このクソガキが
またもや一週周空いたので二話投稿します
トリアの町に運び込まれたイヴァンは、人目のつかぬ場所に幽閉され、連日『尋問』が行われていた。
スキルが使える状況であれば、およそこの世界の人間が敵う相手ではない。しかし、そのスキルが無効化されてしまえば、ただの少年である。
最初のうちこそ、周囲の人間を威嚇する元気もあったのだが、それぞれに『尋問』を生業とする者達からの責め苦を受けると、わずか一日も経たぬうちに音を上げた。何より、殺意の全く衰えないリョウジもそれに参加しており、彼が考案する方法は他の誰よりも苛烈であった。
その日も、悲鳴の途絶えぬ地下室から、ディランとグルーガが地上へと戻ってきた。二人は大きく深呼吸をすると、ちらりと後ろを振り返る。
「しっかしまあ……恨んでるのはわかるけどよ、あれだけ痛めつけても全然殺意が萎えないって、ありゃもはや才能だぞ」
「ガッハッハ!まったくだな!それにあの『算盤責め』っつったか!?ありゃすげえな!木材三つもありゃ、誰でも簡単に作れる拷問器具の完成だ!」
「あれに正座とか、考えたくもねえ……それで悲鳴上げてるガキに対して『話す気ないみたいなんで、膝に石材置いてあげてください』だもんな」
「で?あれは技術献上するのか?」
「することになりそうだな……布と水を一緒に飲ませて引き抜くのも含めてな……あいつの世界、平和な世界だと思ってたんだが、一般人があんな拷問法知ってるほど荒んでるのか……?」
実際のところは、光よりも闇に憧れる多感な時期に、『歴史の闇』ということで色々勉強したことを有効活用しているだけなのだが、こちらの世界の人間には知る由もない。
「ところで、体に異常とかは起きてねえか?」
「ああ、全然平気だ!そりゃまあ、最初のうちは魔力が動かねえことに違和感もあったが、店に戻れば動くしな!」
リョウジは今や、スキルの範囲を自在に調整できるようになっており、現在はトリアの町の半分ほどを覆うように発動させている。これはイヴァンの逃走を防ぐためと、コウタの能力を発動させないためである。そんなわけで、リョウジが尋問に参加することは、能力的にも立場的にも必要なこととなっていた。
「意外と、魔力とスキルが無くても何とかなるもんだよな。書類仕事だけは範囲外じゃねえと無理だけどな」
「ガッハッハ!ギルドが範囲内じゃなくてよかったな!」
「それだったらマジで死んでたぞ俺は。まあ、とにかく――」
ディランは後ろを振り返り、地下の方へ同情的な視線を送った。
「あいつが、元の世界に帰れるといいんだけどな」
「ああ……そうだな」
一方の地下では、四人の男がイヴァンを囲んでいた。一人は町の衛兵であり、もう一人は冒険者ギルドの職員、そして王都から派遣された官吏に、逃走防止及び拷問担当のリョウジである。拷問担当は本来王都の官吏の仕事だったのだが、リョウジの多様な知識と一切の遠慮のなさから『もうこいつが担当でいいんじゃないか』という話になり、その大半を請け負っているのが実情である。
なお、さすがに子供の教育に悪いということで、コウタは近くで知り合いの誰かしらに遊んでもらっている。今日はアイシャが担当であり、近くの子供達と一緒に仲良く遊んでいる。
そして現在、イヴァンは尖った木材の上に正座させられており、さらにその膝には数十キロ分の石材が載せられていた。既に足の骨は折れ、それどころか断裂寸前までいっており、イヴァンは真っ赤な泡を吹いて気絶していた。
「今日はここまでにしておきましょう。これ以上は死にかねません」
事務的に告げる官吏に、リョウジは不満げな声で返した。
「まだ試してない方法も、色々あるんですけどね」
「とても興味深いのは確かですが、肉体以上に心が死んでしまうと、それこそ何も聞けなくなりますからね。ですので、一旦ここまでにしてください」
「まあ、仕方ないですね。ではスキルを止めますので、回復をお願いします」
リョウジが言うと同時に、全員の体の魔力が動くようになった。即座に衛兵がイヴァンを下ろし、ギルド職員が回復魔法を使って回復させる。それを確認すると、リョウジは再びスキルを展開した。
「う、ぐ……ぐぅ……!」
傷が消えたためか、イヴァンが呻き声をあげて目を覚ます。すると、官吏はリョウジに下がるよう手で示し、イヴァンの前にしゃがみこんだ。
「ではイヴァン、確認するぞ。お前は『世界を自由にしたい』と望んで、そのスキルを手に入れた。そして、そのスキルを使ってゼーストの町の衛兵、オウリス侯爵家の騎士など、83名を殺害した。その事実に間違いはないな?」
「ぐ、ぅ……な、何度も……そうだって、言ってる、だろ……!」
『口の利き方が悪い』と、嬉々としてサッカーボールキックを決めようとしたリョウジを何とか押し留め、官吏は再び口を開く。
「その罪を贖うとすれば、お前は死罪になるだろう。だが、心がけ次第では、死罪だけは免れることもあろう。何か、言うべきことはあるか」
官吏の言葉に、イヴァンは周囲に視線を巡らせ、リョウジに視線を止めた。
「お、おい、おっさん――」
「算盤が気に入ったのか?それとも石材か?」
「ひぃっ!?お、おじさっ……リョウジ様!あんたに、話がある!」
リョウジはこれ見よがしにフレイルを肩に担ぎつつも、顎で続きを促す。
「あんた……も、元の世界に、帰してやるよ!」
「っ……!?」
その言葉に、リョウジの表情が崩れた。
ずっと、そのために頑張ってきたのだ。いつか帰ると、どうにかして帰れると信じ、一年もの間一人で頑張ってきた。
そして、今目の前には自身をこの世界に連れて来た張本人がおり、そいつが元の世界に帰すと言っている。
「……本気で、言ってるのか?」
「あ、当たり前だろ!?これ以上、あんたに何かするわけねえだろ!?その、反省してるからっ……だから、その、許してくれよ!」
ようやく努力が実るのかと、リョウジが安堵しかけた時だった。
「おいリョウジさん、騙されるなよ。こいつの言葉は、全部嘘だ」
一緒に聞いていた衛兵は、はっきりとそう言い切った。
「なっ!?な、何を根拠に嘘ついてるっていうんだよ!?お、お前だって、スキル使えねえんだろ!?だったら、そんなのわかるわけっ……!」
「確かに、僕の『真偽鑑定』は使えない。けどね、僕はこれまで、何人も何人も、何年も何年も、嘘つき共の相手をし続けてきた。スキルで判断するなんてのは、最終手段でしかない。だからさぁ、わかるんだよねぇ」
リョウジは半分ほど忘れていたが、彼は初めてこの世界に来た時、隊長と共に聞き取りをしていたアレスという衛兵である。
「視線は泳ぐ、早口になる、取って付けたような反省の言葉……全部が全部、君の言葉が『嘘だ』って言ってる。どうせ、どっか適当な別の世界に放り込んで終わりにしようと思ってたんだろ?そうすりゃ、世界を渡る手段がないんだから、また君の天下ってわけだ」
言いながら、アレスは殺気を振りまくリョウジの腕を押さえた。
「はいはい、どぅどぅ。リョウジさん抑えて、我慢して」
「コケにしやがって、このクソガキがっ……!」
「それでも、今のところはこいつのスキルしか頼みがないのも事実だろ?さっさと殺してほしい気はするけどさ、何かの間違いで本当に帰る手段が見つかる可能性もあるし、早まらないでね」
実際のところ、イヴァンの扱いには皆、難儀していた。リョウジがいるからこそ、ただの病み上がりの少年だが、もしも彼がいなくなれば、この世界にイヴァンを止められる者はいない。ならばリョウジに始末してもらうかとなると、今度は彼の宿願である、元の世界に帰るという目的が果たせなくなる可能性が高い。
実のところ、リョウジ自身もそれには気づいていた。何度かイヴァンを殺しかけはしたが、それでもギリッギリで彼が生きていたのは、命を奪う直前で無意識に手加減をしていたからだ。
しかし、イヴァンの様子を見る限り、彼はリョウジさえいなくなれば、また好き勝手に暴れだそうとしているのだろう。ならば、いっそ本当に、この手で始末をつけるか。
そう、妙に冷えた頭で考え始めた時だった。




