288:『剣星』のちょっと変わったいつもの日常
久しぶりに日常回
「いつでもいいぜ?」
「それじゃぁ遠慮なく!!」
開始早々全速力で突っ込んでくるリーク。両手に持つ短剣を構えつつ、魔術の詠唱を始めている。
対するこちらも詠唱を開始。数歩後ろに下がり、『天籟刀:ズイカク』に手をかけて居合い切りの体制に入る。
「『血の牙すべてを砕き断て『ブラッドホールブレイド』』」
「闇夜の影を纏え『常闇之刃』」
ほぼ同タイミングで詠唱が完了し、お互いの武器に赤と黒のオーラを纏う。俺が使った妖術は武器攻撃時に『状態異常:暗闇』を確率で付与する『常闇之刃』というものだ。
確率なので、確定ではないのだが状態異常にすることが出来れば勝負は貰ったも同然の効果。対するリークの魔術は射程を伸ばす魔力で作られた刃を追加すること。
その刃に制限はなく、術者が望めばどこにでもどれくらいの長さでも追加できるという。今回リークは両手の短剣と両腕にそれぞれ二本追加している。
多刃攻撃って結構厄介なんだよな。雪崩式に連続して当てられると態勢を崩されやすくなる。それにこれだけってことは絶対にないし注意すべきだろう。
「天匠流抜刀術『鏡雀』」
「月光真流一之型『白月』応用編!!」
横になぎ払うように抜いた刃を、リークは生み出した刃全てで挟み込むように受け止めた。それでも追加した刃がポロポロと刃こぼれを起こし、砕け散る。一撃じゃもうダメージは与えられないか。なら。
「『水無月写鏡』」
「『白月』っ!!」
押さえ込まれた刃を支点にして身体を半歩前へ、地面をしっかりと踏みしめ拳に衝撃を乗せて鳩尾目掛けて放つ。リークは刃を抑えていた片腕をずらして拳を受け止めるが、同時に刃の拘束が緩む結果になった。
「天匠流剣術『神斬雲雀』」
「クッ!!」
拘束が緩んだので右手に力を込めて刃を走らせる。流石に短剣で太刀を押さえ込むことは叶わないと瞬時に把握したリークが俺から距離を取る。逃すわけ無い。
空を切った刃をそのまま振り切って後方で一度止める。今度はこちらから距離を詰めていく。地面に刃を走らせてることで炎が発生する。
距離をとったリークと少し距離を置く位置で急停止しながら、そのちからの流れに任せて、後ろから上へ、そして前方を叩き切る用に、刃を振り下ろした。
「剣技『焼土』接続『重腕キャンサード』」
「それは回避一択でしょ!!」
リークが斜め後ろに大きく飛ぶように回避。その選択は正しい。キャンサードの衝撃に乗って、炎が火炎となり、通常の倍の射程範囲内を焼き尽くす。もし後ろに逃げていたらそのまま火に飲まれていただろう。
回避されたが、まだ追い打ちは可能。『天籟刀:ズイカク』が地面に届いた時、衝撃を押さえ込むのではなく、利用して大きく前方宙返りのように跳ぶ。
視線はリークへ向け、地面から剣先が離れた瞬間、身体を捻り更に回転を縦から横へ。遠心力という名の衝撃を力に変えて解き放つ。
「月光滅流十二宮奥義『恋爪レオ』」
衝撃の爪が地面を抉るように放たれる。遠心力も相まって射程は通常よりもはるかに長い。
「白げづぅ!!?」
短剣を交差させて受け止めようとしたが上手くいかなかったみたいだ。受け止めきれなかった衝撃がリークの体を駆け巡り、重力のように襲いかかる。
膝と両腕から嫌な音が鳴り、鼻から血を流し、短剣を持っていた手が震えるリーク。更に一瞬ではあるが俺から視線が離れてしまった。
「両目貰うぞ」
「アグァッ!!!!」
着地した俺はすぐさま距離を止め、リークが持っていた短剣を奪取。そのまま瞼を短剣で一閃し視力を奪った。
目を斬られた痛みでよろけたリークに追い打ちをかけるように『天籟刀:ズイカク』を抜刀。太腿から神経を切るように一閃し動きを封じる。
そのまま崩れ落ちるように倒れ始めたリークの顔面を掴み、押し倒す。そして最後に首筋へ刃を突き立てて終わりだ。
――――◇――――
「うっわ・・・うっわぁえげつねぇ」
「確実性取るならこれくらいやるほうが間違いないぞ?」
「リーク姉ちゃん大丈夫?」
「大丈夫だよ? アールから傷の贈り物だもん」
「アール!! アタシにも!! アタシにも傷つけて!! 出来れば一生消えないので!!」
何やってたかって? 模擬戦だよ模擬戦。前のイベント以来よく色んな奴から直接対戦挑まれる回数が増えたんだよ。特に前衛系ジョブ持ちからはほぼ毎日。
別に嫌ではないし、色々な戦い方がわかるから大変ありがたいことではあるんだけど。でも進歩しない奴も結構いるから、割と作業感になってしまうこともしばしば。
そうならず、毎回攻め方と戦い方、以前の反省を踏まえての戦闘の組立などをしてくる奴もちゃんといる。
それこそ以前ちょっとした事件になった蒼牙とかはその筆頭だ。戦い方が搦手重視から真っ向勝負を基本としたスタイルに変わり始めていた。
奇襲メインじゃないため対応する側からすればやりやすくなったんだろうが、そこは蒼牙天性の才能とでも言うべきか、はたまたこれまでの経験からの勘とでもいうのだろう。
攻撃が交わされる、あたってしまうギリギリのタイミングで搦手を混ぜてくるのだ。例えば俺が掌底叩き込んだらあえて右掌で受けて右側だけ吹き飛ばされ、その流れを利用して槍でもなんでも突き立ててくるとか。
肉を切らせて骨を断つ。ではなく、骨を断たせて肉を抉るみたいな感じ。回復はスキルとアイテムを惜しみなく使用して確実に相手を追い込んでいく。持久戦みたいな戦い方に変わっていた。
これが結構厄介で、俺は基本カウンター、もしくは完全に攻めて反撃の隙をつくらせない戦い方が基本だ。けど、蒼牙はダブルクロスカウンターくらいまで用意していて全部潰すのが結構大変なんだ。まぁおかげで俺もその技術上がってるから助かるんだけどもさ。
他にもアルトりすとか胡座ウェイ、特にニコニーコを筆頭とした脳筋軍団もきつい。あいつらダメージ覚悟で、スーパーアーマーもしくは、プラ〇マルアーマーでもつけてるのかって思うくらいこっちの攻撃に怯むことなく突っ込んで来るんだよ。
曰く『恐怖とは!! 勇気を持って乗り越えるべき壁である!!』『痛み恐怖とかで怯む時間あるなら攻めたほうが愉しいだろ?』『勝てばよかろうなのだッ!!』とか、何処の吸血鬼とその天敵の使い手だよって思う。
事実そういう奴らは怯まないので、こっちはそうなると最大火力を叩きつけて確実にダメージを与える以外方法がないんだよ。だって長引くと回復しそうじゃん?
他にも回避盾系のスタイルも結構厄介。イベントの時に『月光征流』教えたのもあって、当たっても受け流されるし。他にも遠距離メインなのに回避できる、防衛できる系プレイヤーも増えてきたため、以前のように瞬殺出来る相手は減り始めていた。
でもまだ全戦全勝だけどな! 流石に剣聖の名は伊達じゃないんだよ。
「アール! アタシも一戦お願い! 出来れば深く刻みつけて!」
「いやいやレイレイ? 勝つ気持ちで来いよ?」
「もちろん!! でも勝ったら付き合ってね!!」
「メス猫先に私が相手してやる。人に見せられない無残な姿に変えてやるからかかってこい」
「その言葉そっくりそのまま返すわ女狐。アールに見せられない身体にしてやる」
なんかいきなり女の戦いに発展したんだけど。うん。いつもどおりだな。
「ルーク。なんか食物ある?」
「羊羹ならあるよ?」
「アール。俺も食う。茶入れてくるから待ってな」
「頼んだー」
ルークもすっかりうちに馴染んだようで、リークとレイレイがおぞましい雰囲気で店の外へ行く中、のんびり羊羹を持ってきてくれた。目の色が死んでるような気がするのはきっと気のせいだろう。
それよりいつになったら限定シナリオとやらは始まるんだろうか? そもそも始まるのか?
日常といったな。あれは(半分)嘘だ。
模擬戦といえど、彼女であろうとも手抜きはしないアールさん。思う存分ぶっ転がしに行きますとも




