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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十六章 砦村防衛戦
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泡沫亭

「なーにーなーにーなんがりや。ごーがりがりやーがーりがり」

「なーべーなーべーそーこ抜け。そーこが抜けたらかえりましょ」

 いつもの歌うコウタに、それを正しい歌詞で歌うリョウジ。目的地が既に見えていることもあり、緊張感はほとんどない。

「しかし、あれが『砦村』ですか……本当に、何の捻りもなく名前通りなところですね」

「でしょう?あれで結構、居心地はいいところなんですよ。それに物もよく売れるので、三日ほどは滞在しようかと」

 視線の先にあるのは、高さ5メートルほどの四角い石の壁と、その中央にそびえる石造りの建物である。

 どこからどう見ても砦であるそれは、かつては本物の砦だったらしい。しかし、経緯は不明ながら廃砦となり、その頑丈さに目を付けた者がそこに住み着くようになり、やがて村となったらししい。野盗の根城にならなかったのは、幸運と言えるだろう。

 元が砦であるため、住人もそこまで多くはなく、ギルド各種も無いような村ではあるが、意外と不便は感じないという。魔物などの襲撃を受けても、門を閉めて立て籠ってしまえばやり過ごすことができるため、この世界である意味最も重要と言える、安全性については折り紙付きとのことである。

 実際に近くで見ると、その壁は実に大きく見えた。戦争に巻き込まれた時に滞在した、フォーヘイロ王国の城に比べればさすがに小さいが、それでもどっしりと重厚な威圧感のある砦である。

「やあ、商人さんと護衛の方ですか。ここには滞在を?」

 門番は気さくな壮年といった感じで、はっきり言って強そうには見えない。だが人当たりは良さそうなので、そういう意味では門番に向いているのだろう。

「ええ、三日ほどお世話になる予定です」

「それはありがたい!あとで他の者にも知らせますよ」

「それはこちらも助かります。ぜひお願いしますね」

「そんでそちらは……え、S級!?い、一体S級の冒険者様が、こんな村に何の御用で!?」

 まさか、何か大事件でも起きたのかと驚く門番に、リョウジはやんわりと否定する。

「ああいや、私はただの護衛なので……あ、ここって薬屋はありますか?」

「ええと、その、普通の薬……ですか?それならありますが……」

「よかった。であれば、あとで場所を教えてください」

 特に税金を取られることもなく、リョウジ達一行は無事に村の中へと入る。

 壁の中は、意外と普通の村、というのがリョウジの感想だった。

 後から建てたと思しき木造の建物があちこちにあり、元からあったと思われる石造りの建物は店になっているものが多い。畑は見当たらないが、壁の外にいくつかあったようなので、恐らくはすべて外にあるのだろう。

 あまり外部の者が来ないためか、店もさほど多くはなく、雑貨屋と食料品店と薬屋、そしてなぜかアクセサリーショップがあるだけのようだった。

 村の中央にそびえる建物は、普段は住民の憩いの場と化しており、半ば公民館のような使われ方をしているらしかった。覗いても構わないとのことだったので、少しリョウジもお邪魔してみたが、内部には保存食が多く保管されていた。これは万一に備え、外壁が破られてもここで籠城できるように備えられているらしかった。

 元々が砦であるため、村はやや狭いくらいであり、観光はあっという間に終わってしまった。いい加減に宿を取るかと、リョウジは商人に話を聞いてみる。

「ああ、宿屋はここの部屋を借りるか、それが嫌なら西にある宿屋しかないですね」

「ここに泊まるのも楽しそうではありますが……こっちだと部屋のみってところですか?」

「そうです。その分、ここだと銅貨8枚で泊まれます。西の宿、『泡沫亭』っていうんですが、そこは銀貨5枚かかります。ただ、食事は朝夜の二食付くのと、布団が暖かいって言われてます」

「であれば、私はそこの……泡沫亭?に行くことにします。ここだと、コウタがご迷惑かけそうですしね……」

 出発の三日後までは、リョウジも自由にしていて良いとのことだったので、この際ゆっくり羽を伸ばそうかと考えつつ、コウタを連れて泡沫亭へと向かう。

 さほど期待はしていなかったのだが、泡沫亭に着いてみると、割と小綺麗な宿屋であった。小さな村の宿屋ということで、民宿程度のものを想像していたのだが、実際は二階建ての小ぶりな建物であり、窓の外には季節の花が釣り鉢に植えられている。

 民宿というほど民家っぽくはなく、宿屋というほど整ってはいない。まさにペンションだなと思いつつ、リョウジは扉に手をかけた。

 入り口に入ってみると、小ぶりながらも受付が用意されており、そこに少女が一人立っていた。

「あ、いらっしゃいませ!お泊りですか?それともお食事ですか?」

 見た感じでは、小学生か中学生かと迷う程度の年齢に見える。しかし、ハキハキとした喋りからは、熟練の受付の風格が漂っている。

「ああ、泊りでお願いします」

「お泊りですね、かしこまりました!ご一泊でよろしいですか?」

「いえ、三泊でお願いします」

「三泊も!?あっ……すみません」

 思わず両手を打ち合わせてしまい、直後に少女は慌てて頭を下げた。恐らく、小さな村ということもあって、連泊する客は少ないのだろう。しかも、中央の建物であれば、素泊まりとはいえ激安であり、この宿は値段設定がやや高めであるため、なおさらだろう。

「いえ、喜んでもらえて何よりです」

「す、すみません本当に……。え、ええっと、お二人様です、よね?お部屋は如何いたしましょう?お二階がいいですか?それとも一階がよろしいですか?」

「ええと、この子……ちょっとその、話とかできない子で、騒いじゃうこともあるので、あまり他の人の迷惑になりにくい部屋があれば……」

「でしたら、二階の角の部屋にしますね。そこなら、他の部屋より壁も厚いですし、ベッドも二人で寝られるようになってますので」

 夫婦とか恋人同士とか、そういった人向けの部屋なんだろうなと、リョウジは頭の片隅で思った。

 リョウジに鍵を渡すと、受付の少女はコホンと咳ばらいをし、おもむろに右手を体の左側に動かし、掌をリョウジ達の方へと向けた。

「それでは……クリエイトバブル!」

 言い終えると同時に、少女は円を描くように右手を動かした。すると、掌から大小様々な泡が飛び出し、辺りを七色に彩った。

「泡沫亭へ、ようこそー!」

「えいーぁ!でぃりでぃりでぃりでぃり!!いあぁーい!!」

 とびきりの笑顔を見せる少女に、大はしゃぎするコウタ。そんな二人を前に、リョウジは笑顔のまま固まっていた。

 コウタはシャボン玉が好きだった。

 とても好きだった。

 一日中やれとせがむぐらいには好きだった。

 リョウジの内心では『素晴らしい歓迎をありがとう』という気持ちと『余計なことをしやがったな』という気持ちが激しい戦いを繰り広げていた。

「……ありがとうね」

「え、ええと……あ、はい……え、ええぇ~と……も、もっと見る……?」

「えい!あいあい!えはぃいいヴィぃー!」

 それからおよそ二時間。リョウジが強制的にコウタを部屋に回収するまで、少女は延々とシャボン玉を作り続けさせられるのだった。

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