170:二つの刃の結末 Ⅳ
ラストスパート
一体どれくらいの時間が経ったのだろうか?あるいはどの程度しか時間が経過していないのだろうか?
刹那の時であり、悠久の時のように思えた戦いで、俺の体には数多くの傷ができた。血で濡れていない場所などもうない。
同じようにオーグも全身を血で染めあげていて立っているのも辛そうだ。
かくいう俺も血の流し過ぎと疲労がすごい。一度斬り合うだけで相当の体力を持って行かれ、神経をすり減らし続ける。
一撃を決めるために相手の動きを読み解き、先に仕掛ける。時にカウンターを狙うためにワザと斬らせて隙を作る。
少しでも塩梅を間違えれば簡単に死んでしまう戦いでは、思考と動作を同時に行いつつ、未来予想と行動予測を踏まえて戦い続ける。
ここまで来るともう我慢比べに近い。相手の実力を正しく把握して、自分に有利な状況へ持っていくのではない。
自分の方が格上だと相手に思い込ませつつ、本当にそれを成し遂げる戦いへとなっていくのだ。嘘を現実にするしかないんだ。
「『っ・・・!!!!』」
互いの刃が軋む音が聞こえた。打ち合う中、俺たちの愛刀が悲鳴を上げ始めたのだ。真化を打ち破れるのは真化のみ。そういうことだろう。
恐らくオーグも自分の刀がどういう状況かを理解したんだろう。静かに目をつぶり、現在の構えを解いて、いつか見た構えを取った。
俺もそれに応えるように鞘に収めた『真刀:戯』に手をかけて、構える。間違いなくこのひと振りで勝負が決まる。確信を持ってそう言える。
「礼を言う。いい戦いだった」
『こちらのセリフだ・・・良き戦いであった。もう悔いはない』
互いの強さをたたえ、そしてその言葉をお互いに受け取り、一歩前へ。これで互いまでの距離は必殺の間合いへと入り込んだ。もう後に引くことはない。先に待つのは勝利か、敗北か。それだけだ。
『真刀:戯』に想いを込めて、負けられない戦いへと挑む。隠すことなく俺は『十六夜天雷』にて体中に衝撃を巡らせる。
衝撃は雷にように光を帯びて体外へと溢れていく。同じく侍ゴブリンからも同じように雷が周囲の空気を揺らすように轟を上げる。
『ゴブリン七将が最後の一角。『侍ゴブリン』オーグ・・・この一太刀で全てを斬る』
「五代目剣聖アール。我が剣にて汝の刃を砕く」
静かに、しかし激しく増していく互いの覇気。風の音も人の声ももう何も聞こえない。ただそこにいる自分と相手だけが今俺たちの全てだ。
裏を読むことも、先手必勝であることも必要ない。ただの一太刀で全てを決める。勝敗はその先にある。
「超越流派抜刀術奥義」
『雷斬流抜刀技』
瞬間、お互いの力が最大限引き上がりその瞬間がついに訪れる。
「『真刀:天津雀』!!!」
『漆閃雷!!!』
――――◇――――
同時に放たれた刃はどちらも想像通り鞘に戻ることはなかった。それは二つの刃が交わり会った瞬間の衝撃によりその刀身が持たずに砕け散ったのだ。
一つの刃は敵を切り裂き砕け散る。
一つの刃は振り切った後に折れていった。
あの時と同じように、だが今度はゆっくりとずり落ちる俺の左腕。血は噴射することなく、ただ静かに流れ落ちる。
『・・・・・』
「・・・・・」
痛みで叫びたいなかで、相手は声を上げることなく、この戦いの行く末を感じ取り。
「ガンテツさん・・・悪いな・・・折っちまったよ・・・・」
遺産である『真刀:戯』はその刃が折れてしまった。
だが、その役目だけは、勝利するということだけは俺に遂げさせてくれた。そしてただ一言だけ言葉を発する。
「借りは・・・かえすぜ・・・?」
『見事・・・・・・・・・ガハッ・・・』
俺の刃は、『真刀:戯』は・・侍ゴブリンの胸を大きく切り開き、侍ゴブリンは大きく倒れていく。
侍ゴブリンの刀は俺の左腕を切り落とし、大きく後ろへとふらついていく。わずか一瞬の攻防のなか。勝利したのは俺だった。
「アール!!」
『主!!』
互いの見届け人が俺たちのもとへと駆け寄り手を差し伸べる。ずり落ちた腕を拾ってくれた誰かがその腕を切り口に合わせて接合してくれる。
回復もさせてくれそうだったが、その時間が惜しかった。手で制し一番近くに来てくれたリークの肩を借りた。
「悪い・・・奴のところまで頼む」
「うん」
リークの肩を借りて俺は倒れたオーグへと向かい足を進める。オーグはその忠臣たちに囲まれており、その命は風前の灯の灯火だった。
俺に気づいた忠臣たちは俺と侍とが会話ができるように左右へと分かれてくれた。心臓へと刃が届いたために溢れ出る出血。長くはないだろう。
『あぁ・・・実に・・・・・・実に良い戦いであった・・・・・・』
その表情は慈愛に満ちているように優しい顔だった。
「俺の勝ちだ・・・・」
『そうだ・・・我の・・・敗北だ・・・・・・』
憂いはない。その瞳は確かにそう告げていた。全てを出し切った。後悔はない。侍は満足そうに笑っていた。
『陛下・・・我は・・・この命を持って貴女への忠義を・・・受けた恩義を・・・同胞の反逆に対する・・・貴女への忠義を・・・・・・示させてもらいます・・・・・・・・・』
誰がどう見ても満足して死んでいく奴の姿がそこにはあった。そうしてオーグはその息をゆっくりと引き取っていく。
――――◇――――
「満足そうで悪いが、死んでもらうつもりはない」
取り出したポーションを侍の傷口に叩きつける。一瞬の出来事で何が起きたかわからない周囲の人々と忠臣であるゴブリン達。
ポーションはゆっくりと傷口を塞いでいき、失った血液を補填していく。力なく閉じられていった瞼に再び力が宿り侍は目を開いていく。
『・・・・どういうつもりだ?』
死ぬはずだったオーグは驚愕しつつ、同時に侮辱されたと感じたようで怒りの感情を隠しきれていなかった。
そうだろうさ。今俺がした行為はお前の覚悟に対する侮辱だったんだ。けどな。このままどっかに行かれるのは困るんだよ。
「そのままの意味だ。死んでもらうつもりはない」
騒然とする広場にて、俺はこの思いを侍へと叩きつける。
「まだ俺とお前は1勝2敗。俺の負け越しだ。勝ち逃げなんて許すかよ」
そうだ。俺はこいつに二度負けている。例えどんな理由であろうともその事実は変わらない。負け越しで勝ち逃げされて堪るものか。それに俺は一度見逃されている。ならこれで貸し借りなしだ。
『・・・ふ、馬鹿な人間だ』
そう言いつつ、呆れたように笑みを浮かべながら、忠臣たちの手を借りて立ち上がるオーグ。そして俺の前に立ち、その右手を差し出してくる。
『良き戦いであった・・・次は我が勝つ』
「上等だ。あと二回勝って勝ち越してやるよ」
その手を握り返し固く握手を交わす。後ろの方でマリアーデとアアリーがくすくすと笑っている声が聞こえる。
この場に同席したプレイヤーも、忠臣ゴブリン達も何が起きているかははっきり把握できていないのかもしれない。ただ確かなことは今の勝負の中で、そして今のやり取りの中で俺と侍との間に何かがあるということだ。
やがて思わず笑い出す者。拍手をする人が増えていき、忠臣ゴブリン達もやれやれと首を振りながらも大きな手を叩きながらこちらに笑いかけていた。
――――◇――――
『最後の戦いは最初の戦いに決着をつけるものだった。二つの刃は混じり合いそして砕けた』
『だが砕けた刃の先に生まれたのは人とモンスターとの友情』
『人はゴブリンの強さを称え、ゴブリンは人の強さを称えた』
『生まれるはずのなかった物が、戦いの中で生まれたのだ。これこそ人が持つ可能性の一つ、歴史が生み出す可能性の一つなのだろう』
『時間は掛かるだろう。すぐに変わることはないだろう。お互い多くの人が死んだ。仲間が死んだ。大切な人が死んだ。その傷が埋まることは決してない』
『だが乗り越えることは出来る。それを歴史は証明している』
『今ここに新たなる星の歴史が紡がれた』
――――期間限定イベント『剣聖の遺産と子鬼たちの侵略』ラストシナリオ『二つの刃と結末』終了
――――全プレイヤーに通達『剣聖の遺産と子鬼たちの侵略』クリア
――――侍ゴブリンとの一騎打ちにアールが勝利により、ゴブリン七将全てを撃破
――――特殊パターン:『侍ゴブリン』が生存したまま勝利条件をクリアするを達成。
――――侍ゴブリン生存により新たなる街『モンスターが統治する街ゼアリート』の存在を確認。
――――侍ゴブリンが忠臣ゴブリンと共に時折エーテリアの町を訪れるようになる。
決着!!!
感想お待ちしています。




