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第38話 賢者、弟子を測る

「君は強いね。どうしてそんなに強いのかな」

「……有象無象に返す言葉は無い」

「あはは、無いって返してくれているじゃん。まぁ、いいや。私は『仲裁者』の二つ名を持つギリオル、一応はSSランク冒険者パーティ『邂逅春雷』のリーダーを担っている。……って、興味を持ってはくれなさそうか」


 金髪に少し大きめの瞳、身長も百八十はありそうとなると相当モテているんだろう。だけど、その割には見た目がチャラついているというか、金銀の装飾品が多過ぎて悪い意味で光り輝いている。


 だから、レミィも良い表情をしないんだろう。

 さて、ギリオルの言葉に合わせるかのように二人の男と一人の女が現れたが……それでも表情を変える事は無いか。そこら辺は僕の教えをしっかりと守っているみたいだ。まぁ、今は相手の力量を測っている途中の可能性もあるけど。


「一対四、戦いたくは無いでしょ。あの時にいたはずの男はいないようだけど……」

「何をするつもりですか」

「んー、君を連れ出す。これだけの美少女を一人にするような男に任せられはしないからね」


 なるほど、僕の存在は探知できないのか。

 とはいえ、ギリオルが言うように単純な四対一、いや、ギリオル一人だけであってもレミィに勝ち目は薄い。本音を言えば目の前の冒険者達と戦わせるとなればミルファを送り込んでいたくらいには強いと言い切れる。


 いや、カイリとケールの二人を援軍として送れば何とかはなるか。だとしても、手札を惜しんでいられる相手では無い事は確かだ。それが分かっているからレミィも表情を強ばらせたのだろう。ここはギリオルだけをレミィに任せて……。


「一人にする……されてませんよ。あの人は私の事をいつでも見守ってくれています。そして私はその温もりと寵愛に感謝を込めて生きているのです」

「ふーん……随分と毒されているんだね。大丈夫、私のもとに来れば催眠でも何でも治してみせるさ。君はただ悪い夢を見ているだけ」

「これが悪夢だというのならどれだけ甘美で私を溶けさせるものなのでしょう。……やはり、貴方達は最初から私が目的だったみたいですね」


 違った……単純に怒っているだけだ。

 あの目はカイリと喧嘩している時と全く持って同じ目だ。自分の考えや意志を認めさせたいがために少しの気も抜かずに目の前の敵を屠ろうとする獣のような目、僕が間に入るのは邪魔になるだけだな。今はただ一人の師匠として見守る事にしよう。


「誰からも寵愛を頂けない可哀想な貴方に一つ教えてあげますよ。一時の欲求に呑まれた者は大成しません。前に進もうとすればするほどに壁となる存在が多く現れますからね」

「その一時の欲求のためにのし上がったのは私だよ。だから、笑って返せる。それは当人達の才能の問題だ。誰だって様々な人から褒められ、求められ、そして幾つもの不幸を他者に与える事で自分を成り立たせられる」

「詭弁、いえ、言い訳の方が正しいですね」


 仕込み杖を腰に携える。

 本来であれば行うはずのない構え、相手の動揺を誘う気かな。確かに後衛にいる魔法使いが静かに魔力を貯めていた。会話の中で瞬時に動けるようにっていう意識の表れでもあるのだろう。


「褒められるからやる、名声のためにやる……それらには確実に限界が来ます。ここぞと言う時に少しだけ限界を超えようとする何か、それが本当に必要なものですよ」

「……つまらない説教かな」

「さぁ、どう捉えていただいても構いません。ですが、才能、指導者、努力の量……それだけでは足りないものが確かにあるのです。だから……私は誰にも負ける事はありません」


 目を閉じた……覚悟は定まったか。

 後衛は五十程度の魔法使いのみ、遊撃であろう二十代後半くらいの女と三十代前半くらいの男がいるから無策でとはいかない。だけど、少しでも時間を与えれば強化をかけられて余計に倒すのが困難になるだろう。


「今日を頑張ればいい、今日を頑張って明日を迎えればまた今日を頑張ればいい。今日を頑張り続ければいつのまにか死ぬまで頑張るに繋がる。見方の違い、でも、その違いこそが他人と自分を大きく分け隔てる理由になる」

「それが何だ。君は何を言いたい」

「お前と私が違う理由、それは今日を頑張りたいと思える理由をくれる何かがいる事! 性欲や物欲でもなんでもない! もっと面白い理由が人を強くさせてくれるの! だから!」


 一瞬、その一瞬で自身へ強化をかけた。

 魔法使いのオッサンが驚いた様子で詠唱を開始したが間に合わないだろう。かけられたとしても防御を多少は強化できるくらいか。……これなら少しだけ余裕がありそうだな。


「私の憧れを! 誇りを愚弄するな! クソ蛆虫が!」

「私をクソ蛆虫とは……手厳しいね」

「ギリオル、ここは……」

「うん、さっさと倒して他の人達も探そう。あの男が居ない今のうちに動いておいた方が楽だからね」


 そうだ、その余裕で準備を整えればいい。

 ギリオルが動く前に、その微かな意識外の隙の糸を辿っていく。僕が教えた事をしっかりと覚えているのなら放つ技は決まっている。


「結界陣」

「無詠唱……ッ!?」

「神閃、無刀」


 その一言と共に魔法使いの首が飛んだ。

 神刀『布都御魂』、僕が作った最高傑作の一つである得物だ。通常の状態では魔法攻撃を高めるだけの錫杖でしかないが神刀自身が認めた主人の意志によって形状を大きく変化させる。


 詳しく言えば先に付けられた大環と小環が周囲へと飛び散り、強固な結界を築き上げる。その中では魔力消費以外のスキルや魔法のデメリット効果を主人のみ消滅させ、結界を作り出す小環を自由に動かせられるというものだ。


 そして環の消えた布都御魂は鞘に収められた刀へと変貌し、その刃はどれだけ防御力の高い相手であろうと斬る事ができるようになる……という効果を付けたんだけど、まぁ、限度はあるかな。それでも並大抵の得物では鍔迫り合いで切り壊せるだけの切れ味ではある。


 ただ……布都御魂は直刀なんだ。

 要は僕が得意とする居合には向いていないし、その戦い方を教え込まれているレミィも本来なら扱いにくい得物ではある。それでも彼女は「師匠からの初めての贈り物なので」と使い込むようにしているんだ。だから……。




「神閃抜刀」

「は、や……!」

「ビンズ! 油断はするなよ!」

「油断していたら死んでるっての!」


 ほとんどノーモーションで居合を放てる。

 とはいえ、鞘を後ろへと引きながら刃を抜く事で出来る限り取っ掛りが無いようにしただけだ。僕が扱うような曲刀に比べれば速度が遅れてしまうし、幾つものコツを同時に熟さなければ扱う事すらできない。


「メイラはフロンの蘇生! ビンズは攻撃を避ける事だけを意識しろ! 私はメイラの護衛をする!」

『了解!』


 即時の判断としては悪くは無い。

 だけど、それはフロンとかいう魔法使いを瞬殺したレミィを遊撃の男に任せるという事だ。今の居合でさえギリギリで躱していたビンズにどうこうできるとは思えない。ましてや、今のレミィは手の内の一つを態と見せたに過ぎないからな。


「這え、蛇刃ドクヘビ

「チッ……遊ばせてはくれないか」

「素で速いな!」


 刀の一振で十体もの蛇をギリオルに向かわせてレミィ自身はビンズへ向かう。今回は神閃を行わずに距離を詰めたみたいだ。……まぁ、九割で揺さぶりだな。そして一割は相手の対応に最善手を返せるようにするためか。


 さすがのSSランクとはいえ、這いずり蘇生行動に専念しているメイラだけを狙われたら時間がかかりそうだな。それに倒しずらさに特化させるためか攻撃よりも回避行動に専念しているし。


「自分で強化を行えば?」

「ざけんな! そこまで出来たらSSランクになっているわ!」

「ふーん、才能が無いのね」

「く、そが……ッ!」


 強化が完了したレミィと一切の強化が入っていないビンズ、強化無しでもタイマンならレミィの方に分があるのに尚更だな。ただ一つだけ言えるとすれば強化が雑過ぎる。魔力操作の中で乱れが多過ぎるし効力も十全なものでは無い。


 直々に僕が教えているというのに……。

 剣術とかに関しては本人のアレンジとして受け入れられるが魔力に関しては駄目だ。もう少しだけ魔力操作の訓練時間を増やしてもいいな。代わりに素振りを減らす、だと、怠け始めそうだから他で代替しないと……。




「ッ……!?」

「何だよ!」

「嫌な予感がしただけ!」


 とはいえ、打ち合いとなっている今、魔力操作に関しては目を瞑ろう。いや、後々でオハナシはするつもりだけど今はいい。斬って突いて、とイニシアティブをレミィが持っている時点で倒すのは時間の問題だからな。


「神閃」

「あ……!」


 打ち合いの最中にスキルを発動する。

 うん、ここら辺は教えが生きているみたいだ。守りに入った敵は目の前に映る景色に意識が割かれてしまう。その中で切り札を放てば成功確率は一気に跳ね上がる。……でもなぁ、いや、それ以上は戦闘経験の浅いレミィには求め過ぎなのかもしれないなぁ。


 普通なら得物差があっても勝ち筋の薄い戦いだというのに勝っているんだ。今は愛弟子の強さを静かに褒め讃えよう。それでもようやく一歩踏め出せたに過ぎないからね。最大の敵であるギリオルとどこまで戦えるか、そこが見物だ。

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