↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/31

第5話 三つの約束

「……なあ」

「ん?」

「いつまでも『お前』って呼ぶわけにもいかないだろ」

「じゃあ、私のことなんて呼びたい?」

「……バカ」

「いいよ~」



「そういえば……俺、シアの魔力核を取り込んだのに、なんでシアは戻ってこないんだ?」


「……そう」

口元が緩む。

「その顔、素敵」

冷たい指先が伸びてくる。

俺の額に触れる。

「もっと見せてよ、ルクラン」

「黙れ。質問に答えろ」

「怒ってる」

「黙れ!」

「うん。いいね」

バカは、楽しそうだった。

「でも、シアはもう戻らないよ」


「……は?」

「だから、人は死んだら戻ってこないんだよ」


分からない。

俺には、何も分からない。

じゃあ――どうして俺は、母さんの声を聞くことができた?

死んだ人間は、戻ってこないんじゃないのか?


「……可愛いなぁ」

少女は、楽しそうに目を細めた。

「まだ知らないふりしてるんだ?」

「……?」

「君が母さんの声を聞いてること――」

少女は、くすっと笑った。

「私が知らないとでも思った?」



俺は固まった。

……なんで、こいつが知ってるんだ?

まあいい。

先にシアのことを聞こう。

「余計なことはいい。早く答えろ」

「だから。君は食べたんだよね」

「……」

「でも、何も起こらなかった」

「どうしてだと思う?」

「……黙れ」

「この力にはね、条件があるんだよ」

こいつは俺の前にしゃがみ込んだ。

「一方的な願いじゃ、駄目なの」

「……」

「魂と魂が、お互いに求め合っていなきゃいけない」

俺の身体が震えた。

「君がシアを愛していたのは、本当だよ」

「……」

「でも――シアも、同じように君を愛していたのか。それは、別の話だよね?」

「黙れ」

「もしシアが本当に君を愛していたのなら――血の繋がりなんてなくても、少しくらいは魂の欠片が君に応えてもおかしくないはずだよ」

こいつは笑った。

「でも、何もなかった」

「……」

「何一つ」

涙が、俺の目からこぼれ落ちた。

「……やめろ」

「だから――」

「黙れええええっ!」


「……違う」

俺は何度も首を横に振った。

「違う……!」


「ルクラン」


「そんなわけない……!」

こいつは、ただ黙って俺を見つめていた。

しばらくして――


「……はぁ」

さっきまで瞳の奥に残っていた愉悦が、ゆっくりと消えていく。

その代わりに浮かんだのは、強烈な執着だった。

こいつは両腕を伸ばし、俺の背中へ回した。


「もう、いいよ」

「……」

「そんなに苦しまなくていい」

耳元で、こいつが囁く。

「だって、私がいるから」


彼女は俺の背中をそっと撫でた。

「今の君は、三つだけ覚えておけばいいよ」

俺は顔を上げた。

彼女は笑っていた。

「一つ目」

彼女は目を細める。

「私の存在と、魔王のことを――誰にも話さないこと」

「……」

こいつはバカだ。

それでも、俺には分かる。

こいつからは、魔王だけが持つ独特の気配が漂っている。

……やっぱり、俺の推測は当たっていた。

「もし誰かに話そうとしたら――」

こいつの指が、俺の胸元を指す。

「君の核を、握り潰す」

「……俺が再生できても?」

「うん」

こいつは笑って答えた。

「今度は、死ぬよ」

俺は黙り込んだ。


「二つ目」

こいつは続ける。

「私の核が望むことには、逆らわないこと」

「核……?」

「逆らったら――この身体の主導権、私がもらっちゃうから」

その笑みが、ほんの少し歪んだ。

「そのときは、君と一緒に死ねる方法を探すからね~」

「……」

「安心して。ちゃんと痛い方法を選んであげる」

まるで冗談みたいな言い方だった。

けれど――その目には、笑いなんて少しも浮かんでいなかった。


「最後」

こいつは俺の顎を持ち上げた。

「アヴィナを殺して」

誰だ?

「……アヴィナ?」

「そう」

初めて見た。

こいつが、こんなに真剣な顔をするのを。

「私のお姉ちゃん」


「彼女に不死の呪いをかけられたの」

「……」


「だから、あの女が生きている限り、私はずっとこの醜い魂の姿でいなきゃいけないの」


彼女は自分の胸に手を当てた。

「殺して」


そう言って、彼女は俺を見た。

「そのあとで、ついでに私も殺して」

「……何?」


「これが最後のお願い」

少女は笑った。今までの笑顔とは違って、今回はずっと普通の笑顔だった。

「アヴィナが死ねば、私の呪いも解けるから」

「……」

「そのときは、あなたの手で私を殺して」


俺は少し考えた。

殺してもいい気はする。だって、俺はこいつが嫌いだから。

でも、駄目な気もした。こいつは……ある意味では俺の仲間でもあるから。


「……分かった。」

「アヴィナを見つけたら、俺が殺す。」

「うん。」

「そのときは、俺がお前も殺してやる。」


彼女は目を細めた。

「……いい子。」

彼女は嬉しそうに笑った。


そして、突然俺のほうへ顔を寄せてくる。

彼女は俺の耳元で囁いた。

「頑張ってね、私の宿主」

「君の身体も。」

彼女の指先が、俺の胸を撫でる。

「魂も。」

彼女は、静かに微笑んだ。

「君のすべての記憶も――全部、私のものなんだから。」


精神世界が、激しく揺れ始めた。

世界が崩壊し、赤黒い空が引き裂かれていく。

俺の視界は、真っ白に染まった。


「……待て!」


俺が叫んだ、その瞬間――

俺は、真っ暗な夜を見た。

「……うっ!」

俺は目を開けた。


現実だ。

血に染まった道。漆黒の夜。

そして――壁際に横たわるシアの身体。


「クル――!」

その声が聞こえた。


一人の大柄な男が、路地裏へ駆け込んでくる。

重厚な鎧。

背中には、巨大な剣。


「クル――!」

男は俺のもとへ駆け寄ってきた。

「おい! しっかりしろ!」

俺の肩を掴み、何度も揺さぶる。

「まだ生きてるのか!?」


俺は答えなかった。

いや......答える気力すらなかった。

俺の胸の奥で、あいつが笑っている。


『忘れちゃダメだよ』

甘い声。

『一つ目の約束』

『誰かに話したら――』

少女の声が、楽しそうに弾んだ。

『君の魔力核が、パキッ♪って壊れちゃうからね~♡』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。