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ワールドマスター大暴走

「くすん……とたぁ……」

「悪かったよ。頼むから、もう泣くな……」

 衛兵の三人は、泣きべそをかくコウタを連れて詰め所へと戻っていた。変わらず、スキルは何も発動できず、それどころか魔法すら使えなくなっている。

「一体何なんだ、この状況は……?あいつの、『子連れ狼』のスキルなのか?」

「そうとしか思えないな。こんなスキルがあるんなら、最古のドラゴンを倒せたのも納得だろ」

 言いながら、衛兵の一人は冒険者ギルドから共有されている名簿を確認している。

「えーと……ああ、いたいた。『ミスリルジョッキ』……?え、あんな安宿にいるのか?S級なんだし、もっと高い宿使ってるもんかと」

 高い宿は客も裕福な者が多く、安らぎを求めてその宿を選んでいる確率が高い。そうなると、コウタが大騒ぎをした時の迷惑度合いが相対的に跳ね上がるためであり、リョウジとしても苦渋の決断である。

「微妙に遠いな。だがまあ、行かん訳にもいかないし、この子を返さないといけないしなぁ」

「よし、じゃあお前の父ちゃんのところに戻るぞ。ほら、おいで」

 そう言って、衛兵の一人がコウタの腕を掴んだ時だった。

「にゃんにゃんにゃんにゃんにゃん!きぃぃぃええええぇぇぇーーー!!!」

 凄まじい金切り声と共に、石造りの詰所の屋根が消失した。

「……え?」

 衝撃も、音も、空気の動きすらなかった。しかし、見上げた先は満天の星空であり、重苦しい石の天井はどこにも無くなっていた。

「……な、何だ!?何が起きた!?しゅ、襲撃か!?」

「ああああああああ!!だぃあいあ!!きぃぃぃ!!」

 再びの叫びと共に、今度は残っていた壁までもが消え失せた。まるで最初から建物などなかったかのように、ただ調度品が地面の上に置かれた状態で、ポツンと取り残されていた。

 ちなみに彼等は与り知らぬことだが、この時まさにリョウジは部屋に戻り、深い眠りに落ちていたのだった。

「な、なんだ!?まさか、この子がやってるのか!?」

「ならすぐに止めろ!スキルは……使えるぞ!ジョッシュ!」

「ごめんな、ちょっと止めさせてもらうぞ!」

 ジョッシュと呼ばれた衛兵の体から縄が飛び出し、コウタの体に巻き付いた。

「だりっ!こあー!」

「なんっ――っ!!っっっ!?」

 直後、コウタに巻き付いた縄が十倍以上もの密度に増え、反対にジョッシュの体を頭から足の先までぐるぐる巻きに拘束した。ジョッシュは声すら出せず、縄の塊のようになって地面に転がることとなった。

「スキルを増幅して返すだと!?何なんだこの子供は!?」

「だったら魔法で!眠れ!」

「だりっ!だりっ!だりっ!」

 魔法は確かに発動したはずだったが、コウタは手で×印を何度も作り、まったく眠る気配を見せない。

「ま、魔法も効かない!?」

「くっ……やむを得ん!実力行使だ!こんな危険な子供を野放しにするわけにはいかないぞ!」

 このわずかな時間でコウタが見せた力は、あまりにも危険なものだった。それ故に、これ以上の危険が及ぶ前に排除するという衛兵の判断は、決して間違ってはいなかっただろう。

 ただしそれは、排除できるのであれば、という話である。

「こんいっく。おぅあ」

「何……ほれ」

「えっ!?おい、何をしてるんだ!?」

 剣を抜いた衛兵に向かって、コウタが手を出す。すると、衛兵は抜いたばかりの剣を、当たり前のようにコウタに手渡した。

「何をって……剣を見せてほしいらしいからな」

「いやいやいや、何言ってるんだお前!?排除するんじゃなかったのか!?」

「排除……?排除、はいじょ……排除は……だが、剣を渡す方が優先で……」

「マジかよこいつ……とんでもねえ破壊に、スキルは効かねえ魔法も効かねえ、おまけに精神汚染だとぉ!?こんなの、一体どうやって今まで隠して……!?」

 そこまで言って、つい先程まで一切のスキルと魔法が使えなかった状況を思い出した。

 あれが彼の能力であれば、この子供の能力を無効化することができる。だからこそ、今までこのスキルが表に出ることはなかったのだろう。

 つまり、この親子は、絶対に引き離してはいけない存在だったのだ。それをしてしまった今、子供に付いていた枷がなくなり、スキルが暴走しているのだろう。

 話をしようにも、一切の話が通じず、お互いの言葉も理解できていない。これをどうにかできるのは、真の意味でリョウジだけなのだと、衛兵は遅まきながらも理解した。

「やっべぇなこりゃ……!もう、さっさとこいつの父ちゃん連れてこねえと――」

「……とたん?おとたん?」

 突然、体が一切動かなくなり、衛兵は仰向けに倒れた。何事かと思う間もなく、コウタがのっそりと顔の方へ近づいてくる。

「……おとたん」

「い、いや、違う……!俺は、お前の父ちゃんじゃ……!」

「……おとたん?」

 コウタが手を伸ばし、衛兵の顎の辺りを掴んだ。

 べりべりべり、と音がして、衛兵の顔の皮が剥がれ始めた。

「う、う……うわあああぁぁぁ!?」

 驚きのためか、痛みのためか、皮を剥がされている衛兵が絶叫を上げる。不思議なことに、皮を剥がされても血は一切出ておらず、その下には既に皮膚が存在していた。

 顔の皮を剥がすと、その下から別人の顔が現れるという、コウタにとっては実に当たり前の法則である。日本で見たアニメでは、何度もそういうシーンが出てきたからだ。

 果たして、顔を剥がされた衛兵は、完全にリョウジの顔になっていた。そしてコウタを見て、口を開く。

「……あいえいお。おいえあ」

 それを見て、コウタはポツンと呟いた。

「……ばとぅん」

 ダメだった、とでも言いたげに、コウタはコピーリョウジから顔を逸らした。

 そして、まだ無事な衛兵に顔を向けた。

「……おとたん」

「や、やめろ……!」

 逃げ出そうにも、体は既に動かず、他にいるのはリョウジと化した仲間と、自身のスキルを返されて縄の塊になった仲間だけである。

 助けてくれる仲間はいない。逃げることはできない。止めることも、できない。

「やめろおおおぉぉぉ!!!」

 衛兵の絶叫が、夜の町に響き渡った。

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