21 トラビの春
ゲルプ隊が滑走路に着陸して飛行機から降りると、観客席がざわついていた。
人々の視線の先にある駐機場脇の巨大ビジョンには『トラバント解散決定!』と表示されている。
「これは何?」
「私にもさっぱり」
首を傾げるレイアの隣でエレンが顔面蒼白で驚嘆する。
「トラバント解散って、ザクセンリンクが解散ってこと!? そんな、どうして? お父さん……」
気が遠くなって仰向けに倒れかけたエレンをレイアとハンナが慌てて支える。
ここで放送席から説明が入った。
「皆さん! この映像は大会とは無関係です! 今、犯人を捕まえました。試合終了後自動的に流れるよう設定していたようです。えー、試合前に用意したが、時間がなくて色々間違えてしまった、との事です! 皆さん、ザクセンリンクは解散しません! 早く映像消せやコラァ!」
「エレン、ザクセンリンクは解散しないって!」
「ほ、本当か!? やはりトラバントは不滅か?」
しかしこれで騒ぎが収まるわけではない。
寧ろ観客席の喧騒は大きくなった。
「ザクセンリンクの事じゃないなら、トラバントってなんだよ。もしかしてトラビ高校の事か!?」
「おかしいだろそれは! ライヒスリッターとの合併は来年だ!」
「じゃあ空戦部って事か?」
「もっとおかしいだろ! 錨桜に勝ったんだから存続のはずだ!」
「認めねぇぞ!」
「大阪を舐めやがって!」
「こうなったら殴り込みだ! 今からライヒスリッター学園に行くぞ! トラバントなら一じ、二時間で行ける!」
「よっしゃ行くぜおらぁ!」
応援団を先頭に観客が一斉に動き出した瞬間、アナウンスが入る。
「落ち着いてください! トラビ高校空戦部は存続です! 今ライヒスリッター学園の理事会からメールが入りました! 明日マスコミを通じて正式発表するとのこと。トラビ高校空戦部の皆さん、冬の大会優勝並びに空戦部存続決定、おめでとうございます!」
「やった〜!!」
応援団とトラビ高校空戦部員が一斉に狂喜乱舞する。
「それでは錨桜高校の到着まで、トラビマイスター高校の校歌斉唱を行います」
そしてスピーカーから校歌が流れ始めた。
ドイツ民主共和国の国歌のメロディーをそっくり流用し、歌詞だけを無難な日本語に変換した校歌。
希望の灯火、胸に掲げて
学びに励もう社会のために
豊な緑と、栄えある学舎
我らの絆で、苦難を越えん
我らが煌めく、夜明けの光よ
平和と幸あれ、我ら世界に
新たな世代は今立ち上がる
さあ若人らが、未来を拓く
諸君が社会を明るく照らす
照らせ世界を、照らせ世界を
理想を目指して、学び勤めん
熱意に溢れるトラビの学徒
気高き心と、巌の意志で
諸君が未来を明るく照らす
光なれ、光なれ
レイアは万感の思いだった。
これで来年も空戦ができる。
「レイア! これで両親に会えるね!」
「あ、そうだった」
忘れかけていた。この後姉さんがやってくる。
必ず話しかけて、連絡先を聞かなければ。
校歌を歌い終わってしばらくすると、四機の一式陸上輸送機がトラビ側の滑走路へ着陸した。
機内から出てきた錨桜の選手とトラビの選手は互いに一列になって向かい合い、礼。
そして冬の大会優勝旗が衛徒に手渡された。
それを見届けた錨桜の選手は一斉に敬礼し、一式陸上輸送機に戻っていく。
しかし今度は一糸乱れずとはいかなかった。
隊伍を乱す者がいるからだ。
咽び泣くアルマは自力で歩ける状態になく、仲間に支えられて何とか前に進んでいる。
姉さんは私の事を純粋だなどと言ったが、姉さんも人の事を言えないじゃないかとレイアは思った。
先輩方に対する敬意は、心酔に近い状態だったのではなかろうか。
レイアは一瞬躊躇ったが、やはり連絡先が欲しいので近付く事にした。
歩み寄るとアルマの嗚咽が聞こえてくる。
「先輩方が、最強なんです。私のせいでぇ」
「もう泣くな六原」
「しかし、お詫びのしようもありません」
「離陸命令を出したのは俺だ。どんな状況であれ勝てると思ったからだ。たが、敵が予想を超えた。それだけの話だ」
「私が、冷静に退避し、先輩方にお任せしていれば」
「思い上がるな。お前は勝敗を分けた要因じゃない。俺達から負けた理由を奪うな!」
「はい……すいません」
「……なんか、妹が来てるぞ」
「ええ……」
アルマ達に視線を向けられたレイアは、今だと思い話しかける。
「姉さん!」
「すまないレイア、お前にも悪いことを、しかし後にしてくれ」
「連絡先交換してください」
「今!?」
「早く欲しいんです。すぐメールします」
「いやまだ試合会場だし」
「すぐ終わるじゃないですか」
「後にしてくれ、そんな気分じゃないんだ」
「連絡先も私を堕として手に入れろと姉さんが」
「六原姉妹! 今はやめろ。引き上げだ! 六原アルマは後でトラビの控え室に連れて行く」
「わかりました。姉をよろしくお願いします」
「ああ、そういや六原妹。空戦部、無くならなくて良かったな」
「ありがとうございます」
「高校空戦、続けるんだよな」
「勿論です」
「よし。プロで待ってるぜ」
プロ選手か。
ここ一年は空戦部を存続させる事に必死で、自分の将来など碌に考えもしなかった。
しかしチームの目標を達成したならば、今度は自分の夢を見てもいいのかもしれない。
世界一のレベルにある日本のプロ空戦で選手になれるというのは非常に魅力的な話だ。
祖国東ドイツは消滅した。
故郷と呼べるトラビマイスター高校も来年消滅する。
帰る場所が無いのなら、試してみるのみだ。
私がこの国で、どこまでやれるのか。
大団円で幕を閉じた冬の大会から一週間が過ぎた。
レイアは敬愛する先輩方が引退する事の寂しさに何度か泣き、もう涙は出なくなっていた。
昨日のプロ空戦ドラフト会議にて、トラビ高校からはブルーノが三位、綾音が五位で指名され、プロ入りが決まった。
また、主力を務めた三年生達は空戦部が強い大学からスカウトされ、スポーツ推薦で進学を決めた。
プロや大学からスカウトされた人数から見ても、今年のトラビ高校空戦部が非常に強力なチームであった事は疑いようが無かった。
ドラフト指名されたブルーノと綾音のメディア対応などを手伝った翌日、トラビ空戦部員は部室に集まった。
全員揃った事を確認した衛徒が口を開く。
「このメンバーでこの部室に集まるのは今日が最後だ。相変わらず狭苦しいから、伝達事項だけ言って終わりにする。来年度人事。部長は六原レイア」
「はい。承知しました」
部長の件だけでなく、来年度の人事についてゲルプ隊は事前に聞いていた。
今の二年生に適任者がいないので後任としたいが良いかというもので、レイア達は承諾した。
「二年だが、異論のある奴はいないだろ。副部長兼整備監督、月城ハンナ」
「はい。了解です」
「各隊の整備責任者は好きに選べ。次、参謀長、西園樹里」
「はい。精一杯頑張ります」
「色んな人間に相談する事。最後は自分で決める事。どっちも大事だ。会計兼広報、湯雲エレン」
「わかりました」
「最後の一年だ。好きにやってくれ。以上、解散」
そう言って衛徒は部室から出ていった。
見られたくないものでもあったのかもしれない。
「新部長の六原です。皆さん格納庫に移動してください。記念写真、撮ります!」
偉大なる三年生達の多くが今後も様々な場所で競技空戦を続けていく。
この空戦部で過ごした一年は私にとって何事にも代え難い大切な思い出だ。
入った時はお金も部員も足りないチームだったけど、最後は最高のチームになった。
Die Division, Ruhm!
トラビ高校空戦部よ、永遠に!
次回、レイア、Fw190とかけまして無意味な質問ととく




