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19 超空の要塞

 フロンティア高校は今大会で初めてB-29を投入していた。


 数は一六機。


 対する錨桜高校は偵察機を一切出さず、戦闘機四個中隊を編成、うち二個中隊がB-29の迎撃に上がっていた。


 爆撃機として他を圧倒する性能を誇るB-29であるが、最強であっても無敵ではない。


 九トンを超える爆弾搭載量はたった一機でスコアをひっくり返せる破壊力があるが、それは投下に成功した場合であり、相手校陣地の上空に辿り着くまでは単なる重しである。


 故に全備重量時のB-29は上昇力や速力に優れるというわけではない。


 また、その巨体と重量故に機敏さに欠け編隊を組むのに時間がかかり、旋回も遅いとなれば、飛行ルートは限られる。


 更に重量軽減のため無塗装の機体はジュラルミンが太陽光を良く反射し、その巨体も相まってとても目立つ。


 錨桜の戦闘機隊が比較的短時間でB-29の編隊を捕捉したのは必然と言えた。


 試合開始から三〇分後には空中集合した紫電改一八機がB-29の正面に展開。


 紅い龍のエンブレム、紅龍隊は高度六千メートル。黄色い龍のエンブレム、電龍隊は高度七千メートルを飛行していた。


「フロンティアの選手は殆どが二年生。それに対し錨桜の紅龍隊と電龍隊は殆どが三年生。しかも中学空戦で名を馳せたエリート揃い。総飛行時間には大きな開きがあるでしょう。物議を醸しているドーピングは果たして地力の差を埋められるのか。今からその答えが見られます」

「フロンティア高校。セイバー隊とランス隊は上昇。アックス隊とカトラス隊が加速して前に出ます!」


 紅龍隊はアックス隊とカトラス隊の正面で下斜めに旋回。


 セイバー隊とランス隊は背後を取られまいと機首を上げて縦の旋回に入る。


 そこに降下してきた電龍隊が襲い掛かった。


「紫電一閃! 早くも三機のP-51を撃墜。残る五機も紫電改に背後を取られつつあります!」

「錨桜にB-29を上方から攻撃する気は無かったという事ですね。先に護衛のP-51を始末するつもりのようです」

「セイバー隊とランス隊も前面に出ます!」

「妥当な選択ですが、全機出したのはマズかったですね」

「何と! 六機の紫電改が抜け出しています! B-29に対して正面攻撃。コックピットを破壊しています!」


 六機の紫電改はそのまま編隊正面を急降下して離脱。


 それを追うようにB-29から火線が伸びる中、更に六機の紫電改が突入。やはりコックピットを狙って射撃し離脱していった。


「B-29に対して上方垂直と正面のどちらから攻撃する方が好ましいかは状況によるのですが、錨桜は正面攻撃を採用しましたね」

「一般的には上方垂直の方が効果的な印象がありますが」

「護衛無しのB-29なら間違いなくそうです。しかし今回はP-51の護衛がついていますからね」


 解説者の言っている事は多くの空戦雑誌で取り上げられている命題であるし、瑞穂空戦部でも何度か議論の俎上に載った。


 B-29に限らず重爆への攻撃は直上からの急降下が理想的である事は論を待たない。


 しかしこの秋の大会でその理想を具現化するには二つの障害がある。


 一つ目は高度六千メートル以上に累計で五分以上留まってはならないというルール。


 二つ目は護衛についているP-51Dだ。


 このうち一つ目については大きな問題ではない。


 そもそもB-29に接近する時間を最少にするための直上急降下背面攻撃であるし、B-29に対する攻撃機会などそう何度も得られるものではないからだ。


 一方P-51Dが護衛についているという状況は大きな課題であり、チームによっては直上急降下背面攻撃の実施自体が困難になってしまう。


 P-51Dはエンジンの過給機の性能が高く、高度六千メートルを超えても安定した性能を発揮する。


 それに対し紫電改は高度六千メートルを超えたあたりから大きく性能が低下する。


 ただでさえ高性能のP-51を自機の性能が低下した状態で迎え撃たなければならないというのはゾッとしない話であるし、わざわざ相手の得意な土俵に上がっているという点でも好ましい戦術ではない。


 だったらいっそ自機が十全の状態を保ち得る高度六千メートル付近で迎撃するという戦術は一つの正攻法だとレイアは思うし、解説者もそのように述べていた。


 ただし、高高度性能に優れた戦闘機を持っていないなら上方からの攻撃は諦めるべき、というのも浅慮なのだろう。


 疾風のエンジンは紫電改と同じであるが、宮本さんは性能低下を押してでも上方からの攻撃を主体とすると言っていた。


 理想的な戦術など本番前にわかるわけがない。


 戦術の細かな点を云々するよりも、自分のチームに合った戦い方をチーム全体に徹底させる事の方が部長として、指揮官として重要に違いない。


 コックピットを破壊されたB-29は墜落するか編隊から落伍し、コンバットボックスに乱れが生じる。


 しかし紫電改は無暗な追撃はかけず、紅龍隊がP-51の相手をし、その間に電龍隊は離脱してB-29から距離を取った。


 一方低空では銀河の編隊に対しP-38Lが攻撃を開始していた。


 銀河を護衛する零戦はP-38Lに上昇力と加速力で大きくの劣後しており、ダイブ&ズームを繰り返されてはなす術も無いのではないか、とレイアは思ったのだが、錨桜の零戦隊は互角かそれ以上の戦いぶりを見せていた。


 銀河編隊の飛行高度は高度一五○○メートルほど。


 P-38は上方から銀河を攻撃した後そのまま急降下を続けると海に墜落する恐れがある。


 ダイブブレーキを開けばその心配は無くなるが、減速した状態で零戦と戦うという最悪の状況となる。


 銀河を攻撃した直後に引き起こして上昇すれば空戦エネルギーの優位は維持していられるが、上昇に転じた瞬間に複数の零戦に取り囲まれるP-38が後を絶たず、性能面での優位を活かし切れずにいた。


「銀河隊の機動も素晴らしいですよ。狙われていると判断したら高度千メートル付近まで降下しています。先ほどから海に突っ込んでいるP-38はそれに気付かず急降下を続けてしまったのでしょう」

「その辺りはドーピングで補えないんですかね」

「脳神経が強化され時間がゆっくりに感じられる、との事ですが、判断能力までは強化できないのでしょう」

「迅鷹隊がハンマー隊を追い詰めつつあります。ベイオネット隊は閃鷹隊を引き離していますが、銀河からは遠ざかっています」

「迅鷹隊には元U15日本代表選手が四人います。これはこれで些か公平性に欠けますね」

「結果論ですが、P-38よりP-40の方が良かったという事はありますか?」

「いいえ。単に技量の問題。経験の差が大きいと思いますね。試合経験だけ見ても両校の選手には大きな開きがあるはずです」


 錨桜高校に中学空戦のエリートが集まるの毎年の事だが、今年の一年生は特に練度が高いと姉さんが言っていた。


 大雪の中で行われた去年の冬の大会決勝。


 試合中止になるのを待って晴れた日に仕切り直せば確実に三冠を達成できたのに、勝手に離陸を開始したトラビ空戦部を見て受けて立つという選択をした錨桜の行動を大半の解説者や評論家は好意的に評価した。


 その結果中学生からの人気にも拍車がかかり、スカウトした選手の殆どが入学する結果となったらしい。


 トラビ空戦部が存続できたのは錨桜の精神性のおかげとはいえ、新入部員の質の差は酷いものだと思う。


「試合もいよいよ大詰め。紫電隊が再度B-29の正面に展開します」

「次が最後の攻撃になるでしょう。当初は錨桜が優位に進めていましたが、その後紫電改の撃墜も相次ぎました。特にセイバー隊とランス隊の動きが良いですね」

「フロンティアは選手の大半が留学生。部長の天祇選手も二重国籍。アメリカンドリームは続くのか!?」


 ヘッドオンも辞さないP-51を紫電隊は急降下と上昇で回避し、B-29のエンジンを狙って射撃を行う。


 錨桜の陣地が近く、確実な撃墜が必要だからだろう。


 エンジンや主翼を大きく損傷したB-29はバランスを保てず編隊から落伍していく。


 B-29の編隊内に進入した六機の紫電改は旋回すると、B-29同士の隙間を縫うようにバレルロールと横滑りを繰り返し、B-29の主翼やエンジンに射撃を加える。


 その後方に四機のP-51が回り込む。


 一瞬だった。


 二機のP-51が二機の紫電改を撃墜。


 また、B-29の防護機銃に引っかかった紫電改が火を噴いて墜落していった。


「天祇選手とトイコッチ選手が悠紀羽橘花選手と藤花選手を撃墜! 更に六原選手がB-29によって撃墜されました!」

「これは、決まりましたね」

「残ったB-29は四機。爆弾投下が始まりました。凄まじい量です。スコアが、逆転、逆転しました! フロンティア高校の勝利です!」

「試合結果についてのコメントは控えます。ただ、直掩指揮を執りながら五機撃墜している天祇選手は素晴らしいと思います。実力が突出しています」

「中三の秋から高一の冬まで何故姿を消していたのか、何故フロンティアにいるのか、答えてくれないんですよね。このチームで今年優勝する。そして終わりにする。とだけ繰り返し述べています」

「言葉通り受け取るのであれば、これほどの選手が終わってしまうのはもったいないです。やり直せないものでしょうか」

「何故ドーピングするに至ったのかが不明ですからね。何とも言えません」

「試合はフロンティア高校の勝利ですが、フロンティア高校は選手へのヒーローインタビューを禁止しているため、ここからは試合の模様をダイジェストで振り返りたいと思います」


 高空連の空撮映像や各機のガンカメラ映像を映しているテレビを眺めながらレイアは思う。


 作戦自体は今立案しているもので問題ない。


 フロンティア高校の実力は想定の範囲内だ。


 アレスで素養無しと判断され、試合経験も少ない二年生選手達の技量がフォリアの力で底上げされているだけ。


 フォリアの効用で反射神経や動体視力が高くなっているため個々の攻撃能力は高いが、状況判断や中隊間で連携する能力は平凡。


 中隊指揮官が務まるような人材がいないらしい事も改めて確認できた。


 結局のところ課題はB-29を墜とし切れるかの一点だ。


 錨桜の銀河隊はかなりの機数が爆撃に成功したが、たった四機のB-29を墜とし損ねたばかりに負けた。


 勝つには、無傷のB-29を残してはならない。


 必ず殲滅する。


 レイアは改めて自らに課した使命を再確認した。

次回、レイア、商店街のゆるキャラにスカウトされる

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