147:先へ
時間の進みが違うことをいいことに修行し始めた結果がこれだよ・・!!!
「そろそろ先に進もうと思うんだけど!」
「急だなおい」
本日の朝食は羽根付き球体モンスター、俺命名『パタキュウ』の塩焼きである。いやぁ岩塩見つけたときはテンションが上がったよ。
修行開始から既に二ヶ月。現実世界で言うとまだ一時間か二時間程度経ったか経たないかであろう。神殿以外では経過していても数時間程度。
二人でこうして戦っては休んで、ダンジョンの中を探索してはアイテム見つけてを繰り返している。
ここのモンスターとの戦いもかなり理解してきたので初日のようなヘマはしない。
そんな感じで過ごす寝起きの食事中にリークが声を上げてそういった。
「ちょっとマンネリ化してきたし気分転換でどう?」
「まぁ確かにありだな」
「それでね?今日のスパーリングは二時間で切り上げて今行ける範囲の探索もう一回しない?」
「確かにいいかもな。そろそろ先に進めってコイツも言ってるだろうし」
『オオオ』
何処で獲ってきたのか狼モンスターの死体を焚き火で焼きながらムシャムシャと食べ進めているスパーリング相手のオークこと『サガリ(リーク命名)』が首を縦に振り頷く。
「なによサガリ、文句あるの?」
『オオオ・・・・』
なぜ一緒に飯を食っているのか、それは簡単である。いる場所に行くのが面倒になったのでこうして扉の中に押し込んだのである。最初は混乱していたが、リークと俺の説得によりこうして素直にここにいるのである。
ちなみに『パタキュウ』と命名したモンスターこと懐いているパタキュウこと『コロホル(リーク命名)』と懐いた狼型のモンスター『カルビ(リーク命名)』も扉の中に寝床を作って入れてやっている。
多分だけど運営もこうなることは想定していまい。
モンスターに独自のAI・・・感情や思考がついているからこそ出来る芸当である。素晴らしい。最近は扉の前が広場くらいに広がっており、そこがもっぱら手合わせ場である。
ダメージは与えられなくてもダンジョンは砕けたのでよかった。
「それじゃぁそれで決定ね?」
「だな。実は進みたい気持ちもあったしちょうどいいか」
『オオオ』
「あ、そうだ。サガリ、あんたも一緒に来なさいよ?」
『オオッ!!?』
「何驚いてるのよ。当然でしょ?あんたがいないと私は誰をボコればいいのよ?」
『オオオオオ・・・』
ボコるなよとでも言っているように項垂れるサガリ。そうなるとコロホルとカルビも一緒についてくるだろうな。
最初は二人だったのにこの二ヶ月で狩人顔負けの従者が三匹も出来てしまったのである。
◇
宣言通り二時間でスパーリングを切り上げたリークと従者三匹を連れて、俺たちはサガリが守っていた道の先へとついに足を進めたのである。実に二ヶ月ぶりの進展である。進んだ先もこれまでの場所と同じように、光を放つ岩がありとても明るい。道端に落ちているアイテムらしきものは片っ端から拾いポーチの中へとしまっていく。
石ころとか砂利でも使い方次第で立派な武器になる。どこかの格闘家もそれで囚人を恐怖のどん底に追い詰めてたし。砂埃でステルスか・・・桜華戦流応用すればいけるか?
『グルォォォオオ・・・・』
とか考えながら進んでいると早速新種モンスターと遭遇。熊だ。しかも前足が異常に発達した熊である。一撃当たればただじゃ済まなさそうだな。
「リーク、左からいけ、俺は正面」
「わかった。アンタたちは基本手出ししないでよ?危なくなったら殺りなさい」
『オオオオ』
「来るぞ!!」
『グオォォォ!!!!!』
流石熊、最大速度になるまでが早い。走るときの前足の動きもかなり怖い。俺とリークは左右に展開。サガリたちは俺のほうが安全と見たのか俺と同じ方向へとやってきた。
「来なさい熊!!」
『グオォォォォ!!』
挑発したリークに誘われるように、熊はその前足を大きくなぎ払った。改めてみるとすごい熊手だ。爪もそうだが手がでかい。大人の顔三人分は潰せるくらいにはデカイ。
掴まれたら即死だな。
「『白月』」
『グルオォォオッ!!?』
だから掴まれなければいい。一歩前に出たリークは薙ぎ払われた腕を受け止めるように手を伸ばし、その衝撃を地面へと伝え分散させる。
「『水無月写鏡』!!」
『グルゥォッ!!?』
そのままもう一歩前へ、土手っ腹に搗ち上げるように拳を叩き込む。受けた衝撃のうち、体に循環させた分を全て叩き込み、僅かではあるが熊の巨体が一瞬地面から離れる。
「もういっちょ!!『水無月写鏡』!!」
『ギュルォォっ!!?』
熊の弱点と呼ばれている鼻頭へと回り込み、衝撃と共に掌底を叩き込む。メキョっと嫌な音を響かせながら顔が潰れ、熊は大きく後ろへと仰け反る。
「星の弓矢が汝を貫く『第二の赤:射手座』!!」
イメージは矢。今まで散々見てきた俺の『天翔サジット』そのままの攻撃が動きを止めたクマへと向かう。
だがここでいつもの動きが起こる。熊は突如動きを変えて、攻撃を避けて一瞬でリークの正面までくる。そのままリークを噛み殺そうと大きく口を開く。
「裁きの天秤はその動きを止める『第二の黒:天秤座』」
『グゴィ!?』
そしてだが、ここのモンスターは攻撃に関してはとんでもない動きをするが、攻撃以外、つまり支援行動や状態異常のトラップなどは例外なのだ。
リークが仕掛けたのは地面に作られた呪文のトラップ。
『第二の黒』は相手への呪い効果。『天秤座』は相手のステータス値の強制変更。見た感じだがおそらく素早さを0へ、重量をその分増やしたことで、自分の体重が徐々に増えていくとかそんな感じだろう。現に熊はトラップにかかった瞬間。自分の体重を支えきれずに地面へと沈んだ。大きく口を開けたまま無防備な姿を晒してな。
「さて?あなたは何回攻撃したら死ぬのかな?」
『グゴォォォォォ!!?!?!?!?!』
それは雄叫びではなく本能から感じる恐怖による悲鳴だった。先程まであんなに雄々しく上げていた雄叫びは悲鳴へと変わる。
リークという獲物だった相手が、自分を仕留める猛獣へと姿を変えた瞬間であった。
◇
攻撃回数実に29回。内訳は一番攻撃力が出る『第二の赤:双子座』が10回、俺の火力が出ると思われる十文字切りが19回。
熊が息を引き取るまでに受けた攻撃である。タフだったな。リークは使ったマナの回復の為に呪文書を見ながら詠唱を唱えている。
俺は剣で分厚い皮と食えそうな部位、あと後々使えそうな箇所を解体していく。本当は全部持っていきたいがポーチにそこまでの空きはない。
コロホルとカルビ、そしてサガリへの餌にするため手に持ち運べない部位は三匹の前に置いていく。置くと三匹はムシャムシャと活きの良い肉を食らっていく。
やがて時間制限で残っていた死体は光となって消えていく。消えるまで約五分。少々乱暴ではあったがそれなりに素材は確保できた。後は血抜きすれば熊肉のジビエとして食えるだろう。おすすめは塩コショウで味付けする焼肉である。これが意外とうまい。
「アールお待たせ。マナのストック最大まで回復できたよ」
「あいよ。すまんカルビ。この素材持ってくれるか?」
『ワン!!』
狼も躾ければ立派に人間のパートナーである。
モンスターを倒して剥ぎ取った毛皮を知っている知識をフル稼働させて、鞣し紐の代わりにした。正しいやり方ではないだろうけどそれっぽく出来たので良しとしよう。炙って肉を削ぎ落としたり色々したのだがなかなかいい経験だっただろう。今はぎ取った熊の素材でも何か作れると思う。時間があればやってみよう。




