仲良しホートン家
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夕食の時、レベッカは
「お父様、クロフォード公爵家ってよくご存知ですか?」
と訊いてみた。
「クロフォード公爵か、ああ、知っているよ。代々武勇に優れた家系で、今のクロフォード卿は軍事大臣だ。ご嫡男が数年前に魔物討伐で大怪我をしてなあ、顔に大きな傷が残ってしまってまだ独り身で跡取りがいないと嘆かれている。ご嫡男は今は戦いには出ず、領地の実務をされているんだそうだ。それがどうかしたか?」
「きょうね、ポールさんが急病で私代わりにクロフォード様のお邸の剪定に伺ったんです。お城みたいに大きなお邸で、木がいっぱいあってすっごく楽しかったの。デニスさんが私の剪定を見て、よくできてるから、これから剪定の仕事ももっとさせてやるって言ってくださって、嬉しいわ。」
「まあ、良かったわね。あなたは頑張り屋さんだから、きっと良い仕事してるんでしょう。」
とオードリーが褒めてくれた。
「ありがとう、お母様。」
「お前、ぴょーんって飛べなかったな。」
と、バーナードがにやにやしている。
「ほんとよぉ。ぴょーんって飛べたらもっとたくさんできたのに。」
レベッカはそう言いながらも笑っている。
「それでね、木のおにいさんがティモシー様の親友だって言ってね。」
「おい、ティモシー様って、あの大怪我したご嫡男か?」
と、バーナードが言った。
「そうなの。木のおにいさんがね、ティモシー様が大怪我なさって、お辛い時に、なにも慰められなかったって泣いててねえ、木のおにいさんはティモシー様が生まれた時からずっと親友なんですって。」
「そうか、見てるだけしかできないっていうのも、辛いだろうな。」
「ねー。実は朝、仕事の前にティモシー様が結婚しようとした女性がお顔を見た途端に逃げ出したとかって話を聞かされて、だから驚くなとか言われたの。でも、実際見たらそれほどでもなかったわ。」
「お前、ティモシー様に会ったのか?」
「ええ。木のおにいさんと話してたら、それが聞こえてティモシー様とお話してね、お話してるうちに『私の顔は怖いか?』って見せられたの。でも、怖いなんてこともなかったわ。まあ、大きな傷があるなあとは思ったけど、でも、あの程度なら逃げ出すほどじゃなかったわよ。傷なんかなくても逃げ出したくなるような顔の人なんていっぱいいるじゃないねえ。」
「あっはははは、お前、ひでーな、それ。」
「それでね、怖いかって訊かれて、それほどでもないなあって思って、なんでそんなこと訊くのかしらって思ったから『ティモシー様は怖い人なんですか?』って訊いたら、なんだかすごく笑われちゃった。」
「出たよ。毎度おなじみ、お前のとんちんかん。」
バーナードが笑っている。
「でもまあ、ティモシー様は怖い人でもなかったし、傷もたいしたことなかったってことで、丸く収まったわ。」
「よかったな。もし俺だったら、やっぱり顔に大きな傷ができて、それで誰も嫁に来てくれなかったら落ち込むかもしれんなあ。」
バーナードがちょっとまじめに言った。
「おにいさま、もし顔に傷ができたことでアーロン様が去っていったらショックよね、やっぱり。」
「そうだな。まあでもそんなことで去っていくような奴ならこっちから願い下げだがな。」
「アーロン様は大丈夫よ。お兄様はアーロン様が顔に大きな傷ができたらどうします?」
「見損なうなよ。顔で惚れてるんじゃないぞ。」
「ふふふ、愛してるわねえ。いいなー。私もそういう人が現れないかな。」
「お前はかわいいんだから、その気になれば誰かいるさ。でも、木と喋ってるうちはどうだろうなあ。」
父が
「レベッカ、ティモシー殿に会ったのか?」
と口をはさんだ。
「はい、お会いしました。はじめは木のおにいさんと話してる時にすこし話して、そのあとお昼休みに執事の方にティモシー様がお話したいと言われてお部屋で少しお話して、そのあと剪定してるところにいらしてまたおしゃべりしました。いけませんでしたか?」
「いや、悪いということではないのだがな。ティモシー殿について訊いてる話と、レベッカからの話とずいぶん違うのでな。儂が聞いているのは、ティモシー殿はとても冷たくて神経質だと。そんなではなかったようだな?」
「私もデニスさんやお邸の方からそう伺ってたんですけどね、実際は穏やかで優しい方でした。なんだか噂が独り歩きしちゃってるんじゃないのかしら。」
「おい、お前、もしかして、ティモシー様に気に入られたんじゃないか?」
バーナードがにやにやして言った。
「大丈夫よ。結婚の当てはあるのかって訊かれた時に、そのうち出会いがあったら平民の人と結婚するだろうと言ったの。そしたら、平民と結婚したいのかって言われたから貴族は苦手だって言ったら、貴族だっていろいろいるぞって仰ってたけど、でも私は貴族の社交してないから平民と結婚することになるだろうって言ったもの。」
「あら、レベッカちゃん、それ、もしかして。」
母が焦った。
「お前、それ、気に入られてるぞ。そのうちなんか話が来るかもしれんぞ。」兄もそう言う。
「それも大丈夫よ。ラストネーム訊かれたから、言ったらどこの娘かわかっちゃうから、言わないって、言わなかったもん。」
「へーお前そんなこと言ったのか。それって拒否してんぞ。」
「し、失礼だったかしら?」
「いやー、まあ、いいんじゃねーの?」
「そ、そうよね。」
夕食後、レベッカはお菓子を焼いている。
「レベッカちゃん、いい匂いねー。」
「もう少しで焼き上がりますからお母様にもお持ちしますね。」
「ありがとう。あなたのお菓子は美味しいわ。お菓子屋さんやれるわよ。」
「ほんと?お菓子屋さんもいいな。みんなが笑顔になる仕事がいいから、お花屋さんもいいなと思ってましたけど、お菓子屋さんもいいなー。」
「将来のこと考えるのって楽しいわね。レベッカちゃんが何するか、楽しみだわ。」
レベッカは最初のお菓子がやけたので、ひとつとってオードリーに渡した。
「あっつあつの焼き立てでーす。」
「おいしいわ!」
そう言ってると、父と兄もやってきた。
「良い匂いがするぞ。」
「あら、お父様。はい、あーん。」
「うん、うまいな。レベッカの菓子は売り物になるな。どれ、もうひとつ。」
兄は何も言わず食べている。
「ちょっとお兄様、お味見はそんなにたくさん食べませんわよ。」
「あ、わりぃわりぃ。味見じゃないんだ。食ってんだよ。」
「あっははは、お兄様のそういうとこ、好きよ」
父が
「レベッカ、これ、いくつかあした包んでくれないか?秘書たちが喜ぶんだよ。」
「まあ、うれしいわ。お安い御用です。」
「おう、レベッカ、俺にもちょっとくれ。」
「はい。」
「お前の菓子、アーロンが喜ぶんだ。」
「まあ、嬉しいわ。アーロン様によろしくね。」
ホートン家は仲の良い家族だ。
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