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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十七章 全ての元凶
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異常な力

 浮揚馬車がゼーストの町に到着したのは、翌日の夕方だった。念のため、町から少し離れたところで降りた三人は、それぞれの持ち場へと向かう。

 依頼を受けたシラッドは領主の館へ向かい、支援要員の一人であるジェイルは隠れつつその後を付いて行く。そしてウェーバーは町には入らず、領主の丘を見られる近くの丘へと向かった。

「しっかし、おっさんも用心深いこったよな。一人討伐するのに三人寄越すとかさ」

「そんだけ、相手がやばいんじゃないかな。あと、その、俺等は何かあったら、とにかく逃げろって言われてるから、その……」

「俺を置いて逃げるってんだろ?構わねえよ、失敗しなきゃいいんだ」

 自信満々に言い切るシラッドを、ジェイルは頼もしさ半分、不安半分の気持ちで見つめていた。どうにも、嫌な予感が拭えないのだ。

 それでも、『迅影』という異名を持つS級冒険者である。そう言い切るだけの実力があることは疑いもない。

「だといいけど……こっちはこっちで警戒しとくよ」

「そうしろ。ああ、あと余裕あったら住民の避難誘導してくれ。余裕なかったら構わねえけど」

「結果次第じゃないかな……今はとにかくついてくよ」

 シラッドは悠々と町中を歩き、領主の館へと進んでいく。しかしすぐに、その表情が曇った。

「……誰もいねえな」

「みんな、例のそいつを怖がって外に出ないのかもね。魔法で俺達を見てるのが少なくとも二人はいるよ」

 ジェイルが言うと、シラッドはちょっと目を丸くして振り返った。

「え、お前魔法で見られてるのなんてわかるのか?」

「あー、スキルのおかげでさ。望遠鏡とか魔法とかで見られてるとわかるんだ。どっちも領主の館からじゃないから、そこは安心して」

「へえ……」

 気の無いように言って、シラッドは何事かをしばらく考えた後、頭を振った。

「……ダメだ。俺じゃ、あのおっさんみたいには考えつかねえや」

 その言葉に、ジェイルは小さく笑った。

「リョウジさんのことかな?あの人、魔法とかスキルとかの色んな使い方考えるよね」

「ちっ……悔しいけど、世話にはなったしな……俺もあいつのことは認めてるよ」

 いよいよ領主の館が近づいてくると、ジェイルは道を外れて近くの茂みに移動した。

「こっからは完全に別行動。あとは頼むよ」

「さっさと終わらせてやるから、帰り支度でもしときな」

 一切の気負いなく、シラッドは門を抜けて前庭へと入った。そしてすぐに、不快感に顔を歪める。

「……こりゃ、すげえもんだ」

 占領者によって行われた虐殺の様相はそのままになっており、全体に兵士の死体が転がっている。一体どれほどの衝撃を受けたのか、五体満足な死体はほとんどない。何人かはしばらく息があったようで、体を引きずったと思しき血の跡があったり、地面に判読不能な血文字が書かれたりしていた。

 血文字に興味を惹かれ、それらのいくつかを見ていると、不意に人の気配を感じた。

 咄嗟にその場を飛びのき、身構える。するといつの間にいたのか、目の前に薄笑いを浮かべた少年が立っていた。

「人んちに勝手に入ってくんなよな、ゴミの分際で」

「へぇ。お前がこれやった犯人?じゃ、話が早くて助かるわ」

 言いながら、シラッドは愛用のナイフを抜いた。しかし、イヴァンはただ薄ら笑いを浮かべているだけである。

「俺は『迅影』のシラッド。じゃあな、ガキ」

 直後、世界から音が消えた。すべてが停止した世界の中で、シラッドはイヴァンに迫り、ナイフを振り上げた。

「何も動かない……ああ、それで速いって思わせてたのかよ」

「……はあ!?」

 時が止まった世界の中で、イヴァンは普段と変わりなく動いた。

「また無効化かよっ……けど、んなのは二度目なんだよ!」

 だが、シラッドはそれに驚きつつも、即座にナイフを振り下ろす。そこに向かって、イヴァンはスッと指を出した。

「なっ……馬鹿な!?ミスリルナイフだぞこれ!?」

 振り下ろしたナイフは、イヴァンの指先で止められていた。ミスリルで作られた刃は薄皮一枚切ることもできず、何気なく出した指で完全に止められてしまっていた。

 その上で、イヴァンはその刃を人差し指と中指で挟んだ。

「で、こうやると……ポキッとな」

 軽い音を立てて、ミスリルのナイフがいとも容易くへし折られた。もはやスキルどうこうの話ではなく、完全に人間業ではない。

「お、お前っ……一体……!?」

「じゃあな、雑魚」

 イヴァンが腕を振り上げた。シラッドは咄嗟に腕を交差させて身を守り、そこに少年の拳が飛ぶ。

 バキバキと骨が折れる音を響かせつつ、シラッドの体が激しく吹き飛んだ。数十メートルも吹き飛ばされ、地面に転がったシラッドは激しく吐血した。

「がはっ!げぼっ!ご……ぐぇ……!」

「お?まだ生きてんのかよ。力は千にしてみたんだけどなあ?」

 とどめを刺そうと、イヴァンが一歩踏み出しかけた。その時、突然シラッドに誰かが覆い被さった。

 その直後、覆い被さった人間とシラッドの両方が消えていた。イヴァンは驚きに目を見開き、即座に何事かを呟くが、やがて苛立たしげに息を吐いた。

「ちっ、やれやれ……スキル無効化っつっても、俺に関係ないとこのスキルは意味なしか……魔力も追えねえし、転移か何かだったのか?ま、S級も雑魚だってわかったし、どうでもいいな」

 言いながら、イヴァンは館へと戻って行った。後には、戦いがあったなどとは微塵も思えないような静寂だけが広がっていた。


「おい、とにかくポーション!ポーション飲ませつつぶっかけろ!」

「何ですかこれ!?腕がスライムみたいにっ……な、治りますかねこれ!?」

 ゼーストの町から離れた丘の裏では、ウェーバーとジェイルが必死にシラッドを治療していた。

 腕の骨は文字通りに粉砕され、肋骨も数本やられており、内臓にもかなりのダメージが入っているようだった。

 それでも、殴られる直前に後ろに飛んでいたため、辛うじて命は落とさずに済んでいた。ディランとの特訓の成果と言えるが、あまり嬉しくない形で出た成果だった。

「いやもう、訳わからなかったんですけど!?シラッドさんも相手もいきなり転移しまくるし、気づいたら吹っ飛んでるし……!」

「俺だってなんもわかんなかったよ!とにかく今は――!」

 その時、シラッドが息も絶え絶えになりつつ、ジェイルの腕を強く掴んだ。

「スキ、ル……きか、ね……ちから…………おか、しい…………あれ、は、異……常……あ、いつ、よべ……」

「え……?シラッドさん、何だって!?」

 死にかけながらも、その瞳に強い光を灯し、シラッドははっきり言った。

「リョウ、ジ、を……呼べ……!」

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