347:闇龍 Ⅱ
意識を失ったアール。一体何が起きたんでしょうか?
ここはどこだろうか? 意識を失ったのはわかった。まるで闇龍の声に引っ張られるように俺は意識を失った。
そして今、目覚めると真っ白い空間に一人立っていた。何もない真っ白な空間だ。一応自分の状態を確認してみる。装備はちゃん身につけているが、武器は抜いた『天籟虚真刀:ズイカク』のみ。
「ズイカク、戯、ヴェノ。」
反応がない。ここにいる意識は俺だけのようだ。いつもなら宿っているはずのヴェノも、脳内テレパシーで話す二人の存在も感じない。
「天眼よ開け『天籟虚真刀:ズイカク』」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
反応なし。見え方も以前変わらずただ真っ白い空間だけだ。となるとだ。なにが起きたのかはなんとなく予想がつく。似たような経験をカイラとしたし。
ってことはだ。今度は闇龍の意思ってやつを探す必要があるわけか。予想だけど多分真理だろう。怨念だから直接は倒せない。だから精神世界的な空間でぶち殺せってことか。
やることが分かったら話は早い。探すとしよう。今度は何日くらいで見つけられるかな?
――――◇――――
いない。
――――◇――――
見つからない。
――――◇――――
誰にも会えない
――――◇――――
空腹や疲労感を感じないのはありがたい。けど本当に見つからないな。
――――◇――――
進んでも進んでも真っ白い空間ばかりだ。二度目でも狂いそうになるな本当に。
――――◇――――
少しさみしいと感じる。が、まだまだ歩ける。
――――◇――――
「やっぽー!」
ふざけ気味に声を出してみるが誰も返事はしてくれない。本当にいるのかどうかわからなくなってきたが、いると信じて進む他ない。
――――◇――――
どれくらいの時間が経過しただろうか? あいにくウィンドウを開いても現実時間の表示しかない。それもほぼ進んでいない。ここだけ時間加速空間なんだろう。だけど、間違いなく数十時間は歩いているはずだ。
――――◇――――
口が何かを口にした記憶を思い出し寂しくなってきた。なにか食べようとポーチに手を伸ばしたんだが、何も入っていなかった。気が付くと指をかんでいた。
――――◇――――
歩く必要ないんじゃないかと思ってきた。しかし歩けと言っている自分もいる。だからとりあえずまだ歩こう。
――――◇――――
なんで歩いているのか思い出せなくなってきた。そもそもどうして俺はここにいるんだっけ?
――――◇――――
つかれた。やすむ。
――――◇――――
ねる。おやすみ。
――――◇――――
――――◇――――
――――◇――――
――――◇――――
――――◇――――
思い出せ。俺が歩いていた理由を。俺を心配して涙を流したあの人を忘れるな。
――――◇――――
――――◇――――
目が覚めた。思い出した。歩いていた理由。ここにいる理由。止まるわけには行かない。俺の意識がここにあるってことは、向こうの俺はまだ気を失っている。
この俺が全てを忘れてしまえば皆が不安になる。泣いている姿は見たくない。
――――◇――――
途方もない道だ。そもそも道と言えるかすらわからない。でも、思い出したんだ。俺がやることを。だからもう忘れない。歩き続けるんだ。消して諦めずに進むしか俺にはできない。
――――◇――――
「・・・」
「やっと。見つけた」
幾千の時を歩いたと感じるほど進み続けた先にいたのは小さな龍。龍はまっすぐこちらを見ていた。
「初めまして。それとも久しぶりか? お前が闇龍なのか?」
「・・・」
コクンと首を縦に振る子龍。意識を失う前に見た記憶の闇龍には見えないが、本人がそうだと言っているからそうなんだろう。
「ここでお前を殺せば俺は出られるか?」
「・・・」
無表情のまま闇龍はまた首を縦に振った。そして自ら首を差し出すように頭を垂れる。それは切腹を命じられた侍が介錯を頼むように。
「・・・あのな? そんな無感情の奴を俺は斬らないの。せめて戦うとか、思ってること暴露するとかしてくれない?」
殺すのは簡単だ。無抵抗なんだからそのまま首を刎ねてしまえばいい。しかし俺が出られると教えた上に、簡単に首を差し出すこいつが少し気に入らない。
けどそれ以上に、長いあいだたった一人でいたからだろう。例え倒すべき相手だろうと誰かにそばにいて欲しかった。
すると子龍は静かに起き上がり俺の足元にやってきた。
「・・・」
テシテシとまるで犬や猫がするように、前足で俺の膝を叩く子龍。どうやら戦っているつもりらしい。
「よっこらせっと」
そっと手を伸ばし、赤ん坊を抱き抱えるように子龍を持ち上げた。思ったよりも少し重いけど全然持てる。
「・・・」
テシテシと抱き抱えた俺の手を叩く子龍。それが少し愛らしく感じたのが少し可笑しかった。思わず笑みを浮かべると、子龍はテシテシ攻撃をやめてしまった。そしてまた首を差し出すようにそっと頭を垂れた。
「ちょっと質問いいか? お前はクリムゾンGXにあったことあるか?」
「・・・」
肯定するように首を振った。じゃぁGXも子龍と出会ったことはあると。
「じゃぁGXはその時お前をどうしたんだ?」
「・・・」
自分の手で首を切るようにジェスチャーをした子龍。GXは闇龍を殺したのか。でも子龍はこうして生きている。ってことは蘇ったってことか。
「お前が本当に世界を滅ぼそうとした闇龍なのか?」
「・・・」
「そっか・・・お前を殺せば闇龍は倒せるのか?」
「・・・」
「でも封印するのが精一杯って言ってたぞ?」
「・・・」
「それよりおなか減らない?」
「・・・」
「減らないのね」
「・・・」
「話を戻すけど・・・じゃぁあれか? 完全には倒せないのがお前ってこと?」
「・・・」
「あぁそう。根本的な解決は無理と」
ただ首を縦に振るだけだが、適当に首を振ってるわけじゃなさそうだ。ちゃんと自分の意志があって、ちゃんと受け答えはするみたいだ。腹減らないかって聞いたら首を横に振ったし。
しかしそうか。困った。こういう時は根本から解決しないと後々クソみたいな展開になって自分の首を絞めることになるからなんとか解決したい。
今のところ俺の予想としては、この自称闇龍が本当に本当の闇龍で、『アフター』で倒した闇龍もまた本物。しかし肉体をぶっ殺したことで肉体が別の意思を持ち、本当の魂はここにあるっていう仮説が一つ。
第二の仮説は、ぶっ殺した闇龍の意志がわずかに転生しきれずに、自分の魂すら制御できないほどの悪意に乗っ取られてこうして自分を殺してくれる人を探している。
他にはそうだな・・・闇龍としての記憶を受け継いだ転生者ならぬ転生龍で、過去の記憶に魂が引っ張られて暴れている。しかし今の自分としてはもう辞めてほしいのでこうして誰かに殺されるのを待っていた。とか?
なんか被ってる気がするけど気にしないで欲しい。
「ダメだわからん」
「・・・」
「そんな『じゃぁ殺せばいいじゃん』的な眼で見るな。見られてもやらんぞ」
きっと何かあるはずなんだよな。このまま従者化するかあるいは満足して死んで行くかが濃厚だとは思うけど。
「とりあえず散歩しようか。何心配するな。お前はこのまま抱っこして強制連行だ」
「・・・」
首を振ってテシテシしても無駄だ。強制連行なので諦めてください。久しぶりに他者との触れ合いが、とても嬉しく思った。
――――◇――――
「・・・」
「叩いても無駄だ。まだまだ歩くぞー」
――――◇――――
「・・・」
「いやそこまで動いたんなら噛めや」
噛み付こうとしてやめた子龍はちょっと可愛らしかった。
――――◇――――
「・・・」
「その一応抵抗してますアピールやめない?」
手を叩く頻度が減ってきた。諦め始めたのかも。
――――◇――――
そうして歩くこと・・・・・・どれくらいだろう? とりあえずずっと歩いていた。けど独りじゃないから全然苦じゃなかった。
そんな風に長いあいだ一緒にいたからだろうか。子龍も少し変化があった。
「なんかでかくなった?」
「ヵァ・・」
「うぉ、鳴き声初めて聞いた」
少し大きくなってる気がした。
――――◇――――
デカくなってる気がしてまた時間が経った。
「キュァ・・・」
「やっぱデカくなってるじゃん」
気が付くと一回り大きくなっていた。ウィンドウを開き、現実の時間の時計を確認したら、少しだけ動いていた。一分くらいだろうか。
あと、デカくなっていたので自分で歩かせることにした。急にでかくなって潰されたくないじゃん?
――――◇――――
自分で歩かせるようにしてまたしばらく経過したと思う。
「キュァァ」
「面影減ってきたな」
最初に出会った頃の記憶にある子龍が持つ幼さは消えて、少し凛々しくかっこよくなって来た。四本の足も子犬子猫のような可愛らしい足ではなく、重い体を支える立派な足に成長していた。
翼も生えてきた。まだ弱々しい翼だけど、このまま行けば立派に育つだろう。
「腹減らない?」
「キュァ」
「あっそ」
空腹は感じないらしい。俺を餌にするとかしないよねコイツとちょっとびびったのは秘密だ。
――――◇――――
成長してから結構経過したと思う。弱々しい翼は既に立派な翼に成長し、少し前まで歩いていたのに、この子龍は一人飛んで付いてくるようになった。
「乗せて」
「キュゥァ」
ケチ。乗せてくれたっていいじゃん。
――――◇――――
やっと見つけたあの子龍はもう立派な龍に成長した。その姿は記憶の中にある、意識を失う前
、塔の中で見た龍の姿そのままだった。少し記憶がおぼろげだからしっかりとは思い出せないけど。
「キュルゥァァ」
「え? マジで?」
「キュルァァ」
どうやら背中に乗せてくれるらしい。やったぜ。
進んでいる気はしなかったけど、龍に乗って空を飛ぶ感覚は素晴らしかった。今度は本当の空の下を飛びたいものだ。
――――◇――――
「キュルァァ・・・」
最近、龍の元気がない。歩かなくなったし、少し前まで飛んでいたのに今じゃ飛ばなくなった。眠るように身を丸めて静かにしていることが多い。
「よしよし」
「キュルァァ・・・」
図体はでかいのに、仕草は少し前までの子龍のままだった。久しぶりに、手ではなく、指で俺の手をテシテシとつついてきて、思わず笑みを浮かべてしまった。
――――◇――――
「キュァ・・・」
察してしまった。この龍は老化しているんだと。時間がどれくらい経過したかはわからなかったけど、過ぎるごとに老化していたのはもうわかる。
声は弱々しく、立派だった翼も足も、以前のとは違い強そうには見えない。
「一緒にいてやるから安心しろよ」
「キュゥァ・・・」
頭を擦り寄らせる姿は、まるで子龍だった時にしなかった甘えを今しているように見えた。
――――◇――――
「・・・」
もう声も上げなくなった。わずかに呼吸し、満足に体も動かせないほどに龍は弱っていた。それでも俺の暖かさを求めるように、時折こちらを見るのだ。
「でっかい赤ちゃんみたいだよお前」
「・・・ヵァ」
そんな龍の頭を撫ぜて、寝かしつけるように龍に寄り添い続けた。
――――◇――――
「・・・・おやすみ」
龍が死んだ。わずかに呼吸して動いていた体はピクリとも動かず、冷たくなっていた。どんな風に思って死んだのかわからない。でもきっと悲しくはなかったと信じたい。
ポトリ、龍の体から一枚、鱗が剥がれた。それを拾い上げた瞬間、冷たくなった龍の体は弾けるように光となって消えてしまった。
この手に残った一枚の鱗の詳細を見たとき、その鱗の上には小さな雨が降った。
――――◇――――
重要品『闇龍の天逆鱗』
・それは闇龍から貴方へのメッセージ。二度と手に入らないと諦めていた暖かい気持ちをくれた貴方だけに送る。
――――◇――――
・生まれてきたことを後悔し、絶望した。故に全てを滅ぼそうとした闇龍。しかし一度目は一人の男に殺されて。二度目は大勢の人間と戦い、死ではなく、封印という永劫の呪いを突きつけられて。気が狂いそうになるほどの時間をたった一人で生きてきた闇龍。もうそこに怒りや復讐心、後悔も絶望も存在せず、ただただ無だった。
・初めて死を願った闇龍は貴方に出会った。ここで殺されればきっと別の生を迎えられると思ったから。しかし、貴方はそんな闇龍の願いを聞いてくれなかった。そしてあろう事か闇龍とともにこの何もない空間を歩き始めた。意味なんてないのに。
・幾星霜の時間を貴方と過ごし、自分の中から何かが消えていくのを感じた闇龍。けどそれが嫌なものではなかった。かわりに別の何かが入ってきた。その正体がわからなかったけど、貴方といればこの気持ちの正体を知れると闇龍は感じた。
・この気持ちこそ、闇龍が欲しかったものだと気がついた。長い年月の中、それすら忘れていた自分の本当の望み。こんなにも簡単なものだったと気づいた。ただ誰かと一緒に生きてみたかっただけだったんだと。だから誰かを求め続けた。それがどんな形になろうとも。それを思い出させてくれた貴方に、以前望んでいた空を飛ぶ事をさせてあげた闇龍。その時言われた貴方との約束を嬉しく思った。
・自分でももう長くないと気づいた。あれほど死を望んでいたのに今では死が恐ろしい。けれど貴方がここにいた。それだけで怖くはなかった。もっと早くこの気持ちに気づいていれば、闇龍はもっと貴方に甘えてみたかった。
・ただ貴方がそばにいる。それだけが闇龍にとっての幸せだった。ずっとそばにいたいけど、それは無理だ。だから闇龍は大切な体の一部を貴方に送る。それだけが、闇龍にできた貴方への贈り物だったから。
――――◇――――
時間にして数年単位の時が経過してました。これぞエクスゼウスの変態技術の集大成。
極限超加速空間。
そしてその時間誰にも出会えずただひとり歩き続けたアールの精神力パネェ・・・




