276:その頃の運営ルーム(人は少ないです)
まぁすくない理由ははい。皆向こうに行ってますので
ここは運営であるエクスゼウス社員がいつもいる電脳空間。しかし今日は少し静かである。
それもその筈、今ここにいるのは必要最低限の人員と、”向こうでの”役目を終えたスタッフだけだからだ。
「イテテテ・・・久しぶりに心臓貫かれるとやっぱ痛いわ」
発言内容がおかしいのはいつものことなので無視。そう言って痛がる仕草をするAだが、心臓のある胸を摩っていない右手では、凄まじい速度でコンソールに触れている。
「A先輩、そう言いながら結構な数殺りましたよね? しかもかなりスマートに」
「そりゃそうでしょ? 俺、初代モーショントレース部門一班の班長よ? そんな一週間程度頑張った彼らを一人も倒せないのは恥でしょ?」
「マジっすか? その話初めて聞いたんですけど・・・」
「あぁそっか。ZA君プラクロ運営始めてからウチ来たからあんまり知らないんだったね」
「えぇ、でも凄まじい動きですね。ほら今まさにB先輩とC先輩の共闘ですけど動きが別次元ですもん。また殺った」
モニターに映し出されているのは和服侍姿のBと、騎士甲冑に身を包むC。根本がまるで違う剣士の二人ではあるが、抜群のコンビネーションで目線だけでお互いの動きを合わせている。
第二フロアにやってきた参加者たちを、まるで雑草のように切り捨てていく。お互いに生まれる隙を埋め合って、攻め時を与えず、静かに相手を葬っていく。Aとはまた別次元での強さである。
「そりゃそうだよ。俺からLまでは生粋の戦闘民族よろしく動けるからね。伊達にモーションテスト部隊出身じゃないよ」
なぜここまで強いのか。何を隠そう彼らアルファベット一文字で呼ばれている社員は皆、『剣聖物語』を文字通り全ルートテストプレイを行っている猛者たちだ。
シナリオ作成からキャラ設定、流派の生み出しまでを自分たちが手がけ、そして実際に経験してきたのだ。弱いわけがない。
『進言します。私のことも忘れないで欲しいです』
「わかってるってアイちゃん。アイちゃんの頭脳があったからモンスターの生態を本当に生きてるように創れたんだよ後輩君」
そしてそんな彼らを生み出したのは、モンスター開発を行った、エクスゼウスの超AI。通称『アイちゃん』。人間の限界を理解し、尚超えさせようとするトチ狂っ・・・進化を促そうとしてきたその高度な頭脳もあり、社員も社長も満足する作品ができたのである。
「ちなみにM先輩から先の皆さんとX主任はどうなんですか?」
さっきLまではといったAの発言に少し疑問を持った後輩ZAはその先を聞きたいと思い口に出した。すると帰ってきたのは想像も絶する返答だった。
「獣」
「・・・はい?」
「人の皮を被った獣だよ。本能のまま戦うとたぶん俺とかは一分持てばいい方じゃないかな?」
「えぇ・・・」
「まぁそれでも『リアルハード』も『アフターストーリー』もクリアできなかったんだけどね〜? アッハッハ!!」
『発言します。最初はなぜクリアできないのに開発して搭載したのか訳がわかりませんでした』
流石超AIと呼ばれるだけはある。常識人ならばさも当然のように思う疑問である。しかし忘れてはいけない。彼女もまた、『剣聖物語』を生み出した一人なのだ。
「じゃぁ今は?」
『もっとやっても良かったのではと少し後悔しています』
「うっわ・・・」
正気のまま狂気を纏っているとはまさにこの事を言うのだろ、この時ZAは思っていた。
まぁそんな彼も、話を聞きながら、戦死した参加者の意識だけを収容している場所に猛獣を送り込んでお手玉でもするように遊んでいるので狂者である。
ちなみにこのお手玉だが、意味がないわけではない。一回空に上がるごとに何故かその意識を持つ参加者の空間認識能力が少し上昇するのだ。もちろん意識はないのでそのことに全く気づかないのである。
簡単に言えばこの行為は睡眠学習というやつである。ちなみに今お手玉されているのは先程やられた『ツムグリ』の意識である。いつもより多くお手玉しております。
他にも、サッカーをさせていたり、狂気じみていることをしているはずなのに、目覚めると何故か強くなっているという謎現象が起きる。
その収容された参加者は皆不思議に思ったとかなんとか。だが『まぁ強くなれたしいっか』と受け流してしまうのが『プラクロユーザー』のある意味狂気じみたエクスゼウスへの信頼の表れである。
「お、戦況が動いたね。チーザーネキを下げて何人かで耐えるみたい」
「ネキもかなり疲労してますからね。寧ろ今まで生きてるのが不思議なくらいですよ」
「なんだかんだ言いつつこの人本職が体力使うしねぇ。アールさんとの修行でより強くなったし」
「なるほど。ちなみに先輩? ネキが主演務める最新映画の初日公開チケットとかあります?」
「ない。でも社長にお願いしたら用意してくれるんじゃない? と言うかファンなの?」
「最新作のキャラ設定まんまチーザーネキじゃないですか。むちゃくちゃ見たいんですよ俺!」
「言われてみれば確かに」
『発言します。こういうこともあろうかとチケットの確保はできています』
「マジでアイちゃん!!?」
『しかし残念ながら公開日はZAさんの勤務時間と被っております。いかがしますか?』
「シフト調整よろしく!!」
『承知しました』
「決めるの早いねぇZA。ちなみにアイちゃん。他の人は?」
『未定ですが恐らく三名ほど出ると思います。Gさん。Pさん。Qさんが以前話していました』
聞く人が聞けば『今する会話かそれ?』というような会話をしているが、彼らの動きは一切落ず、寧ろ早くなっているかのようにも思える。
そんな彼らが話す中、メインモニターではついに攻略の糸口を掴まれたBとCが、増援でやってきた第二陣の参加者たちの手によって葬られていた。
――――◇――――
「・・・相棒・・・先に逝くぜ・・・大将によろしく頼むぜ」
「無理だな兄弟。俺ももう・・限界がちかいんでよ・・・」
BCの隙のないコンビネーションの中に生まれる唯一の隙を突き、分断に成功した参加者たち。しかしその代償としてかなりの人数が殺られてしまった。
そしてついにBと呼ばれていた男の腹を穿ち、ようやく必殺の一撃を当てることに成功したのだった。そしてCもかなりの量の血を流し、既に立てるような状態ではなかった。
「ハァハァハァ・・!! トンでもない強さじゃないですか・・・!!!」
戦況の打破に成功した参加者の一人、現実でもとある武術に精通している『雷華』も、全身に傷を負っており、これ以上の無理は厳しいものがあった。
普段から『エクストラモード』でプレイしていることもあり、彼女と同じように『エクストラモード』選択者にとっては、今回の環境はいつもとほとんど変わっていない。
故にここまでの苦戦を強いられるとは正直思っていなかったのである。無論、無傷で行くと思っていたわけでもないのだが、想像を超える疲労が彼女たちに襲いかかっていた。
相対した相手はまだ三人にも関わらず、既に50人を超える人数が志半ばにして倒れていった。勝てる物だとタカを括っていたわけではないのだが、想像を絶する相手の強さに飲まれてしまっている。
「なぁあんたら・・・どうせこのまま放置しても俺たちは死ぬだろうさ。だからどうだ? 俺の話ってやつを聞いてはくれねぇか?」
「・・・いいでしょう」
「雷華さんっ!!?」
「死を覚悟した者へ私たちができるせめてものことです。ですが妙なことをすれば即座に首を落とします」
「了解了解。交渉成立だ。って言っても言いたいことは一つだけだ。俺らを倒したからって調子に乗らないことだ。上に行けば行くほど強い奴らが待ってる。特に上に近い連中は次元が違う。文字通りな」
それは参加者たちにとってはある意味絶望への片道切符であった。今までの戦い以上の激戦、被害が上に行けば行くほど待っていると宣告されたのだから。
「ご忠告感謝します。ですけど少なくとも私は、必ず最上段へとたどり着いて見せます」
「へっ・・・ならその覚悟を最後まで・・・俺らの大将の所まで持って行ってみせな、嬢ちゃん」
そう言い残し、BとCの身体から力が抜け、地面に横たわった。その表情はAと同様に、満足そうに、優しい笑みを浮かべて死んでいった。
「見事な戦いでした・・・・・・総員、入口へ戻ります。これはチーザー紫さんより指揮権を受け取った私からの命令です」
そして彼らは先に待つ存在へ挑むために、一度撤退を選んだ。これから始まる激戦を乗り越えるために。
ただお手玉されて遊ばれてるわけじゃないよ? ちゃんと色々睡眠学習的なものされてるよ?
第三者から見たら確実にアウトだけど・・・
そして運営は変態で化獣だった。




