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157:ゴブリン戦記 虐殺と悪夢

ゴブリンの計画の全てが明らかになります。


「師匠!!無事じゃったか!!」



「遅いですよアール君」



街に入った俺達を出迎えてくれたのはギンとコヨミだった。装備にはたくさんの傷跡と飛び散った白い血が多く見える。



「二人共”無事で良かった”・・・街の様子は?」



「時代人の負傷者もそうですけど、街の住民に被害も出てます。今のところ死者は出ていないのが幸いですね」



「そっか・・・・二人は怪我してない?もしあるなら無理しないで。直ぐに回復するから」



リークの申し出に二人は首を振り答える。それよりもと言って負傷者へと顔を向ける。時代人の中にも特殊な攻撃で体が動かないのか寝込んでいるプレイヤーも見える。



「一分だけ我慢しててね。”街全体を対象”に魔術を使うから」



「頼む」



その一分後。リークの大魔術が発動し、街にいる負傷者たちの傷を癒していく。それはまさに奇跡の所業といっても過言じゃないだろう。街のあちこちから喜びの雄叫びが上がっている。良かった。



「アール・・・やっぱり私がやる。アールと私なら私のほうがまだ小さくて済むよ・・・」



確かにその方が早いし被害も少なくなる”かも”しれない。だけどその場合守る側、つまり俺がそっちになる場合はそうではなくなる。



守ることはどちらかというと苦手だ。攻める方が得意だしやりやすい。それにいくら”現実”で慣れているからといってこっちでは似たようなことをリークにはして欲しくない。



それに今回は”被害を最小限に抑える”ために俺とリーク以外は何も知らない。第三者から見ればこれから起こることは悪夢そのものだ。



最悪の事態も想定する必要がある。それなら、その全ての責任は俺が取るべきだ。俺がすることなんだから、俺が責任を負うべきだ。



「いやいい。俺が“全員”殺る。リークは外野を押さえ込んでくれ」



「・・・・わかったよ。でも言わせて、私はずっとアールの味方だよ」



「助かる」



俺たちは今癒した住民のうち数人を今から殺さなければいけない。それに人の悲劇を楽しむ奴がなにか仕掛けていないわけがない。人の感情を揺さぶるためならなんだってする。



それが、俺が判断する学者ゴブリンの本質だ。最悪俺は人前に出ることが出来なくなるかもしれない。



「師匠?何の話じゃ?妾は全然話について行けぬのじゃが?」



「・・・・アール君・・・もしかして君は・・・・いえ、君が決めたらな私は君を信じます」



すまないなギン。ありがとうコヨミ。無言のまま二人を見て軽く頭を下げる。そうして歓喜広がる街の方へと再び視線を向け、新装備であるブレスレットの内蔵された『UtS:愛情』の効果を起動する。



そうすることで俺の目にはクッキリ見えるのだ。人の皮をかぶったゴブリンたちの姿が。幸いしたことといえばコヨミとギンは本物だったことだ。



「ディア・・・リークを頼む」



『ヨヨ』



ディアと分離してリークのもとへ預けていく。これでリークは絶対に無事なはずだ。『真刀:戯』に手を掛けて家族と喜びを分かち合っている場所へ。その父親の元へと足を進める。



「師匠?どうしたのj・・・コヨミ殿?リーク?」



「14代目、これから起こることから目を背けないでください。例えどんな悲劇であっても」



「きっとギンちゃんにとっても悪夢だから・・・だけど、この悪夢を超えない限り大勢死ぬ事になるんだ・・・だから・・・アールのことを最後まで信じ続けて」



悪いなリーク。ある意味お前に残酷な役を任せたかもしれん。コヨミ。ありがとう。言葉もなく察してくれるのは本当にありがたい。



――――◇――――



剣聖物語で最悪の展開。それは街中がある病で犯されてしまい、その治療法も存在しない状態になり、これ以上被害を広げないために、街一つを滅ぼすこととなる大虐殺を行うシナリオ。



剣聖ルート、魔剣聖ルートが交わる数少ないシナリオで、病に抗体を持つ両主人公だけがそれを行えるのだ。



病は空気感染しないのだが、外傷を受けた場合、相手の体表から感染し人を殺す恐ろしい病。とある教団がある存在、知性あるモンスターなのだが、それを信仰するあまり行った非人道的すぎる儀式。



自分達がモンスターになるために大勢の生贄を作り出し、変化したモンスターを喰らうことでモンスターへと進化を遂げるという恐ろしい計画。



計画のために放たれた病は人を苦しめ、いずれ人の心を殺し、人が人を喰らい始めるクリーチャーを生み出した。



未来の剣聖はこれ以上被害を広げないために、自ら悪を成す。未来の魔剣聖は自分と違う道を辿る邪教徒に自分たちの計画を”汚されないために”その全てを消し去る。



それが出来るのは世界にわずか二人だけ。仲間たちには街の外で逃げ出す”人”が万が一にも出ないように待機してもらい、斬ってもらう。



科学が進歩しているわけではない。当時はまだ魔法があったわけでもない為、感染したかどうかなど見分ける手段はない。町に生きる全てを殺す以外に方法はなかった。



この悪夢を超えて、二つの物語はついに最終局面へと向かい始めるのだが、このシーンは剣聖ルートにとっては余りにも辛すぎるし、初見の場合、その後に明かされる魔剣聖の目的を聞かされて更に辛い出来事を叩きつけられるため、実は初期は賛否両論だった。



しかし、時間が経つにつれて『現実感がすごい』『ここまでやるのか、恐ろし凄すぎる』などの意見も増えて行き、剣聖物語をつくる一つのポイントとも呼ばれるものになっていた。



まさか似たような展開をプラネットクロニクルでもすることになるとは思わなかった。しかも剣聖物語では大勢がそれを知り、それしかないと諦めた上での大虐殺だったわけだが、今回は違う。



知っているのは俺とリーク、コヨミはその記憶から察してくれたのか悲しそうな顔をしているものの覚悟を決めてくれている。



それ以外の誰も知らないのだ。これから始まる虐殺がなぜ行われるのか。他に方法はあるのではないか。やり方があったのではないかと言われてしまうだろう。



だが、”ヤツ”に勘付かれては意味がない。だからこうするんだ。少なくとも俺はそう決めた。覚悟も、その責任も全て背負うつもりで今から俺は悪を成す。





――――◇――――





向かう先にいるのは傷が治り生きている喜びを分かち合う家族。その光景は本当に微笑ましくて、見ているだけで幸せになれそうだ。



これが”悪夢”だなんて誰が信じられるだろうか。



「助かったんだ!!良かったな!!」



「えぇえぇ!!良かった!!本当に良かった!!!」



「これでまたみんなで暮らせるな!!!」



「そうだ!!これからもみんなで暮らせるんだ!!本当に良かった!!!」



生きている喜びを分かち合う家族にはこれから先に待っている”はずだった”新しくて幸せな未来/悪夢が彼らの脳裏には見えていた。



「あ!!すごいお兄さん!!」



「ん!おぉ剣聖様じゃないですか!!」



「ありがとうございます!おかげでみんな助かりました」



母親が生きていることを心から喜んでいる。助けてくれてありがとうと、子供が笑顔を向けてくれている。父親が本当に嬉しそうに”笑って”いた。本当に嬉しそうに(楽しそうに)笑っていたのだ。



あぁ・・・覚悟は今、決まった。こんなもん見せられたら覚悟決めないと男じゃないよな。



「そっか良かったよ・・・・それとすまんな」



「いえいえ!謝る必要はありませんよ!!おかげで私t「『鏡雀』」ち・・・・・は・・・?」



(クヒ)・・・・?」



空気が死んだとはこの事だ。さっきまで歓喜の声が上がっていた街から声が死んだ。俺の目の前にいる家族の一人、父親と思われる男性が胴体から真っ二つになり切り落とされたのだから。



きっと周囲には本物の人の血が見えているんだろう。だが、俺の目には、スキルの力が発動している俺には本当の光景が見えている。ドス黒くも青い色のした人外の血液が。



人間の肉を寄り代にしている擬態の皮。そう。俺の時間にして四ヶ月ほど前、こっちの時間では一週間程だろうか?



人間を使って文字通り化けの皮を被ったクズが引き起こした悪夢の始まり。前回と違うのは奴が自ら破ったのではなく、今度は”俺が幸せな悪夢を壊した”事だろう。



「え・・・・・・・あ・・・・・・・ああ・・・・?」



その血を全身に浴びて俺の体は真っ黒く、そして青く染まる。目元だけ拭い次へと移動する。この姿を傍から見れば人の血を浴びた殺人鬼そのものだろう。



「あ・・・・・ああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



街が再び恐怖に染められる。それはアクシアで起きた悲劇の再現。最悪だ。こっから俺は少なくとも数十人単位の住民(NPC)を殺す事になる。



逃げ出す住民と何が起きたかわかっていないプレイヤー達。だがそこは流石というべきだ。俺を止めるために街にいたプレイヤーが一斉に動き出した。すまんが説明してる時間はない。



「リーク!!」



「天獄の牢獄『ヴァイオレンスゲージ』!!」



リークの魔術により街の外に出られない牢獄が完成した。これで誰ひとりここから外へは逃がさない。更にこの魔術にはリークが対象としたものを拘束する力もある。



動き出した全てのプレイヤーが魔術によって檻の中へと閉じ込められた。



悪いんだが、これから起こることをただそこで見ていてくれ。誹謗中傷、罵詈雑言は後で全部聞こう。



今はそんなことを聞いているだけの時間はない。良い意味でも、悪い意味でも、これから先、俺は『剣聖/魔剣聖(えいゆう)』としての責務を果たす。



世界を・・・いいや、この悪夢を終わらせるために





―――――◇―――――





「嫌だ来ないでください!!いやだたすけ・・・」



「パパー!!!ママー!!!おねえちゃ・・・・・」



「く・・・くるな!!くるなひとごろ・・・・・・」



「あぁぁあああ!!!!あああああああああああ!!!!!あああ・・・・・」



「うえーん!!!いやだよぉー!!しにたくな・・・・・・・」



「待ってください!!一体何で!!?私とあなたはしらないなかじゃな・・・・・・・」



「しにたくねぇ!!死にたくねぇよ!!しにたくね・・・・・・・」



「イヤァァァ!!!だれかたすけ・・・・・・」



老若男女関係なく殺していく。ここまでやってその化けの皮を脱がないのはある意味感心するが自分の仲間、もしくは自分自身が死ぬことになってまですることではないと思うんだがな。



既に八人殺していた。いずれも面識がある人だし、街中で遊んだことがあったり、店の旦那と客の関係でもあった人もいた。



ちょっとした手伝いもしたことがあるし、話も聞いていたりもした。全員俺を関わりが多少なりともある人たちだった。



この状況で、コヨミとギンが無事だったのは本当によかった。いや、この程度の人数だけで良かったというべきだろう。エーテリアは俺の活動拠点だ。逆に知らない人がいない方が珍しかったのだから。



だが、逆に言えば、”こうなる可能性”が高くなっていたこともまた事実だった。





「な・・・なななななんでこんなことしてるんですか爆発の人っ!!?」



「なにしてやがる小僧!!てめぇ自分が何してるのかわかってるのか!!?」



「落ち着いて!!どうして!!?」



「何してるんですかアールさん!!あなたはこんなことする人じゃない!!!」



あぁ、本当は叫びたい。でも、そうすれば奴の思うがままだ。だから感情を閉じ込めて、表に出さずにただ淡々と殺すしかない。でも、今だけは心の中でだけはこの弱みを叫ばせてくれ。そうじゃないときっと表に出してしまうから・・・・!!!!



ギルドマスターのカームが!!

ガンテツが!!

ガランが!!

刀気が!!!



殺されなければいけなかったんだ!!!!この人たちが一体何をしたって言うんだ!!!!おい!!!答えろ!!!!



学者ゴブリン!!!!この人たちが一体お前に何をした!!なんでこの人たちが殺されなければいけなかったんだ!!!!



正直嘘だと信じたい。でも確かに見えてしまうんだ。その気配がはっきりとわかってしまう。あのクソ野郎だとわかってしまうんだ・・・!!!



彼らが落ち着けと、何をしているのかわかっているのかと声をかけてくれる。悲鳴を上げながら住民たちが泣き叫ぶ。さっきからメッセージの通知が止まらない。



学者ゴブリンが特別なものを仕掛けたのだろう。見上げれば俺の姿がそれに映し出されている。全身を血で濡らした悪魔の姿がそこにはあった。切り裂く瞬間が映し出され、本来は白く映るはずの血は赤くはっきりと映し出されている。



俺の非道行為を見て怒り狂うプレイヤーが大勢いるのがわかる。先程まで一緒に闘っていた全プレイヤーからの罵倒が止まらない。音声としてはっきりと聞こえてくる。



それだけじゃない。リークの牢獄を街中と外から破ろうと何人ものプレイヤーが必死に攻撃しているのが映し出されている。



そんな状況を生み出した俺と、もうひとり・・・いや、今は四人か。学者ゴブリンは未だ本当の姿を見せないままだ。



「・・・本当に悪質で外道だよ・・・・全く」



「バカいってんじゃねぇ!!小僧!!お前が答えろ!!自分が何してんのかわかってんのか!!」



「この状態でまだ俺に何か言って通じると思ってんのか・・・随分お気楽だな?まぁいい。斬ればいいだけだ」



明かすつもりはない。そういうことだろう、ならやることは一つだけだ。手に持つ『真刀:戯』を四人へ翳す。これから殺すぞと伝え、静かに携えた『真刀:戯』に手をかける。



「死ぬかも知れないんだ。何か言い残すことがあるなら聞いてやる・・・・・」



「離すじゃコヨミ!!!あそこに居るのは刀気なのじゃ!!!妾の弟子なのじゃ!!!」



「コヨミ、絶対に離さないで!!」



「わかってます!!!!」



「辞めるのじゃ師匠!!!これ以上人を・・・この街の人を斬ってみよ!!妾が・・!!!妾が師匠を斬り殺すのじゃ!!!」



後ろで聞こえるのは泣きながら怒るギンの声と、それを止めるリークとコヨミ。それだけじゃない。数人リークの檻を抜けてきたのかプレイヤーが俺とリーク双方へと迫る。



だがリークが視界に入れた瞬間再度拘束し、その動きを止める。それだけじゃない。



「離しやがれレイレイ!!!てめぇアイツが今何しようとしてるのかわかってんのか!!?」



「わかってる!!!その上でアンタ達を押さえ込んでんのよ!!!黙って見てろ!!!!」



「アール貴様ぁぁ!!!!!」



「殺してやる!!!殺してやる!!!!!!」



「黙って見てろ!!!」



「落ち着くんだ!!」



チーザー紫とニコニーコさん。そして怒りで我を忘れている大勢の人たちを止めようとしてくれているルシオン、そして数人のプレイヤーを拘束してくれたレイレイ、マー坊の手によって、今にでも襲いかかってきそうなプレイヤーを押さえ込まれている。



そのほかにも数名、何かを察したのか、涙を流しつつも攻撃をしようとするプレイヤーを必死に押さえ込んでくれているプレイヤーもいてくれた。



感謝だよ。本当は今すぐやめさせたいんだろう。でも、それを察してくれたんだ。この感情が暴走してしまう環境下で。ありがとう。



だから、その行為を無駄にはしない。既に決まっていた覚悟は絶対に乱れない。泣き言も、悲しみも、怒りも、彼らの姿を見て、今静かになった。



「くそ!!錯乱してるんですね!!怒りましたよ爆発の人!!お説教です!!」



あぁ、そうだな。もしアンタが生きてたんなら、それも聞きたかったよ。あんたの説教ってやつはどんなものだったのかね。人をいつも爆発させていたアンタの説教。



「て・・・手伝います!!どこまで戦えるかわかりませんけど頑張ります!!」



そうだな。お前はギンにとって大切な弟子だ。ギンの弟子ってことは俺の弟子でもあったんだ。一度くらい二人で稽古してみたかったよ。きっと、ギン以上に伸び代がある気がして仕方がないよ。



「あんた!!死んじゃダメだよ!!」



「わかってる!!俺はガキ相手には死なねぇよ!!」



「お願いね・・そうしたらまた皆でアップルパイ食べましょう・・・!!!」



ガランさん。あなたのアップルパイ、また食べたかった。実はレシピが気になって色々と作って研究してたの知らないだろ?同じ味が再現できたら答え合わせをしてもらおうとしてたんだ。



ガンテツさん。あんたの作る剣を俺は楽しみにしてたんだぜ?アンタがくれたこの『真刀:戯』

はすごい刀だ。この先を見るのが楽しみだったし、それで頂辺をとる姿を見せてやりたかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・




カームさん

刀気

ガンテツさん

ガランさん




さようなら。せめて、安らかに眠ってください。





「それから・・・ごめんなさい・・・・超越流派抜刀術『天津雀』」



真っ赤に咲く四つの赤い花がエーテリアの町に咲いた。彼岸花のように美しくもなく、ただただ赤く残酷な血の花だ。



花の苗となった四つの死体。四肢は切り落とされ、首は落ち、脳髄が飛散する。




――――――――――◇――――――――――


それは世界中の空へと映し出されていた。


”真っ赤な”血を流し、次々と殺されていく人々の姿。モンスターであるゴブリンによって行われている虐殺であれば、ただゴブリンに対する怒りだけで済んだだろう。


だが、そうではなかった。ゴブリンは、全く関わっていないただの虐殺行為が世界中の空へと映し出されていた。


目を背け無ければ世界中の人間(プレイヤー/NPC)がその光景を見てしまう。この世界で生きる人(NPC)にとっては悪夢のような出来事。


自分たちでは歯が立たない時代人によるエーテリアで行われる大量虐殺に恐怖し、その実行犯に怒りと恐怖の感情を。


あるプレイヤーはその光景をライブ配信として動画サイトに中継しながら、その残虐性を恐れた。


これがゲームとは言え、人が行える事なのかと・・・


世界中がこの光景を見て恐怖と怒り、そして憎悪などの負の感情を抱いた。たった一人のプレイヤーに対し、世界中が注目していた。


彼が悪であることは明白だ。裁け、罪を。


正義のために、悪を討て。


その真実を知らぬ者たちは、ただ目の前に映し出されるその光景に見入っていた。


『『・・・・・』』


ただ二人、その映像に目を向けつつも、二人の人物たちは街を駆け、フィールドを走る。これ以上の”悪”を許さぬ為に。


”大切な人”を救うために二人の”剣士”は海の街へと駆け抜けていく。



――――――――――◇――――――――――



これで全員切り裂いた。合計で24人。俺が斬った数。街中にはモンスターが流す真っ黒い血が溢れているが、真実が見えているのは俺とリークだけだろう。それ以外にはきっと、人が流す真っ赤な血に見えているはずだ。



押さえ込まれていたプレイヤーは起きたことから目を背けるために、いや、その怒りを静めるために俺へと言葉をぶつけてくる。街の外からも、中からも、その声が聞こえる。



悪夢に対して悲鳴が聞こえる。罵声が聞こえる。石や瓦礫が投げつけられる。憎悪や激怒、憤慨する感情に飲み込まれるプレイヤーとNPC。



リークに駆け寄り術を解かせようとしているプレイヤーも多い。でもリーク自身も既に術の檻を作り、身を守りながら維持し続けてくれている。



マー坊とレイレイも、一部のプレイヤーたちも必死に暴れようとするプレイヤー、NPC問わずに押さえ込んでくれている。



だけど悪い。まだ終わっていないんだ。あの親子とした約束のために。そして俺の中にある覚悟を貫き通すために。この場でコイツだけは必ず殺す。



「・・・・・・」



死んだふりとはどこまでも舐めた野郎だ。俺が斬ったのがどういう存在なのかはわからない。だが、こいつの仲間もしくはコイツ自身であることははっきりとわかっている。



「いい加減に起きたらどうだ。それともこの程度じゃ足りないのか?ならその体をバラバラにすれば声くらいは出すようになるのか?」



激しい罵倒がさらに大きくなる。掲示板を通して聞こえる怒り狂う言葉の数々。空を見れば俺の姿を俺が引き起こした惨劇の光景が一部”書き換えられて”移されている。どす黒い血ではなく”普通の人間と同じ赤い血”が地面を真っ赤に染めあげている映像。



プレイヤーだけじゃない。住民からも凄まじい怒声や恐怖、悲鳴が上がる。俺はそれに答えるわけにはいかない。おそらくそれが奴の狙いだ。



飛んでくる石や瓦礫、人によっては武器なども投げつけてくるが全て避けたりせずに正面から受ける。いや、受けなければいけないと思ったんだ。



それで奴を引きずり出せるならそれでいい。そうでもしないとプレイヤーもNPCもみんな怒り狂って壊れてしまう。怒りの矛先を俺に向けることで今はなんとか”持ちこたえている”んだから。



重要な人が、大切な人が、家族が、殺された。街が襲われた状態で、町を守ってくれた人に殺された。一緒に町を守っていた人が、住民を殺した。



疲労と困惑、そして何かしらの影響を受けて誰もが感情を爆発させている。俺はただ、その怒りを受け止め、奴が起き上がるのを待った。



どれくらい経過しただろうか、いや、おそらく大した時間は経過していない。それほどに長く感じた時間をただ立ち尽くし、人々の言葉の刃を受け続けていると、殺したはずのガンテツさんの顔が笑い出す。



「・・・・クヒ・・・・・クヒヒ・・・・」



「・・・・・・」



ようやくか、そう思う俺と、死んだはずのガンテツさんが笑いだしたことで驚きを隠せないプレイヤー達が驚愕した。それだけじゃない。



「クヒヒヒヒ!!!!クヒヒヒヒ!!!!!!!!!!」



「「「クヒヒヒヒ!!!!!!!!」」」



直後、街で俺が経った今、切り裂いた死体がおもむろに動き出す。彼ら4人のだけではない。切り殺した死体が全て集まりだした。



『『『『『『『『『『『『クヒャヒャヒャヒャァァ!!!!!』』』』』』』』』』』』



切り裂いた死体が死体を飲み込んでいき、キメラのように組みあがっていく。骨格が歪み、関節がとんでもない動きをしてくっついていく。出来上がったのは四匹のキメラ。その顔は全てオレが倒すと決めたゴブリンだった。



『『『『アヒャヒャヒャヒャ!!イヤイヤ流石は有名人!!!!!!』』』』



「お前になんと言われても嬉しかねぇよ」



『『『『でもまさか何の躊躇いもなく斬るなんてびっくりしたよ!!しかもひとつのミスもなく全部アタリとかすごいねぇ!!!!』』』』



学者ゴブリン。この悲劇を始めた張本人がその姿を現した。



「元の自分の体はどうしたよ?」



『『『『あぁ、僕は体にこだわらないんだよ!!!何だっていいからね!!!だから“囮”に使ったんだ!!いやぁ便利だったよ!!!それよりも見てよ今回の体!!!僕の意識を四つに分けてみたんだ!!!素晴らしいでしょ!!?人間の体をつなぎ合わせて作ってみたんだけど中々いい感じなんだ!!うひゃや!!!さすが僕!!天才!!ジーニアス!!』』』』



狂っているゴブリンが笑い出すと、ついに暴れていたプレイヤーが膝から崩れ落ちる音がした。怒りの矛先を失いどうしたらいいのかわからなくなってしまったプレイヤーの嗚咽が聞こえる。



『『『『うっしゃぁ!!!!見たかったんだ!!そこの人!!!その表情!!!その絶望顔!!素晴らしい!!!最高だよ!!!!あぁ!!!これだからこの遊びはやめられない!!!!』』』』



「そうか、だが残念だったな。今日で終わりだ」



『『『『この状況の中で動けて僕を殺せる可能性が一番高いのは確かに君だね!!でもどうして君がそんなことをする必要があるんだい?』』』』



学者ゴブリンの言うことは最もだ。普通の状況なら泣き崩れてしまいたいよ。



『『『『ウヒャヒャヒャヒャ!!!!!聞いたろ!!?君に対する言葉を!!君の全てを否定する言葉の数々!!目の前のことしか見ずに皆バカみたいに声を上げるのを聞いてたろ!!?!』』』』



「・・・・・・・あぁ・・・」



『『『『その結果がこれだよ!!!世界中の人間は君のことをこう決めたのさ!!『大量虐殺者』だ!!!ウヒャヒャヒャ!!!!つまり!!!君はもう僕と何ら変わらないんだよ!!!!そして今!!!君がした事(大量虐殺)は世界中の人間がみているのさ!!!つまりどういうことかわかるかい!!!!』』』』



「・・・・・・」



『『『『君はもう英雄なんかじゃない!!ただの悪魔だ!!鬼だ!!!犯罪者なんだよ!!!!君の事を称えてくれる人はもういない!!!君を尊敬する人はもういない!!!!君はもう僕と同じ存在なのさ!!!』』』』



『『『『皆君の『肩書き』だけが目当てだったのさ!!!君の機嫌を取ってその地位を!!その力を得ようとしていただけの人間だったのさ!!!そのために必死になってたのさ!!!そんな人間のおかげで君は自分の好きなことを好きなように出来るようになった!!!だから君は自分の好きなことをするために全てを使った!!!』』』』



『『『『そして今度は僕をあぶり出すため”だけ”に大量虐殺をしたんだ!!自分勝手に!!ただただ傲慢にも君の目的とやらのためにさ!!!!英雄って奴は誰かの為に戦うんだろ!!?君は違った!!自分の目的の為に君は行動した!!!!』』』』



「・・・・・・」



『『『『君は英雄なんかじゃなかったのさ!!!!僕と同じ自分勝手な人間!!それも僕を超える残虐性を持つ悪魔!!!それが君の正体であり本心!!!誰かを殺すことを躊躇わない存在なんだよ!!!』』』』



「・・・・・・」



『『『『僕と同じ外道なんだよ!!人殺しなんだよ君は!!英雄とかなんとか言われていたみたいだけどね!!!所詮はその程度!!!例え僕がここで死んだとしても!!君という極悪人が世界に生まれたんだ!!この悪夢は永遠に続くんだ!!』』』』



『『『『聞いていただろ!!?見ていただろ!!?君に対するみんなの気持ちをさぁ!!!?』』』』


『この人殺し!!』



『何が英雄だ!!死んじゃえ!!』



『快楽殺人者!!』



『あなたに期待した私が間違っていた!!』



『お前なんて剣聖じゃねぇ!!ただの人殺しだ!!』



『しね』



『裏切り者』



『クズ』



『二度と日の目を見られないようにしてやる!!』



『殺された人の気持ちを思い知れ!!!』



『命をなんだと思ってやがる!!』



『この恩知らず!!恥さらし!!』



『お前なんてゲームやめろクズ!!』



『最低』



「・・・・・・」



『『『『クヒャヒャヒャヒャ!!!言われてたね!!言われてたね!!これがみんなの本心だよ!!!いや!!人間の本当の姿さ!!!自分に持っていない人に対して憧れを!!羨みをもつ!!そして気に入られようと媚を売る!!そしてそいつが悪ならその全てを無かったことにして全部捨てるのさ!!自分たちが正義だと!!正しいのだと思うためにさぁ!!!それが例え英雄なんて存在だとしてもねぇ!!!』』』』



「・・・・・・」



『『『『皆皆お前が嫌いだ。お前がここに来たせいで全部崩れたんだ。お前がここにいる意味も、価値もない。この世界からいなくなってしまえばいいんだ!!!!皆が君に対してそれを望んだ!!!そして君はそれに!!皆が君に言っていたようにこの世界から!!表舞台から消える権利がある!!!君にその権利を渡したのは、他でもないこの世界なんだからねぇ!!』』』』



「・・・・・・」



『『『『アヒャヒャヒャヒャ!!!今君に向けられた言葉がこの世界に生きる人たちの総意だよ!!君に対する時代人の!!この世界に生きる命の総意なんだよ!!!グヒャヒャヒャヒャ!!!!!!』』』』



「・・・・・・」



『『『『でも僕は君を見捨てないよ!!?だって!!!僕が君の“仲間”になってあげるからね!!!何があっても君を信じようじゃないか!!君と僕で世界を“楽しく面白い物”にしようよ!!!僕を殺すなんて君のような人間にはもったいない!!君を捨てた世界に対して君の怒りを!!君の本当の気持ちを見せてやろうよ!!』』』』



「・・・・そうだな・・・せっかくお前から”素敵な言葉”をもらったんだ。この機会だし使わせてもらってもいいか?」



『『『『いいとも!!!君にはその権利がある!!さぁ!!世界に向けて言ってやろうよ!!!君の今の気持ちってやつをさぁ!!!!』』』』


























「つまんないこと長々と言ってるんじゃねぇよタコ」



全てはたった一人を”壊す”ために作られたシナリオだった。人に壊してもらって自分がそれを”助けて救う”そうすることで思うがままに世界を変えようとしていたのです。



だけどアールはそのシナリオに対して真正面から対峙する。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の場合、誰かが気づけなければ街が魔物の手に渡り、イベントは失敗してこれより酷い犠牲が出てたんでしょうね。剣聖が理由無しに人を殺すことはない、ならばそれ相応の理由があると考えるのが普通。剣…
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