338:黒の巨塔 Ⅲ それぞれの視点
少し長め。切るタイミングを見失ったので長いですはい。
タイトル修正はも少々お待ちください。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!」
「クソガァァ!!!!」
「チィッ!! 修正する前にコードが変わりやがるっ!!」
「あの野郎いつの間にこんなモン仕込みやがった!?」
エクスゼウスのメインサーバーでは、普段の様子を知る第三者から見れば全く想像がつかない光景が広がっていた。
いつも平然と、ちょっとコンビニに行くかのように凄まじい技術力と処理能力を見せつける社員たちが、額に血管を浮かび上がらせ、眼をギラつかせながらコンソールに向かい合っている。
「アイ状況!!」
『システムの50%が現在も操作不能。黒の巨塔のコントロール不可能。新規プレイヤーの侵入を防ぎ対応中』
普段は人格を持ち、楽しそうに話すエクスゼウスが生み出した超高性能人口知能『アイちゃん』。彼女も現在、必要最低限の機能を残し、状況の打破を試みている。
それでも、完全に奪取され改悪されたシステムの50%をこの短時間で奪い返せた事で、これ以上の被害を防ぐことは成功している。
不幸中の幸いというべきか、現在『黒の巨塔』に挑戦中のパーティーは一組。だがその一組が、運営陣からすれば、最低のパーティーであった。
「うdしf・klvんjぶふぇおあh・いd」
「いづおsSFヴAhごhivn bopd・・・!!」
「ふSど・JBぬふぁお・おGJBにあえおおPFXGぢKJBNッ!!」
人語とは思えない会話を交わす社員達。それでも何を言っているのかを互いに理解し、即座に次の工程に移る。両手両足、視線すら彼らにとってはそれぞれが意思を持つかのように、全く別の動きを取る。
「コンディションレベルレッド起動アクセス権限『綾地』によるシステム停止及び緊急プロセス起動クラウンプログラムを破棄しクイーンズシステムへ移行アクセス権限をαからZに制限しその他人物のアクセス権を凍結クロニクルシステムの改変を遡り659775まで逆行し再起動」
主任Xと普段呼ばれている彼女、口で発した僅か数秒の間に、言葉通りのプログラムが実行される。その視線は常軌を逸脱していると言われても否定できないほど動き、彼女の周囲を覆うように展開されるキーボードを視線と計20本の指が叩く。
「システム一部奪取成功及びプレイヤーへのシステム介入権を奪還可能な限りのアシストを追加」
『プログラム中枢に不明なコード確認、排除・・・敵性プログラムへと変貌、排除・・・成功』
「445ポイントから789ポイントまでの完全スキャン完了、758細部に悪性ウィルス発見、除去」
「全システム起動、ダイブ中の全ユーザーのバイタルチェック開始・・・一名を除き正常」
「対象の機器内部へと侵入、不正プログラム及びウイルスを確認、総数約2000個体、援護を要求」
「U了解」
「W了解」
「V了解」
『NPCへの生命維持権限・・・使用不可、プレイヤーへのシステムアシスト・・・一部を除き不可状態継続中、システムの奪還の効率を再演算、演算の結果現システムを放棄し、新システムの構築が時間効率良好と判断。構築開始。終了まで2秒。これよりシステムの上書きを開始』
その光景を見ているしかできない、いいや、見ていることがこの場で最も最善の選択だと思い知ってしまった新入社員達。普段の先輩社員らからは全く想像できないほどの動きに、ただただ言葉を失い、呼吸すら忘れて立ち尽くす他なかった。
言ってしまえばこの場はもはや戦場だった。殺すか殺されるかのやり取りをする本当の戦場だった。
「おらどうしたひよっこども」
「しゃ・・・社長・・・」
そんな中、現れたのは社長である 天城 凱 その人だった。彼は目の前で見たことのない動きをする社員たちを一見すると、すぐに新入社員たちへ目を向ける。
「慢心が過ぎたが故の失態だ。お前らも気をつけろ。油断すればこうなる」
「えと・・・あの・・・」
まるでこうなる可能性が分かっていたと言わんばかりの口調に、ZAと呼ばれている男性社員はどう反応すればいのかわからなかった。
「全ての責任は上司である俺の責任になる。だからお前らは今必死扱いてる奴らのようにならんよう精進しろ。分かったなら返事だ」
「「「「は・・・はい・・・」」」」
信じられないが、彼はとても楽しそうだった。こんな状況なのに、とても笑顔だった。それはもう恐怖を覚えるほどの素晴らしい笑顔だった。
「おいキサマら。調子はどうだ?」
いい訳がない。新入社員たちは言葉にこそ出さなかったが常識的にそうだろうと思いをひとつにした。。
「「「「「最高ですだから話しかけないでください社長」」」」」
「「「「っっっ!!!?」」」」
一瞬、ほんの一瞬だ。答えた社員達の口角が上がり、ニヒル笑みを浮かべた。次の瞬間にはその笑みは消えそれぞれ見るものへと視線を戻す。
「ひよっこ共、いいことを教えてやる。人間が最も正直な感情を見せるのは追い詰められている時だ。ここにいる連中はアホでバカだ。だからこんなことでも起きなければ気合を入れん。暫くはこれで慢心しなくなる。丁度いい薬だ。どうだ? 狂ってるだろ?」
天災であり、天才と呼ばれた者たち。彼らがその実力を発揮するのはこういう時しかないのだと、社長である彼は言った。そして狂っているとも明言した。
「あの狸に”お礼”をしなきゃならんな。それと”退職”する常人社員に”退職祝い”も送ってやらねばならん。そこでだ。ひよっこ共、動けないお前らに仕事をやる。やる気があるならついてこい」
なんて狂った会社なんだろう。なんておかしい企業なんだろう。常人ならば誰もがそう思うはずだ。思わないわけがない。
「は・・・はは・・・」
「・・・・・・うひ・・・」
「・・・あぁ・・・・・・」
「(ゴクリ・・・)」
そして・・・・・・なんて素晴らしい企業なんだろう。
四人のひよっこ達は、隠していたそれを脱いだ。必要ないと理解してしまったのだから。ようやく、彼らも自分たちと同類なのだと知ってしまったから。
常人でなければ抑圧される環境で生きるために被っていたそれを彼らは開放した。
「どこまでやっていいですか?」
「何をしたらダメですか?」
「情報操作はどこまで許されますか?」
「新種のコードを試してみたいんですけどいいですか?」
「何だお前ら? 常識人の皮を落としたぞ?」
まるで最初から、いいや、最初から彼らが皮を被っていたと知っていた天城凱は、落としたそれを拾わなくていいのかと四人のひよこだった者たちに問う。
「だって・・・要らないって理解しちゃいましたから」
代表するように答えたZA。その表情は腫れものが落ちたように清々しい笑顔だった。
「アッハッハ!! そうか! ならばいい! まずは退職者の全てを洗い出せ。出来んとは言わせんぞ?」
「「「「了解!」」」」
彼ら四人にとって、その程度のことならば簡単だった。それだけの技量を、腕を持つ彼らならば。自分を開放した彼らは、先ほどの社員たちのようにいい笑顔で返事をしていた。
「さて、励久。こっちでやれることは全部やってやる。だからそいつらの命はお前に預けるぞ」
そう言い残し、天城凱は上空に映し出された藤宮励久という、一人の逸般人へと、言葉を告げて部屋を後にした。
――――◇――――
結論から言おう。海の階層にボスモンスターらしき姿はなかった。いたのは無限湧きのブレイドキャンサーのみだった。
何かを感じた場所にあったのは次の階層への入口だった。三十分ほど周辺の散策を行い、ほかに何もないのを確認して俺たち三人は次の階層へと続くと思われる入口を潜った。
その先がここだ。
火山地帯というのがまさに合致する。凄まじく暑い。ディアも干上がるんじゃないかと思うくらい暑い。地面を歩いているだけで、地熱が襲い掛かり、体力を奪っていく地帯。
暑い寒いなどの環境はエクストラモードにおいては天敵だ。我慢すれば身体が異常を起こし、死に至る事などザラにある。そして残念なことにこんな階層まであるとは予想していなかった。
つまり対策なしでこの過酷な環境にやってきてしまったわけだ。故に、TAの始まりだった。
「天眼、今こそ覚醒の時『天籟虚真刀:ズイカク』!! 艶やかに響け相愛の唄『艶姫鳳戦刀:コンゴウ』!!」
――――◇――――
・『天籟虚真刀:ズイカク』の特殊能力『天籟』『虚真』発動。
・『艶姫鳳戦刀:コンゴウ』の特殊能力『帰回愛』『艶姫唄』発動。
――――◇――――
ルークを背負い、マリアーデを抱き抱える。ミニマムサイズのイドルとクレイを顕現させて抱えた二人が落ちないように補助して力を感じた方向へと全速力で駆け抜ける。
途中見かけたモンスターは全て斬り伏せ、イドルたちの触手を絡ませることで一定時間触れるという条件をクリアし回収。
この階層はモンスターの数が多かった。先ほどの海岸はモンスターの質で勝負なら、この火山地帯は量で勝負してきた。
だから全てのモンスターの視線と注意を集めて全部切り捨てた。ディアに追加の腕を頼み、激しく動く中でも、抱えるふたりが落ちないようにしっかりと抱き抱え、手当たり次第全て切り裂き次の階層へ続く入口を目指した。
”おそらくボス”と思われるモンスターもいた。とりあえず切ったんだけどノーダメだった上に反撃くらってクソ痛かった。
が、いちいち気にしていられなかったので『風瓶十二閃:天津激翔』を叩き込み、それでもダメだったので『天眼』再発動で弱点を視て二度目の『風瓶十二閃:天津激翔』を即効で叩き込み撃破。
入口を発見したので飛び込むように通過した。
が、次に待ち受けていたのは極寒地帯。エクストラモードイジメにも程があると思ったが変わらず余裕がない。寒さは身体を縮小させてしまうため筋肉の動きが悪くなる。
一度足を止めれば一気に体が冷えると判断し、自分で歩く、走ると言ってる二人を黙らせてそのまま疾走。出現したモンスターは極寒地帯らしく毛が生えているモンスターに氷を操るモンスターらしき姿が多くいたが、火山地帯同様迷わず全て切り伏せる。構っていられない。
俺自身はディアとの融合とヴェノと『帰回愛』の回復能力。さらに持ち込んだアイテムで常に回復し続けながら無理やり生かすように動かし続けることが可能だ。特にディアの存在はデカイ。
今日に限ってはディアとの融合が出来なければ俺は何度か意識を手放し、回復が間に合わずに全滅していただろう。ディアサマサマだぜ。そんなことを考えつつ、一気に駆け抜けてボスらしきモンスターを瞬殺してまた入口に飛び込んだ。
けど、そこで意識を失った。これでまた劣悪な環境だったらマジでぶっ殺す。
――――◇――――
「邪魔するなぁ!!!!」
「師匠!!」
僕らが海岸から次のエリアに出たときだった。そこは高熱サウナよりもさらに暑い火山流、マグマが流れるエリアだった。息をするだけで肺を焼かれるような、ううん、実際焼かれた痛みを感じて僕は『あ、これはダメだ』って思った。
隣にいたマリアーデさんも熱には弱いみたいだった。エリアに侵入してからわずか数秒で僕と大馬鹿師匠はダウンした。状態異常的な言い方をするなら『脱水症状』『熱中症』とかだと思う。
水を飲むとか、そう言う発想も出てこないくらい、思考を一瞬で奪われた。エキスパートモードでこれなら、エクストラモードの師匠と、実際に生きてるマリアーデさんはもっとキツイ。
下手をすれば死んじゃう。いや、これは死ぬ。そう思った。でも次の瞬間。師匠が動いていた。僕を背負い、マリアーデさんを抱き抱えると、ひねり出すように声を上げていた。
「『イドル』『クレイ』『ディア』『ヴェノ』!!!」
『『LAAAAAaaaa!!』』
まず、ちっちゃくなったクヴァレイドルクイーン二匹の触手が僕たちの体に張り付いた。次にディアが師匠と融合して、ふた回りは大きな腕を師匠の背中から生やして、僕とマリアーデさんの体を包み込むように抱き抱えた。
「天眼、今こそ覚醒の時『天籟虚真刀:ズイカク』!! 艶やかに響け相愛の唄『艶姫鳳戦刀:コンゴウ』!!」
師匠は自分の手を僕ら離して武器を手にとって特殊能力を発動させた。そこからの光景はハッキリ見えていない。
全速力で空を蹴るようにフィールドを駆け抜けたんだ。モンスターの数はさっきの海よりも多くて、皆好戦的のように見えた。動き出す前に師匠が手当たり次第に斬っていたから。
この時くらいにようやく僕は自分の状況を理解できた。張り付く触手とディアが作った腕は僕たちを高熱から守ってくれている。呼吸しても肺を焼かれる感覚もなかった。
けど、師匠は違った。装備越しから分かる高熱。吹き出すように流し続ける汗。師匠はまさに自分の全てを無視して僕たちのことを守りながらこのエリアを抜けようとしてくれていた。
「愛弟子!!」
マリアーデさんの声が震えていた。背中からは師匠の顔は見えない。けど、師匠の顔を見たマリアーデさんから、今まで聞いたことない悲鳴のような声を出していた。
ぐしゃぐしゃに滲む背中の汗と悲痛な声。きっと今の師匠は死にそうな顔をしてるんだと僕でもわかった。でも、僕じゃ何もできない。それも理解しちゃった。
この環境はプレイヤーの、違うね。この環境に適応できない全ての命を殺すんだ。容赦なく。クリアできるとか、対策をすればとかじゃない。適応できないとダメなエリアなんだってわかった。
ちらっと確認できたモンスター。確か『マインリザート』って言われてる危険なモンスターだったはず。踏まれるとかの外面にダメージを受けると毒性の爆発を連鎖的に引き起こすモンスター。しかもそれが他のモンスターを呼んでさらに連鎖する。
囲まれれば最後だって前にバカ姉が教えてくれた。
「愛弟子!!」
「ッッゥァァララァ!! 根性ォォォx!」
見えたのはこれだけ。でも他にもきっと危険なモンスターはたくさんいたはず。師匠は僕たち二人を抱えたまま全力で走りながら、邪魔したモンスターを全部片付けたんだと思う。
二回ほど、何が起きたのかわからなくなった。その前後は師匠の動きが一瞬止まってちゃんと見えた。多分師匠が奥義を使ったんだとはわかったけど、それしか逆にわからなかった。
そのあとすぐ視界が光に包まれた。確かこれはさっき火山エリアに入った時に見た光だった。どれだけの時間いたかわからないけど、危険な火山エリアを抜けた。よかった。
なら次は僕が頑張って師匠を休ませてあげようと思った。二人を抱えながら全力疾走、しかもモンスターとの戦闘までしたんだ。恩返しくらいはしなきゃダメだ。
だって僕は師匠の弟子なんだから。師匠が辛い時は弟子が支えるものだって、漫画で言ってたし。
なのに、次のエリアはまた地獄だった。そして、それでも師匠は走り続けた。僕たちの声を聞かずに。
体を焼かれた次は、体の中から凍らせるような極寒エリア。肺を焼かれた次は、凍らされて砕かれる。そんな風に感じるエリアだった。
それなのに、僕も多分マリアーデさんも体温も、呼吸も全く一瞬だけ辛かったけど、その後不自由も不快感も感じなかった。代わりに感じたのはさっきまで熱を帯びて燃えそうな程だった師匠の身体が、凍ったように冷たくなっていた。
エリアが変わっても、師匠を襲っていた環境は変わらなかったんだ。いいや、さっきよりも酷いかも知れない。急激な温度変化は生き物を簡単に殺せる。前に学校で理科の先生が話してくれたのを思い出した。
隕石が落ちて地球が凍りついた結果、地上の王者として君臨していた恐竜は凍死した。この環境はまさにそれを再現したかのようなものだった。
「っ!! 愛弟子ィッ!!?」
また泣きそうで悲痛な悲鳴。マリアーデさんの視線の先に見えたのは少し凍り、皮膚が割れて血が出ていた師匠の首だった。
「師匠!!」
意味がないかもしれないけど、僕は師匠の首を守るように、首が凍るのを防ぐように噛み付いていた。抱きつくよりも、口内の熱で溶かしたほうがいいと思った。こんなこと絶対にしないと思ったのに、こうしないと師匠が死んじゃうと思った。
抵抗は凄かった。気持ち悪いことしてるって自覚もある。でも、そんなこと今はどうでもいい。僕に出来たのは多分これだけだと思った。
そのうち、僕の視界はまた光に包まれ、見える光景はセーフティゾーンとしか言い様がない、綺麗な草原だった。
――――◇――――
自分が情けないと感じたのはいつ以来だっただろうか。アアリーが世界を捨て、人を捨てたとき、それを止められなかった余の弱さか、それとも愛弟子が最も危険なときに、手を拱いて助けられなかった時だろうか。
きっとどちらもそうだ。あの時は自分の存在が、こんなにも小さいと、こんなにも無力なのだと恨んだ。何が『剣聖』だ。何が『師匠』であるか。余はこんなにも無力なのだと。
戦いにおいて、余は強いと自覚している。しかし、余は急激な環境の変化に身体が適応できない。妖精族故の弱点だ。急激な温度変化を受けると、妖精族は簡単に倒れる。
種族が持つ、克服できぬ欠点だ。塔の、あの海岸を見た時にすぐにこの可能性を考えるべきだった。愛弟子と、その弟子と共に戦うことで気が緩んでいた。あるいは余たちに敵う相手はいないと慢心していた。
故に、余は、そして愛弟子の弟子は環境という怪物により、一気に戦闘不能へと追い込まれた。正直に言えば死を覚悟した。こんなにもあっけなく、余は死ぬのかと。
だが余の意識は消えなかった。動けるのは考えるまでもない。愛弟子だった。余と弟子を抱き抱え、背負うと従えているモンスターを呼び出し、余たちを環境の毒牙から守護した。
『ズイカク』と『コンゴウ』の同時発動により身体能力を一気に強化して愛弟子は駆け出した。その表情から、胸部から感じる熱から、愛弟子は自分にそれを施さず、全てを余と弟子に捧げかけているのだとすぐに気づいた。
さらにモンスターの注意を引きつけ切り裂くことで『コンゴウ』の能力を使い治癒。高熱により肺を焼かれながら、それを能力により治癒し強制的に生きながらえている状態だった。
それだけではない。おそらくこの場にいたモンスターが持つ毒か何かが愛弟子の体を蝕んだんだろう。一瞬目が虚ろに、バランスを崩した。
「愛弟子!!」
「ッッゥァァララァ!! 根性ォォォx!」
それでも倒れず、持ち直し再び駆け出した。立ちふさがる、道を阻むモンスターどもを斬り払い、真っ直ぐに目的地へと向かっていた。
目的地らしき場所、そこには奇妙なモンスターがいた。女体型のスライムだった。男を惑わすように艶美に動くスライム。見ただけで殺意が沸いた。愛弟子がこんな時にこのようなふざけたモンスターが出てくるなど。
「っ!!? クソガァっ!!」
今までのモンスター同様切り裂いたはずだった。しかしそのスライムは愛弟子が振るった刃を受けて傷を負っていなかった。それどころか反撃にまで出た。
凄まじく早い蹴りだ。だが回避はできる。いいや、できるのが当たり前だ。”通常の状態”ならば。
「ッッ!!!」
今の愛弟子は二人分の余計な荷重と高熱による肺へのダメージがある。本来できるはずの動きなど、出来るわけがなかった。
反撃の蹴りはそのまま行けば余の体を貫く。多少のダメージは覚悟した。妖精族ゆえに腕を失おうともこうして生えてくる。数ヶ月は不自由になるがそれでも良い。
にも関わらず、愛弟子は無理やり体をひねり、己の脇腹でそれを受けた。一瞬の事で何が起きたかわからなかった。だが、熱を帯び、熱くなった血を浴びて、理解した。
「『風瓶十二閃:天津激翔』!!」
十二の連撃がスライムの体を切り裂いた。代償として愛弟子の瞳から血が流れていた。
『・・・』
それなのに、このスライムはニヒル笑みを浮かべていた。まるで無駄だというように。
「天眼!! 『風瓶十二閃:天津激翔』!!」
『・・・』
二度目の『風瓶十二閃:天津激翔』それが何を意味するか。一瞬、感じていた命の暖かさが消えた。それがすべてを物語っていた。
『ギィ!!』
「ッ!! アアアア!!!」
あのスライムがどうなったかを確認はできなかった。だが光の門が開いたことから、倒せた。あるいは撃退できたとは思う。
でも今は少しでも早く、愛弟子を休ませたかった。一度、余のすぐ近くで、愛弟子は死んだ。この事実は消えない。スキルによる蘇生、あるいは回復なのだろうが、確かに一瞬死んだのだ。
何があってもしばし休ませる。そう決めたのに、門の先に待ち受けていたのはまた余にとって最悪の環境だった。
高熱の火山の次は極寒の雪林。弟子の従えるモンスターとディアめのおかげで少しだけ高熱化でも回復した余の体を再び毒牙が襲った。ほんの一瞬ではあったが、意識を失いかけた。
それでも直ぐに意識を取り戻せたのは、愛弟子の、愛弟子が従えるモンスターのおかげたっだ。襲いかかる冷気を遮るように、今度は熱が体を包んだ。
代わりに、先程まで熱かった愛弟子の体が凍りつくほどの冷たさを放っていた。余を包む熱があってもまだ冷たいと感じるほどの冷気。
愛弟子はそれでも止まっていなかった。出た瞬間にすぐに動いていた。止まれば終わりだと気づいていたのだろう。『十六夜天雷』を纏いながら、再び迫る新たなモンスターたちを切り裂き進んでいく。
「っ!! 愛弟子ィッ!!?」
そんな中、見てしまった。首が凍っていた。皮膚が凍りつき、裂けて血の汗を流していた。氷はそのまま下へ下がり、肺と心臓を凍らしてしまう。
また、この距離で愛弟子が死ぬ。
そこからのことは覚えていない。ただ愛弟子が冷たくならぬように、子が親にするように、ただしがみついた。己の熱で守るように。
『熱い魂を凍りつかせて死んでいけ!!!』
そんな声が聞こえたが、次の瞬間に見た光景は、のどかで暖かい草原だった。
前半は本性見せるエクスゼウス社員一同。
怒りは当然あります。しかし絶体絶命だからこそ楽しく全力で本気の実力見せてる狂人ども。
天才は常人から見ればただの狂人とも言えますからね。類人は友を呼ぶとはよく言いますので新入社員も類友類友。
後半はアール、ルーク、マリアーデそれぞれの視点でのお話でした。エクスゼウスのアシスト(超微量が限界だった)を受けて多少は行動できたアールが全力全開リミッター解除で炎獄&極寒フロアを高速クリア。
オーバーヒートと体力の限界起こしてぶっ倒れました。つまりそういうことです。感想などくれると嬉しいです。よろしくお願いします。




