セイウンと暴れ馬③
エレンに目をつけるなんて、この村の男達は目がおかしいのではないだろうか。
確かにエレンは美人だし、人当たりもよいが、それは表向きだけである。本性はただの暴力女以外の何者でもない。それは夫であるこのセイウン=アドゥールが保証する。
ところが、自分はその暴力女にほれてしまった。情けない話である。世の中は奇妙奇天烈、摩訶不思議だった。セイウンはむなしく、遠くを見つめた。
「あんた何をしてるの?」
エレンが尋ねた。
「別に……」
「おい、セイウン。なんだか分からないが、早く畑仕事をしろ。日が暮れてしまうぞ。しかしお前を見ていると、クリスト様のことを思い出す。あの人も畑仕事が下手だった」
「えっ、父さんが?」
「ああ。あの人が反乱軍を率いておられたころも、こんな風に畑を耕して食糧を確保していたよ。クリスト様は本当に畑仕事が下手だった。いつも一人だけ作業が遅かったからな。というより、あれは足手まといだったな」
信じられなかった。レストリウス王国を散々苦しめた父が、畑仕事一つ満足にこなせなかったなんておかしな話である。セイウンは、思わず笑ってしまった。
「でも、戦や調練に関しては天才だったぞ。強かった……いや、強すぎたな。真正面からぶつかって、クリスト様に勝てた奴は見たことなかった。あの人は戦をやるために生まれてきたのかもしれない」
「そうだろうな。俺の父さんはすごい奴だよ」
「感心している場合か?お前は畑仕事どころか、調練も駄目だったじゃないか」
セイウンは言葉に詰まった。ヴィドーの言う通り、セイウンはこの間、民兵の調練をした。
結果は、惨めだった。セイウンが指揮する軍は、うまく機能するどころか、ただ慌てふためくだけだった。瞬く間にヴィドーとサイスが指揮する軍に蹴散らされた。
十日間やってみたが、一緒だった。セイウンにとってショックだったのは、これだけではなかった。
エレンがためしに調練に参加してみたところ、初めてにしては上手に動かしていたのである。
サイスもヴィドーも、エレンをよくほめていた。
エレンが調練に出て以来、セイウンは調練に出なくなった。ただ畑仕事ばかりに精を出すようになった。
「いつまでも、いじけていないで調練に出ろ」
「でも……俺が出たところで、どうせこの間と同じようになってしまうよ」
「素人だから当たり前だ。うまくやれなんて、俺は言ってなかったぞ。最初は誰でも失敗するもんだ。明日は練兵場に行け」
正直に言うと、セイウンはもう行きたくなかった。調練なんてしなくても戦はできるはずである。頭を使うのも立派な戦術である。
「まさかとは思うが、頭で戦うつもりじゃないだろな?」
「そんなことないよ……」
ヴィドーに自分の考えていることを見透かされているかのような感じがしたので、びっくりした。




