138:恐怖で覆われる街
すみません。しばらく土日の投稿一話ずつになります。落ち着き次第また二話投稿出来たらいいなって思ってます。
社員回の人気ぶりに嫉妬しそうなので、近々もう一回予定してたりします。
翌日。
その日は魂が抜けたようにやる気がおきなかったので全員がログアウト。一日の時間を置いて再びプラネットクロニクルの世界へと戻ってきた。
ログイン画面でも少々変化があり、イベント目玉である七体のゴブリンとプレイヤーたちが戦うイラストに変更されていた。
こういう細かいところがエクスゼウスの面白いところだ。ログインを済ませて俺の意識は一度光の中へと溶けていく。
やがて人々の喧騒が聴こえてくるとゆっくりと目を開く。宿屋にて目が覚めた俺はゆっくりと起き上がり、窓の外の様子を窺う。誰もが普段を同じように過ごしているように見える中、ゴブリンが人間に擬態したという不安から、皆がぎこちなく過ごしているように見える。
残念ながら俺にゴブリンの擬態かどうかを見分けることはできない。それこそリークやレイレイなどは当然のこと、ルークやギンなどのある程度付き合いがあるのなら入れ替わっていれば簡単に見分けがつくが、それ以外の赤の他人をゴブリンかどうか見分ける力は俺にはない。
「倒すにしてもまずはこの問題を解決しないことには始まらないか・・・・」
「・・・師匠・・・おはようなのじゃ」
「おはようギン」
向こうで一日、こちらで四日ほど経過したくらいだろう。それだけの間ギンはこちらでディアやギルファーと共に安心できぬ夜を過ごしてきたはずだ。
それだけじゃない。ギンもかなり思うところはあるはずだ。自分の勘違いで町を殺しかけたのだ。それがどういった理由であれ変わることがない真実。優しい言葉をかけてもそれが消えることはない。
「ギン。おいで」
だから俺に出来るのは弱音を吐く場所を作ってやることくらいだ。寝ていたベッドに腰掛けて手を広げギンを呼ぶ。
「・・・・リークに刺されても知らぬぞ?」
「黙ってこい」
「・・・・今だけはルークがバカを言う気持ちが分かるのじゃ・・・・」
とんと体を預けるようにも体重を預けてきたギンを優しく受け止める。たまにリークにするように優しく頭を撫ぜる。
声を出して泣く事しなかったものの、嗚咽を漏らし、ただ静かにギンは泣き続けた。
約10分程度すると泣き止み、優しく頭を撫ぜる俺の手を味わうように寄りかかっていた。
「んっ・・・・クセになりそうじゃ・・・・」
「俺の胃に穴があかない程度なら甘えてこい」
それくらいの包容力はあるつもりだ。むしろそうでなければあいつらとこうして仲良くやっていられるとは思ってない。あいつら意外と気難しいからな。マー坊含めて。
「たらしじゃのぅ・・・・このまま目合を交わしたくなるほど心地が良いのじゃ・・・」
「流石に勘弁してくれ・・・・・・」
互いにガタが外れる前に離れ、遅めの朝食へ向かうことにした。何度も言うがこのゲームにR18指定の大人の描写も機能も存在していないからな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ないよな?あったら流石に怖いぞ?現実でも仮想現実でも搾り取られるのは流石に勘弁願いたい。
・・・・1対2でも敗戦してんのに、1対3になってみろ。完敗間違いなしだぜおい。
―――――◇―――――
「相変わらずじゃのう」
「糖分は頭の回転には必須だからな」
「限度があるじゃろうに・・・・」
プリンアラモードギガブレイクなる重量1.2kgのデカ盛りメニューである。プリン以外にも果物と生クリームがこれでもかと盛られているので食べ飽きることもない最高の逸品である。
「一口食うか?」
「む・・・・・い・・・いらぬのじゃ・・・・・間接キス・・・」
そうか・・・こんなに美味いのに。あと大人ならそれくらいのことで顔を赤めるな。と言うかさっきそれ以上のこと口にしてたじゃねぇか。
「忘れて欲しいのじゃ!!・・・・思い出しただけで灼けてしまいそうなのじゃ・・・・」
なら言わなければよかったのに・・・・
『ヨヨ』
差し出していたスプーンにディアがふにゅーんと腕を伸ばしてきたので、口と思われる部分にプリンを差し出すとスプーンが触れる前にプリンが吸い込まれた。
「うまいか?」
『ヨヨ〜』
美味いようで肩の上でプルプル震えている。カワイイやつめ。
「そう言えばギン、なんか変わったことはあったか?」
「うにゃっ!?・・・そ・・そうじゃの・・どの街もどこか余所余所しく感じるようになったのじゃ」
それだけ大きな傷をあの自称ジーニアスゴブリンは残していきやがったわけか。人の結束を壊すという意味では大成功したわけだ。あの時何とかブチ殺せればよかったんだがな。
いや、あの場ではあれが一番だったはずだ。そうでなければあの親子が死んでいたかもしれない。それに俺もタガが外れていた。言い訳になるが仕方がない。
「まぁこれ以上クヨクヨしてられねぇな!」
「・・・・師匠っ?」
あの時はあれが最善だった。少なくとも俺はそう思おう。うっし!ウジウジしていても仕方がない。一日置いてスッキリしたんだ。気持ちを切り替えてあのクソゴブリンをぶち殺そう!
「ギン、依頼受けに行くぞ。怪しい依頼は片っ端から片付ける」
「うむ!!あの畜生ゴブリンめに目にもの見せてくれようぞ!!」
そんな風に意気込んでいた時だ。何やら街の中が騒がしくなってきた。皆街の中心に向けて歩いていく。
何やら不穏な空気がしてきた。
「ディア、残り全部飲み込んでくれ。ギン、行ってみるぞ」
代金は既に払い終えているので残りをディアに飲み込ませて席を立つ。中央に進めば進むほど人ごみが増していく。逸れないように手は繋いでいるが、このままだと流されてしまいそうだ。上から行くか。
「ギン。跳ぶから掴まれ」
「のじゃ」
人ごみの中からギンを引っこ抜き、お姫様抱っこで抱えて空へと跳び上がる。そのまま屋根を足場にして騒ぎの中心へと向かう。
騒ぎの中心では二つの集団がそれぞれ罵倒を繰り返していた。
「嘘をつくな!!お前らの雇い主がゴブリンだったんだ!!お前ら本当は知ってたんだろ!!」
「本当に知らないんだ!!!嘘じゃない!!そんなこと言ったらお前の店だって俺たちが育てたもの売ってたじゃないか!!?ミルザさんが殺される前の日にお前のところにクットさんに化けたゴブリンが行っていたの知っているんだぞ!!」
「なんだとっ!!俺がゴブリンだってうのかよ!!?」
「お前だって俺がゴブリンだっていったじゃないか!!!」
見覚えが有る。あの人は俺がクットさんの元へ行った時に色々とお世話になった人だ。相手はその時の品物の相談相手らしい。ちなみにミルザとは、ミルトさんの夫、つまり殺された被害者のことだ。
「それにミルザだって本当はゴブリンだった可能性だってあるじゃないか!!」
「っ!!お前ぇ!!ミルザさんにまでそんなこと言うのかよ!!」
「だってそうじゃねーか!!クットの野郎もほかの野郎もほとんどゴブリンに成り代わってた!!お前らが違うって言い切れんのかよ!!」
「違う!!俺たちは絶対に違う!!」
「ならこの場で証明してみろや!!」
不味い。この流れはまずい流れだ。現実で言うところの魔女裁判や某帝国で起きた人種差別での大量虐殺に繋がる流れ。
人を信じられなくなって、怪しい人すべてを”正義”と名を打って”断罪”し続ける。
それがやがて小さな恨みや妬み、終いには小さな喧嘩から”正義と粛清”の名のもとに殺しが正当化される。それだけはさせてはいけない。そうなればBADEND以外の未来が閉ざされる。
それを決定づけるように遠目で見た野次馬たちが『そうだそうだ』と声を上げ始めた。
プレイヤーたちも凶気に飲まれかけたNPCたちを見て怯えるように下がる。これを止めるなら今しかない。
「ギン。ちょっと派手にやる。付いてくるか?」
「当然じゃ。師匠あるところに弟子ありじゃ、堕ちるときはどこまでも一緒じゃ」
「どうして俺の近くには重い女が集まるのかね?」
「女子に重いは禁止用語じゃよ?」
「わるかった」
ギンを背負いすぐにでも殺し合いが始まりそうな広場に飛び移る。突然現れた俺たちに驚いたのか先頭に立って彼らに”制裁”を加えようとしていた男は口を止めた。
「あ・・・あんた・・・・」
「な・・・なんだお前?」
「落ち着けや。そんで思い出せ。今あんたらは怖いだけなんだろ」
「は?」
「人の皮を被り人を殺すゴブリンが現れた。そんなやつが現れたら誰だって怖い。そうだろ?」
「そ・・・そうだ!!だからこいつらがゴブリンに繋がってる可能性があるなら身の潔白を証明すべきなんだ!!」
「ならお前がその立場になったとき、どうやって身の潔白を証明できる?」
「それは・・っそ・・・そうだ!一緒にいた奴らに頼めばいい!!ずっと一緒にいたのならそれが証明だ!」
「なぜそうなる?」
「は?そんなもん当たり前だろ!?友達だ!知り合いだ!!家族だ!そんな奴らの言葉を信じないでどうするんだ!!?」
「なら今、お前がゴブリンだ、ゴブリンの仲間だと言っている奴らは赤の他人か?一度も話をしたことも、顔見知りでもないのか?」
「っ!!?そ・・・それは・・・・」
振り返り責められていた彼らに言葉を投げかける。
「あなたたちにも聞きたい。この人はあなた方にとっての他人か?それとも知人か?」
「ち・・・違う・・・・何度か一緒に酒を飲んだことがある・・・」
「俺は・・・・・・ちょっと前に財布なくして厄介になったことある人だよ・・・・・・・」
「昔っから喧嘩っぱやくて怖い人だけど・・・・いいひとだ・・・」
「だってよ。あんたが言う知り合いとか友人にこの人たちは入らないのか?」
「・・・・・・・・・」
「少なくともこの人たちはアンタの事友人だと思ってるし、いい人だって知ってる。あんたが言うところの友人だ。違うのか?」
「ち・・・・違わねぇけど・・・・」
「ならあんたが信じなくて誰が信じてやるんだ?友人の言葉を信じないでどうすると言ったのはあんただ。それとも今のは出任せか?」
「違う!!俺は何があっても友達は絶対に信じるにきまって・・・・・・・・・あ・・」
「そういうこった。あんたは自分の言葉を自分で否定してるんだ。一旦落ち着け」
男は言葉を噛み締めるとゆっくりと自分が責めていた人たちを震えながら見回した。見られた彼らも似たような事を思っていたんだろう。
先ほどの会話から互いが互いをゴブリンだと言っていた。その言葉の意味を、少しだけ理解できたんだろう。そう願いたい。
「・・・・お前ら・・・悪かった」
「いやその・・・・俺らもすまんかった・・・・・売り言葉に買い言葉だったよ・・・」
ついさっきまで責めていた相手が謝罪したことで、責められてた彼らも頭を下げる。そして責めていた男たちは地面に頭をこすり付けるようにしてもう一度謝罪した。
「すまん!!本当にすまん!!」
「そんなことしないでくれ!!俺らだってひでぇこといったんだ!俺らが地面に頭こすって謝んねぇといけねぇんだ!!」
「お前ら・・・・・」
良かった。暴動に発展しなくて本当に良かった。
互いに手を取り合い大の男たちが涙を流して謝り合っている。奇妙な光景かもしれないが男は以外と涙もろいんだ。
「兄ちゃんもありがとよ・・・・俺ァ大事な友達無くすところだったぜ」
「気にしないでくれ。不安に思って誰かを疑うのも仕方ないんだから」
「でもよぉ兄ちゃん・・・・俺たちこれからどうしたらいいんだよ・・・あんな化物がいるんじゃ不安で眠れねぇよ・・・」
街中の人が同意するように話し始める。言葉には不安が、身体には恐怖が、思考は錯乱し何を信じて行けばいいのか、誰を信じていいのかはっきりしていないのだ。
相手は人を殺し、人に化ける怪物。そんな怪物が今表舞台に上がってきてその驚異をばら撒いている。
恐怖に支配された人間はやがてばら撒いた怪物の操り人形となり命の殺生まで簡単に決められてしまう。
じゃぁどうすればいいか。
一つは楽になること。全てを捨ててしまうこと。そうすれば何も感じない。
一つはそれ以上の恐怖を受けること、それより上を知ればそれから逃れるために思考は支配される。
そしてもう一つは、恐怖以上のなにかを信じること。恐怖すら打ち消す何かを胸に抱き続けること。
久しぶりの剣聖ロールだ。派手に行こう。
―――――◇―――――
すみません。実はエーテリアに行きたいんですけど道に迷ってしまいまして・・・
え!?あなたもエーテリアに行くんですか!!?いやぁ!助かりました!!実は初めて行くので一人では不安だったんですよ!!
あ、私は”ミルザ”といいます。実は最近剣聖と言う方の話を聞いてぜひお会いしたいと思いまして。
えっ!!?貴方のお師匠様が剣聖のお弟子さんなんですか!!?しかもあなたもお知り合い!!?
いやぁ!!”素晴らしい出会い”ですね!!!そうだ!!町に着くまでにぜひ”色々”教えてください!
旅はいいですね!!こんな出会いがあるんですから!!ねぇ?”刀気さん”?
久しぶりに剣聖ロール始めるよー
感想良ければお願いします




