136:葬儀
注意
今回少々残酷な描写があります。人によっては不快に思うかもしれません。
しかしプラネットクロニクルという作品では大切な描写でもありますのでよろしくお願いします。
良ければ感想下さい。
さぁ、悲劇を起こそうかっ!!!ヒヒヒヒヒ・・・ウヒャァァ!!!!!!!!!
―――――◇―――――
「すまん・・・もう一度言ってもらえるか?」
時間にして一日ぶりに戻ってきたアクシアの街、依頼主がいるであろう農園にいくと、人が極端に少なく、何かあったことはすぐに分かった。仕事中の人を捕まえて話を聞くととんでもない事実を聞かされた。
「死んでしまったんです・・・・やられた時の傷がどうやら心臓にまで影響を与えていたみたで半日ほど前に・・・・」
棺桶に入れられていたのは妖精竜に襲われた被害者。なんでも俺らが戻ってくる間にそのまま息を引き取ったらしい。被害者には家族もいて一家を支える大黒柱として依頼主の下で毎日一生懸命働いていた。
そんな彼が何か罪を犯したわけでなく、ただ見回りしていただけなのに襲撃犯に襲われて怪我を負い、寝込んでいたのだが、そのまま息を引き取ったそうだ。
俺たちが街に戻ってきた時にはちょうど葬儀が行われていて、教えてもらった街の墓地へと向かうと、家族友人、そして多くの人たちが最後の別れを告げていた。
依頼主であるクットさんも参加しており、大粒の涙を流しながら、仕事仲間であった従業員との最後の別れを惜しんでいた。
「「「・・・・・・」」」
別れを告げる人々は口々に、被害者を死に至らしめた傷を負わせたと思われる妖精竜に対して怒りの言葉を口ずさみ、泣き叫びながら感情を爆発させていた。
こんな中で『妖精竜は何もしていない』とは言えるような雰囲気ではなかった。むしろ妖精竜が犯人だと言い続けることで何とか自分の心を保ち続けてる人もいるくらいだ。
残酷なまでにリアルなNPCたちの悲痛な叫びを聞いてリークもレイレイも、そしてルークも言葉を失っている。墓地で悲痛に響く嗚咽と悲しき悲鳴。それだけで、死んだ人がどれだけ多くの人に慕われていたのか分かる。
「少し行ってくる。かなり酷いこと言うつもりだから来たくないなら来ない方がいい」
「「「・・・」」」
三人は無言のまま首を振り、『来るか?』と聞けば、ただ静かに頷いた。俺たちは彼らのもとへと足を運ぶ。俺たちのことに気づいた人がこちらを見てくると、ほかの人も続けてこちらを見てきた。
「あぁ・・・・あなたでしたか・・・・」
「こんにちはクットさん。亡くなった方に我々も挨拶をと思いまして」
「クットさんこの方たちは?」
「ミルトさん。この方たちは私の依頼を受けて妖精竜の討伐に名乗りを上げてくれた方々です」
「あぁ・・・・あなた方が・・・主人の敵を・・・!!!」
溢れ出る涙を必死に堪えるように被害者の妻と思われる女性は俺の手を握り懇願するように強く訴えてきた。その目には悲しみと憎しみ、そして怒りが篭っている。
「お願いします・・・!!主人を・・・主人を殺した妖精竜を殺してください・・・・・・私に払えるものならなんでも払います・・・!!だから・・・だから仇を取ってください・・!!!」
そう願う彼女の後ろには彼女と、死んでしまった方の子供たちと思われるルークと同じくらいの年の少年少女が、目元を赤くしながら、泣きながら母親の後ろに立っていた。
「アール殿・・・・私からもお願いします・・・!!依頼金はより多く出します。なんだったらあなた方が望む額を出してもいい!!私の仕事仲間を奪ったあの憎い竜を殺してください・・・!!」
「・・・・・・」
頷けなかった。ただただ死んだものの無念を晴らして欲しいと願う言葉さえ、今は素直に頷くことができなかった。彼らが心の底からそれを願っているのだということは伝わってくる。
クットさんも、ミルトさんも本気で悲しんでいる。怒っている。それが激しくもはっきりと俺の心にぶつかってくるのだ。
彼らだけじゃない。この場にいる全員からその感情が伝わって来るのだ。大切な人があっけなく死んでしまった事態に、罪なんてなかったはずなのに殺されたことに関する憤り。
そして死んでしまった彼がどれだけ多くの人々に大切に思われていたのか、それが見ただけで伝わるほど、全員が悲しんでいる。
だからこそ、俺も彼らを信じたい。少なくとも、今の俺には彼らが嘘をついているかなんて判断できないし、今俺が感じたことを信じるしかない。
だからこそ、残酷な道を選ぶしかないのだ。いくつか想定できる最悪のパターンではないことを証明するために。
「一つだけ・・・お願いがあります。残酷なことです。それでも聞いてくれますか?」
「・・・なんでしょう?私たちに出来ることなら・・・あの人の無念を晴らしてくれるならなんだってします・・・!!!」
俺が今から言うことは遺族にも、そして死者をも侮辱するかもしれない一言だから。いやそれだけじゃない。下手すれば俺はこの町の住民、ひいては世界中から非難される可能性だってある。
それでも、これが本当の下手人を見つけるための確実な方法なのだ。”俺たちはまだ死んでしまった人の傷を見ていないのだから”
「彼の体を見せて欲しい。彼が死んだその傷を」
「「アールっ!!?」」
「し・・・しょ・・う?」
「な・・・・にをいって・・・・おるのじゃ・・・?」
既に彼の遺体は墓の下に埋められている。それを掘り起こして見せろというのだ。最悪な事を言っている自覚はある。
それは死者を冒涜することであるといっても過言じゃない。でも、一番確かで、確実な方法だ。ファンタジー世界において映像記録なんて便利なものは、少なくともNPCに普及されていない。なら一番真実を語ってくれるのは、現物しかないのだ。
今回で言えば死者の体がそうだ。俺は外科医ではないし、その手の知識はない。でも、傷に関してだけは一般人よりも知っているつもりだ。
死とはかなり関わってきたのだから。文字通り自分の身を持ってな。死亡してやり直しを繰り返しているうちに、傷の種類や出来方、そしてその要因をたくさん学んでしまった。
それがこんな所で使えるとは思いもしなかった。そして同時に、これは今の状況で許されるような発言ではないのだ。依頼主であるクットさんは顔を真っ赤にして声を張り上げた。
「何を言っているんだ君は!!死者を!!!彼を!!!これ以上苦しめないでくれ!!!!私たちも彼との別れを必死に惜しんで眠らせてあげたんだ!!君には人としての優しさはないのか!!?」
「そう言われても構いません」
「君がそんなに人でなしだとは思わなかった!!済まないが君に頼んだ依頼は破棄させてもらう!!!君のような人間に彼の敵など取れるとは思えない!!」
「非難されるのも覚悟の上です。それでも頼みたい。確実に彼を殺した犯人を討伐するために彼に会わせて欲しい」
「その口を閉じろ!!!今すぐここからいなくなれ!!君のよう「構いません」な・・・・え?」
弱々しくもはっきりとそう答えてくれたのは被害者の妻であり、今も俺の手の強く握りながら泣いていた女性、ミルトさんだった。
ゆっくりと顔を上げた彼女は歪めた顔の中に強い意志を持ってこちらを見ていた。
「主人の・・・あの人の仇を討ってくれるなら・・・・あの人もきっと許してくれます。主人が許してくれなかったとしても!!私が許します!!」
「な・・・何を言っているんですかミルトさん!!彼はようやく安らかに眠ったんだ!!これ以上彼を「私はあの人の妻です!!私がいいといったんです!!仇を討つためなら私は悪魔にだって身を売ります!!」・・・・・っ!!?」
「さぁ・・・こちらです」
クットさんの反対を押しのけてミルトさんは俺たちを彼の墓の前まで連れてきてくれた。顔を真っ赤にするクットさんに謝罪しつつ、俺は彼が眠る前までやってきた。
視線は非難するような、怒るような視線がいくつかと、今でも悲しみながらも、心の強い目で俺のことをしっかりと見据え、懇願するように願う人々も多くいてくれた。
その時、背中をギュッと掴まれた。振り返ればリークとレイレイ、そしてルークとギンがキツイ視線を受けながらも、俺と同じ場所にやってきた。覚悟はあるのかと言葉なく問いかければ、全員強く頷いた。
ならこれ以上言うことはしない。覚悟をしてきたなら俺はそれを尊重するよ。
「「「「「・・・」」」」」
目を瞑り、これからする事への謝罪と、仇を必ず討つと誓い、静かに黙祷を捧げる。20秒ほど続けて目を変えると、子供たちが泣きながらこちらを見ていた。
「お兄さん・・お父さんの敵絶対とってね!!」
「とらなかったらゆるさないんだから!!!」
「約束する。必ず敵は取る・・・リーク、掘り起こしてもらえるか?」
「うん・・・・・大地よ、歌え『ソルシャンテ』」
魔法陣が現れてゆっくりと地面に降りていく、魔法陣は地面に触れるとその部分を優しくゆっくりと掻き分けていく。地面を掻き分ける音がとても優しく、本当に大地が歌を歌っているように感じた。
発動から一分。彼が埋まった棺桶がゆっくりと姿を現した。最後の確認をするために遺族へ、そして集まった方々へと顔を向ければ震えながらも力強く頷いてくれた。
まだ一部の、畑で出会った人々は怒りの感情がありつつも、遺族が決めたならというように、言葉なく非難を続けている。それも覚悟の上だ。
必ず仇を討つ為に、真実を確認するために、俺は棺桶に手をかけてゆっくりと蓋をずらす。現れたのは手を組み静かに眠る男性の姿。
「あうぅっ!!!ぅぅぅぅ!!!」
別れを告げたはずの主人を見て涙を流すミルトさんとその子供たち。そして集まった友人たち。死んだ身に無理をかけることに黙祷を捧げ、組まれた手をゆっくりと外し、握っていたロザリオを丁寧に横へずらす。
着ていたのは彼がよく着ていたであろう普段着。それをまくりあげて彼の死因となったであろう傷を見る。
そこにあったのは鉤爪のあと、龍種によくある三本の爪痕だ。惨たらしく心臓にまで伸びた傷だ。見ただけでわかる。これは致命傷だ。治療したとしても長くは生きられないだろう。
だが・・・・”これだけでは即死することはない。出血多量でショック死してしまうかもしれないが、それなら俺たちが依頼を受けた時点で死んでいなければおかしいのだ”。
そしてだ。この仮説が正しければ、この傷ならプラクロのポーションさえ使えば十分に回復可能だ。これ以上の傷を受けたことがある俺が断言する。
つまりだ。俺たちが来た時にこの人が生きていたのなら、一度彼はポーションなり、手術もしくは処置なりをして回復、あるいは持ち直しているはずだ。そうでなければ生きているわけがない。
その状態から持ち直したのなら、そこから悪化して死ぬことなどありえないのだ。それにこの傷が余りにも不自然だった。これは確かに鉤爪の痕だが、妖精竜の痕じゃない。実際に見てきたばかりだし断言できる。そして他でもないこの”武器”で致命傷を受けたことがある俺だから言える。これは違うと。
「リーク、レイレイ。お前らどう思う。隠さないでいい。はっきりこの場で言ってくれ」
そしてだ。俺が、素人の俺がここまで判断できるんだから、”そっち”に詳しい二人が知らないわけがない。歪む表情から見て、二人も既に真実にたどり着いているのだろう。
「・・・・違う。これは龍種の攻撃を受けて出来た傷じゃないよ」
「っ!!?ど・・・どういうことですか!!?」
死因は妖精竜によって負った傷だと、これだけ見れば素人なら信じるだろう。でも、専門家が見れば、一度でも妖精龍の手を見たことがあるならば断言できる。これは妖精龍の傷ではない。
それどころか龍の鉤爪で付けられた傷ですらない。これはとある”武器”で付けることができる傷だ。
「武器に『モーニングスター』っていう棒に鉄球とかを付けた武器がある。その中でも『龍爪棒』っていうものなんだけど、それは相手に竜の爪で引き裂いたような傷跡を残せる。特徴は傷跡、龍は先端が鋭くて徐々に太くなる。でもこの傷は“最初から”太い。龍ではこんな傷はつけられない。それこそ体を貫通させないと」
「で・・・でも!!?これは確かに龍種の傷跡です!?確かにその武器でも与えられるかもしれないですけど!!お医者さんだってそう言ってたんですよ!!?」
リークの言葉に反論・・・・いや、信じたくないというようにミルトさんが悲鳴のような言葉を繋ぐ。そこへレイレイが補足するように告げた。
「もっと言うと妖精竜の爪は4本あるの。それは規則的に並んでいて傷跡だけで『これは妖精竜の爪痕』だってすぐにわかるくらいにね。この時点で妖精龍は犯人から外れるよ」
「っ!!?」
「傷跡を見て欲しい。確かに三本の爪痕だが、よく見れば傷がぐちゃぐちゃだ。それにまっすぐ振るったにしては軌道もひどい。龍種ではこんな傷つけられないよ。そしてもう一つ。この真ん中の爪痕なんだがよく見て欲しい・・・・・“ここに刃物で切り裂かれた跡が残ってる”」
「っ!!!?」
まるで傷の上から更に傷を深く付けたのような傷跡がある。それも巧妙に隠された刃物。ぱっと見では見えないが、確かに存在する鋭い刃物のような何かで付けられた”本当の致命傷”が存在していた。
想定していた最悪のパターンだ。そしてだ。これを”龍種の傷である”と断言した医者が怪しいのは言うまでもない。医者ならメスなどの鋭い刃物を持っていても何ら不思議じゃないのだから。
寝込む彼になんの違和感もなく刃物を持って近づけるのは、少なくとも、”処置”のために近寄ってくる医者だけだ。
「じゃ・・・・じゃぁ・・・・主人は・・・・・・・」
「龍じゃない。人に、それも龍爪棒なんて珍しい武器を持ってる奴にな。それから例え知らなくてもこれが武器による傷だってことは本当に医者なら誰でもわかるはずだ。医者の方はどなたですか?」
「お・・・お医者様は・・・・クットさんがすべて手配してくれたんです・・・・」
・・・・本当に最悪の中の最悪のパターンだよ。
「・・・・クットさん。話をきかせっ!!?・・・ルーク後ろだ!!!!!」
「っ!!」
刃を抜かず、鞘ごと後ろに向けて振るったルーク。鞘は向かってきた三つの爪を弾き飛ばしてミルトさんと彼女の子供たちを守る。
そして聞こえてきたのは全てをあざ笑うかのような笑い声。そして皮膚を破る気持ちの悪い音だった。
「ヒヒヒ!!まさか!!!まさかこんな簡単に見破られるなんてね!!これはこれでいいけどサ!!!!」
そこにいるはずのクットさんの姿は存在しておらず、代わりにいたのは、クットさんの皮膚を引き裂いて出てきた人間ではない何かだった。
クットさんだけじゃない。クットさんと一緒に来ていた農場の人、俺たちの行動に怒りの視線を向けていたすべての人たちが、同じように体を突き破り異形の姿を現した。人間の二倍はある巨大な肉体。屈強な体とどす黒く染まる皮膚。人間の皮膚とモンスターの皮膚を縫い合わせたおぞましい姿。
そして、この街に来る前に俺たちが討伐した今イベントの目玉であり、元凶であるモンスターの姿。その名は・・・・・
「ゴブリン・・・!!!」
「キャァァッァァッァ!!!!!!」
「ウワァァァ!!!!!」
人間の皮膚を突き破り、真っ赤に染まった龍爪棒を担いだゴブリンと、彼らに守られるように狂気に満ちたゴブリンがその姿を現したのだ。
被害者の治療から、処理、”処理”、そして葬儀まで、”クット/ゴブリン”氏が全て執り行っていました。
全ては『大切な仲間のために/玩具のために』
全ては『これからを生きる/死んでいく者たちの・・・希望/悪夢を生み出すために』
全ては『己の欲望を、快楽を、そして快感を味わうために』




