↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/31

第4話 內側

寒い。


俺は目を開けた。

「……?」

ここは……どこだ?

空がない。

見渡す限り、赤黒い霧が広がっている。


光なんてどこにもないはずなのに、なぜか周りははっきり見えた。

「……なんだ、ここ」


地面には、骨があちこちに転がっている。

人間のものなのか、それとも別の生き物なのか……俺には分からない。

大きいものもあれば、小さいものもある。

黒い土の上に、無数の骨が散らばっていた。


「……ここは、どこなんだ?」

俺はゆっくりと身体を起こした。

その瞬間――

足元から音がした。


――パキッ。

「……っ」

反射的に足を引く。

俺が踏んでいたのは、折れた肋骨だった。


「……夢、なのか?」

俺は小さく呟いた。


返事はない。


俺は立ち上がり、胸にそっと手を当てた。

――心臓は動いている。

俺はまだ、生きている。


……そうだ。

さっき、女の笑い声を聞いた気がする。


「……お前なのか?」

そう呟いた瞬間――

背後から、小さな笑い声が聞こえた。

「やっと気づいた?」


「……っ」

俺は一瞬、固まった。

ゆっくりと振り返る。


少し離れた場所に――

一人の少女が座っていた。


少女は俺を見ると、嬉しそうに笑った。


「……やっと会えた」


「……誰だ、お前」


「え~? 忘れちゃったの?」

少女は首を傾げる。

その仕草だけ見れば、普通の女の子だった。


少女は白骨を踏みながら、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

「だって、やっと会えたんだもん」

「……会えた?」

「うん」

もう一歩。


「私たち、ずっと一緒だったじゃん?」

「…………」


何を言っているのか、さっぱり分からない。

「……何を言ってるんだ、お前」


少女は俺の目の前まで来ると、手を伸ばした。

その指が、俺の頬へ近づいてくる。

俺は一歩、後ろへ下がった。

「逃げないでよ」

「触るな」

「どうして?」

「俺は、お前が何なのかすら知らない」

「……そうだね」


少女は、楽しそうに笑った。

「今の君は――まだ、何も知らないもんね」

その言葉を聞いた瞬間、俺はぞっとした。


少女は俺の顔をじっと見つめている。

まるで、俺がどういう反応をするのか楽しんでいるみたいに。


「でもね」

少女は、さらに嬉しそうに笑った。

「私は、君のことなら何でも知ってるよ」

「……何を?」

少女の翠色の瞳が、細くなる。

「君のこと、全部」


「君のお母さんのことも、知ってるよ~」

俺の表情が、一瞬で固まった。


……なんで、こいつが知ってる?

こいつは一体、何者なんだ?

「……何を言ってる?」


少女は楽しそうに笑った。


「私、全部知ってるよ」


「雨の日が嫌いなこと。魚の匂いを嗅ぐと、ちょっとだけ呼吸が浅くなること。それから、寝るときは右手を握りしめる癖があること」


「……」


「シアのことも、全部知ってるよ」

その名前を聞いた瞬間、俺の目つきが変わった。

俺は少女の肩を掴んだ。

「お前……」


「痛いよ~」

そう言いながらも、少女は笑っていた。

むしろ、嬉しそうにすら見える。

「もっと強くしてもいいよ?」


「お前、シアを知ってるのか?」

「知ってるよ」

「どこで知り合った?」

少女は、にっこりと笑った。

「君の中で」

「……っ」


俺の手が止まった。

その一瞬の隙をついて、少女は自分の腕を俺の腕に絡めてきた。

……その腕は、ぞっとするほど冷たかった。


「だって、全部見てたんだもん~」


「君がシアを好きになっていくところも。指輪を買いに行ったところも」

俺の身体が固まった。


「それから、毎朝シアにパンケーキを焼くって約束したところも――」

「黙れ」

「――たくさんのカモミールを植えるって~」

「黙れって言ってるだろ!」

俺は怒鳴った。


少女は少し驚いたように目を瞬かせた。

けれど、すぐにまた笑った。

「ふふ……やっぱり可愛いなぁ」


「……何?」

――この言葉。

聞き覚えがある。

この性格。

この表情。

この言い方……。


「お前……」

「ん?」

少女が首を傾げる。

「お前、あの変態仮面野郎と一体どういう関係なんだよ!?」


「どっちのこと?」

「お前、ずっと見てたんだろ!?」

「あはは……もう、分かった分かった。からかうのはこのくらいにしよっか」

少女は楽しそうに笑った。

「あのおじさん? 私の前の宿主だよ~」


「……え?」

やっぱり――こいつが、シアを殺した犯人なのか。


俺は込み上げてくる怒りを必死に抑えた。

「お前……どうやって俺の中に入った?」

「あのおじさんが死んだから、入ったんだよ~」

少女は何でもないことのように答えた。

「あのとき、感じなかった?」

「……」


確かに。

あのとき……

身体の中に、冷たいものが入り込んできた。


つまり、ここが俺の中ってことか。

でも、なんで俺の中に、こんなに骨があるんだ?

俺は何気なく上を見た。

そこにあったのは、俺の魔力核だった。

……デカい。

そして、やけに明るい。

だから、ここがこんなにはっきり見えていたのか。



こいつが強いことは分かっている。

しかも、今は俺の中にいる。

それでも――

シアを殺された恨みだけは、忘れられない。


俺は少女の頬を思いきり叩いた。


パンッ。


「……あ」

少女の顔が、わずかに横を向く。


けれど……

少女は笑っていた。

嘲笑じゃない。

まるで、嬉しくてたまらないみたいに。


「私も、君のこと大好きだよ~♡」


「は……?」

こいつ……ドMなのか?

……いや。

たぶん、本当にそうだ。

……まあ、いいや。こいつを喜ばせるのはやめよう。


「お前……一体、何者なんだ?」

少女は少し考えるように黙った。


それから、ゆっくり首を傾げる。

「今はまだ、教えられないかな。いつか教えてあげるよ」

「……」

「だって……」

少女は俺の胸に頬を寄せた。

「名前を教えたら、君はきっと……私からもっと離れようとするでしょ?」

「当たり前だろ」

「ふふっ」

少女は楽しそうに笑った。

「じゃあ、先に君が私のことをもっと好きになるようにしないとね~」

「誰が、お前なんか――」

「大丈夫だよ」

少女は俺の言葉を遮るように、優しく呟いた。


「いつか絶対、君は私を好きになるから」

その声には、冗談なんて少しも混じっていなかった。

少女は顔を上げ、俺を見つめる。


その目は、何かを心から喜んでいるようだった。

「だって、私は――」

少女の手が、ゆっくりと俺の胸の奥へ沈んでいく。

「……っ」

けれど、痛みはなかった。

手はそのまま俺の身体をすり抜けている。

「――ずっと君の中にいるんだもん」

少女は笑った。


「私たち、ずっと一緒だよ。ルクラン」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。