第39話 賢者、高見の見物をする
「なるほど、さすがに強いみたいだ」
「その割には余裕そうですね」
「ああ、メイラが蘇生魔法を扱えるからね。とても珍しい魔法な分だけ能力も高性能なんだ。それこそ、三十分以内なら死者すらも生き返らせる事ができる」
口振りからしてデメリットは無さそうか。
だから、最初から遊撃の女を蘇生役に回らせて時間稼ぎを他に任せた……確かに良い手だ。それでも蘇生魔法って特別な魔法では無いはずなんだけどな。一応、魔力効率を高めた上で光魔法と水魔法を扱えれば出来なくは無いのだけど……まぁ、どうでもいい話か。
「それなら彼女を殺せば終わりですね」
「無駄だよ。彼女を殺したところで私の固有スキルによって同じく蘇生魔法を扱えるようになるだけ。どうしたって制限時間内に君を倒せれば元通りにできるんだ」
「制限時間がある時点で価値は薄いですけど」
そこに関してはレミィが間違っているな。
制限時間があるとしても蘇生という、言わば最強の選択肢がある以上は戦いにおいて一定以上のアドバンテージを得られる。今回のような癖の強い敵が相手でも無い限りはゾンビ戦法だって取るのも簡単だろうに……本当に相手が悪いな。
「私の神であれば消滅する前の魂を捕らえ、時間制限に囚われず蘇生を行えるでしょう。確かに蘇生魔法自体は価値があるのでしょうが所詮、扱うのは常人。大した意味もありません」
「それは……本当の神なんだろう。そこまで出来る人が本当にいるのなら、それは伝説上で語られる勇者くらいだ」
「ええ、我が神は……いえ、無駄話は時間の浪費にしかなりませんね。貴方も短い蘇生時間を奪われるのは嫌でしょう。だって」
ニヤリとレミィは嫌な笑みを浮かべた。
僕をよいしょするのは嬉しいよ。だけど、どこまでいっても僕の凄さは常人が何十年と鍛錬を重ねた結果でしかない。本物の化け物を知っている以上は神だ何だと言われてもむず痒さしか感じない。まぁ、今の僕はただの常人では無いだろうけど。
ただ、さすがに時間制限抜きで蘇生は無理だ。
ある程度の抜け道があるというだけで、いついかなる時でも自身の叶えたい結果を導き出せるという訳では無い。まぁ、僕以外の異世界人であれば出来たかもしれないけどね。
「そこの女性は今の状況では蘇生が行えないと理解しているはずですから」
「……そうなのか?」
「ええ……魔力を注ごうとすると弾かれます。体が弾くというよりは普段のような操作が行えていないから弾かれていると」
「御託はいい。蘇生はできるか」
ギリオルの問いにメイラは首を横に振った。
当たり前だ、布都御魂の魔力阻害効果は勇者でさえも魔法の選択肢を捨てた程だ。……まぁ、アイツは二回目の時には既に対処していたけど。それでも一回の戦いで魔力操作を諦めさせられる程の効果を常人がどうにかできるわけも無い。
「まさか、私が何も考えずに釣り針に引っかかっていたとでも思っていたのですか。そうであれば貴方達は本当に頭が回っていませんね」
「ふ、言うじゃないか」
「ええ、私の知り合いなら釣り針の裏に四つは釣り針を忍ばせておりますから。単純に貴方達は見え透いた掌を翳しているだけなのですよ」
確かにカイリやケールならそうだろう。
罠の裏に罠を仕込んでおく、ただの罠だけでは踏まれなかった時のリターンが少な過ぎる。戦闘というのはどこまでいってもリスクとリターンを天秤にかける行為だ。次に行う一手がどちらに傾くか、リスクの方がデカいのならば二の手はどうするか……そこまで考えてようやく三流だろう。
「手札は多く持て、切り札は三枚は持て、切り札はただの手数でしかない……最初に教えられた戦闘の初歩です。だから、幾つもの手札は既にバラ撒いていますよ」
「……それは脅しかな」
「いえ、このような事を口にすれば少しは頭が回る相手ならば思考に邪魔が入る、そう教えて頂いたから口にしただけです。まぁ、事実かどうかは答えかねますが」
実際、幾つもの罠はバラ撒かれている。
そのうちの一つが神閃と布都御魂の組み合わせだったに過ぎない。他にも幾つかの罠が仕込まれている事は分かっているけど……切り札としては弱いかな。良くて手札を増やしている状態だろうし、神閃に対応できていない時点で今は発動するメリットも薄いんだろう。
「では、ここからは本気で行くとしましょう。有象無象相手なら兎も角として、貴方に関しては手を抜いてどうにか出来るとは思えない」
「そう言ってくれるとは助かるよ。……だけど、いいのかい。褒めたところで捕らえた後の君に対して優しく接する気は無いよ。どこまでいっても君は私の大切な仲間を殺した事には変わりは無いからね」
「ええ、私が勝つので問題ありません」
そう言ってレミィは瞳を閉じた。
あの姿を見れば僕でも流石に手は抜かないと察せられる。カイリと模擬戦で戦う時に見せる五感の全てを聴覚と魔力探知に任せる行動。まだ甘さが目立つとはいえ、レミィの魔力探知能力は人並み以上ではあるからな。
「……その見え透いた罠に引っかかってあげるよ」
「ええ……その怠慢を待っていました」
「ッ……メイラ! すぐに構えを取れ!」
一歩、前へ踏み出してすぐに声を荒らげた。
それもそうだろう。目の前にいたはずのレミィが姿を消したんだ。既にレミィはメイラの目の前にいる。この距離ならばギリオルも間に合いはしない。
対してメイラは咄嗟に魔法の展開を始めた。
なるほど、この魔力の乱れの中でも魔力を綺麗に整えられるか。ステータスの低さで馬鹿にしていたが多少は才能があったらしい。……だけど、そうやって地面に手を当てて魔力を注ぐなんて隙が大き過ぎる。
「そうしないと展開できないなんて本当に使い勝手が悪い魔法ですね。発動が遅ければ守りに魔法は転用できませんよ」
「え……?」
「本当に貴方達を見ていると私の周りにいる人達がどれだけおかしな存在なのか分かりますよ。無詠唱であり秒単位に至る前に魔法を展開する……やはり我が神の見立て通り化け物ばかりです」
うーん、合っているようで間違っているな。
昔のSランクは無詠唱であり、数秒単位で魔法を扱うなんて普通だったんだ。今の冒険者達のレベルが明確に下がっただけに過ぎない。ただギリオルだけはその括りに縛られなさそうだけど。
だからなんだろ、メイラを先に潰したのは。
二対一で戦うとなれば自身の首を絞める結果になりかねない。だからといって、先に潰そうとしてもギリオルを出し抜けるとも思えないと考えて、僕が教えた言葉を散らして思考の中に不穏さを醸し出させた。
最後の一言も煽る事で乱れを少しでも作り出そうとしているんだろう。……まぁ、効いている様子は見られないけど。さすがに同職の冒険者を襲いに来るんだ。近しい経験は何度もしているといったところか。
「君も十分な化け物だと思うけど」
「ええ、本物の化け物と戦ったところで万一の勝つ可能性はありませんが、その一つ下の化け物とは張り合っていますから」
「これは……想像以上に手を出してはいけない案件だったか……?」
そう言うが瞳から闘志は消えない。
むしろ、興奮しているのか。まぁ、SSランクともなれば命を賭けられる戦いなんて限られているだろう。強い人間ともなればより限られてくるとなれば面白く感じても不思議じゃない。
何だ、女に溺れているだけでは無いのか。
コイツは思いの外、色々と考えたうえで動いている可能性があるな。……と、僕の悪い癖だ。興味を持った人間に対してどうしても観察したいという気持ちが勝ってしまう。何度もアイツに怒られたはずなんだけどな……やはり悪癖は簡単に抜けてはくれないか。
「油断禁物」
「別にしては……ッ!?」
レミィの横振りに対してガードの体制を取ろうとした。だが、すぐに大きく後ろへ下がり、剣を振って何かを弾いた。……いや、分かっている。今のたった一度の横振りでレミィの十八番である切り札が対処されたんだ。
「な、なるほど……ギリギリで魔力の刃を作り出したか。確かに君程の魔力操作ができる人間であれば難しくは無かったね」
「……今のを躱しますか」
「こう見えて勘は鋭くてね。それに魔力が変に乱れていれば多少は察してしまうよ」
あるとすれば一瞬、斬る瞬前に乱れただけだ。
その一瞬で対策をしてくるなんてレミィが冷や汗をかいてしまうのも分かってしまう。今の攻撃はカイリやミルファでさえも初見では対処できなかった攻撃だ。瞬時で判断して適切な対応が出来るという点においては確かにランク詐欺とは言えないな。
コイツはステータス面で少し弱いところはあるが、僕の生きてきた時代でもSSランクでいられただろう。今の行動で間違いなくそうだったと思える。実際、戦闘経験の浅いレミィでは切り崩すのも難しい相手だろう。
実際問題、僕が手を貸せば倒すのも楽になるだろうけど、それをしてしまっては水を差す結果になりかねない。ましてや、レミィの目から闘志が消えた訳でも無いんだ。もう少しだけ眺めさせてもらおうかな。
最悪は……まぁ、それでもいいか。
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