第40話 賢者、凄みを知る
「さて……切り札というのは無くなったのかな」
「冗談、ただ使わないだけです」
「へぇ、まぁ、それが嘘でも真でもどちらでもいい。君をさっさと打ち倒した後に蘇生魔法を使うだけだ。今からなら二十分は猶予があるだろうからね」
片手剣を両手で握り、構えを整える。
今の一瞬で強化をかけ終えられるか、確かに魔法の展開に比べれば強化など魔力操作に困難さは薄いが難しかっただろうに。……仲間が殺されている間に順応でもしたのか。仲間の死すらも見越し時間稼ぐための蘇生魔法、確かに合理的だ。
加えて構えからの突撃も悪くは無い。
レミィとギリオルには大きな差がある。恐らくスキルの強さや多様性を除けばレミィ本人が勝る部分は何処にもないだろう。今から何をしたところでステータスや熟練度、経験値の差はどうしたところで埋められはしない。
まぁ、埋められないだけで手はある。
それらの差を他の部分で対応すればいい。簡単に言えば本人のスキルの多様性は普通の人よりも幅広いだろうし、渡した布都御魂は僕が作った中で最高傑作と呼べるだけの逸品だからな。雑多な鍛冶師が打った程度の剣では太刀打ちできるはずも無い。
「抜刀」
「なるほど、小さな隙でも狙っているのか」
「ええ、それが私の戦い方ですから」
圧倒的な速度の差、そして剣の流れの滑らかさは間違いなくレミィより上……それこそ、僕と同じくカウンター主体で戦うレミィとは相性の悪い相手だろう。とはいえ、そこら辺の弱点を補うための武器が布都御魂でもある。
小環や大環を活用した結界による防御。
加えてその二つ自体が一種の得物となって打ち合いや斬撃を与えてくる。刀の扱いと共に並行して小環や大環を活用するのは軽々しく行えるものでは無いだろう。ただ、それらをレミィは勝利のためだけに行い切っているんだ。
もっと言えばレミィはまだ孵化前の状態。
それこそ、剣術においても未だカイリにすら及ばないような存在でしかないが……だが、カイリはレミィを一番に恐ろしい相手と口にしていた。そして、僕もその言葉通りレミィの才能は間違いなく最上位に位置するものだと睨んでいる。
あの子は数回だけ、最初の数回だけ他のメンバーと共に本気で訓練に取り組んでいた時がある。その時に見たのは間違いなく勇者パーティに入れるだけの才能はあったんだ。それでいて僕は彼女を怠けていると叱責してはいるが……レミィはただ怠けているんじゃない。
自分のやりたい時にやって、やりたくない時は何もしないという完全なON、OFFの精神。そして今のレミィは完全なONの状態だ。それが何を意味するかと言えば……答えは酷くシンプルだな。
「守り主体では私には勝てないよ」
「私程度の守りすら崩せない者がよく言えますね。それに守っていたのは───ただの時間稼ぎですよ」
二、三分程度の間に打ち込まれた数千もの剣。
それら全てを防ぎ切ったのは何も遊んでいた訳では無い。では、カウンターを打ち込めるだけの隙すら無かったのか……それもまた違う。最初から自身の全身全霊を持って戦うつもりでいたのだろう。だって、時間が経てば負けていたのは確実にレミィの方だ。
「流転せし生命よ」
「ッ! させるかッ!」
彼女の所持する魔力量は上級魔法使いを凌ぐだろう。それらを最低でも二分間は魔力の展開のために練り上げたんだ。ましてや、今から取ろうとする選択を察せないように普段以上に強化魔法へと魔力を注ぎ込んでいた。最善の一択をバレないように幾つもの釣り針を落としていたからな。気が付けないのも無理は無い。
「死して尚、残る罪よ」
「クソッ! 邪魔だァァァッ!」
「我が神の下で全てを償いなさい」
無詠唱という手段を取らずに言い切った。
それは今から発動する技の威力を微かであろうと弱めないようにするためだろう。その間の攻撃を防ぐのはもちろん得物の能力、今まででも突破出来なかったんだ。十数秒程度の間では余計に崩す事も出来ない。
「───輪廻」
その言葉と共に小環と大環が姿を消した。
一瞬の光が現れたかと思うとギリオルの周囲を何とも形容のし難い膜が包み、その後すぐに膜が渦巻くように螺旋状の円形へと姿を変える。中から先程以上の魔力が流れている辺り、壊そうと抵抗しているのだろう。
だが、そう簡単には───。
「はぁはぁ……本当に良かったよ……! 不壊属性が付いていなくてね……!」
「グッ……!」
ああ、こういうのをフラグと言うんだったな。
もしかしたら僕が下手な事を考えたせいで……いや、そんな訳が無いか。現にギリオルは輪廻を破壊し切るのではなく一部分に穴を開ける事で脱出したに過ぎない。これはレミィにとっても良い経験になっただろう。
あの一撃は僕とカイリにしか使った事が無かった技だが、方やバラバラに霧散させられ、方や発動と同時にレミィを勝利へ導いたんだ。勝つか負けるかのイメージしか無かった中に補強する要素を見付けられた……何とも喜ばしい限りじゃないか。
とはいえ、レミィも少し油断が過ぎたな。
技の発動によって倦怠感が湧いているのは分かってはいるが、刀の構えすら取らないのはあまり褒められたものでは無い。相手は勝つか負けるかで勝敗が決まる敵では無いんだ。死にたくないのなら対応するための一手は取っておくべきだっただろう。
まぁ、ただの袈裟斬りでは死にはしないか。
レミィの耐久力もあるけど僕の渡した装備品の効果だって発揮されている。大量の血が舞ったとはいえ、見た目ほどの傷は負っていないはず……それは違うか。戦おうにも今のレミィに魔力は残っていないから勝ち目なんて今更、無い。
「これは……勝てない……!」
「ああ、当たり前だろう。君と私には大きな差があるんだ。それを一瞬で覆すなど不可能なのは当然の理だよ。本来ならば戦う事すら無意味だというのに君は……」
そうだな、確かにその通りだ。
でも、僕はその問いに対して回答している。それはもっと根幹に当たる部分だろう。だけど、レミィは頭が良いし、僕の偏見を直に叩き込まれた分だけ意味は分かっているはずだ。
『意味が無いなら、どうして戦うんだろうな』
そこに対しての解答もレミィは出せている。
『死なないために戦っています』
でも、それは正解で不正解だ。
僕はその考えを是と認めない。だから、返した。
『いいか、レミィ。勝とうとしなければ勝つための経験なんて得られないんだよ。負けてもいい、せめて、抗ってみせろ。どうしてレミィは戦いたい』
それが頭に残っているんだろう。
だから、レミィは負けを認めないんだ。
だって、レミィの解答は───
「私はあの人と笑いたいの! 大切な人のために死にたいの! だから!」
レミィに教えた本当に最後の一手。
生命力、言わばHPを魔力へと変換させる……そんな生命のチョーカーを扱うかのような手段だが、もちろんメリットが薄いままで教えたりなんかしていない。本当の意味で死なないために戦う、本当の死とは死んだレミィすら蘇生させられる僕が助けに来れる時間を手放す事だ。
「死ぬのは怖くない! 死んでも殺す! いや! お前を殺して! 私はネームレス様と笑うの!」
「最期の足掻きか」
「私は頑張りたいの! あの方が笑って頭を撫でてくれるために! 頑張って! 頑張り続けたいの!」
残り一割だってありはしない。
それだけの生命力を魔力へと変換して杖に納められた刀へと注ぎ込んでいた。今のレミィは輪廻を使用した時とは比べ物にならないほどの倦怠感を抱いているはずだ。なのに、その表情に苦しげな想いは残っていない。
「レミィは僕には必要なんだって……そのためなら人よりも努力するなんて、人の二倍は努力しろなんて簡単なの! 今日も明日も明後日も永遠に頑張れる気力をくれる大切な師匠を! その人が笑ってくれる世界のために命を燃やすだけ!」
レミィの体が黒い闇が包み始める。
その歩幅は遅い、だけど、ギリオルは詰められない。その先にある一手が読めない中での行動は自身の首を絞める……分かっているんだ。窮鼠猫を噛むというように手負いの戦士ほど恐れるべき存在はいない、と。
「死んでも……あの人が両手を叩いて笑ってくれるのなら……それでいい!」
「何だ!? 何なんだ!?」
「私は……あの人のために死にたいから……!」
小環と大環が布都御魂へと溶け込んでいく。
分かっている……少しでもオリジナルに近付けるために守りを捨てたんだろ。裏も何も無い今の状態を恐れてくれている間に最高の一撃を与えるための準備を整えているんだ。
「死ぬのは怖くない! あの人が笑顔を見せてくれるのなら死んだっていい!」
「馬鹿なのか! 死んだら!」
「うるさい! あの人に……忘れられるのは死んでも嫌なんだ……!」
それはきっとレミィの過去のせいだろう。
別にカイリのような劣悪な環境に産まれたわけではない。でも、劣悪な環境では無いからこその悩みを彼女は持ち続けていた。幼い頃から勉学に磔にされていた子供の如く、彼女の本来の価値というものが蔑ろにされ続けてきたんだ。
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