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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十七章 全ての元凶
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スキルの覚醒

「勝てねえだぁ?寝言なら寝てから言いな!」

 イヴァンが腕を振るい、衝撃波が襲い掛かる。それを見ながら、リョウジはかつて出会った転生者、ノブユキの言葉を思い出していた。

「無意識の制限、ね……なんか、今ならわかるな」

 衝撃波がリョウジの体に触れた瞬間、それはまるで最初からなかったかのように消え去った。

「スキルの無効化か?けど、これならどうだぁ!?」

 イヴァンは腕を高く掲げ、振り下ろした。すると上空に大岩が現れ、リョウジ目掛けて襲い掛かる。

「おいリョウジ!それは危ねえ!避けろぉ!」

 離れて見ていたディランは、思わず叫んだ。だが、リョウジは一歩たりとも動く気配がない。

 その代わりに、リョウジは呆れたようなため息をついた。

「そんなこと、俺の世界じゃ起きるわけがないんだよ」

 そして、大岩がリョウジを押し潰す――はずだった。

 ほんのわずかに、大岩がリョウジの髪に触れた瞬間、それは最初からなかったかのように消滅してしまった。

「な、何だと!?スキル無効化なんかで、今のが防げるわけっ……だったら、ありったけ試してやるよ!」

 言葉通り、リョウジにあらゆる攻撃が襲い掛かる。

 炎、氷、投石、風。魔力、物理、スキルを問わず、多種多様な攻撃が雪崩のように降り注ぐが、その攻撃はすべてリョウジに触れた瞬間に無効化され、消滅していく。

「遠慮があったんだよ、この世界に対するさ……けど、俺等をこんな目に遭わせた張本人を前にしてさあ、遠慮なんかできるわけねえよなあ?」

 静かな、しかし燃え滾るような怒りを感じさせる声で、リョウジは続ける。

「さあて、本領発揮といこうか。なあ、『治外法権』って言葉知ってるか?」

 言いながら、リョウジは左手を前にかざした。

「俺のいる場所は……てめえの世界の法則なんぞ、通用しねえぞ」

 直後、ゼーストの町全体を不思議な力が包み込んだ。

「う、がっ!?なっ……ち、ちから、が……」

「ぐっ!?こ、これはあいつの……!?」

「おい?どりよ」

 直後、イヴァンは倒れ、ディランは膝をつきかけ、コウタは妙な感じがするらしくぼそりと否定の言葉を発する。

「そうだよ。空気にだって触れてるんだ。俺が触れてる空気に触れてるんだから、効果発揮しなきゃおかしいよなあ?」

 倒れたイヴァンに向かい、リョウジはゆっくりと歩み寄る。イヴァンは何とか動こうともがくが、全身に力が入らず、指一本すら動かすのも大変という状況だった。

 そもそもが、ほぼ一年間寝たきりだったのだ。これまで動けていたのは、この世界のステータス補正のおかげであり、なおかつそれを好きに変えられるワールドルーラーの能力あってこそである。それらがなくなった今、イヴァンは自力で動くことすらできなくなっていた。

 そんな彼の前に立つと、リョウジはフレイルを振りかざした。

「一年だ……一年だぞ!てめえのおかげで、妻は子供の成長を一年分見逃した!」

「ぐぶっ!」

 無防備なイヴァンの腹目掛けて、リョウジは全力で木球を叩き込んだ。

「俺は!てめえのせいで一人でコウタの面倒見つつ、命の危険に晒される羽目になった!」

「ごぼぉ!」

 続けざまに、脇腹にサッカーボールキックを叩き込む。その一撃で、イヴァンは血の混じった吐瀉物を撒き散らした。

「てめえが!てめえが元凶なら!ここで死ね!死んで詫びろ!このクソガキがぁ!」

 蹴りが、フレイルが、イヴァンの全身を容赦なく襲う。怒りに我を忘れたリョウジの力は凄まじく、一撃で一本以上の骨を確実にへし折っていた。

 だがそこに、ディランが慌てて駆け付けた。

「おい待てリョウジ!落ち着け!そいつはできれば生かして捕らえたい!気持ちはわかるが殺すな!」

 すると、リョウジは血走った目でディランを睨みつけた。

「俺が受けたのは討伐依頼だろうが!?殺して何が悪い!」

 以前にも、子供を殺すと口走ったゴブリンジェネラルに怒り狂った姿は見ていたが、今回はさらにその上を行っていた。下手をすると自身にも危害が及びかねない危険はあったが、ディランは続ける。

「確かにそうだ!だが、生かして捕らえられるなら、それに越したことはない!スキルの特性も調べられるし、何を思ってそのスキルを得たのかも調べられる!」

「ああそうですかい。けどな、知ったこっちゃねえよ!」

 渾身の蹴りがイヴァンにめり込み、彼の体は5メートルほど吹き飛ばされた。一体どれほどの力が出ているのかと、背筋がうすら寒くなる思いだったが、この調子ではイヴァンは程なく死ぬだろう。

 一瞬迷い、ディランは剣を抜いてリョウジに突き付けた。

「おい、そこまでにしてくれ!気持ちはわかるが、それ以上やるなら――」

「殺すか?ほらよ!」

 あろうことか、リョウジは喉元を晒し、自ら剣先に突っ込んだ。

「うおっ!?」

 思わずディランが剣を引くと、リョウジは嘲るように笑う。

「知ってます?出来ないことって、何の脅しにもならないんですよ?わかったら邪魔するな」

 完全に本気の動きだった。剣を引かなければ、確実にリョウジは死んでいただろう。

 だが、彼は剣を引くとわかっていた。だからこその本気の動きであり、ある意味では舐められているのだろう。

 ディランは一度深呼吸をすると、改めて剣を構え直した。

「……殺す必要はねえ。手足を斬ってやりゃ、動きは止められるからな」

「だったらやってみろ。言うだけならだれでもできるぞ?」

 リョウジの目は本気だった。もはや、自身をこんな目に遭わせた相手を殺すということ以外、何も考えられなくなっているのだろう。

 正直なところ、ここでイヴァンが死んでも、何も問題はない。それでも、ディランはリョウジに殺してしてほしくはなかった。

 こちらも本気でやるしかないかと、ディランが覚悟を決めかけた瞬間だった。

「おーい!そこまでにしときな!リョウジ、ディラン、どっちもだ!」

 その声に二人が振り返ると、コウタを肩車したグルーガがこちらに来るところだった。

「グルーガ!?どうしてこっちに来た!?」

「そりゃおめえ、浮揚馬車がいきなり壊れたからな!しかも、俺も魔力が一切使えねえときた!と来りゃあ、リョウジが何かやったに決まってんだろ!?だから様子を見に来たのさ!」

「んーーーーー」

 そこで、リョウジを見つけたコウタが肩の上で暴れだす。地面に下ろしてやると、コウタは一直線にリョウジに向かい、その足にしがみついた。

「とた。とった、とたぁ」

 いつもと違うリョウジの様子に不安を感じたのか、コウタはリョウジを見上げて何度も呼びかける。

「……」

 リョウジはしばらくそれを見つめていたが、やがて武器をしまい、コウタを抱き上げた。

「リョウジ!悪りぃがそいつを殺すのは待ってくれ!」

「……どういう理屈で、だ?」

 リョウジが言うと、グルーガはニカッと笑った。

「おめえ、聞いてるぞ!直接、人を殺したことは、今まで一度もねえだろ!?」

「今、殺す気になってるけどな」

「せっかく殺さねえでここまで来たんだ!せっかくなら誰も殺さねえで帰るといい!それに、殺すともったいねえぞ?」

「もったいない?」

 思わずリョウジが聞き返すと、グルーガは少し悪い笑みを浮かべた。

「ああ!これだけの大事をやらかしたんだ!おめえが殺さなくても、こいつはほぼ死刑になる!が、あえて死刑を回避してやると……どうなると思う?」

 グルーガに問いかけられ、リョウジは少しずつ平静を取り戻していく。

「……死んだほうがマシ……と、なるなら考えなくもない」

「よぉし!じゃあ生かしとけ!おめえがそんな調子じゃ、息子も怖がっちまうぜ!」

「……」

 リョウジはしがみつくコウタを、黙って撫でていた。やがて、ぽつりと口を開く。

「じゃあ、最後に一発だけ」

「え?」

 リョウジは助走をつけると、コウタを抱きかかえたままで器用に足を振り上げ、イヴァンの股間を全力で振り飛ばした。

「あぐぅがががああっぁああぁっぐっが、げば、ああああぁぁぁ!!!!」

 この世のものとは思えぬ凄まじい悲鳴と、かすかに、しかし確実に聞こえたブチンという音に、ディランとグルーガは思わず股間を押さえた。

「え……えげつねえ……!」

「どうせ、ポーションだの回復魔法だので治せますよね?そうしたらもう一回できますし、生かしておくのも悪いことではなさそうですね」

 笑顔で言い切るリョウジに、ディランとグルーガは小声で口を開く。

「なあ、もう拷……尋問はあいつに任せねえか?あいつの発想、かなりやべえぞ」

「あいつも溜飲が下がって、こっちには有益な情報が来て、お互いにとって良い案かもな。ちょっと本気で持ち掛けてみるか」

 真っ赤な泡を吹いて気絶するイヴァンに、ディランはポーションを振りかけた。しかし、傷が回復する気配はない。

「……あ、そうか。リョウジ、お前のスキルって範囲を狭めることはできるのか?」

「そうですねえ……触れた相手だけに戻そうと思えば……これでどうです?」

 リョウジの言葉を聞くまでもなく、イヴァンの傷は急速に消えていく。

「効果範囲が、意図して変えられるようになったのか……そんな風にスキルを操るなんて、聞いたことねえぞ」

「まあ『治外法権』ですからね。この世界のスキルとは、色々違う可能性もありますよ」

 ディランはイヴァンを担ぎ上げ、馬車の方へと歩き出す。が、そこでグルーガが口を開いた。

「おっと、そういや浮揚馬車は使えねえんだったな!魔石自体が完全に壊れちまったから、修理のしようもねえぞ!がっはっは!」

「そ、それはすみません……あ、じゃあこの屋敷に馬車ぐらいないですかね?緊急事態ですし、使わせてもらうのもありかと」

「それしかなさそうだな。んじゃ、帰りはのんびりになるが、普通の馬車で帰るとするか」

 三人で探した結果、裏手で馬房にいる数頭の馬と、豪華な馬車と、半分荷車の様な馬車を発見した。豪華な方は、リョウジにとって見たことのある物であり、今となっては懐かしくもある物だった。

 以前なら、イヴァンとリョウジはロープか何かで繋いでいなければならなかったが、今では別々の馬車に乗っても問題はない。そのため、荷車の方にぐるぐる巻きにしたイヴァンを放り込み、リョウジ親子が豪華な馬車に乗り、ディランとグルーガはそれぞれの御者を務めることとなった。

「それじゃ、出発するぞ。ちゃんとスキルの範囲には入ってるよな?」

「おう!問題ないぞ!」

「ではすみませんが、御者はお願いしますね」

「おうりーよ。おーりよりよ」

 そうして、彼等はトリアの町へと戻って行く。そして、前代未聞の強敵の討伐は、S級冒険者リョウジによる圧勝となり、彼の名声はまたもや上がっていくのだった。

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