18 VS剣星高校
秋の大会一回戦に瑞穂航空トラビマイスター高校は大差で勝利した。
高度二千メートル程のB-26をロート隊、ヴィオレット隊、ブラウ隊で迎撃。
直掩のYak-3は高度四千メートル程度までは驚異的な上昇力を発揮するので、A-8に乗るトラビの迎撃隊は時に高度五千メートル以上にまで退避し、それでも追ってくるYak-3がいれば返り討ちとし、自分の安全を確保したうえでB-26への攻撃を繰り返した。
一方の爆撃隊は出撃数が多いM・B・152C1とD・520からなる迎撃隊に早期に捕捉されたが、正面から攻撃を受けた後は中々追い付かれず、ヴァイス隊、ゼピア隊、グリューン隊による的確な護衛もあって、Do217は少ない損害で通天閣投法を成功させた。
その翌週の二回戦。
瑞穂航空トラビマイスター高校VS極光十字学園。
極光十字学園空戦部の特徴の一つに、レギュレーションを満たしていないが特例で公式戦での使用を認められている機体を何種類か運用している点がある。
この試合ではそのうちB18B爆撃機とJ22戦闘機が出現し、ロート隊、ヴィオレット隊、ブラウ隊が相手をする事となった。
一方のヴァイス隊、ゼピア隊、グリューン隊は迎撃に上がって来たBf109G-6と戦闘になる。
Bf109隊はパイロットの技量も高い事が一回戦の様子からわかっていたが、Bf109G-6をアグレッサー機として所持している瑞穂空戦部は対応方法を熟知しているため、終始優位に戦う事ができた。
最終的にはB18Bが上げた戦果をDo217の爆撃が凌駕し、瑞穂航空トラビマイスター高校の勝利となった。
ここまでの試合結果は予想の範囲内。
機体の修理や補充も事前の計画通りに進めれば次の準決勝も万全の状態で臨める。
問題は次の相手だ。
勝ち上がってきたのは剣星高校。
例年のイメージは、在籍する政治家や資本家の御曹司と御令嬢の多くがスポーツ空戦を学生生活の拍付け程度にしか考えていないので熱意が足りず技量が不足している。
しかし今年は違う。
士気旺盛練度十分。
ここ二週間、瑞穂空戦部は剣星空戦部と合同で対B-29の練習をしているので、互いに相手の技量はよくわかっている。
総合的な練度は剣星高校の方が上というのが樹里の見解であり、レイアも同意見だった。
中学空戦の経験も無い一年生が技量で劣るのは当然だし、D-9への慣熟も完璧とは言い難い。
Fw190A-8にはコマンドゲレートと呼ばれるエンジン自動制御装置が搭載されており操縦しやすい。
D-9のエンジンにも同様のシングルレバー式エンジン自動制御装置が搭載されているものの、コマンドゲレートほど洗練されておらず、後継機種でありながら操縦難易度は上がっている。
戦闘機の強さは乗り手次第であるため、技量や練度で明確に劣っていると作戦にもかなりの制約がかかる。
練度に加えて剣星空戦部を手強くしているのが使用機体だ。
四式戦闘機『疾風』。
剣星高校の過去十年の戦績がよろしくないので出撃ポイントも低めに設定されているが、高校空戦で使用が認められている戦闘機の中で最も強力な機体の一つだと樹里は評価していた。
尤もフォッケシリーズも一昨年までトラビ空戦部の戦績が低迷していたせいか過小評価されているきらいがあるので、剣星空戦部に言わせればお互い様かもしれないが。
「今回の試合も通天閣投法の成否が勝敗を分けると考えていますが、百式司偵による早期発見と疾風丙型の火力が合わさると、昨年決勝の様にドルニエが全滅する可能性もあると考えています。幸い明日の予報は曇りであるため、爆撃隊は迎撃機が来たら雲の中に入ってください」
土曜日のブリーフィングで樹里が言うと、爆撃隊のメンバーにざわめきが起きる。
「雲の中から急降下爆撃は無理や。敵さんが来た時都合よく下に雲があるかもわからへん。どうやって雲の広がり方を把握するんや?」
「インディゴ隊とグラナト隊が高度四千メートル付近を飛び、雲の配置を広川先輩に報告します」
「きっついやろそれ。由衣できるか?」
「わかんないけど、やるしかないよね。でも短時間でいいから雲の外に出ないと照準できないよ」
「今回の試合でもインディゴ隊とグラナト隊が二発ずつマーカーを装備、投下します。剣星側陣地の上まで雲が張っていた場合は目印としてください」
「難儀な戦いになりそうやな。まぁあてらはやるだけや」
「俺達が敵機に襲われた場合、雲の観測と逃走のどっちを優先したらいい?」
「逃げてください。追ってくる場合は限界まで引き付けてください。地上付近まで降りたら爆弾も捨てて構いません」
「わかった」
「インディゴ隊とグラナト隊は本命ではありませんが囮でもありません。投弾に成功すれば、それが決勝点になるかもしれません」
「任せて下さい! 身体張るのは慣れてるんで」
「インディゴ隊はフリーの時は爆弾を当てて欲しいわね」
ブリーフィングが終わると、瑞穂空戦部員は各々飛行機に乗り込み、関西バトルフィールドへ移動する。
そして翌日の午前十時。
両校の飛行機は層積雲が広がる秋空へと飛び立っていった。
秋の大会準決勝。
瑞穂航空トラビマイスター高校VS剣星高校。
一度雲の上に出たレイアは雲間から敵機を探す。
飛龍はDo217と違って時速六百キロメートルを超えても平然と飛び続けるうえにダイブブレーキも装備しており、急降下爆撃が可能。
雲が張っていようと高度は確保するものと予想して哨戒しているが、中々見つからない。
「ルービンフィーアより敵機発見。南東方向。百式司偵と思われる」
「ゼピア隊、追い払え」
「待て、北にも一機いるぞ」
「鈴木と中村で南、柴原と田口で北の敵機を狙え」
程なくして敵の迎撃隊が集まってくるだろう。
こちらも早く敵の爆撃隊を見つけたいが、眼下の雲は灰色で、機影が映ってもわかりそうにない。
「オーランジェアイン。敵影見えず。進路変更する」
「オーランジェツヴァイ。同じく進路変更する」
Bf109に乗って雲間を縫うように偵察飛行しているオーランジェ隊も敵を見つけられていない。
更に五分ほど飛んだところで、レイアは前方に一機の機影を発見した。
双眼鏡で覗くと、百式司偵だった。
交差した日本刀と黄色い五芒星の校籍標識。
「前方に百式司偵。高度五千。このまま見つかりに行く」
あの百式司偵が私達を発見すれば、爆撃隊へ連絡するだろう。
そして爆撃隊はこちらを避けるような進路を取るはず。
北側の雲はかなり発達しており、戦闘機が爆撃機の直掩を続けるつもりなら中には入らないだろう。
そうなると、南側だ。
レイアは百式司偵との距離が一万を切ったところで進路を南側に変更。
「百式司偵、六時方向、ついてきます」
「前方の雲に入ったらループ。降下後西側に抜ける」
ロート隊は灰色の雲に突っ込むと、その中で宙返り。
水平飛行に戻る途中で横転し、左へ旋回して雲を出た。
百式司偵は……真下か!
背面飛行から垂直降下に入ったレイアは、急降下に入ろうと横転し始めた百式司偵の主翼を吹き飛ばして撃墜した。
「来よったで。真正面から疾風。数は一二や」
「前方の雲に入る。援護お願い」
「了解。グリューン隊、正面に出るのじゃ」
「了解っす。よっしゃ行くぜ!」
「悪霊退散!」
味方の爆撃隊が敵の迎撃隊に捕捉されたらしい。
一二機とは微妙な数だ。
直掩機が多いのか、或いはJu88やF-8の迎撃に何機か回ったのだろう。
「うげっ、二番機が吹き飛んだぞ!」
「三番機もだ! どういう火力だ!?」
やはり混ざっていたか。
疾風丙型。
剣星空戦部が用意した対B-29の切り札。
機首二〇ミリ機関砲と翼内三〇ミリ機関砲は弾道と射軸が大きく異なっており同時発射しても当たりにくいが、上方ないし下方からの垂直攻撃であればその欠点を克服でき、凄まじい瞬間火力を発揮すると宮本さんが語っていた。
剣星高校もB-29に対する攻撃機動としては前上方背面垂直攻撃と同様のものを採用しており、その練習の成果がDo217に牙を剥いているのだ。
こちらも早く敵の爆撃隊を見つけなければ。
レイアが焦燥感を覚えた時、雲の向こうに機影が見えた。
それも多数。間違いない。飛龍の編隊だ。
双眼鏡を覗いてある程度敵の数を数えた後、レイアは指示を出す。
「ロートアイン。敵編隊発見。ロート隊は先行して攻撃を仕掛ける。ヴィオレット隊とブラウ隊は指定座標に向かえ」
飛龍は一機あたりの搭載量は少ないが、その分出撃ポイントが低めで数が多い。
早々に攻撃を開始しなければ手遅れになる。
ロート隊は雲の陰に回り込んで飛龍編隊へ接近し、北側から攻撃を仕掛けた。
四機の攻撃で四機の飛龍が墜落、炎上する。
護衛の疾風の対応が遅れたので、ロート隊は編隊直上で引き起こし、上昇に入った。
「下方より疾風四機。刀と星のエンブレム」
「刀星隊か!」
刀星隊。剣星高校戦闘機隊のエース小隊が冠する名前であり、現部長である朱里が率いている。
「捕捉されます!」
樹里が言うのだから間違いない。
レイアは頭を抑える事を諦め急降下に入った。
D-9の方が優れているのは、横転性、すなわち急降下に入るまでの早さと急降下耐性。
上昇力で劣っていようとも、基本的には上下の機動で攻撃と回避を行うしかない。
「背面より疾風四機」
「シザーズで躱して飛龍を狙え」
ロート隊は巧みな機動で射線を外し飛龍へ攻撃を仕掛け、そのまま編隊下方へ抜けた。
「六時方向に疾風四機。距離三百」
「緩上昇維持。MW50使用」
後ろを振り返ると刀星隊がぴったりとついて来る。
このままだと上を取られる。ジリ貧だ。揺さぶりをかけよう。
「樹里。急降下入れる?」
「ギリギリ間に合います」
「エレンと樹里は――」
「ブラウ隊到着ですねぇ!」
「ヴィオレット隊到着です!」
「ブラウ隊は私達の後ろの疾風を攻撃! ヴィオレット隊は自由攻撃」
「おら、ロート隊から離れろ!」
上方からブラウ隊による横やりが入ったため刀星隊は一斉に旋回して回避。
その間隙を突いてロート隊は上昇に転じ、飛龍編隊の方向へ進路を変える。
正面からは四機の疾風が迫っていた。
疾風が一斉に旋回を始める。
中速域での高い旋回率を活かした燕返しが狙いだろう。
「エレンと樹里はフラップ旋回」
そう言ってレイアは急降下に入った。
後方から四機の疾風が射撃してくる。
レイアとハンナは一八〇度横転し、ラダーも使って射線を外す。
エレンと樹里が二機の疾風を撃破してくれたおかげで、飛龍の編隊を攻撃する時間が確保できた。
「神よ。この炎は導きですか?」
「あははエンジン止まっちゃった」
「やりやがったですねぇ!」
「フィロとテレサはそのまま離脱! 急降下してきた飛龍を狙いなさい」
「了解です」
後方を見ると飛龍のついでに疾風を撃墜している明日香が見えた。
ヴィオレット隊なら剣星高校の三年生にも対抗可能。
問題はナタリアとエステルを撃墜しそのままこちらに向かってきている刀星隊だ。
撃墜が難しい敵機は無視するのが鉄則だが、速度で振り切るためには空戦エネルギーが必要。
ロート隊はMW50を使って上昇し、ループの頂点手前でフラップを開き旋回半径を縮めた。
降下に転じたレイアの眼前には疾風がいたが、同じく既に縦の旋回を終えており、こちらの射線に入らないよう螺旋を描いているところだった。
まずい。
急降下時の速度はD-9の方が速いため、このままだと前に押し出されて六時を取られる。
その展開は最悪なので、とりあえずシザーズを繰り返し疾風と交差するように飛ぶ。
疾風のコックピットを見ると、何やらハンドサインを送ってきている。
あれは……ダンスの振り付け!
互いに決め手を欠いている。
このまま雲に突っ込んで一旦距離を取ろうかと思った時、飛龍隊が一斉に翼を翻して急降下に入った。
飛龍隊を攻撃できるのは次が最後だ。
「雲に入って西に二〇度で降下」
ロート隊は雲の中を編隊飛行し、雲を抜けた後急降下。
飛龍隊の正面に回り込み、コックピットやエンジンを狙って攻撃を加える。
同じく急降下してきたヴィオレット隊とブラウ隊も飛龍隊へ攻撃を仕掛け、数機を撃墜。
生き残った飛龍は瑞穂側陣地の目標へ爆弾を投下していく。
「よっしゃ雲抜けた! 赤のマーカーが大目標、青が集合目標やな」
「疾風が来やがった! 北に行ったらやられる」
「翼が吹き飛んでも気合で飛ぶんや。突っ込め!」
「俺はドルニエを信じ――」
「一番機がやられた!」
今レイアにできるのは味方の爆撃でスコアが逆転する事を祈る事だけだった。
しばらくして無線から審判の音声が入る。
「試合終了! 瑞穂航空トラビマイスター高校の勝利!」
無線から部員達の歓声が聞こえてくる中、レイアは安堵して息を吐いた。
発表されたスコアは僅差であったが、レイアは満足していた。
楽しかったからだ。
何のしがらみも無い相手と純粋に技量を競い合うというのはやはり大きな喜びだ。
滑走路に着陸するとヒーローインタビューに呼ばれたので、いつもの通り瑞穂航空の応援をお願いする。
格納庫に戻った後は損傷機体整備の指揮を執っていたが、午前一時前にはホテルに戻り、ロビーでテレビをつけた。
秋の大会のもう一つの準決勝。
錨桜高校VSフロンティア高校の試合が始まろうとしていた。
次回、レイア、プールへ遊びに行くも魚雷三本が命中し沈没




