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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十七章 全ての元凶
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動くS級

「もっと踏み込め。腕の振りは鋭く、一撃で仕留めてやるってくらいの気迫を乗せろ」

「くっ……ぜぇ……はぁ……やって、るんだよっ……!」

 トリアの町では、ここ一週間ほどギルドマスターが特訓を行っていた。

「まだ無駄が多いな。だが、つまりまだ速く振れるってことだ。ほら、どうした?今のS級の力はそんなもんか?『迅影』なんて大層な二つ名があるんだ。それに見合うだけの力を見せてみろ」

「ちっ……舐めんな、元S級が!」

 特訓を受けているのは、S級冒険者の『迅影』シラッドである。突然の彼の登場には、ギルドマスターであるディランも含め、本気で驚いたものである。そして彼から話を聞き、リョウジの名を叫んで頭を抱えたものである。

 とはいえ、シラッドは実に金払いがよかった。講習を行う分、どうしても支出が増えていたトリアの町のギルドには、彼の受講料は大変にありがたかった。

 さらに言えば、彼の依頼は『戦闘の稽古をつけてほしい。ただし周囲には知られたくない』というものだったため、ディラン直々に稽古をつけており、彼としても書類仕事の息抜きとしてちょうどいいものだった。

 若く見栄っ張りな彼は簡単な挑発に乗り、それこそ体力の底の底まで使うため、教える側としては気を遣うものの、気持ちのいい相手でもあった。そして、強くなりたいという気持ちも本物であり、文句などは言いつつも真面目に稽古をしているので、やり甲斐のある相手でもある。

「よぅし、今日はここまでだ。お前自身に実感はねえだろうが、確実に良くなってきてるぞ」

「はぁ……はぁ……足捌きだけで、全部、かわされて……はぁ……実感なんか、できるかっ……!」

 毒づきながら、シラッドは床に倒れ込んで大の字になった。全身もすっかり汗だくになっており、指一本動かすのも億劫だという有様である。

「ちくしょー……はぁ……今日こそ、手の一本くらい……はぁ……使わせてやるって、思ってたんだけどな……はぁ……」

「多少は『おっ』ていう場面もあったぞ。だがまだ、年季が違いすぎる」

「そーかよ……ぶはぁ……」

 そうしてしばらく床に倒れ、何とか起き上がれるようになると、二人は訓練場の外に出た。するとそこに、アイシャが走ってくるのが見えた。どうやら緊急の要件らしく、表情が硬い。

「マスター、緊急の要請です!」

「どうした?どっからだ?」

「ゼーストの町です!詳しいことはギルドで話しますので、急いで戻ってください!あ、シラッドさんもご一緒してください!」

「俺もか?よっぽどやべえ要件らしいな。んじゃ、急いで戻るか」

 ディランとシラッドは、アイシャの後に続いて走ってギルドへと戻る。訓練直後のシラッドには、正直かなり辛くもあったのだが、そこは生来の見栄っ張りが功を奏し、辛さなど微塵も表情には出さなかった。

 最近受付業が板についてきた男性職員のブロウを横目に見つつ、三人はマスターの部屋へと向かった。そしてディランは自身の机に、シラッドは応接用のソファに座り、アイシャはドアの前に立った。

「で、何が起きた?」

「はい、では結論から。ゼーストの町が何者かに占領されました」

 アイシャの言葉に、ディランとシラッドの表情が険しくなる。

「あそこって確か、なんちゃら侯爵が兵士出してなかったっけ?モストル子爵暗殺事件の絡みとか何とかで」

「オウリス侯爵ですね。では、順を追って説明します」

 アイシャは軽く息をつくと、手元の資料をめくった。

「まず、発端はその元モストル子爵邸を警備する兵士の一人が、アンデッドとなって冒険者ギルドに飛び込んできたことから発覚しました」

「ちょっと待てや。いきなり突っ込みどころしかないんだけど?」

 シラッドの突っ込みに、アイシャは落ち着いて答える。

「アンデッド化は、本人のスキルによるものだそうです。そして彼を殺したのは、町の子供だそうです」

「本人のスキルがそれってどういう……いや、それは今はいいか。で、町の子供?何か、特殊なスキルにでも目覚めたのか?」

 ディランの質問に、アイシャは表情を曇らせた。

「えっと、それなんですが……まず、その子はここ一年くらい昏睡状態だったそうです。ゼーストの町では、その子のお母さんが診察依頼をずっと出してたそうです。そして、起きたその子は、お母さんを殺そうとしたそうです」

「おいおい……」

 シラッドは苦笑いで、ディランは不快そうに、その報告を聞く。

「しかし、お母さんは変わったスキルを持ってまして……『死の序列』というそうですね。子供が生きている限り、絶対に死なないそうです」

「愛の重い母親だな」

「で、そのお母さんが、兵士のアンデッドに続いて冒険者ギルドに来まして、息子に殺されそうになったと。で、そのスキルなんですが……」

 そこで一拍置いて、アイシャは続きを話し出す。

「お母さんによると、何か一言言うだけで、それを叶えてたそうです。『空腹回復』とか『全身浄化』とか『心臓停止』とか」

「何だと……!?」

「さらにアンデッド兵士によると、いきなり衝撃波を起こし、手を振り上げただけで地面が隆起し、手を振り下ろせば空気に叩き落とされた、と」

 それを聞いたディランは、静かに頭を抱えた。しかしそこで、シラッドが立ち上がる。

「んじゃ、そいつを討伐すれば話は解決だな?だいぶやばそうな奴だけど、俺ならやれるだろ」

「……そうだな。だが、念には念を、だ。補助をつけるが、構わないな?ちょうど講習の一期生が何人か戻ってるんでな」

「ああ、いいぜ。あと、浮揚馬車の手配も頼む。ちゃっちゃと片付けてきてやるからさ」

「助かります。ゼーストの町からは、S級の冒険者を派遣してくれって言われてましたし、ちょうどいいです。でもほんとに、気を付けてくださいね」

 そこからの動きは早かった。シラッドは回復魔法を受けて体調を整え、ディランは書類をいくつか仕上げつつ、ギルド内にいた数人に声をかける。アイシャは今回の依頼に参加する者達の手続きを順次進めていく。

 そして、その日の夕方には浮揚馬車が到着し、シラッドの他に講習の一期生であるジェイルとウェーバーが集まった。

「そいつらは、あくまで補助要員……正確に言えば、お前が失敗した時の保険だ。ジェイル、ウェーバー、お前達はいざという時、とにかく逃げろ。逃げて情報を持ち帰れ、いいな」

「了解。よろしくな、シラッドさん」

「補助とはいえ、S級冒険者の方とご一緒できるとは光栄です。どうぞ、よろしくお願いします」

 すっかり丁寧語が染みついたウェーバーに対し、シラッドは怪訝そうな顔を向ける。

「お前……商人みてえな喋り方するな?」

「リョウジさんから、そうした方がいいと聞きまして……気に障るようでしたら、冒険者っぽく話しますが?」

「やっぱりあいつかよ……いや、まあ、いいよ。とにかく、万に一つもねえと思うけど、しくじったらお前ら頼むわ」

 言いながら、シラッドは浮揚馬車に乗り込み、ジェイルとウェーバーもそれに続く。

 コォン、コォン、コォンと三回鐘の音が鳴り、浮揚馬車が走り出す。こうして、冒険者三人を乗せた馬車は、ゼーストの町へ向かうのだった。

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