで寄ってきたギリオルの剣を魔力で弾く。弾かれるのは想定済みのようで流れを消さずに連撃を放ってくるが……まぁ、速度の問題で絶やす事は難しくないだろう。だからこそ、弾く行動だけに専念をして次の一手を見る。
「剛、輪斬ッ!」
「ふむ……」
連撃の締めがただの斬撃とはな。
最大限の強化を行って放った程度の一撃であれば片手で抑えられる。もう少し待ってやってもいいけど得られそうなのは似たような攻撃のみ……であれば、もう守りに徹してやる理由も無いか。
「残念だよ……もう少しは楽しめると思っていたのになぁ」
「この距離なら、風儀神翔ッ!」
「……ほう」
ゼロ距離からの一撃、最初から僕の心臓を狙っていただけか。確かに僕に傷を付けられる一撃であれば殺せる可能性はゼロでは無い。そうだな、殺し合いとはそうでなければならない。
「空間断絶」
だからこそ、僕は敬意を払おう。
魂を傷付けるかどうかなどを抜きにして、本気で殺すための一撃を放つ。少なくともミルファですら粉微塵に出来る魔法だ。耐え切れるなんて少しも思ってはいないが……いや、それはただの侮りでしかないか。
「限界、突破ァァァッ!」
現に僕の胸に手を当てる事ができた。
十分だ、これが本当の意味で才能を発揮できているという事。それでも尚、こうして越えられない壁もあるのだが……それは生きた年数が違うのだから当たり前か。持ち合わせている知識もスキルも差があり過ぎる。
風魔法で塵となったギリオルを一箇所に集め直して回復させてやる。今の一撃のせいで装備も服もアリはしないが別に誰も見ていないんだ。人権がどうとかは関係が無いだろう。
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