11 初めての直掩
夏の大会二回戦の前日。
レイアは格納庫で作戦を説明する。
「通天閣投法の対策としてアレスは入念な索敵網を敷いてくると予想しています。直掩はロート隊、ヴァイス隊、グリューン隊。インディゴ隊は爆撃したら離脱して良し。突撃のタイミングは私が出す」
「絶対当てて見せますぜ!」
「見てて下さい姉御!」
「直掩してるから無理。迎撃はヴィオレット隊、ゼピア隊、ブラウ隊、オーランジェ隊は偵察。迎撃指揮は高科先輩です。質問のある人はいますか?」
「ロート隊は迎撃の方がええんとちゃうか? インディゴ隊ちゅう囮もおるし、ヴァイス隊とゼピア隊がいれば十分な気がするねん」
「え、囮?」
「高度六千メートルでのP-51は難敵ですので、私達が対処すべきと考えます。逆に低い高度にいるP-51はそこまで脅威ではありません。三個小隊でも対処可能と考えます」
「さよか。ちょっと気になっただけやから、気にせんといてな」
「剣星から借りてきたP-51で対策してきました。後はその成果を出すだけです」
「レイア先輩、私達自信ありますよ!」
「ロート隊が乗るP-51に一回も勝ってないのに、その自信はどこから来るんですかねー」
「んだと!? お前らだってロート隊に一度も勝ってねぇ。あとお前のギター煩せぇんだよ!」
「私達は惜しい場面がありました。レイア先輩。グリューン隊と模擬戦やらせてほしいですー」
「喧嘩すんな! あと貴方達は絶対に摸擬戦禁止。ブリーフィング終わり! 解散!」
香織に返したレイアの説明は方便。
敵の侵攻ルートがわかっているから迎撃より直掩を重視しているのだ。
試合前にアレスのメンバーに留学生が少ない事が発覚した場合の編成も樹里に考えてもらってはいるが、ここまで来たら八百長の成功に期待したい。
フィロと有紗、涼葉が事あるごとに対抗心を燃やすので、ブラウ隊とグリューン隊は直掩と迎撃に分けて配置したいのだ。
D-9とA-8という二機種混成となってしまうデメリットも織り込み済み。
二、三年生にはブラウ隊とグリューン隊の模擬戦は絶対に阻止するよう周知している。
やった場合はブラウ隊が勝利する事になるが、どちらが勝とうが致命的な不和になる。
ブラウ隊とグリューン隊の不和はレイアの悩みの種になっていた。
そして翌日の正午。
駐機場脇の巨大ビジョンに両校の使用機体とメンバー表が表示される。
アレスのメンバーには留学生が多い。八百長は成功したと見ていいだろう。
「編成を変える必要が無くて良かったわ」
「そうですね。でも『ブラックウィドウ』とは驚きです」
「ああ。P-61が十機も入ってるわね」
「アレスといえどP-51を四◯機も取られたら補充しきれないんじゃないかと思っていましたが、ブラックウィドウとは! 珍しい機体です」
「迎撃よね」
「爆装していないので迎撃でしょう。直掩する機体ではないです」
トーイングトラクターで滑走路に運ばれていくブラックウィドウの映像を見ながら樹里が答えるのを聞いたレイアは、少し歩いてブラウ隊に声をかける。
「フィロ、ナタリア、テレサ、エステル。分担して全出場者を樹里の元に集めて」
四人の返事を聞いたレイアは再度樹里に声をかける。
「これから皆が樹里のところに集まってくるから、ブラックウィドウの性能について説明しといて。私とハンナは機体の並びを確認してくるから」
「はい。わかりました」
午後一時。無線から審判の試合開始を告げる声が聞こえた。
夏の大会二回戦。
瑞穂航空トラビマイスター高校VSアレス征界大学附属高校。
よく晴れた夏空の下、レイアは攻撃隊の千メートル上空を飛んでいた。
思えば直掩任務は初めてだ。
防御力に優れる爆撃機でも護衛が不甲斐なければ大損害は免れない。
まして去年の秋の大会決勝のように攻撃隊が全滅すれば、その時点で事実上の敗北である。
勝った試合でも、自分の技量不足のせいで護衛対象が次々と堕ちていくというのは精神的に堪えるものがあるだろう。
レイアは去年の三年生達に想いを馳せる。
鹿島先輩が直掩隊を三年生だけで固めていたのは、きっとそういう理由だったのだろう。
試合開始から三◯分ほど。
視界に黒い点が見えたのでレイアが双眼鏡を覗くと、三座双胴の双発機が飛んでいた。
「二万メートル先に敵機。ブラックウィドウ一機。ヴァイス隊が迎撃。深追い禁物」
「了解」
ヴァイス隊が翼を翻すとブラックウィドウも爆撃隊から距離を取るように進路を変えたが、しばらくすると反転し接近してきた。
「ヘッドオン狙いか。乗るかんなもん」
「下方旋回。宮本と池山が左。俺と土橋は右」
ブラックウィドウが放つ四本の火線は虚しく空を切る。
「敵機ダイブ!」
「当たった! ……いや、ありゃ堕ちないな」
「遠分上がってこれまいて。撤収じゃ」
「位置は報告されたよね」
「そのうち集まってくるだろうな」
ヴァイス隊が編隊に合流する頃、敵機発見の報告が入る。
「オーランジェアイン。敵編隊発見。B-25八機。P-47一二機、P-51一二機」
「了解。ブラウ隊は北西に進路変更し私達と合流。迎撃を行う。ゼピア隊は艦隊上空まで戻り周辺警戒」
「了解」
「よっしゃ行くぜ!」
「祓って清めたるわ!」
有紗と涼葉が意気込んでいるが、オーランジェアインが最初に敵編隊を発見したのも、その北西側にゼピア隊が、更に西側にグリューン隊がいたのも偶然では無い。
敵攻撃隊のルートが予めわかっていたので、ゼピア隊とグリューン隊が合流して迎撃できる配置にしておいた。
ゼピア隊を艦隊北西側に配置したのは不自然さの低減と敵が反対側からも来た時の対応のためであるが、この事実を知っているのはロート隊だけだ。
「こっちも来ましたよ! 左からP-51四機」
「右からP-51八機だ」
「後ろからブラックウィドウ四機」
「インディゴ隊降下開始。ブラウ隊は左、ヴァイス隊は右のP-51を迎撃。妨害だけでいい。後方のブラックウィドウは私達がやる」
そう指示を出したレイアは操縦桿を引いて上昇。
ループの頂点で横転し、急降下。
ブラックウィドウとの距離を確認しつつ引き起こし、再度上昇に入る。
ブラックウィドウの機体上部には四連装機銃があるため、上方から仕掛けるのは危険。
よって下方からの突き上げを狙ったロート隊だったが、ブラックウィドウも降下しつつ増速しており照準器に入ってくる寸前だった。
レイアとハンナで一機ずつ撃墜。
残り二機はそのまま降下し、ドルニエ編隊へと接近していく。
「敵機二、向かいます!」
機体上部の四連装機銃は前を向いており、編隊最後尾のDo217へ射撃を開始した。
「よっしゃ、敵がついて来ねぇ!」
「それじゃインディゴ隊の意味が無いねん!」
「え? どういう事っすか?」
「インディゴ隊はそのまま降下、投弾、離脱!」
「姉御の言う通りに!」
ドルニエ編隊の下方に潜り込んだ二機のブラックウィドウは機体の上部の四連装機銃でDo217を攻撃。
レイアとハンナがその後方に付く寸前に上昇し、機体中央の二◯ミリ機関砲四丁でDo217の主翼を粉微塵にする。
そしてドルニエ編隊の上方に出たところをエレンと樹里に射撃され墜落。
喪服の未亡人達はその火力を見せつけた後、青空に飛散した。
「七時にP-51四機!」
レイアは後方を見てから自機の速度を確認する。
「MW50使用。上方旋回」
急降下の最中、旋回中のP-51をレイアとエレンが撃墜。
そのままドルニエ編隊の下方に出る。
「後方のP-51、離れません!」
「悪い話ではないわ。私達が堕とされなければ!」
アグレッサー機で練習したからこそわかる。
選択肢は少ない。
低高度への離脱は論外。
頭を抑えられ二度と上がってこれない。
ピッチングでも劣るため、現在の速度で上昇反転すると途中で捕捉される可能性大。
しかし全ての点でD-9が劣るわけではない。
高度五、六千メートルでの最高速度は引けを取らず、加速力は勝る。
故に背後を取る方法は存在する。
エレンと樹里の腕次第だが、仲間を信じて指示を出す。
ロート隊が瑞穂空戦部のエース小隊だ!
「エレンと樹里はシザーズでP-51を前に出して」
「わかった」
ロート隊がP-51に追われている間にも、味方機の損害は増していく。
「私はここまでです。爆撃隊に神の御加護があらんことを」
「私も被弾した。フィロとエステルは離脱して。振り切れない!」
「仕方ないですね」
「翼をやられた。まさに俎上の鯉」
「俺達から片付けようって腹か」
「ヴァイス隊は粘りなさい!」
「厳しいのう!」
「P-51オーバーシュート。四機とも減速せず!」
「ハンナ、下方旋回。エレンと樹里は後ろについて!」
下方旋回しつつ横転したレイアは時速七百キロメートルを超えたところで引き起こし、MW50を使いつつ急上昇に入る。
時折銃弾が飛んでくるが、距離が遠い事もあってか当たらない。
ドルニエ編隊の近くまで戻ったレイアはヴァイス隊後方のP-51を狙ったが、旋回によって回避される。
「爆撃隊予定地点に到達。通天閣投法開始」
「直掩隊お疲れさん! あての機体も穴だらけやけど、どうせ壊れるから気にせんといてな」
ドルニエ隊は降下を開始し、時速六百キロメートルに達した。
しかし、P-51の猛攻は終わりでは無かった。
「ルービンフィーア操舵不能」
「エンジンをやられた!」
「くそっ、僕がこんなところで!」
「ヴァイス隊とブラウ隊はP-51を牽制」
「了解じゃ」
鋭い軌道で防護機銃を躱しながらDo217を攻撃するP-51に対し、ロート隊はシザーズで交互に射撃を加え、撃墜、或いは離脱に追い込む。
相当数のDo217が撃墜されたが、残ったDo217が急降下爆撃を実施。
アレス艦隊の被害が拡大していく中、審判からの無線が入った。
「試合終了! 逆転できないスコア差であるため、瑞穂航空トラビマイスター高校の勝利!」
何とか直掩を成功させた安堵感でレイアは胸をなでおろした。
私自身が八百長している事を忘れるほど熾烈な戦いだった。
瑞穂空戦部員やマスコミに怪しまれる事は無いだろう。
それは同時に私達の技量不足を現している。
ドーピング集団が操るP-51がアレス以上に手強い場合、爆撃隊を守り切れるか。
諜報だけでなく、戦術面でも何かしら工夫が必要だ。
陽が大きく傾く頃、瑞穂空戦部は日本海バトルフィールドから飛び去っていった。
次回、レイア、東ドイツ一軍昇格の公示を見て歓喜するも夢オチ




