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169:二つの刃の結末 Ⅲ

持てる全てをぶつける戦いです。


タイトルに関してご意見いただきまして、掲示板のある回に(◇)を表記しました。大丈夫だとは思いますが、もし抜けている回がありましたら教えていただけると嬉しいです。


大丈夫だとは思うんですけどね・・・ホント申し訳ないです

一歩ずつ歩み寄っていけば、侍ゴブリンも従者たちに何かを伝え、一人こちらへ向かって歩いてきた。



改めて見ると体格は俺よりも少し小さい程度。ほとんど人間と変わりのない姿。ほかのゴブリンとは全く違う立ち振る舞い。にじみ出るオーラは人を釘付けにするものがある。



互いの距離が3m程度になったとき、何かを示し合わせたわけではないが、お互いに足を止めていた。



「久しぶりだな、侍ゴブリン」



『・・・・・』



侍が無言だった。相変わらず寡黙なやつだ。こいつが話せるのは以前聞いているしこういう時は何か言って欲しいと思うのはわがままだろうか。



『・・・同胞が済まなかった』



「・・・・・・そうだな。大変迷惑だったよ」



思っていた以上に流暢に言葉を話せるんだな。それにしても第一声が謝罪だとはな。偏見だが、ゴブリンに謝罪などする心があったのかと思ってしまう。だが目の前で起きていることが事実だ。古い考えと偏見は捨てよう。



『奴は生命として超えてはいけない一線を超えた・・・心から謝罪する』



会釈する様にではあるが、コイツは確かに頭を下げた。もちろん、それで許されるようなことではないし、許すつもりもないだろう。誰ひとり今後学者ゴブリンを、ひいてはゴブリンという種を許すとは言い難い。



でも。



「その謝罪。俺は受けるよ。祈って欲しい。殺された彼らのために」



刃を交えたことがある俺だけは、世界でただ一人の人間だとしても、その謝罪を受けたいと思った。俺のわがままだ。



ゴブリンであっても死んだ人に対して誠意を見せてくれる。それが死者に対する生者の誠意だと思うから。



『・・・・・・』



そのまま黙祷を捧げ、侍ゴブリンは俺に無防備を晒す。やろうと思えば簡単に首を落とせてしまう距離。でも俺が動くことはなかった。



『・・・・・・』



やがて長い沈黙を破るように侍ゴブリンが頭をあげた。甲の奥から見えるその眼に宿る力強い目線。真っ直ぐに俺を捉えるその目は、ある意味俺が思い描いていたものだった。



「お前との戦いがすべての始まりだった。お前に負けたあの日を、俺は忘れたことはない」



『貴殿との戦いは我の心を躍らせた。長年感じたことのない高揚。戦いを思い出した』



「お前に勝つためだけに。出来る全てを、その時の俺にできる全てをやってきた。出会いも別れも、怒りも悲しみも全部。俺を強くした」



『再び貴殿の前に立つ時に、不甲斐ない我を見せぬ為に、奮い立った心のままにこの刃を振るい続けていた。』



互いに互いがしてきたことを自分に、そして相手にしっかりと教えるように紡いでいく。



「『全てはこの時のために』」



プラネットクロニクル最初の好敵手であり、苦渋を飲まされた相手だ。忘れるわけがない。勝ちたいと思うさ。名前じゃない。肩書きでもない。俺という人間がそう強く思い続けていたんだ。



「第五代剣聖『アール』だ。だが今は貴公との戦いを望む一人の時代人だ」



『我は女王陛下よりゴブリン族総括『ゴブリン七将』を承ったモノ。侍ゴブリン。名を『オーグ』。だが今は貴殿との戦いを望むただのゴブリンである』



侍ゴブリン『オーグ』か。初めて聞いた侍ゴブリンの本当の名前。もしかして他の七将にも名前があったのかもしれない。



でも、それを尋ねるのは今じゃない。それに野暮だ。



「我が愛刀『真刀:戯』。亡き鍛冶師ガンテツが生み出した刀でオーグ、貴様を切る」



『愛刀『雷咆丸』。陛下より賜った雷のごとく唸る刃。貴殿・・・アール、お主を切る』



これがお互い本気で”本当の戦い”だ。伝えるべき言葉はもう伝えた。これ以上言葉は不要だ。次に言葉を交わすとき、そのときはどちらかが敗北した時だ。



次の瞬間。言葉なく、合図もなく、俺たち二人は同時にその刃を繰り出した。





――――◇――――



その戦いは私たちの言葉を失わせるのに十分だった。アールとマリアーデさんの修行もとんでもない戦いだったけど、それはあくまでも“修行”の領域だったんだって思い知った。今繰り広げられているのはそれとは別の次元にあった。



侍ゴブリンとアールの戦いは。お互い言葉を何度か交わしたあとは無言のまま斬り合いを始めたんだ。抜刀と斬撃を繰り返し、時につばぜり合い、時に目には見えない斬撃で火花を散らし続けた。



アールの腕から血が出たと思えば、侍ゴブリンの甲冑が破裂してその中にあった腕から大量の血が流れている。



片方が血を流せば、もう一人も血を流している。そして打ち合うたびにその斬撃は目で追えなくなっていく。



もう以前アールが使った『血涙雀』のレベルじゃない。でも天津雀ほどの速さはない。私を含めたプレイヤーの多くが、その戦いを見るために『AS:視力強化』をつけているからこそギリギリ追える。



けど既に二人の剣がぶれ始めているし、音も遅れて聞こえ始めた。まるでスローモーションを見せられているかのように残像の刃がぶつかり合い、居合い切りを繰り返す二人の間を火花が飛ぶ。



以前よりもお互いに動き回りながら対峙する姿は、それこそお互いの本気だということが感じ取れた。そして、その戦いを見て、誰もが息をすることすら忘れてその戦いに魅入られていた。驚きとかじゃない。少なくとも私は感動していたんだ。



戦いを見ることに集中しているからこそわかるものがあった。戦い方の完成形とでも言うべき姿を、アールの戦いに感じたんだ。



私は正直なことを言えば、アールはずっと遠い場所にいるとばっかり思っていたけど、そうじゃなかったんだ。



確かに三流派は次元が違う動きと結果を生み出すものだ。ずっと三流派を使えるからこそアールは凄いんだって思っていた。”それだけじゃなかったんだ”



その動き一つ一つは、何の変哲もない、誰もがするような戦闘での動きだったんだ。それこそ、格闘ゲームのチュートリアルで繰り出すような技や動きだ。やろうと思えば初心者だってできてしまう動きだった。



こうして本気の、全力のアールの戦いを見ればそれがよくわかる。独特な動きも、特別なこともしていない。私たちがよくやる動きや間合いの取り方。それをいくつも合わせながら、組み立てていく。そこに三流派を最終地点に置くことで一つの技とする。



アールの本当の強さは三流派が使えることなんじゃない。それも含めて一つ一つの動きが凄まじい練度を誇っていることだったんだ。それは日々の積み重ねが作り出した完成した戦いの姿なんだって、そう思った。



特別ではあるけど、誰にだって可能性がある。それはつまり、アールの領域にたどり着くことは不可能じゃなかったんだって教えてくれた瞬間だった。



素人でも玄人でも歴戦の勇者でも新米勇者でも。極めればどこまでも行ける。どんな強い奴相手でも通用するんだって、アールがこの戦いを持って教えてくれてるんだ。



たくさんある引き出しの中で侍ゴブリンとの戦いのために開けた引き出しは観戦していた私たちの目を釘付けにして、同時に新しい目標を見せてくれた。



――――肩を並べて戦いたい。



少なくとも私は、心の底からそう思った。同じ領域にたどり着いて一緒に戦いたい。それが不可能だと諦めかけていたけど、そうじゃなかったんだって知ったから。



「この戦いを見る全ての者よ。この決闘をその胸に刻むのだぞ?」



「マリアーデさん・・・・」



「あれこそが常人でありながら人を超えた者。世界を二度も救った男の姿、そして戦う者たちが目指す頂きに君臨する『五代目剣聖』の戦いだ」



「・・・・アール・・・」



「一歩進むごとに進化し続ける。現在の自分に満足せず、諦めず、敗北や死すらも糧とする。常に進み続ける者だけが見せることが出来る世界だ」



本当にその通りだ。前にお義母さんが『励久は諦めることを知らない。努力の天才』だって言っていた。誰もが諦めたリアルハードモードクリアの為に現実の時間すら使う。ゲーム内でも何年もの時間を過ごし続けた励久。



たった一つの目的『リアルハードモードクリア』の為に出来る全てを何度も何度も繰り返してきた。



その結果がこれだ。自分の為にやってきた全てが、こうして第三者である私たちを魅了している。誰かに見せる為に磨き上げたわけじゃない。



でも、その磨き上げたすべてが私たちを魅了する。私はこの瞬間を見逃しちゃダメだって思うから、ただずっとアールの姿を眼に捉え続けた。




――――◇――――




「ッアァァッ!!」



『ォォオオッ!!』



言葉なく俺たちは互いに剣を振るう。以前のような居合い切りだけではない。持てる全てを今繰り出している。



一歩踏み込み『真刀:戯』を横薙ぎに振り払えば、侍ゴブリン『オーグ』はその軌道をズラす最低限の剣戟でそれを弾く。



そして生まれた隙を逃さずに突きを繰り出し、俺の心臓を穿つ一撃を放つ。その瞬間に『月黒』でその動きを加速させ体の軸をずらし回避。



軸足を左右逆転させ、左拳を握り勢いそのままにオーグの後頭部目掛けて『水無月写鏡』を叩きつけるように繰り出した。



すると奴はそれを読んでいたようで、突きの勢いを利用してそのまま俺の真横を通り過ぎていく。その際、刀を一度鞘に戻し、抜刀の構えを取っていた。



悪いがこっちもそれは予測済みだ。右手の『真刀:戯』を逆手に持ち替え、自分の腕の薄皮を切りながら鞘に納刀。薄皮を切った際に出た血が刃に通ったのを感じ取りながら、抜刀の構えを取りながら一気に距離を詰めていく。



『雷咆・・・!!』



「『血眼雀』ッ・・・!!」



互いに間合いに入った瞬間は同時。現在可能であるトップスピードでの居合い切りは互いの胸に多少のキズをつけるだけで終わった。



だが互いにこれでは終わらない。



『雷咆:激唱ッ!!』


「『血眼都燕』!!」



激しい斬撃音が周囲の空気を切り裂き五月蝿いくらいに耳を揺らす。互いが互いの剣戟を撃ち落としていくが、それでも全ては撃ち落とせない。だから致命傷となりうる一撃に重点を置いて、それ以外のダメージとなりうる攻撃は甘んじて受ける。



互いに繰り出している奥義は似ている。抜刀・刃に血を乗せながら納刀・再び抜刀を繰り返し、ただ『相手を切る』ことだけを考えて刃を振るい続ける。



血により金属の摩擦を殺し、抜刀の速度を上げる『血眼雀』、そこへギンが生み出した『都燕』を取り入れつつ、荒々しくも確実に、そして最低限の負傷で済むように改良した『血眼雀』の改良版『血眼都燕』。



速度は申し分ない。以前は惜敗した侍相手に十分戦えている。だが、オーグ自身も以前よりも強い。あの時よりもずっと強いんだ。



「・・・!!!!!」



『・・・!!!!』



あぁわかるとも。楽しいよな。すごく楽しいさ。この戦いの中では俺たち以外に誰も”必要ない”んだ。どちらが強いか。それを決める為だけに戦っているんだ。



この戦いは、少なくとも今だけは”俺の戦い”だ。俺が望んだ戦いだ。敗北したあの日からずっと望んでいた戦いを今しているんだ。楽しくないわけがないじゃないか。



打ち合いの最中で大きく後ろに飛び、腰に携えていた鞘を左手に持ち二刀流のように構える。その時に鞘の中へと飛び散る血を吸い込ませるように飲み込ませていく。



するとどうだろう?オーグも俺に合わせるように、鞘を抜き構えた。俺と同じ構えではないけれど、やろうとしていることは全く同じだった。



互いの鞘の中には血が満たされている。その血が満ちた鞘へと互いに刀を納刀した。そして体中にあった衝撃を開放し、一気に解き放つ。



「『朱月雀』!!」



『紅雷咆!!』



原理は簡単だ。要はウォーターカッターだ。血で満たされた鞘から抜刀し、飛散する血を刃に変えて距離のある相手に向けて繰り出す斬撃。



初月雀と違うのはそこに質量があるか無いかだ。そして質量がある分、その切れ味は比べるまでもない。



それぞれの斬撃が十字に交差するように放たれて俺たちの中央でぶつかり飛散する。飛散した血飛沫はそのまま槍のように飛び、互いを傷つけるだろう。



だからお互いに血の槍を切り裂き切り壊す。その血を再び鞘へと流し込み、納刀からの抜刀で、第二第三の斬撃を飛ばし続ける。



もはやどちらの血が多く流れているのかなんてわからない。だが、お互いダメージは確かにある。完全に回避をするくらいならば多少のダメージは覚悟で相手を切る。



肉を断つために、自分の肉を断ち、骨を断つために骨を捧げる。もはや我慢比べに近い状態だった。でも、だからこそ負けられない。コイツだけにはもうなんとしても負けないと決めたから。






以前のように居合い切りだけで勝負は決まりません。けど、お互いにそれを支点にして戦いを繰り広げています。


つまり・・・そういうことです。


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