佐々木の冒険②
春彦はゆっくりと息を吐いて深呼吸をした。亡者はじっとその様子を見て動かない。ゆっくりと目を見開いた春彦の眼光はとても冷ややかで、鋭利な刃物を思わせるものだった。亡者たちがジリジリと近づいてくる。
佐々木は周囲の空気をピリピリと肌で感じていた。春彦に手を握ってもらい、彼の温もりを感じ少し落ち着いたが、周囲を亡者に囲まれているということが得体のしれない気味悪さを余計に意識させる。ふと、周りの空気が変わったような気がした。急に亡者の蠢く音や薄気味悪い息遣いが感じられなくなった。まるで分厚い壁か何かが周囲を取り囲んだかのようだった。しばらくそのような状態が続いたかと思うと、ふと周囲の空気がまた変わった。今まであった薄気味悪さが消えて空気が軽くなったような気がした。佐々木はそれでもぎゅっと両目を瞑ったまま膝を抱えて丸くなっていた。
「佐々木…」
ふいに春彦の声がしたかと思うとそっと正面から春彦にぎゅっと抱擁された。着物が汗でぐっしょりしていた。肩で息をしている春彦を佐々木はぎゅっと抱きしめて背中をさすった。
「終わったの?目、明けていい?」
春彦は佐々木の肩の上で頭をコクリと頷いた。佐々木はゆっくりと目を開けた。どんな凄惨な風景だろうとドキドキしていたが、そこには何一つ残っていなかった。あれだけいた亡者は一体どこに行ってしまったのだろう。佐々木は不思議そうに周りを見渡した。
「佐々木…少し眠りたい…」
春彦が静かにつぶやいた。
「うん、いいよ。少し休もう」
春彦は佐々木の膝の上に崩れ落ちるように寝転がった。あれだけの亡者を相手にしたのだから、相当疲労したに違いない。こんなに小さな身体に一体どれだけの力が秘められているのか、佐々木は不思議だった。春彦はあっという間に眠ってしまったのか、すうすうと静かに寝息を立て始めた。佐々木は静かに春彦の着物を脱がせてあげて汗を拭いた。気温も何もない場所で風邪をひくこともないだろうと思ったが、汗でぐっしょりなのも気が咎めた。白く艶のある綺麗な肌だったが、無数の小さい傷が至る所にあった。きっと過酷な生き方をしてきたのだろうと察しがついた。佐々木はそっと春彦の胸に耳を当ててみた。静かに、しかし力強い心臓の音が聞こえた。佐々木も少し疲れを感じ、そのまま春彦の胸に耳を当てたまま目を閉じた。春彦とタマが知り合いだったなんて。でも、なぜあんなに悲しい顔をしていたんだろう。そして、春彦の探していた人の1人があの女の子だとすると、こまちがあんな目に遭っていたのにはどのような理由があるのだろう。考えると混乱してきた。佐々木はそのまま春彦にしがみついて眠った。
どれくらい眠っていたのかは分からないが、気づくと別の場所にいて、春彦は居なくなっていた。佐々木は得体のしれない容れ物に入れられ、大人たちに見られていた。
「目が覚めたね、佐々木くん」
誰だか知らない大人が何か言っていた。




