セイウンと暴れ馬②
「そうだな。俺はお前の自慢の旦那だ。しっかりしないといけないな」
「その意気込みよ。そうじゃないとセイウンじゃないわ」
エレンが、セイウンの背中を叩いた。
さすがにこれは痛かった。エレンは一見すると華奢なようだが、実際は筋肉が付いているので、軽く押されるだけでもバランスを崩してしまう。今の一撃は、背骨や内臓に響きそうだった。
「何よ情けない。しっかりしなさいよ」
「勘弁してくれよ。俺の体はお前と違って、つくりが違うのだから今ので骨にひびでも入ったら、どうしてくれるのだよ」
「大丈夫よ。その時は私が看病してあげるから」
「……お世話になります」
「おい、二人とも。早く、畑を耕してくれ。さっさとしないと、日が暮れるぞ」
突然声がしたので、セイウンは振り返った。
ヴィドーだった。残党の村で、青年達を束ねている人物である。村長のサイスと副村長のガリウスから紹介してもらい、セイウンとエレンは彼の家に住まわせてもらっていた。
大きな男だった。背が低いセイウンからしてみれば、うらやましいうえに、憎い存在でもあった。
ヴィドーは、セイウンを覚えていた。どうやらセイウンの母のミリアンが忙しい時に、セイウンのお守りをしていたらしい。
ヴィドーが言うところ、赤ん坊のセイウンは、いくらあやしても泣きやまないうえ、やっと寝ついたと思った瞬間に泣き出すという具合であり、かなり性質が悪かったらしい。
何度井戸に落としてやろうと思ったことか、とヴィドーは語っていた。話を聞いていたセイウンは気まずくて、逃げ出したい気持だった。
エレンはあきれてしまい、今も昔も変わらないわね、とぽつりと呟いていた。
「まったく。このぐらいの畑を耕すこともできないのか、セイウン」
「すいません、ヴィドーさん。私がセイウンと立ち話をしていたのです」
「いいよ、エレン。あんたは女なのに、嫌な畑仕事をよくやってくれているよ。この間も厩舎の馬糞を処理してくれたし、よくできた娘さんだよ。俺の女房にも、あんたの爪の垢を煎じて飲ませたいよ」
「そんなことありません……」
エレンは頬を真っ赤に染めながら謙遜した。横にいるセイウンは、みんなだまされていると苦笑した。
この村でエレンの事を知らない者はいなかった。よく働くし、気も利くし、料理もうまい。村の人達は、エレンをすっかり気に入っていた。
しかも、とびきりの美人であるため、男達が放っておくはずがなかった。いきなり求婚者が二十人近く出た。
しかし、エレンが既婚者と知った時はみんな驚いていたし、相手がセイウンだと判明した時は男達の目に殺意が含まれていた。世の中は理不尽だ、クリスト様の息子だろうが関係ない、八つ裂きにしろなどの嫉妬絡みの批判が相次いだ。
おかげでセイウンは、外を歩きづらかった。




