165:師弟Ⅳ
アールとマリアーデの話はまだまだ続く。
「うっそだろ・・・・」
スゲェ体が楽。しかも思考回路もすっきりしてる。凝り固まった肩もすごく動くしなんだこれ。今までより数倍動ける自信あるぞ? 寝起きスッキリってレベルじゃない。マジで体の付き物全部落ちた感じだ。なんだこれスゲェ。
「寝坊助め。まぁ存外に可愛らしい寝顔が見られたので良しとしてやろう」
「あああああああああああああ・・・・・・・・・恥ずかしさと感謝とが入り混じるなんだこれぇ・・・・・・」
でも実際寝起きスッキリ体万全、しかも幸福感大量だから否定もできん・・・自分で顔が赤いのがよくわかる。多分耳も赤い。あー熱い熱い・・・・と言うかにもう朝なんだな。数時間しか寝てないとは言えここまで回復するなんて。ウィンドウを見て時間を見れば・・・・え?
「あのー?マリアーデ師匠?おれ・・・二日寝てました?」
あれぇ?おっかしいぞぉ?時計を見れば二日ほど経過してるんだけどぉ〜?気のせいかなぁ?
「寝ていたな。気持ちよさそうに寝ていたぞ?それはもう子供のようにスヤスヤとな」
「も・・・申し訳ございませんでしたぁっ!!!!」
やることになるとは思わなかったよトリプルアクセル土下座!!流石に二日もずっとこのままってことはないだろうけども!!だとしても新ギルドマスターの時間を二日もらった上に膝枕だぞ!!?
嬉し恥ずかしと言うか!!! 流石に二日も寝てたら誰か気づくよn・・・っ!!?
「察したか。その顔を見れたから良しとしよう」
「っっ!?!?!?!?!?!?」
あるとすれば掲示板・・・どこかにあるはず・・・・お・・・・終わったぁぁああああ!!!!!
そこには、ばっちりマリアーデの膝枕で気持ちよさそうに寝ている俺が写っていた。しかもプレイヤーが代わる代わる俺と写真撮ったり撫ぜられていたりしてる。
しかもばっちりリークまで写真上げてご満悦そうにしているものまである。アカン・・・これはもう。
「もうダメ・・・お婿に行けない・・・・」
「嫁いるであろう?」
それとこれとは話が違うのですよ・・・・・うっわ・・・見てこれ。剣聖オネムモードとか完全にイジリに来てやがる。
剣聖、師匠の膝の上で熟睡とかも書いてるし・・・これ俺とマリアーデの師弟関係バレとるやん。なんかあれば絶対に言いつけるつもりだ。秘密を握られた夫の気持ちがわかる気がする。
あぁだめ。夢なら覚めて欲しい。
「ほれ、いい加減に諦めて下に行くぞ。余にも仕事があるからな。二日分片付けなければならん」
「わちょ!? 引きずらないで!!? 自分で歩きますから!!?」
――――◇――――
「おはようアール。良く眠れたみたいだね」
「お・・・おはようございますリークさん」
浮気現場を見られた男の気持ちが今ならよくわかる。笑顔だけどすごく怖い気がする。おねがいだれかたすけて・・・
「別に怒ってないよ? ちょっと嫉妬はしたけど」
「本当に申し訳ありまs「土下座はいいよ? しないでね?」・・せんでした」
「だから怒ってないってば。そんなことよりご飯食べよ? 私の好みだけど大丈夫?」
「はい。ありがとうございます」
ギルドでは街の修復依頼の受注や新体制による動きの準備がいたるところで行われていた。そのギルド内のテーブルの一角に座っていたリークに呼ばれて俺はこうしてやってきた。
食べていたのは古き良き日本の朝食と付け合せにうさぎさんカットにされているりんご。二人前くらいだろうか。
「いただきます」
「うん。いただきます」
リークは待っていてくれたみたいで一緒に朝食を取る。うん。焼き魚うまい。俺たち以外にも数人朝食を食べているプレイヤーにNPCが多くいるが、大体みんなしてこちらを見ている。
と言うかなぜ写真が手に握られているんだ・・・・・予想はつくけど。と言うか現在進行形で恥ずかしさがマックスです。恐怖も含めて。
「アールもしかして悪いと思ってる?」
「まぁ・・・そりゃ・・・はい」
「ムフフ・・・じゃぁ今度から寝るときは私の膝枕で寝てね?」
「い゛ぃ゛!!?」
「むっふっふ〜どうするかね?恥ずかしさと嬉しさとか混じり合うでしょ? マリアーデさんに教えてもらったんだよ? こうしたらアールは絶対に普段見せない顔を見せるって♪」
顔アッツ!! 思い出しちまったマリアーデの膝枕の破壊力と心地よさ、あと俺のその時の思考回路の低下が全身を駆け巡るっ!!
でもリークの膝枕!! すげぇしてもらいたい!!! けどあんな俺を見せるのは恥ずかしすぎるっ!!?
「うん。なら逃げ道をあげるね? これはアールに対する罰なの。だから仕方ないんだよ?」
「む・・・・むむむむぐぅぅ・・・!!!!!」
「さぁ? どうするのかな?」
「つ・・・謹んで・・・お願いします・・・」
「よろしい♪」
――――リークさんの膝枕っ!!?
――――美女の膝枕だとっ!!?
――――マリアーデさんなんて超絶美女に続いて彼女からの膝枕なんて・・・爆発しろぉ!!!
――――嫉妬で人を殺せたら・・・・!!!
――――そうしたらマリアーデさんとリークだけじゃなくてギンちゃんにコヨミさん。レイレイに死んでも殺されるな
――――ちきしょう!!!
――――英雄色を好むとかこの事かっ!!
――――寝顔写真もっと買って世界中にばらまこうぜ
――――異議なし
「おぉいこら!!?寝顔写真バラマキとかやめろォ!!?」
タダですら恥ずかしいのにそんなことされてみろ!!? 表歩いてたら指さされるじゃねぇか!!? 今でもそうなのに変な噂まで流されたら流石に泣くぞ!!?
「ちなみに一枚20000Dで皆買ってくれるよ?」
「っ!!? 犯人貴様だったのか・・・・!!?」
「いい商売だったぜ」
「おのれ孔明・・!!!」
まさか目の前に犯人が鎮座してるとか・・・・しかもリークだから強く出れねぇ・・・これがゴリラかルークあたりだったら遠慮なく行けたのに・・・これも絶対マリアーデの差金だろっ!!?
「話戻すけどね? アールってマリアーデさんの愛弟子だったんだ?」
「納得は行かねぇけど戻そうか・・・本人からも聞いただろうけど恩師だよ。今の俺が出来たのは全部マリアーデのおかげだよ」
「それが本当にびっくりなんだよ。マリアーデファンがどう頑張っても出来なかったある意味偉業だよ?しかもマリアーデが全流派習得済みな上に超越流派の大本を作った人なんでしょ?」
まぁ普通にやるならマリアーデの所あんまりいかないし。しかも口調結構キツいし。逆にそれがいいってコアなファンがこぞって弟子入りのために頑張っていたらしいけど全滅してたな。
あの師匠こっちの傷グリグリ遠慮なく抉るからそういのが好物の奴でもなければ耐えられないんじゃないk・・・いや俺は違うかなら!!?
「リアルハードクリアのために無我夢中だったからな。ぶっちゃけそこでやり直し繰り返したのが一番多かった」
何度も言うがクリアできたのは全部マリアーデに弟子入りができたという奇跡があったからこそだ。そうでなければいつかクリアできていたとしても、今よりも大分先のはずだ。
諦めはしないけどそれだってだ。そういう意味でも本当に頭が上がらない。ゲームとは言っても尊敬する人はするし、敬う人がいるならしっかりと敬うさ。
ちなみにマリアーデとの修行だが、毎日血反吐吐きながら剣を振るって泥のように寝て休む修行をしていた。けどアメとムチが上手だったから俺もホイホイ乗せられて頑張れたのだ。どうだこんちくしょう。
「ってことはだよ? 極論だけど私もルークも間接的にはマリアーデさんの弟子ってことだね」
「極論な? けど俺の剣はマリアーデから教わっているから間違いではないかもな?」
「そんな訳あるか。余の弟子は世界中探しても、この先もお前だけだ。馬鹿弟子」
「むぐっ!?」
ご飯詰まったっ!! 水! 水!! ヤベェ足りない!!?
「師匠、お水なのじゃ」
「ムググっ!!」
サンキューギン!!ジョッキに入っているのも今回はありがたい!!
「あ、マリアーデさんおはようございます。アール以外は弟子じゃないんですか?」
「おはようリーク。何人も弟子をとってやるつもりはない。こいつに教わるのは構わんが、余の弟子を名乗っていいのはこいつだけだよ。ここよいか?」
「ちぇ〜、アール独り占めとか普通なら許さないのにぃ・・・どうぞどうぞ」
「師匠はやっぱりスケコマシじゃ。朝からこんな美人に愛されておるとか刺されても知らんぞ?」
「ぷはぁぁ!!あ゛ぁ゛〜・・・いや不可抗力だろ? たまたま女性だっただけだから。それに恋愛感情とかないし」
「あってたまるか。お前とは弟子以上の関係になどならん。余はお前が嫁の尻に敷かれている場面を隣で指差して笑っていたいから手助けはするがな?」
「酷っ!! ひどい師匠だこの女!!?」
「それを知った上で弟子入りしたお前が悪い。諦めろ愛弟子アール」
「むぐぅ・・・その言葉はマジでズリィ・・・!!!」
「うくく・・・・!!アールがタジタジだよ・・・ヤバイ本当に珍しすぎて面白いかも!!」
やめて!!俺の恥ずかしいところ見ないでくれない!!?おいこら周りのお前らも珍しいもの見たって感じでこっち見んのやめろ!!
クソ、変に考えすぎると意識してるみたいになってきた。落ち着け。平常心平常心。汁物を一口飲んで切り替えよう・・・・・魚介の出汁効いててうまいなこれ。
「本題に入ろう。弟子、飯の後付き合え」
「んっく・・・寝る前に言ってた稽古ですか?」
「そうだ。他の奴らに教えてやろうと思ってな。お前の“本来の”実力というものを」
――――◇――――
「いつも通りだ。本気で来い」
「ウッス。言っとくけど容赦しないですから」
「当然だ。余の腕を切り落とすつもりでやれ」
いつもギンやコヨミがエーテリアでプレイヤーに稽古をつけている広場には大勢の見物人がいる。皆俺とマリアーデの模擬戦の見物客だ。
朝食を終えて、軽い運動の後、俺とマリアーデはこうして向き合っている。互いの手には以前から俺が修行用で持ち歩いている鈍ら刀がひと振りずつ。帯刀したまま左手で持っている状態だ。
ふたりの距離は大体3mほど。既に二人共自分の間合いに入っている。つまり“いつも”やっていた死合形式の一本勝負だ。誤字ではなく本当に死合のように本気で戦うのだ。
「心も体も精神も今のお前こそ“本来の姿”だ。あとはそこに殺気を載せて余を倒すつもりで来い」
「自分で言ったんだから後悔すんなよ師匠、まぁ今のご時世優秀な回復師がいるから腕を切られてもすぐに直してもらえますよ」
「はっ! 調子が出てきたではないか! 良いぞ!! 来るがいい」
「「・・・・・・・」」
瞬間、お互いの空気が変わる。同時に構えるのは鏡雀の構え。肩幅よりも少し開き、腰を落とし腰の位置へと獲物を携えて抜刀の構え。
先程までの喧騒すらもう聞こえない。しているのかもしれないが俺の耳にはそんなことを気にしている余裕はない。
何しろ”殺すつもりで来い”との師匠命令だ。そうしなければいけないのは弟子の常識だし、俺も色々辱められたので仕返しもしてやる。
それぞれの呼吸がゆっくりとシンクロしていく、それが互の攻撃タイミングの読み合いとなる。先の後をとるか、後の先をとるか。
先手必勝か後手必殺か。
ともかく初撃を取れるか取れないかではない、どうやって相手を超えるのか。この一点だけだ。
風が通り抜ける広場の中で、俺の五感はマリアーデの呼吸ひとつ逃さんと言うように集中し、その瞬間を探り続ける。
「「・・・・・!!」」」
互のタイミングで俺たちは同時に刃を振るう。お互い手加減なしの全力の鏡雀・・・いや、天津雀だ。十六夜天雷を抜刀の瞬間のみ全力で起動し、光すら切り裂いて次元を切り裂く。
次の瞬間。広場に巻き起こる恐ろしい程の突風、そしてその瞬間突風が四つに切り裂かれ文字通り消えていく。
野次馬の誰もが何が起きたか分かっていないだろう。俺たちが何かをしたのだけはわかるはずだ。だがそれを肉眼で捉えられたのか。いや、断言しよう。
常人にこれを捉えることは”無理”だ。テレビで見る剛速球居合い切りやBB弾居合い切りというような次元を超えているんだ。
この世界の物理法則だからこそ可能とした秘奥義とも言えるこの一撃。風すら死んだ中で、マリアーデはゆっくりと鞘から刀を抜いて俺に見せてくる。俺もそれに答えるように刀を抜いて正面に掲げる。
「ふっ、愛弟子アール。何か言うことはあるか? 聞いてやろう」
「・・・・・参りました。正直驕ってましたよ・・・トホホ・・・」
キンッ
直後街中に響き渡る金属音。ただの金属音が遅れてただ一瞬街中を駆け巡った。そして俺が掲げていた刀の刃だけが切り落とされた。
更に刀を持っていた手にも小さな切り傷があり、砂の上へと水滴のように赤い血が滴り落ちた。
「これがお前の“本来の実力”であり、“余とお前の差”だ。今後も余の弟子ならば精進するように励めよ?」
「・・・・はぁぁ! っしゃぁ!! 切り替え完了!! 貴方の名に恥じないように励ませてもらいますよ師匠!!」
俺の敗北でこの立会は終わることとなる。四代目剣聖マリアーデ。俺の師匠。彼女は初代剣聖ニオーグの剣とその思いを継いだ女性。ニオーグが残したものを消させないために自らがそれを残していくために。
彼女の目的はあくまで”その剣と意思”を残し続けること。強さにこだわりなどない。故に劇中においては強敵、もしくは超えなければいけない相手程度の実力しかないと思っていた。
俺がリアルハードモードで彼女に教えを請うまではずっとそう思っていた。いや、クリアする頃には超えることができると本気で思い込んでいた。
五代目剣聖がゲームクリア時は歴代最強?馬鹿らしい。真の最強は間違いなくマリアーデだ。
だってもし『剣聖物語』がゲームではなく、本当の異世界での出来事であったなら、それか、劇中で俺を庇って腕を負傷しなければ、彼女は間違いなく魔剣聖だけでなく、邪神すら倒してみせたであろう。
俺は少なくとも”本気”のマリアーデに勝った事は一度もない。剣聖ルートでも魔剣聖ルートでもな。弟子入りしていたからこそその実力がはっきりとわかる。
魔剣聖ルートでは明らかに本気ではなかったんだ。それが何故なのかはわからないけど。でもあの時も倒すために必死だったから確信があったわけではない。
結局は謎のままなんだけど、それを確かめる手段は俺にはないし。まぁ少なくとも『剣聖ルート』での勝ち星は一度もない。
「だが以前に比べてかなり強くなっている。この調子で行けばそうだな・・・百年程頑張れば余を超えることもできるだろうさ、だからこれからも精進するのだぞ?」
「長いわっ!!? それにしても師匠強すぎません? 正直勝ち星まで行かなくとも敗北はないと思ってたんですけど?」
アフターストーリーでの邪神を超えて、俺も自分でかなりの高みへと来ていた自信はあった。
だがいざこうして戦ってみればどうだ? 頂きはまだずっと先にあったのだ。そんな俺の言葉に対して、彼女はうっすらと笑みを浮かべながら答えた。
「当然だ。そう簡単に弟子に超えられる師匠ではやっていられんからな」




