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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十七章 全ての元凶
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WMコール

「おっとったー、いぇんー」

「リョウジさんすみませんー。コウタ君が飽きちゃったみたいでー」

 部屋の外からコウタとアイシャの声が聞こえ、リョウジの殺気が一瞬にして霧散する。

「ああ……今行きますので、少々お待ちを」

 言いながら、振り返った背にイヴァンが声をかけた。

「おっさんよぉ……俺がいねえと帰れねえんだろ?だったら少しぐらい、手加減しろよな」

 何を勝手なことを言っているのかと、フレイルのフルスイングをぶち当てたい気分になりつつ、リョウジは無視して扉を開けた。

「とた。ありえりえ、とた」

「はいはい、抱っこかな。楽しかったかい?」

 コウタを抱き上げようとした手が、ふと止まった。

 もはや、リョウジはイヴァンに何の期待もしていない。だが、野放しにするわけにもいかない。殺してしまえば話は早いが、それだけで済ませるのも癪である。できれば、この先長い人生全てを苦痛で彩られてほしいと思っていたが、そのためにはスキルが邪魔だった。

 今のところ、『ワールドルーラー』に対抗できるのは『治外法権』だけだと思っていたが、そもそもが『ワールドマスター』の劣化である。であれば、息子の力をうまく使えば、どうにかできるのではないか。

 そして、この世界はまるでゲームのような理で動いている。一般的なMMOではサポートやゲームマスターのコールという項目があったりするが、もしやこの世界でも同じことができるのではないか。

 一番の問題は、息子と正確に意思の疎通をするということだが、これについては既にクリアしている問題である。

「……すみません、そこのガキと私を縄で繋いでもらえます?」

「え?ああ、いいけど……?」

 突然の申し出に困惑しつつも、アレスはイヴァンを縛り上げ、リョウジにその端を持たせた。

「ちょっと待ってねコウタ」

 リョウジは大きく息を吸い、口を開く。

「コール ワールドマスター」

 リョウジが言うと、不意にコウタが視線を動かし、そしてリョウジを見上げた。

「とたお?」

 リョウジの視界に、新たなウィンドウが開かれる。そこには『どのような要件ですか?』と書いてあった。

「対象……イヴァン。要件……イレース、スキル」

「え?な、何を言っているんですか?あの、リョウジさん?」

 王都の官吏が尋ねるが、リョウジはそれを無視する。

「理由か……普通に喋っていいのかな?そいつのスキルは、お前の世界を勝手に作り変える可能性がある。お前の世界で、好き勝手しようとしてる」

 リョウジが喋っている間、コウタは一点をじっと見つめていた。そして、リョウジの言葉が終わると、イヴァンに視線を移した。同時に、リョウジの視界には『対象が特殊な状態のため、行使できません。スキルを解除してください』というウィンドウが現れた。

「……逃がさないよね?」

 思わず尋ねるも、コウタに動きはない。それでも、リョウジはコウタを信じ、持っていた縄を放した。

 直後、イヴァンは自身を縛る縄を、腕力だけで引きちぎった。

「何か知らねえが、ありがとよじじい!おかげでっ……あ、あれ?」

 恐らくは転移を試みたのだろう。しかし、イヴァンの身には何も起こらず、そしてコウタが一言呟いた。

「だりん」

 その瞬間、真っ黒な光、としか言えない何かがイヴァンの体から迸った。それはまるで、スキルを得た時の光を正反対にしたような、異様な光だった。

 その光が収まると、イヴァンはその場にへたり込んだ。

「な……なんだ、今の……?体に……力が……?」

 リョウジの視界に、イヴァンのステータスウィンドウが現れた。異常な値だった数値はすべて一桁台にまで落ち込んでおり、固有スキルの欄には『NULL』という文字が書かれていた。

「……これ、オールオープンにできる?」

 そう尋ねると、コウタはちらりと何かを見、そして全員にそれが表示された。

「なっ!?なんだいきなり!?え、スキル……ぬ、ぬる?」

「い、今の黒い光は!?そ、それにこれはっ……!?一体、何が起こったんですか!?」

 その場にいた者は、見たこともない光景に騒然となった。そして当の本人であるイヴァンは、絶望の叫び声をあげた。

「あ……ああああぁぁぁ!!な、なんでだよ!?俺の、俺のスキルがあ!?何したんだ!?何したんだよぉぉ!!嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁ!!!」

 その悲鳴を聞きながら、リョウジは王都の官吏に声をかける。

「これで、スキルの脅威は去りました。もう、私は必要ありませんね?」

「あ、ええ……ですが、その、これは一体……?もしや、あなたの息子の力なのですか?」

 その言葉に、リョウジは一瞬警戒したが、官吏は穏やかに手を振った。

「ご安心を。あなたと息子のスキルに関しては、すべて聞き及んでいます。王より、全てを聞いた上でこちらに来ていますので」

「そうでしたか……ええ、まあ、言うなれば、神様にお願いを聞いてもらった、というところでしょうか。その『NULL』っていうのは……まあ、削除された状態を表してると思ってもらえれば。なので、新たにスキルを習得することはないでしょう」

 リョウジの説明に、官吏は神妙に頷いた。

「まさに、神の御業ですね……わかりました。これまでのご協力に感謝を。それで、彼に関してですが……年齢と助命嘆願とを考えると、恐らくは、無期限の炭鉱奴隷となるでしょう」

 案外軽い刑だなと思っていると、官吏は少し声を潜めた。

「このステータスを見る限り、きっと目標は一度たりとも達成できず、毎日罰を受けるでしょう。そして……このステータスと、この若さで、顔も悪くはないので、人気が出そうです……その、慰み者として……」

「……なるほど」

「さらに、死なれるとみんな困るでしょうから、本当に危険なところにはやられないでしょう……少なくとも二十年ほどは。その後に関しては……神のみぞ知る、というところでしょう」

 自分を玩具として召喚した者が、みんなの玩具になるのは皮肉だなと思いつつ、リョウジは頷いた。

「わかりました。それでは、あとはお願いします」

「ええ……リョウジさんも、その……」

 管理は一瞬言い淀み、少し重い口を開けた。

「あまり、気を落とさず……」

「……お気遣い、感謝します」

 そう言うと、リョウジはコウタを抱き上げ、階段を上り始めた。

「それじゃあコウタ、何かお昼でも食べてから……宿屋に、帰ろうか」

「おっかりー。おいや、ごきふん」

 ほんの僅かではあったが、見えていた希望は自分の手で消し去ってしまった。後悔は無いとはいえ、やはり気は重かった。

 そうして、リョウジはコウタを抱いたまま、ひどく重い足取りで去って行くのだった。

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