セイウンと暴れ馬④
「言っておくが、お前には頭を使って戦うことは向かない。調練に慣れている俺が言うのだから本当だ」
「そんな……」
「そういうことで、調練を嫌がらずに明日は練兵場に行け」
「別に嫌がってなんか……」
「じゃあ、何が不満だ?」
ヴィドーの語気が強くなった。
まずいことをした、と思いセイウンは口を押さえた。もしも下手なことを返したら、張り倒されそうなほど、今のヴィドーは内心怒っているはずである。なんとか上手な言いわけを考えなければいけなかった。
「……う、馬だよ」
「馬だと?」
「そうだ。俺はお前達を率いて行くんだ。頭領として立派な馬がなければいけない。それなのに、この村には貧弱な馬ばかりだ」
「つまり頭領として、威厳のある馬が欲しいということか?」
「そうだ……」
「それさえ手に入れば、調練でも何でもするのだな?」
「そうだ……」
何を言っているのだ自分は、とセイウンは心中で己を罵った。これでは逆に火に油を注いでいるだけだった。張り倒される覚悟はするしかなかった。
だが、ヴィドーは格別怒る様子はなかった。腕を組んでなにやら唸っていたが、やがてどこかへと立ち去った。
「ちょっと、セイウン」
エレンだった。
「何よ、あれ!馬が欲しいなんて、どういうことよ!あんた頭がおかしいの?」
「すまん、エレン。でも、調練に出たくないんだよ。だから苦し紛れにあんなことを……」
「何よ。やっぱり出たくないんじゃない。セイウン、明日は絶対に出なさい。そうじゃないと離婚よ」
「離婚?エレン、本気で言っているのか?」
「本気よ。知っていたけど、ここまで情けない男だったとは思わなかった。離婚されたくなかったら、絶対に調練に出なさい!」
とんでもない事を宣告されてしまったので、セイウンは弱った。これはもう行くしかないだろう。うなだれたその時、馬蹄と嘶きが聞こえてきた。
振り向くと、ヴィドーが馬を一頭連れて戻って来ていた。
美しい白馬だった。
てっきり老馬かと思ったが、どうやらまだ若いようだ。
「こら、おとなしくしろ!」
ヴィドーが綱を持ちながら、悪戦苦闘していた。馬はヴィドーと一緒にいるのを嫌がっているようだった。




