ムエタイジム
ログアウトした俺達は学食へ向かった。旨い、旨い、と食べているうちに、皿の中身は空っぽになってしまっていた。
そして午後練。今日はボクシングの試合を申し込んだ。一成は当然のように負けたが、それもそのはず。相手は全国トップレベルの選手だからだ。
「相変わらず、強いな。どうしたらそんな強くなれんの?」
「そりゃあ、ひたすらにボクシングに向き合うってしか言いようがないな」
「そうだよなぁ、いやぁ、良い勉強になった。また今度も頼むわ」
ジャブは当たるものの、ストレートとフックを軽くかわされてしまうのだ。おまけにカウンターまで決められれば、完敗と言うよりない。
「でも、強くなってたぜ。ギリギリでかわせたから勝っただけだ」
「そうか。やっぱりシーピーが効いてるのかもな」
そう言ってお互いに笑い会う。
「シーピーで会おうぜ。もう、フレンド交換済んでんだし」
「龍、そりゃあ良い。それならムエタイが使える」
自信あり、といった表情で向き合う一成。
龍というのはボクシングをしている方のあだ名である。名前が龍太郎なので、略して龍と呼んでいる。
今日はもうリアルで過ごすことを決めた一成は、サンドバッグを相手にする。対人戦をするとき以外は、こういったこともしばしばだ。
うちの学園の方針は、スポーツで良い成績を出すか、シーピー内でお金を稼げるようになれば良いといった単純明快さがある。そのため遅刻や早退、休みに至るまでかなり自由がきくのだ。
一成は百合花に声をかける。
「今日はもう俺、早退するわ」
「りょーかい、シーピーで待つ」
「いや実は今日はもうシーピーしないつもりなんだ。すまんな」
「ありゃ、残念。とりあえず分かったよ」
このまま早退して、ジムへと向かう。日本では珍しいムエタイジムだ。
「こんにちはっす!よろしくお願いします」
「おう、よく来たな一成」
ジムの会長に挨拶される。
「ちわっす、一成君」
そう挨拶してきたのは、田中さんだった。田中さんは24歳のサラリーマンだ。
「早速だけど、スパーリングしないか?」
「良いっすよ、かなり出来上がってるんで」
二人ともヘッドギアをしてから、リングに上がる。
ゴングが鳴る。
一成のローキックが見事に決まる。田中さんのワンツーを避けてボディブロー。これがなかなか痛いようだ。顔面に膝蹴りを狙うが、田中さんが避けて空打ちとなった。上から両手で頭を押さえつけたのだが、思い切り上体を起こされてしまったのだ。
「危ない、危ない」
マウスピースをしていても、そう言っているのが伝わってくる。
今度は逆にローキックをもらってしまう。しかし覇気がない。お返しにローキックを二発与える。調子が良い。田中さんは既に片足をほんの少し引きずっていた。起死回生の一撃とばかりにハイキックを放つ田中さん。それに合わせて前に出る一成。左の肘打ちでk.O勝利をおさめた一成だった。
ジムの他の稽古生を相手にしても、圧勝してしまう。一成。高校一年生ながら、日本の未來の格闘技を担う選手だと思われている。実は中学生の時にムエタイとキックボクシングの日本チャンピョンに輝いた実績がある。
五時間ほど汗をかいた後、さあ、今日は帰って寝ようという気分になり、ジムを後にする。
「お疲れ様でした」




