佐々木の冒険
今のは一体何だったんだろう?佐々木は呆然としていた。佐々木は今起きたことをもう一度思い出していた。春彦と一緒に歩いていると、急にきらきらと光る何かが少し先の宙に現れた。それはゆっくりと地面に向かって降ってくるのがわかった。佐々木はゆっくりと降ってくる何かに向かって近づいた。両腕を伸ばして受け止める格好を取った。それは佐々木の両腕に触れるとぼんやりと形を取り出した。佐々木はそれが思ったより重いのを感じ、倒れないように重さに合わせてゆっくり膝をついて正座するような格好で受け止めた。それは佐々木の動きに合わせて重さが増していった。まるで本来の重さに戻ろうとしているかのようだった。ぼんやりとしていた輪郭は形を取り戻し、人の形をとっていく。それが完全な人の形になった時、あまりの美しさに佐々木は思わず息を呑んだ。髪は長くて真っ白だ。肌も佐々木と一緒で艶のある透き通るような白い色をしていた。顔立ちは整っており、男か女か分からなかった。
「タマ…?」
佐々木は無意識にタマの名前を呟いていた。
「タマ…なの?」
何故なのか理由は分からない。けど、佐々木の中の何かが今目の前の人物はタマなのだと告げている。すると不思議な事が起こった。今まで形を失っていた世界が変化していたのだ。海岸にいた。もちろん佐々木は海を見たことがなく、海岸も知らない。けれど今は何故がそれがそれだとわかる。まるではじめから知識を持っていたかのように。
少し先に女の子が立っている。黒い長い髪が潮風になびいて揺れている。とても綺麗な子だった。腰には刀を差していてこちらを見つめる目からは涙がつたっていた。その子の視線の先にはタマが倒れていた。身体が半分になって血と内臓を流している。女の子が片手で誰かを掴んでいる。こまちだった。佐々木は瞬時に理解した。
「タマ!タマ!起きて!」
佐々木は必死になってタマの名前を呼んだ。膝の上のタマの顔がピクリと動いた。
「タマ!」
「うっ…こ…まち…」
「タマ」
ゆっくりとタマの瞼が動いてこちらを見つめる。意識がはっきりしないのか、ボンヤリしている様子だった。
「タマ、こまちを助けて」
膝の上のタマはっとして勢いよく上体を起こした。
すると今まで佐々木の目の前にいたタマの姿が消えた。周りの景色も何もない元の場所に戻っていた。
「佐々木?大丈夫?」
佐々木は呆然としていた。タマ?人間になっていた。なんでこまちがあんな目に?
「佐々木、今の人は知り合いなんだね」
春彦が尋ねると佐々木はゆっくりと春彦を見上げてゆっくりと口を開いた。
「タマ…僕を助けてくれた猫。でも、人間になれたんだ。よかった…それにこまち。僕の友だち。二人とも僕の大切な人たち」
春彦は佐々木の顔をじっと見つめた。
「佐々木、僕も見つけたよ。大切な人。そして僕もタマを知ってる。ずっと会いたかった友だち」
佐々木は驚いた。
「えっ…!春彦もタマのお友だちなの?」
春彦の表情が少し曇ったようだった。
「うん。とっても大切な友だち」
捜していた人が同じだと分かり、心強くなるのを感じた。
「それより佐々木、少し不味い事になったみたい」
ふと周囲の空気が変わっているのを感じた。それはひんやりとして、まるで底の見えない暗い穴を見下ろすような不気味な感覚だった。いつの間にか周囲を亡者に囲まれていた。その数にゾッとした。
「今ので集まってきたんだ。さすがタマ助。それに桃…そりゃそうか」
春彦は深呼吸をした。ゾッとするような殺気を放っているのがわかった。
「佐々木、そこを絶対に動かないで。そして、出来れば僕を信じて目を瞑っていて。すぐ終わるから」
春彦が佐々木の顔に手を当てて掌をぎゅっと握った。佐々木はこんな絶望的な状況でも春彦にそうされると不思議と安心した。
「うん」
「約束だよ」
佐々木は膝を抱えて顔をうずめて目を瞑った。春彦は周囲を見渡した。
「さあ、始めようか」




