163:師弟Ⅱ
ギンの性癖暴露回終了
艶々したギンを引き連れて街に戻ればちょうど準備が完了しており、俺の帰還と共に始まった大宴会。飲むわ踊るわ食べるわ皆すごいのよ。
悲しんでたら死んだ奴らも悲しくなるから騒いで追悼してやれと言えば皆それがここでの文化ということで納得しこうしてバカ騒ぎだ。
俺はというとマリアーデとアアリーの護衛兼紹介人としてあちこち連れ回されてクタクタである。
「ヌワハハハ!!なんだアール!!もう疲れたのか!!?」
「マリアーデさんペースはやくないですかね?」
スライムの様にテーブルにぐったりしているとバッチリお酒の入ったマリアーデは愉快そうに笑いながら酒をかきこんでいた。酒をかきこむってスゲェ状況だろこれ。
「クァー!!いい!!!・・・よし!!・・・?・・・まぁ良い。おかわりである!!」
「あ、わかりましたなのじゃ!」
マリアーデはギンのことを大層気に入ったらしく途中から侍らしてこうして酒当番をさせられるか尻尾を撫ぜられる当番にされている。
天匠流の継承者ということがツボだったらしい。今度稽古をつける約束までしていた。ギンの奴死なないといいけど。
いや、ギンの場合それが呼び水になって人気のない場所に俺を連れ込んで血とか色々飲んだり奪ったりする可能性もすごくあるけど。
ほらいうじゃん?生存本能が高ぶると生殖意欲的な欲求が大きくなるって。改めて思うとぶっ飛んでるよな。
もちろん誰かに言うつもりはない。言わなければギンはギンのまま皆に認知されるし。今でも至る所で慰めの言葉や、応援の言葉をもらっている。一瞬悲しそうな顔をするもののその後元気に受け答えしているからよかった。
「そうでしたか・・・そんなことが」
「はい。でもそのお陰でこうしてアールと再会できたので私は嬉しかったですよ?」
「それは良かった。ライバルは多そうですから頑張ってください」
「ありがとうございますアアリー様」
アアリーは同じ時代を生きたことがあるコヨミとすっかり意気投合。楽しそうにお酒を片手に話の花を咲かせている。
「言っとくけどアールはあげないからね」
「大丈夫です。奪いますので」
そこにリークも混じっており三人仲良くガールズトークである。読眼術持ちの会話とか怖すぎて交じる気しねぇ。
「「「アール/君?」」」
「はい!なんでもございません!!」
油断も隙もありゃしない。マジで俺の周り読眼術もち多くない?泣きそう。俺のプライベートないじゃん。
「バカ師匠大丈夫?お寿司食べる?」
「あぁルーク・・・お前が天使に見えてきた・・・頭撫でていい?」
「ふにゃっ!!?」
心配してくれるルークがどこからか持ってきた寿司をテーブルに置いてくれた。サーモンとマグロ、あと鮫。なんだっけこいつ、なんか変な名前だった気がする。そのくせに滅茶苦茶美味いんだよな。
「おぉ!アールの弟子か!!ほれこい!!色々みせてみよ!!?」
「うわわ!!?」
「オーマイガー」
しかし残念ながらルークはマリアーデに捕まってしまった。逃げる素振りをしていたのだが、何かを聞いたとたん目を輝かせて話を聞き出した。
くそう絶対に俺の弱点とか恥ずかしいエピソード話してんだろあれ。見ろよ。戻ってきたギンも一緒になって聞き入ってんぞ。
「おうアール。大変そうだな。お疲れさん」
「お疲れマー坊。正直疲労がマッハ」
ジョッキ両手にやってきたマー坊からひとつ受け取り乾杯。ぐいっと喉に流し込む。っておい。
「これオレンジソーダじゃねーか?ってかなんで泡ついてんだよソーダに」
「だって俺酒苦手だし」
「ぐぬぬ・・・」
ビールだと思って流し込んだらジュースだった時の悲しみの伝え方を募集する。誰か答えてくれ。
「それよか大変だったな。色々と」
「まぁな。けど何とかなって良かったよ」
「俺もその負担少しくらい背負ってやれれば良かったんだけどなぁ」
頭を掻きながら申し訳なさそうにするマー坊。あの時状況を理解して暴徒化したプレイヤーを止めてくれただけでもありがたいさ。
それだけで俺としてはすごく嬉しい。正直それを見ただけで心が軽くなったからな。グビッともう一口飲みながらルークが持ってきた寿司を口に運ぶ。うん、うまい。
「しっかし・・・まさかとは思ってたけど遂にエクスゼウス公認から公式の『五代目剣聖アール』になっちまったな」
「だよなぁ・・・俺それが一番驚きだよ。公式ってお前・・・いや嬉しいけどな?」
「どうせあれだろ?これからのイベントに少し規制はいること懸念してんだろ?」
流石マー坊よくわかってらっしゃる。
公式キャラクターにされた以上何でもかんでも好き勝手はできないだろうな。実はさっき見たのだが運営から直接連絡があり、今度それに関する話し合いの場を設けたいと言われたのだ。もちろん了解したけどどうなるかはまだわからない。
「いやー幼馴染としては鼻が高いよ」
「リアルのお前ほどじゃねーよ、未来のスーパードクター様よ」
「わかってんじゃねーの」
「こいついいおるで」
「お前もな」
「さてと・・・悪い。流石に疲れたからちょっと寝てくるわ」
なんだかんだ錬金術師取ってから今まで一睡もしてないし満足に休んでいない。アイテムで回復してもいいんだけど気持ちとしては寝たい。ふかふかのベッドでグッスリと。
「あいよ。主役殿はたいへんお疲れで寝ましたので寝顔撮影会開きますって話流しといてやるよ」
「その場合明日のお前の飯はバナナだけだ」
「牛乳も付けることを約束してもらおう」
「現実で牛のしぼりたて生乳飲ませてやるから安心しろ」
「ゲロ不味じゃねぇかよ。せめて加工しろ」
「嫌だね。んじゃ伝言任せた」
マー坊に伝言を任せて席を立ち、誰かに気づかれないように二階へあがる。そのまま一番奥にあるの鍵付きの部屋に入り、そのままベッドに倒れこむように寝転がる。
あぁ〜布団きもちぃぃ・・・・・
『ヨ?』
ローブに隠れていたディアがひょっこりと顔を出す。そのまま引っこ抜いて枕がわりにしてしまう。ひんやりしてて気持ちいい。
「・・・・・・なぁディア」
『ヨヨ?』
「俺さ?頑張ったよな?」
『ヨ』
「ちゃんと剣聖っぽく出来てたか? 誰かにこの感情を気づかれないようにちゃんと出来てたかな?」
『ヨ〜?』
「俺さ、本当はすごく怖かった。信じたくなかったんだよ。でも、誰かがやるしかなくて。やったらどうなるか簡単に想像ついたけど。俺のせいで皆死んだんだ。責任、取るしかないだろ?」
『ヨー』
「本当は今でも他のプレイヤーの顔みるの少しだけ怖いんだぜ? でも、こういう時だからこそ頑張らねぇとな。なんてったって俺は五代目剣聖アールなんだし」
『ヨヨヨォ』
「なぁに心配すんなって。寝て起きたら大丈夫だよ。だから悪い。少しだけ寝るわ」
・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさいガンテツさん
・・・・・・・・・・・・・・・殺してしまった人たち。みんな本当に、ごめんなさい。
・・・・・・・・・・・・・・・俺のせいで殺されてしまって・・・本当にごめんなさい。
・・・・・・・・・・・・・・・頑張るから。殺した責任とって頑張るから。
だから・・・・許してください。
―――――◇―――――
「さてと・・・・」
「??マリアーデさん?どうかしたんですか?」
「なに、ちょいと野暮用だ。アールの嫁・・・ではなくリークであったな。」
「はい。いずれ嫁になりますけどね」
「よいよい。心の拠り所を持つのはいいことである。あのバカにとっては特にな」
「・・・やっぱり、気にしてるんでしょうか?」
「だろうな。誰にも心配かけまいと無理しているよ」
「・・・だったら私が」
「今はダメだ。大切な人にだからこそ弱みを見せたくないと思うのがアイツなんだ。だから今は我慢してやれ。いずれちゃんと相談してくれるだろう」
「・・・・アールのこと、お願いします」
「任せよ。しばらく借りるぞ?」
―――――◇―――――
「起きたか寝坊助」
「・・・・・なぜいる?」
寝起き最初に見たのは椅子に腰掛けるマリアーデだった。おかしい。確かに鍵はかけたはずだ。なぜいる。
まさか扉を破壊して・・・いや普通にか。今日?昨日?まぁ日付はいいとして新しいギルドマスターだ。鍵くらいはどうにでもできるだろう。
「なぁに。宴も落ち着いたのでな。様子を見に来てやったのだ。感謝せよ?」
「あー・・それは大変うれしゅうございます」
「気持ちが籠っておらん。20点だ」
「マックスは?」
「ない」
「ならいいや」
ひと眠りしたおかげか疲れが抜けて気持ちがいい感じだ。起き上がり軽くのばしてみればなんとも調子がいい。これならもう一回眠れば完全復活アールさん間違いなしだ。
「よかった・・・想像以上に大丈夫そうだな」
「馬鹿者、そう言えると思っておるのか?」
「・・・・バレました?」
「寝言で言っておったぞ?色々とな」
思ったことをただ言っただけだし。それに寝言だからノーカン。と言うか人の寝ている所に来るなよな。恥ずかしいだろうがよ。
「助けた時だってもうギリギリだったのだ。今だって心と体が悲鳴を上げておるよ。馬鹿者め」
「随分と鍛え上げられたつもりなんですけどね?」
「限界値を考えんか。鍛えはしたがオーバーロードを起こす程溜め込むなと教えたはずだぞ? お前は特にそうだ。直ぐになんでも背負おうとするからいくらあっても足りないのだ」
「・・・・前にも言われましたね。そんなこと」
「覚えているなら実行せんか」
確か魔剣聖・・・幼馴染との最終決戦後のアフターストーリーの時だったっけ。マリアーデに稽古付けてもらうついでに、腕が治るまで世話しに行ってた時だったな。
『今にも泣きそうなのに我慢するな馬鹿者』
なんて言われて考えていたこととか、考えないようにしてたこととか溢れ出て大泣きしたんだっけ。あれは結構恥ずかしかった。唯にも湊にも裕二にも、誰にも言ってないんだけどな。
「馬鹿者が。弟子ならば師匠の言った事はちゃんと守らんか。本当に師匠に対する敬意が足りん。その辺は今度改めて鍛え直してやるから覚悟するのだぞ? よいな?」
「うへぇ・・・久しぶりの説教タイム・・・」
この人マジで厳しい上に口悪いから心折れそうになるんだよなマジで。でも本当に優しさからくる厳しさと口の悪さだって知っているからそれが嬉しい。
俺のことを唯一無二の弟子だって言ってもらえたあの瞬間からずっとこの人には頭が上がらない。そう。俺が超越流派を使えるようになったのは、いや、それだけじゃない。
リアルハードモードをクリアしたのも。三流派を全て学べたのも、魔剣聖ルートじゃないと覚えられない三流派を覚えることができたのも、マリアーデのおかげなのだ。
初代剣聖ニオーグ直伝の剣をマリアーデから学び、そしてマリアーデが積み上げた独自の剣を学び、そしてマリアーデから多くのものを学んだからこそ、俺は超越流派を生み出せた。言わば恩師なのだ。
通常ルートだとマリアーデと関わることはそう多くない。せいぜいお使いとか流派の新技伝授程度の関わりだ。しかし俺はリアルハードモードクリアのために、積極的にマリアーデの下に通い、弟子入りを懇願し続けた。
このままではクリアなんて出来ないと覚悟し行き詰ったとき、ちょうどマリアーデの家に頑張れば行ける場所までストーリーが進んでいたのだ。
行き着くまでに何度もやり直しをくらった。死んだ回数も多分一番多い。でも、もう俺はそれに縋るしかなかったのだ。それだけ行き詰っていたんだ。
何とかマリアーデのもとへたどり着き、接点もないまま弟子入りを願い出た俺に対し、最初は相手にもされなかった。強制的に安全な街に送り返されてしまい、何度も繰り返し通おうと実力に見合わないモンスターが出る場所へ挑み続けた。
死んで戻り作業を繰り返し、戻しては森へ挑んでまた死んで。そこだけのために何度繰り返したか覚えていない。
そうしてマリアーデの元にたどり着き、送り返されても向かい続けては送り返されて。奇跡的に数回の挑戦が出来たので挑んだ。
けど、運が悪すぎて勝ち目のない相手に出くわしてしまった。でも逃げれば死。そもそも逃げる余裕もなかったため、せめて全力で戦おうと決めたんだ。
そのあとはあんまり記憶がない。ただ覚えているのは、やり直しだと思ったら、ベッドで目が覚めて馬鹿を見るような目でマリアーデに見られていたことだった。
起きた直後に罵倒。更に二度と来るな、死にたいのかと言われたからもう恥も全部殴り捨てて土下座しながら自分の現状と思いの全てを伝えた。
『追い返されても何度もくる。死んだとしてもここで貴女に弟子入り出来ないなら俺は二度と前には進めないんです!!』
そう言った。一言一句覚えている。何度もやり直して同じ言葉を、似たような言葉を何回も言ったけど、その時の思いだけはずっと変わらなかった。キーワードとかじゃない。心の底から叫んでいた言葉だ。
それがきっかけだったのか、俺は奇跡的にマリアーデの気まぐれで稽古をつけてもらえるようになった。お陰で体力は付いたし根性も付いた。土壇場での切り替えに戦闘技術もたくさん学んだ。
その分厳しいし、道場とは比べ物にならない。しかも終われば強制的に街に戻された。もちろん次の日も通うために森に入るのだけどこの時にも何度か死にかけたし、死んだ時もあった。
けど、やり直しを繰り返していく内に実力は少しずつだけど上がった。もちろん勝てるようになったわけではないけど、粘れるようにはなっていた。
おかげでマリアーデに助けられる回数も増えたし、教えてもらえる回数も増えていった。最終的にはマリアーデが折れてくれて小屋に泊めてくれたり、街に迎えに来てくれるようにもなった。
そして、そのルートでは教えてもらえないはずの他の流派の修行までつけてくれるようになった。もちろん滅茶苦茶キツイし、やりすぎると現実にまで影響出るんじゃないかって思う時まであった。
それでも挑み続けた結果が今の俺になったんだ。だからマリアーデには頭が上がらないんだ。
「ま、これからは定期的に顔を出せ。その辺も全部鍛え直しである。よいな? 我が愛弟子アール。よ・い・な・?」
「善処し「だめだこい。師匠命令だ」・・・わかりました」
「うむ。約束は守らんとダメだからな?」
相変わらずこの人の言葉には逆らえないな本当に。半分強制だったけど。
人に弱さを見せないのも人の強さです。
弟子の全てを受け止めるのは師匠にだけ許された特権です。
話の通り、アールの師匠はマリアーデです。しかも通常ルートではなく、リアルハードモード限定で解放される亜種ルート。つまり知っているのはアールだけです。
つまり世界中探してもマリアーデの弟子はアールただひとり。そしてアールの師匠もまたマリアーデ一人です。
感想お待ちしてます。




