164:師弟Ⅲ
アールとマリアーデの話
もうしばらく1話更新です
「ところで聞いたぞ?お前負けたそうじゃないか?」
「・・・なぜ知っているし」
誰だ侍との試合結果マリアーデに教えやがったの・・・・たくさんいるからわかんねぇ。
「しかも『血涙雀』を使った上で負けたと聞いたぞ?以前使うなら必ず勝てと言ったはずだが何かいうことはあるか?」
「も・・・申し訳ありませんでした師匠・・・・」
「全く・・・あの技は後に大きな後遺症を残す技だと言ったはずだ。今のお前は時代人として転生したこともあるから常人よりも頑丈にできているとは思うがそれでもだ。一か八かの賭けで使用していい技ではない」
「返す言葉もございません・・・」
名前までバレテーラ。でも仕方ないじゃん。あの場での俺の実力じゃ『血涙雀』が最高の技だったわけだし、侍相手に対抗できそうなのがもうそれしか無かったんだ。
今でこそ『十六夜天雷』の精度が上がり、体が追いついてきたからいくつか対抗できそうな技があるけど。それでも一体どうなるか俺でもまだわからないんだ。
っと、言っても無駄なのはわかっているし、約束を守れなかったもの事実だ。話をこじらせる理由にはならないよな。
「・・・・・・」
「し・・・師匠?」
無言のままマリアーデが俺の両肩から手先にかけてフニフニと触っていく。なんか擽ったいのだが、そう言えるような雰囲気ではなかったので黙っている。
「愚か者・・・心配を掛けさせるではないわ。無事なのだな?」
「・・・・・・はい。大丈夫ですよ。仲間のおかげで直ぐに治療してもらえましたから」
「お前の腕は余の腕と言っても過言ではないのだ。もしお前が二度と剣を持て無いようになってみろ・・・泣くぞ? 周囲のことなど気にせずに大人げなく大泣きしてやるからな?」
「・・・すみません。ありがとうマリアーデ師匠」
心の底から心配してくれているんだ。ギュッと腕を取る手に力が入っていた。でも痛みはなく、優しい強さだった。師匠に泣かれると弟子としてはどうしていいかわからないから勘弁して欲しいよ。
「解かればいい。だが今までの反応でお前がどうして三代目“程度”に苦戦したのかハッキリしたぞ」
「いや三代目“程度”って・・・程度って奴じゃないでしょうに」
俺が言うのもなんだけど三代目の実力は間違いなくトップクラスだし、俺単体では倒しきれないんだぜ?三つ巴の時だってディアを差し向けるように誘導してディアに始末してもらったくらいだし。
「余の眼を疑うのか?」
「いやそうは言いませんけど・・・だって三代目ですよ?」
「お前が完成させた『鏡雀』系統の最終形態『天津雀』。あれが使えるならもはや三代目などひと捻りだ。例え生きていたとしてもあれを真似ることだけは余にしか出来んよ」
マリアーデが出来るのは全く違和感ないし、むしろ俺以上の実力あるんだからそれは当然だとしてだ。どんな奴だろうと三代目は天才だぜ? 見稽古とでも言うべき学習力があれば追いつかれても不思議じゃないし。
少なくとも今の俺以上の実力者相手にその程度と言えるのはマリアーデとアアリーくらいだろうさ。
「ふぅ、お前の良い所は目標の高さであるが、時折それが欠点だ。自己評価が低すぎるのだ。仕方がない」
「マリアーデ?」
「余の唯一の弟子アール。お前はもう昔のお前ではないのだ。もうお前は強いよ。力だけではない。その心も、気高い誇りも。誰よりも強い。自分の為に誰かを救える。自分で選び、誰かを救う悪になることができる。自分の心を苦しめているとしても、自分で決めたことを最後まで貫く強さをお前はもう得たのだ」
「っ!!?」
呼吸をするのも忘れる程に、その言葉が俺の感情のダムを揺さぶった。
「だから胸を張れ。邪神を滅ぼしたお前は紛う事なき剣聖なのだ。そして余が認めたたった一人の弟子でもある。余はお前という弟子を持ったことを誇りに思う」
「っ・・・・!!! ひ・・・卑怯っすよ・・・こんな時に・・・!!!」
泣くんじゃない。泣いたらきっと止まらない。我慢しろ。嬉しい言葉なんだ。他の誰にでもない。俺の師匠に言って欲しかった言葉なんだ。笑え。笑って喜ぶんだ・・・!!!
「だから、今だけは泣いて良いぞ? 強者の涙を見てやれるのは強者だけ。そして弟子の涙を拭うのは師匠の役目だ。」
「う・・・うぁ・・・ああ・・・・あああああああ・・・・!!!!!!」
気づけば俺は椅子に座るマリアーデに縋り付くようにして涙を流していた。抑えていた気持ちが溢れ出てくる。我慢ができなかった。
喜びが体のそこから溢れてきて、絶対に誰にも見せてはいけない涙を、恥なんて考えることなくただただ流し続けていた。
「殺したくなんてなかった・・・!!!! 大切な人達だったんだ・・・!!!! 俺の弟子の大切な人もいたんだ・・!!!! 皆の大切な人達だったんだ・・・!!!!!」
「・・・そうだな」
「でも・・・!!! でも俺のせいでこうなったんだから・・・・俺が・・・おれがやるしかないとおもったんだ・・!!!!!」
「そうか」
「今だって怖いんだ・・!!! 皆が俺を見る目がいつか怒りと憎しみだけになるんじゃないかって・・!!! そうなったら俺は・・・・俺は・・・・・」
「大丈夫だ。例え世界が敵になったとしても、余はお前の味方だ。余だけではない。お前の為に世界を敵に回してくれる人は沢山いる。だから・・・心配せずに今だけは泣いてしまえ」
そこからの俺の記憶はない。ただただ泣きながら、心の中身を全部吐露していたことだけはわかるんだけど。一体どんな風に伝えたのか。それを知っているのはマリアーデだけだった。
――――◇――――
「スッキリしたか?」
「ウッス」
「いい顔つきになった。もう大丈夫だろう?」
「おかげさまですっかり快調ですよ」
全部吐き出してしまえば思った以上にすっきりしていた。心のつっかえが剥がれ落ち、綺麗になった感じだ。
あぁ、本当にこの人には敵わないなぁ。
「さて、では次に移ろう。アール、そっちへ行け」
「え?あ、はい」
ベットの後ろに追いやられるように移動するとマリアーデが枕を投げ捨てて、枕があった場所に膝をおいていた。いやいや?一体何するの?
言っとくけど致したりはしないからな?流石に浮気認定されるだろうし。
「ほれこい。膝枕という奴だ」
ぽんぽんと膝を叩いて俺に来いと言ってきたマリアーデ。いやなんで? そのお誘いはとても、非常に、滅茶苦茶嬉しいことですけどね?でもなんでいきなり?
「どうせ満足に寝ていないだろう?お前は膝枕で寝ている時が一番気持ちよさそうに寝るからな」
「っんなぁぁんっ!!?!」
何それ知らない!!? と言うか何時俺が膝枕なんてされたんだよ!!? 記憶では膝枕なんてされた覚えがないぞ!!?
「知らんかっただろう?」
「知るか!!? と言うかされたことすらないだろう!!?」
「あるぞ? 勝手にしただけだがな? 随分と気持ちよさそうに寝ていたぞ?」
「いつ!!?」
「邪神封印後に泣きベソをかいた時があったであろう? あの時だ」
「あ・・・あああああああ!!!!?!!?!?!」
待って!!? いや確かにあの時は大泣きしてそのまま寝ちまったけども!!? 確かに寝起きスッキリして妙に体が軽いなぁとか思ったけども!!? いやあの時俺二日くらい寝てたんだぜ!!?
「ふっ、起きる瞬間に元に戻したからな。気づかんかっただろう? フリルとリーラの奴にこっそり教えておいたから時々やっていたはずだ。気づかれんようにやるのがコツだと教えておいたからな。お前知ったら二度とやらせんだろうし」
「当然だ馬鹿!! んな恥ずかしいことさせるか!!?」
と言うか確かに何度か滅茶苦茶寝起きスッキリで体が軽い時があったけどそういう理由だったのか!!? 俺の知らない内に膝枕なんてすんばらしいイベントが発生していたのか!!? 畜生!!! いやそうじゃなくて!!?」
「という訳でこい。と言うか強制だ。さっさと寝ろ」
「むごっ!!? マリアーデ痛いっ!!? そんなことされたらぁぁぁ〜〜」
なぁにこれ気持ちエェ〜・・・女性の膝特有の柔らかさとでも言うのか?すんげぇ柔らかいしなんかいい香りするしなんじゃこれぇ〜〜・・・・
「あぁ〜〜」
「心配せずとも嫁には借りると許可を得ている。満足するまで寝るがいい」
あぁ〜〜心が体が溶けるようにねむってしまZzzzzzzzzzzzz・・・・
――――◇――――
「ふっ、相変わらずチョロいな。一発で寝てしまったな」
「Zzzzzzz」
「無理な体の鍛え方と心の疲労、休み不足だ。全く、この調子ではまだまだ心配で目が離せんなぁ」
「ZzzzzzzZzzzzzzz」
「お前は頑張っているよ。さっきも言ったが、お前は余の誇りだ。お前のことが正しく世界に伝わるならば余はお前のために剣を取る。お前に”二つの記憶”があるとしてもな。魔剣聖として生まれていても、剣聖として生まれていても。お前だけが余の弟子だ」
「Zzzzzz・・・・・・・・・」
「お前の為ならば余はこの命を捧げてやる。魔剣聖になるならば敵として立ちはだかり超えるべき壁になろう。剣聖であるならばお前のために腕程度くれてやる。お前という存在が、余になくてはならない大切な弟子なのだよ」
「ZZZZzzzzzz」
「寝て起きたらまたお前の為に余は動こう。だから今はゆっくり休めよな」
師匠は弟子のことならなんでも知っているのです。
時空すら超えて知っているものですよ。
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