木のおにいさん
お立ち寄りいただきありがとうございます。
レベッカはまず言われた木を見上げて、
「レベッカです。よろしくおねがいします。きれいにさせてくださいね。」
と言って、梯子をかけて登った。
「ちょっと下の方、すっきりさせましょ。」
「レベッカちゃんって言うのね。よろしくね。そうなのよ。下の方がモサモサして気持ち悪いの。バッサリやっちゃってちょうだい。」
「はい。お任せください。」
レベッカはジョキジョキ枝を落としていく。
「ああ、気持ちいいわ。」
「うふふ、よかったー。」
「ねえねえ、こっちも切ったほうがいいよー。」木の精のブランがアドバイスする。
「そうね、ちょっと遠いけど頑張るわ・・・はい。これでどう?」
「いい感じよ。あとはもうちょっと上の方かな。」
「これからまだ良い季節が続きますからてっぺんはもっと伸ばしていきましょう。それじゃもうちょっと上の方ね。」
レベッカはもう少し上に登って枝打ちをしていく。
「これでいかがでしょう?」
「うん、いい感じよ。気持ちいいわ。ありがとねー。」
「どういたしまして。とっても美人さんですよ。肥料も撒いておきますね。」
「うふふ、そうかしらー。」
「きれいきれいー」ブランも嬉しそう。
「それじゃ次のおにいさん、レベッカです。よろしくおねがいします。」
「ああ、バッサリいってくれ。」
「はい。おにいさんはちょっと下の方の枝が伸びすぎちゃってますねえ。」
「そうなんだよ。とくにそこの枝が妙に育っちまって、なんかこれじゃ人間が首でもくくりそうなくらいの枝ぶりになっちまってよ。こんなところで首くくられたら寝覚めがわりーから、ちゃっちゃと切っちゃってくれ。」
「あらいやだ。そうですね、では切りますけど、ちょっと太いのでのこぎりで切りますね。」
「ああ、頼むわ。」
レベッカはゴリゴリのこぎりで切り出した。
「あらおにいさん、ここに字が書いてあるわね。」
「そうなんだよ。俺さ、ティモシーぼっちゃんのお気に入りでさ、字を覚えて名前が書けるようになったんだって、ナイフで書いてくれたんだぜ。その時指を切っちまって血が出てえれー叱られてたけどな。でもその後もずっと親友なんだ。」
「まあ、素敵ね。いいわね、ティモシー様にはあなたという親友がいて。」
「だろ?でもよ、ぼっちゃんあんな大怪我しちまって、そのあといろいろひでーことされたりしてさ、それなのに俺、見てるだけしかできねーで、すまねーなあって思ってても、なーんにもできゃしないんだ。かわいがってもらってるのにこんなだもん、すまねーなあっていつも思ってさあ。」
木の葉が垂れてしまっている。
「歯がゆいでしょうねえ。ティモシー様のお部屋って、ここ?」
「そうさ、いつも部屋の真ん前なんだぜ。」
「それじゃあしおれちゃったらお部屋に木陰ができなくなってしまうわ。きれいに茂ってティモシー様に気分良くすごしていただきましょう。肥料、ちょっとよけいに撒くわね。」
レベッカはその木に肥料を撒いた。
「そうだな、そうだよな。俺はぼっちゃんのために、かっこいい木でいないといけねーよな。ありがとう。俺、頑張るよ。」
「応援してるよー」
「ぼくもついてるよー」
ブランが励ましているのをみて、レベッカはかわいいなあとにこにこ眺めていた。
その時、
「誰と話している?」
小さいがはっきりした声が聞こえた。
レベッカは下に誰かいるのか見たがいないので、もしかして、と部屋の窓を見たら、そこに長髪で顔を半分隠した男性が立っていた。
「あ、こんにちは。うるさかったですか。申し訳ありません。」
「いや、うるさいというわけではないが、他に誰もいないのに話し声が聞こえたので不思議に思ったんだ。」
「そうですか。この木のおにいさんと話してたんです。」
「木のおにいさん?ははは、君はおもしろいことを言うな。」
「ふふふ、この木はおにいさんなんですよ。なかなかかっこいいおにいさんです。あの、大変失礼なのですが、ティモシー様でいらっしゃいますか?」
「・・・そうだが。」
「この木のおにいさんが、自分はずっとティモシー様の親友なんだって、それなのに、ティモシー様がお辛い時になにもできずに悲しいと言ってます。」
「・・・・・・?」
「あ、私。頭がおかしいってお思いですよね?ははは、つい言っちゃいましたけど、お忘れください。」
「いや・・・君は木と話ができるのか?」
「はい、この木のおにいさんはティモシー様が字が書けるようになったときに、お名前をナイフで彫ってくださって、でもその時ナイフで指を切ってしまって血が出たってことを教えてくれました。」
「そうか・・・本当に話せるんだな。すごいな。」
「この木のおにいさんはティモシー様のことが大好きだそうですよ。これからも仲良くしてあげてくださいね。」
「ああ、そうだな。私は辛い時や悲しい時にこの木を見て、とても凛々しくそびえているのが羨ましくてなあ。元気をもらっているんだ。感謝していると伝えてくれないか。」
レベッカが木に目を移すと、木が泣いている。
「ティモシー様、木のおにいさん、泣いてます。」
ティモシーは木に向かって
「泣くなよ。これからも親友だからな。よろしくな。」
と言って、葉に触れた。
木がさわさわと葉を揺らした。
「植物は力強く生きているんだな。私もこんなところでくすぶっていてはいけないのかもしれんな。」
「ふふふ、くすぶってらっしゃるんですか?」
「さて、君にはそうは見えないか?」
「さあ、今初めてお会いしたばかりですからわかりません。お声にはとても力があるので、くすぶっているという感じはしませんけど。」
「そうか。それは嬉しいな。ありがとう。こんな体になる前は戦うのが本業だったのでな、机に向かっているだけの仕事をしていると、怠けているような気がしてなあ。」
「そんなことないでしょう?仕事はいろいろありますもの。戦わなくても領民が住みやすいようにするために頑張ることだって、ある意味戦いですわよ。」
「そうだな。ありがとう。なんだかすこし前を向いて頑張ろうという気がしてきた。」
「まあ、それはとても光栄です。木のおにいさんも喜んでますわ。」
レベッカが木の精霊に向かって
「ねえ、ブランちゃん。木のおにいさんがティモシーさまとお話できるようにしてもらえないかしら?」
「うん、いいよー。レベッカの頼みならやるよー。このひと、心がきれいだからー。」
「ありがとう!じゃあお願い。」
木がきらきらと輝いた。
木のおにいさんが
「お。お、おい、俺、話せるのか?」
と感激している。
ティモシー様は目を瞠っている。
「ティモシーさまと木のおにいさんとレベッカの間だけだよー。内緒だからねー」
「ありがとう。すごいわ!」
「ティモシーさま、木の精霊のブランちゃんがティモシー様と木のおにいさんとだけ話ができるようにしてくれました。他の木とは話せませんけど。それからこのことは人には知られないようにお願いします。ブランちゃんに頼んだら、ティモシー様は心がきれいだからいいよって、木のおにいさんとティモシー様がおしゃべりできるようにしてくれたんです。」
「おお、おお・・・そうか・・・それは有り難い。恩に着る。ブランちゃんとやら、ありがとう。」
「いいのいいのー。レベッカのおともだちだからねー。」
「ティモシー様、とうか、お気になさらないでください。」
「ありがとう。ええと・・・なんだか緊張するな。はじめまして、でもないし、なんて言おうかな。」
ティモシーが戸惑っていると、木のおにいさんは
「お、おい、俺も緊張するぜ。あのさ、主、俺に名前つけてくれないか?そのほうが話しやすいだろ?」
「ああ、そうだな、では・・・ビッグではどうか?」
「おお、ありがとな。はじめて話ができて嬉しいぜ。レベッカ、ありがとな。」
「いいえ、私ではありません。木の精霊さんのブランちゃんがティモシー様は心がきれいだから話せるようにしてあげられるって言って、してくれたんです。」
「そうか、ブラン、ありがとな。ずっと夢見てきたんだ。」
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