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私の中に住むあの女は、ヤンデレ魔王  作者: ミルクティー猫
第四章 タイムループ編
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第22話 命の代償

......重い。


目を開けたら、まずそう思った。

身体が、鉛みたいに重い。


「......ここ」


天井が見えた。

ひび割れた石。見たことある。

王府の医務室だ。


起き上がろうとして、腹に力を入れる。


「......っ」

――痛くない。


あれ。

さっきまで、あんなに痛かったのに。


俺は手で、自分の腹を触った。


服はボロボロのままなのに、その下の肌は、つるっとしていた。

傷、ない。


「......は?」


「ん、起きた?」

すぐ横から、声がした。


エイナだった。ベッドの脇の椅子に座って、頬杖をついてる。


「......エイナ」


「おはよ」

いつも通りの声。

でも、目だけは、ずっと俺を見たままだった。


「......俺、何、されたんだっけ」

頭がまだ、うまく回らない。


痛かったのは覚えてる。

でも、何をされたのかは、正直よく分かってなかった。


「真っ二つにされたんだよ」


「......は?」

一瞬、意味が分からなかった。


「君、真っ二つに斬られたの。上と下に」


「......」

俺は黙った。


そんな実感、まるでなかった。

ただ、ひたすら痛かった記憶しかない。


「......マジで?」


「マジ」

エイナは笑いもせず、あっさり頷いた。


「見てたロルフィのほうが、たぶんトラウマだと思うよ」


「......そうか」

自分のことなのに、他人事みたいにしか聞こえなかった。


「なんで、生きてるんだ」


「私の力」

エイナは、自分の胸をとんとん叩いた。

「核が生きてれば、君は死なない。前に言ったでしょ」


「......あれ、マジだったのか」


「疑ってたの? ひどい」


軽口を叩きながら、エイナの指先が、俺の手にちょんと重なった。


「......痛かった?」


「......うん」


「そっか」

それだけ言って、エイナはまた、いつもの顔に戻った。


「次から気をつけてね」


「気をつけようがあるかよ、あんなの」


そのとき、扉のほうから、足音が聞こえた。


「......起きたんだ」

抑揚のない声。


ドロテアだった。人形を一体、抱えている。


「......ドロテア」


「うん」

そのままベッドの傍まで来る。


「動ける?」


「たぶん」


「なら、いい」


それだけ言って、椅子に座った。


......こいつ、いつもこう。

心配してんのか、してないのか、マジで分からない。


「......お前が助けてくれたんだよな」

聞くと、ドロテアはこくりと頷いた。


「人形、動かした」


「うん」


「たくさん」


「うん」


「あいつ、対応できなくなった」


「うん」


「だから、逃げた」


「......それだけ?」


「それだけ」


「......危なかったんじゃないのか」


「別に」

ドロテアは、抱えた人形の頭を撫でながら、そう言った。

「私が壊れても、代わりはいる」


「......そういうこと聞いてんじゃない」


「......?」


ドロテアは、本当に分からない、という顔をした。

俺は、それ以上何も言えなかった。


「ちょっとちょっと」

横から、エイナが割り込んできた。


「ドロテア、それリアクション薄すぎ。ルクラン死にかけたんだよ?」


「......生きてる」


「そういう話じゃなくて」

エイナは、やれやれ、という顔でため息をついた。


「お前、ほんと感情表現壊れてるよね」


「......うるさい」

ドロテアは、ふいっと視線を逸らした。


俺は、思わず笑いそうになった。


「......ありがとう、ドロテア」


そう言うと、ドロテアは一瞬、固まった。

「......別に」

耳の先が、ちょっとだけ赤かった。


「......ロルファは?」

俺は、部屋を見回した。

いない。


「ロルフィなら、外」

ドロテアが答えた。


「......ロルフィ?」


「あんたが運ばれてすぐ、変わってたよ」

エイナが横から言った。

「震える手で、ブレスレット外してた」


俺は、何も言えなかった。


しばらくして、扉がそっと開く。


「......あ」


ロルフィだった。

いつもより、足取りが頼りない。


「......ルクラン、起きたんだ」


「......ああ」


ロルフィは、ベッドの傍まで来ると、俯いた。

何か言おうとして、言葉が出てこないみたいだった。


「......ロルフィ」


「......うん」


「タタは」


ロルフィの肩が、震えた。

「......駄目、だった」


それだけで、十分だった。

部屋が、静かになった。

俺は、何も言えなかった。


タタの唸り声。

風を切って飛びかかった、あの白い塊。

それきり、聞こえなくなった。


思い出すと、胸の奥が、痛かった。

さっきまでの、身体の痛みとは、違う痛みだった。


「......私が、ちゃんと止めてれば」

ロルフィが、小さく呟いた。


「あんな無茶、させなければ......」


「お前のせいじゃない」

俺は、すぐに言った。


「あいつは、俺を助けようとしたんだよ」


「......うん」


「だから、謝るなよ」

ロルフィは、それでも俯いたまま、肩を震わせていた。

エイナが、その背中に、そっと手を置いた。


「......今日は、もう休みな」


いつもの軽い声のまま、でも、少しだけ優しかった。


ロルフィは頷いて、椅子に座り込んだ。


部屋に、静かな時間が流れる。

窓の外は、もう真っ暗だった。


「......あいつ、結局なんだったんだ」


俺は、天井を見ながら呟いた。


宙に浮いてた、あの形。

ゆっくり、こっちを向いた首。


誰も、答えなかった。


ドロテアだけが、抱えた人形を、ぎゅっと抱き寄せた。

顔には、何も出てなかった。

でも――一瞬、目が揺れた気がした。

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